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第1話・悲劇の始まり

【ゴゼンサマ】

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時は、夕方5時過ぎであった。

またところ変わって、今治市宅間《しないたくま》にある溶剤会社にて…

(キンコンカンコン…)

館内に終業を告げるチャイムが鳴った。

昭久《あきひさ》がいる個室にて…

仕事を終えた昭久《あきひさ》は、帰宅準備をしていた。

その時、重役事務の女性が昭久《あきひさ》に声をかけた。

「専務、吉永常務《じょうむ》がお越しです。」
「(おどろいた声で)えっ?吉永常務《じょうむ》がなんで?」

このあと、昭久《あきひさ》の上司にあたる常務《じょうむ》の吉永がやって来た。

吉永は、ヘラヘラした表情で昭久《あきひさ》に言うた。

「神谷《こうのたに》くん、急にここへ来てすまなんだのぅ~」
「吉永常務《じょうむ》。」
「神谷《こうのたに》くん、このあとの予定はあいてるかなぁ~」

このあとの予定はあいてるかなぁ~って…

このあとの予定は、帰宅して家で晩ごはんを食べる予定だけど…

昭久《あきひさ》は、ものすごくコンワクした表情を浮かべながらつぶやいた。

吉永は、ヘラヘラした表情で昭久《あきひさ》に言うた。

「神谷《こうのたに》くん、もし予定がないのであればワシと一緒に晩ごはんを食べに行こや。」
「(コンワクした表情で)晩ごはんを食べに行こうって…」

コンワクした表情を浮かべている昭久《あきひさ》に対して、吉永はウキウキした表情で言うた。

「きょうは、神谷《こうのたに》くんに紹介したい人がいるんだよ…先方さまは、神谷《こうのたに》くんにぜひお会いしたいと言うてるんだよ…」
「(コンワクした表情で)紹介したい人って、どなたさまでしょうか?」
「(困った声で)どなたさまでしょうか…って…神谷《こうのたに》くんの人生を変えてくれる運命の人なんだよぅ…(両手を合わせながら頼む)…ごはん食べるだけでもいいから一緒に行こや…いい?」

吉永は、両手を合わせながらヘラヘラした表情で昭久《あきひさ》に頼んだ。

オレの人生が変わる運命の人の意味が分からん…

吉永常務《じょうむ》は、オレになにを希望《のぞん》でいるのだ…

まっすぐ家に帰って、家族そろって晩ごはんが食べたいオレの気持ちなんかどーでもいいんだな…

常務《ボケジジイ》!!

