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二章

水晶に手を翳すだけでは駄目ですか?

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都市バファールビュートに入る際、ワタナベが目をハンカチで抑えつつ、兵士に何やら事情を話している。

遠くから俺を憐れむ目で見る兵士が多い。

いや、数人とかなら良いんだ。ありがちじゃない? なんらかのギルドの証明書がない時の一悶着、いやいや、お約束イベントってさ。

門番的な兵士って通常一人か二人くらいでしょ? なんで数十人も出てくるの? どんどん集まってくるんだが。警戒しすぎじゃね? そして、ギルドカード無しな事伝えたら、出てくる記入用紙の枚数よ。そんな枚数に名前書いたら腱鞘炎になるわ。

と当初は軽く考えていたが、兵士からの説明や書類の内容を読み始めると事の重大さに気付き慎重に内容を理解しつつ書き進め、三十枚ほどの書類に名前を書いた。

そしたら、都市中央に勤めている貴重な鑑定士らしい神父さんや兵士達とで面談という名の取り調べをさせられる始末。

そして町にやっと入れる許可が下りる。

昼過ぎに着いたと思ったらもう外は真っ暗で、俺待ちのワタナベは門を潜ってすぐの所に止めた荷馬車の上で居眠りしていたようだ。

「お? 終わったか? お疲れ!」

いやいや、お疲れ! じゃないよ。とツッコミたかったが、その気力はない。

「あのさー、ワタナベ? 普通の異世界小説ってこんな事あるっけ? 半日拘束とかさ、証明書ないだけで密入国がバレた時くらいの審査じゃね? いや、密入国した事無いから適当な事言ったし、あれは完全な犯罪だし。」

と疲れによる意味不明な発言をしてしまうが、どうやらワタナベには思い当たる節があるのか態度がよそよそしい。

「ま、まぁ疲れたよな? お互いにさ?」

「ああ。とりあえずゆっくり寝たい。」

と返事を返すと

「ツキシマ、良い宿があるからそこに泊まろうぜ! 気にするな、今回も俺の奢りだ!」

怪しい。昼飯の高級松阪牛弁当ではあんな態度だったのに、宿に関してはやけに腰が低い。こちらから言う前に奢るとはこれいかにと考えていると

「本当にお疲れ様だな。とりあえず、これ飲んどけ。」

と濃縮還元の野菜ジュースを渡され、それを飲みつつ宿に入る。

手続きはワタナベが対応してくれて、清潔そうなベッドに倒れ込みあっという間に眠りについた。



◇◆◇



「おいっす!」「おいすー。」

翌朝、食堂でワタナベと合流する。

すると、食堂の店員さん(恰幅の良いマダム)が寄ってきて

「お兄さん、大変な思いをしたらしいね。朝食食べるかい? サービスで大盛りにしてあげるから、たんと食べなよ?」

「あっ、はい。ありがとうございます。」

大変な思いってワタナベ、おまえはどんな作り話したんだよ? とジト目でワタナベを見ると

「あっ、俺も朝食良いですか? 大盛りで。」

と詳しい話を聞かせまいとさくっと注文し店員さんを遠ざけようとするワタナベ。

「はいよ。じゃ二人共、適当な所に座っときな。」

と席に付き用意された朝食をいただく。

「「ご馳走様でした!」」

「あいよ。またおいでね。」

と店員さんに挨拶して町に出る。

「良い宿だったなー。飯も普通に美味かったし。」

「あ、ああ。そうだな。」

ワタナベの言葉の歯切れが悪い。

そしてワタナベと町並みを見ながら大通りに進む。

「なぁ? ワタナベ。なんか町並みは綺麗だけど歩いてる人がなんか元気なくね? 朝市っぽいとこなのに活気もないし。屋台はあれどもほぼ人いないし。」

「ふむ。そうだな。まぁとりあえず今日はツキシマのギルドカードでも作ろうぜ。これは異世界物のお約束だからな。」

そして、お目当ての冒険者ギルドに辿り着く。外から覗く限り静かだ。ここもやっぱり予想と違うなぁ。

「さぁ、入ろう。」

と中に入ると、人は一人。伽藍としていて、肘をついた女性受付がいる。

「あら、初めて見る顔ね。急激に魔物が強くなって大変だってのに、ここはあなた達のようなお子様が来る場所ではないの。それとも、自殺願望でもあるのかしら? それなら門を出るだけでも簡単に死ねるわよ?」

え? 急激に魔物が強くなったって? ワタナベ、おまえ、俺のエクストラハードモードが世界に影響与えてるじゃねーかあああああ! つうか、この受付嬢も相当やさぐれてるー!
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