昭久《あきひさ》は、ものすごく怒った表情でつぶやいた。

ところ変わって、今治市宮下町《しないみやしたちょう》にある豪邸《いえ》の大広間にて…

家には、トメと志桜里《しおり》がいた。

志桜里《しおり》は、ダイニングキッチンで食を作る準備をしていた。

トメは、電話の応対をしていた。

電話は、昭久《あきひさ》からかかっていた。

トメは、受話器ごしにいる昭久《あきひさ》に対して怒鳴りつけた。

「あんたええかげんにしいよ!!きょうは志桜里《しおり》さんが回鍋肉《ホイコーロー》を作るからまっすぐ家に帰って来なさいと言うたでしょ!!…なにいよんであんたは!!…常務《うえのひと》が昭久《あきひさ》に紹介したい人がいるから…そなな作り話は信用できん!!…常務《うえのひと》は、単にあんたと一緒にキャバレーへ行きたいといよるだけよ!!…あんたそななことよりも、私立高校《メートク》からさっき電話が来たわよ!!あつことてつやが学校に来たのに勝手に出ていったのでどうしたのですかって…明日の午前中に話がしたいから(北日吉町にある)本校に来てください…と呼び出しが来たわよ!!…なんでおかーさんが行くのよ!!親であるあんたとかおるさんが行くんでしょ!!…昭久《あきひさ》!!あんたね、いっぺん自分の顔を鏡に写して御かおをよぉーに見たらァ!?…知らないうちに家族を置き去りにしていたことに気が付きなさい!!…あつことてつやがコーコーに行かなくなった原因は、全部昭久《あきひさ》にあるのよ!!…あつことてつやが元気な顔でコーコーに通う姿が見たい…あつこがブラスバンドでクラリネットを吹いている姿が見たい…あんたはしょぼいわよ!!…あつことてつやは、そななしょぼいあんたを冷めた目で見ているわよ!!…あつこは32、てつやは30よ!!…あつこは14年、てつやは13年に渡って、私立高校《メートク》に籍を置いたままで放置されているのよ!!…なんで働きながら学べる定時制か通信制に変えないのよ…あつことてつやを社会経験が極力とぼしい子供にさせたのは全部あんたにあるのよ!!…おんまくはぐいたらしい伜《クソ》ね!!…もういいわよ!!あんたと言い嫁と言い、死んだおとーさんと言い、なんでうちの家族はムカンシンな人間が多いのかしら!!あんたのおじいちゃんも家族第一主義と言うておいて、家族をないがしろにした!!…人に対してホイホイカネを貸す!!人からめんどいことを頼まれた時にホイホイ引き受ける!!…あんたのおじいちゃん・ひいおじいちゃん…神谷《こうのたに》の家の祖先は、なんでこないにドアホばかりかしら…あんたの悪い性格は、おじいちゃんたちに似ていることに気がつきなさい!!…伜《ドアホ》!!伜《ドアホ》!!伜《ドアホ》!!」

(ガシャーン!!)

トメは、受話器越しにいる昭久《あきひさ》に対してし烈な声でボロクソに怒鳴りつけたあとガシャーンと電話を切った。

その後、ダイニングキッチンにいる志桜里《しおり》に対して怒鳴りつけた。

「ちょっと志桜里《しおり》さん!!」
「はい?」
「きょうは晩ごはんを作らないでください!!」
「えっ?どうしてですか?」
「昭久《あきひさ》が常務《うえのひとからキャバレーへ行くと言うたからよ!!」
「だったら、お嫁さんとお孫さんの分をお作りします…」
「かおるさんもパート先の人にさそわれてホストクラブへ行くといよったワ!!あつことてつやは行方不明になったみたいよ…(ひと間隔あけて)…それよりも、竜史《たつし》さんの方はどないなってるの?」
「竜史《たつし》さんは、(おちいまの)本部の主催で新入りさんの歓迎会に出席するから帰りは遅くなると言うてました。」
「そう…分かったわ…ほんなら、シゲマツ(飯店)に電話して、焼豚玉子飯《やきぶたたまごめし》を頼んで…」
「分かりました。」

このあと、志桜里《しおり》はラーメン屋に電話して焼豚玉子飯《やきぶたたまごめし》の出前を頼んだ。

この時、かおるはパート仲間たちと一緒に松山市にあるホストクラブへ行くために遠出していた。

あつことてつやは、勝手に学校から出たあとどこかへ行ったままであった。

時は、深夜11時過ぎであった。

またところ変わって、松山市二番町にあるホストクラブにて…

かおるは、夕方4時頃にパートを終えたあとパート仲間たちと一緒にホストクラブをハシゴしていた。

かおるたちは、個々のオキニのイケメンホストくんをはべらせながら酒をのんで過ごしていた。

このあとも、かおるたちは松山市内にあるホストクラブ20軒をはしごした。

またところ変わって、二番町の別の場所にあるテナントビルのエントランスホールにて…

エントランスホールに昭久《あきひさ》と吉永と極上のおとくいさまとおとくいさまの付き人さんたち30人がいた。

極上のおとくいさまは、顔に紅《あか》い口紅《リップ》が5つついていた。

…にもかかわらず、いやたい(下品な)表情で『いや~、満足満足~』と言うたあと、吉永に対して『道後温泉街《どうご》へ行きたい~』と言うて要求した。

「いや~満足満足~…なあ、吉永さん…次は…道後温泉《どうご》のマキシム(ソープランド)へ行きたいけど、いい?」

昭久《あきひさ》は、ものすごくうんざりした表情を浮かべていた。

昭久《あきひさ》のそばにいる吉永は、ものすごく困った声で言うた。

「神谷《こうのたに》くん!!」
「なんでしょうか?」
「なんでしょうかじゃあらへんねん!!(極上のおとくいさま)が道後温泉《どうご》へ行くといよんぞ!!」
「(ものすごくつらい表情で言う)道後温泉《どうご》?」

吉永は、ものすごくあつかましい声で昭久《あきひさ》に言うた。

「きょうは、きみのために松山《ここ》へ来たんだぞ!!」
「はっ?」
「(極上のおとくいさま)はきみを幸せにしてあげたいといよんぞ!!…(極上のおとくいさま)は、きみを(極上のおとくいさまが経営している会社)で(一番待遇がいい)役職に起用したいといよんぞ!!…四国溶剤《ヨーザイ》で定年退職《おわらせること》はもったいないといよんぞ!!…(一番待遇がいい)役職につきたいのであれば、最後まで付き合え!!」

吉永は、昭久《あきひさ》に対して怒ったあと極上のおとくいさまに対して『それではまいりましょうか…』とほほえみで言うた。

このあと、一行は道後温泉街《どうご》へ向かった。

ところ変わって、道後温泉街《どうご》にあるソープランドのロビーにて…

昭久《あきひさ》は、極上のおとくいさまの言いなりになってソープサービスを受けることになった。

昭久《あきひさ》は、超まじめな性格なのでソープサービスを受ける気はなかったが、吉永が『行きなさい!!』と言うたのでしかたなく行った…と言うことである。

一行は、日付けが変わって4月10日の深夜3時過ぎまで極上のおとくいさまのわがままにつきあった。

時は、4月10日の明け方5時40分頃であった。

またところ変わって、今治市宮下町《しないみやしたちょう》にある豪邸《いえ》の大広間にて…

テーブルの上には、ごはんを盛り付ける茶わんがふせられた状態で置かれていた。

そのまわりに、おつけものやつくだ煮などのおかずが盛られている食器と白だしが入っている白のきゅうすが並んでいた。

ダイニングテーブルのイスに、トメが座っていた。

その端に、ものすごくつらい表情を浮かべている志桜里《しおり》がいた。

竜史《たつし》は、この時寝室で寝ていた。

かおるとあつことてつやは、まだ帰宅していなかった。

明け方5時50分頃であった。

昭久《あきひさ》がものすごくつかれた表情で帰宅した。

大急ぎで玄関にやって来た志桜里《しおり》は、ものすごくおたついた声で昭久《あきひさ》に言うた。

「昭久《あきひさ》さん!!こんな遅い時間までどちらに行かれていたのですか!?」
「オレは会社の人と一緒にごはんを食べに行ったのだよ~」
「昭久《あきひさ》さん!!奥さまがカンカンに怒っていましたよ!!」
「やかましいだまれ!!」

志桜里《しおり》から厳しく言われた昭久《あきひさ》は。志桜里《しおり》を怒鳴りつけたあと大広間へ行った。

ところ変わって、大広間にて…

ダイニングテーブルのイスに座っていたトメは、つかれて帰って来た昭久《あきひさ》に対して怒った声で言うた。

「昭久《あきひさ》!!」
「なんだよぅ~」
「そこへ座りなさい!!」

トメから怒鳴られた昭久《あきひさ》は、怒った口調で『分かった~』と言いながらトメの向かいの席に座った。

トメは、ものすごく怒った声で昭久《あきひさ》に言うた。

「昭久《あきひさ》!!こなな遅い時間までどこへ行ってたのよ!!」

昭久《あきひさ》は、怒った声でトメに言うた。

「だから、吉永常務《じょうむ》がつきあえと言うたからしかたなくお供をしていただけだよ…」
「そなな作り話なんか信用できん!!」
「作り話じゃないんだよ!!」
「作り話しているじゃないのよ!!」
「かあさんは、オレにどうしろと言うんぞ!!」
「おかーさんは心細いから昭久《あきひさ》に家にいてほしいのよ!!」

トメが昭久《あきひさ》に対して『心細い…』と言うたので、昭久《あきひさ》は怒鳴り声をあげた。

「心細い心細い心細い…とばかりいよるけん心細いと言うことに気がつけよ!!」

昭久《あきひさ》から怒鳴られたトメは、つらい表情で昭久《あきひさ》に言うた。

「なんでそないにおらぶねん…おかーさんは本当に心細いのよ…」
「心細いと言うのであれば、外へ出て仲間つくれよ!!…『心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い心細い…』…とうさんの葬儀《ソーシキ》の翌日からことあるごとにいよるじゃないか!!」
「あんたこそなんやねん!!家族のためだけに生きて行くとヤクソクしたのに、ものの数日で破るなんてサイテーよ!!あんたのムカンシンが原因であつことてつやがコーコーに行かなくなった…と言うこと学校まだ分からないみたいね!!」
「あつことてつやのことなんか知らんワ!!かおるのことも知らんワ!!」
「昭久《あきひさ》!!」
「オレは、かおるとあつことてつやと一緒にいるのがイヤなんだよ!!…3人はオレの家族じゃねーんだよ!!…こんなことになるのであれば、かおると結婚するのじゃなかった!!ワーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

ブチ切れた昭久《あきひさ》は、し烈な叫び声をあげながら暴れ回った。

またところ変わって、昭久《あきひさ》の書斎にて…

ものすごくつらい表情を浮かべている昭久《あきひさ》は、デスクについているスタンドの灯りをつけたあとデスクのイスにこしかけた。

その後、デスクの上に置かれているサントリーオールド(ウイスキー)のボトルのフタをあけた。

ストレートでウイスキーをごくごくとのんだあと、昭久《あきひさ》は大きくため息をつきながらつぶやいた。

オレは…

なんであんなコモチ女(かおる)と結婚したのだ…

なんで…

なんでや…

昭久《あきひさ》とかおるが結婚したのは、今から17年前の2001年の春ごろだった。

それまで、昭久《あきひさ》は50過ぎまで独身であった。

ふたりが結婚した時、昭久《あきひさ》は53歳、かおるは52歳であった。

あつこはこの時、中学を卒業したばかり、てつやは中1を終えたばかりであった。

あつことてつやの実父《じつふ》は、29年前にヤクザに拳銃で撃たれて亡くなった。

母子3人は、それから約13年近くに渡って各地を放浪した。

今治市に来たのは、1997年頃だったと思う。

2001年3月中旬頃、あつこは進学する高校がないまま中学を卒業した。

同年3月24日に発生した芸予地震で母子3人が暮らしていたマンションが倒壊したので、母子3人は家をなくした。

その3日後に、昭久《あきひさ》とかおるが結婚した。

吉永(常務)は、かおる母子を助けるために昭久《あきひさ》とかおるの仲人を引き受けた。

あつことてつやは、吉永の知人の知人のそのまた知人にあたる短大《メータン》の教授のコネで私立高校《メートク》に入った。

(毎朝、昭久《あきひさ》とかおるとあつことてつやの送り迎えをしている健一郎も、私立高校《メートク》にコネで入学した)

昭久《あきひさ》は、あつことてつやが元気な顔でコーコーに通っている姿を見ることをはげみに仕事にとりくんでいた…

しかし、あつことてつやは昭久《あきひさ》の夢をぶち壊した。

あつこが高校3年になった頃であった。

卒業後の進路をどうしようかと迷っていた時に、健一郎があつこに学生証を短大《メータン》にひもづけする手続きを取ってあげた…

しかし、あつこは健一郎が勝手に学生証を短大《メータン》にひもづけにしたので思い切り怒った…

その翌日から今までの間、ガッコーに行かなかった…

てつやも、健一郎が学生証を短大《メータン》にひもづけしたことを理由にガッコーへ行くのをやめた…

あつこはそれから14年、てつやはそれから13年に渡って私立高校《メートク》に籍を置いたままの状態がつづいた。

周囲《まわり》の同級生たちは、高校卒業~大学などをへてそれぞれの場所で活躍をしていた。

しかし、あつことてつやは同級生たちに置いてゆかれた…

昭久《あきひさ》は、あつことてつやが高校に行かないことに対して腹を立てていた。

いつになったらコーコーに行くのだ…

オレは、あつことてつやが元気な顔でコーコーに通っている姿を見ることがたったひとつの楽しみなんだよ…

あつこがブラスバンドでクラリネットを吹いている姿が見たい…

あつこがいるブラスバンド部が見たい…

それなのに…

なんでぇ…

イスに座っている昭久《あきひさ》は、女々しい声で泣きながらつぶやいていた。

朝7時50分頃であった。

またところ変わって、今治市宅間《しないたくま》にある溶剤会社にて…

社屋の玄関前に、健一郎が運転しているラウムが停まった。

車の中にて…

運転している健一郎が心配げな声で昭久《あきひさ》に聞いた。

「ダンナさま、奥さまとあつこちゃんとてつやさんはどうなされたのですか?」

昭久《あきひさ》は、ものすごく怒った声で『知らん!!』と答えた。

健一郎は、心配げな声で昭久《あきひさ》に言うた。

「知らないって?」
「かおるは、パート仲間たちとホストクラブに入り浸りになっている!!」
「そんな~」
「かおるのことはどーでもいいから、あつことてつやにコーコーへ行けと言うとけ!!」
「ダンナさま~」
「やかましい!!オドレもひとのコネを使って私立高校《メートク》に入ったことを忘れたのか!!」

昭久《あきひさ》は、健一郎を怒鳴りつけたあと車から降りた。

健一郎は、ボーゼンとした表情で昭久《あきひさ》の背中を見つめていた。

それから2時間後であった。

またところ変わって、今治市宮下町《しないみやしたちょう》にある豪邸《いえ》にて…

あつこは、ぐちゃぐちゃに乱れた姿で帰宅した。

あつこが帰宅した時、大広間にはトメだけがいた。

大広間に置かれている80インチの東芝レグザ(液晶デジタルテレビ)の画面に、よしもと興業の専門チャンネル(ケーブルテレビ)が映っていた。

この時間は、花王名人劇場(1979年~1990年にフジテレビ系で日曜日21時から放送されていた看板番組)の横山やすし西川きよしの独演会が放送されていた。

トメは、ソファで寝っ転がった状態でおせんべいをバリバリ食べながらテレビを見ていた。

ぐちゃぐちゃの姿のあつこは、浴室へ向かった。

浴室にて…

ぐちゃぐちゃの姿のあつこは、着ていた制服を脱いだ。

あつこの顔は、きたない泥の色に染まっていた。

顔についていたメイクが大きく崩れたことが原因で泥の色になった…と思う。

制服のブラウスがビリビリに破れていた…

チェックの柄のスカートがぐしゃぐしゃになっていた…

足元につけていた黒のストッキングが白のショーツごと脱がされて右足に引っかかっていた。

(ポタポタポタポタポタポタ…)

あつこのスカートの中から、大量の液体がもれだした。

同時に、チェックのスカートがびちょびちょに濡れた。

その後、あつこはぐちゃぐちゃになった制服と下着を脱いで全裸《はだか》になった。

ぐちゃぐちゃになった制服と下着は、もえるゴミの袋に入れた。

(ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…)

全裸《はだか》のあつこは、シャワーを浴びていた。

泥の色に染まっていた顔は、メイク落とし(コスメクレンジング)と一緒に流れ落ちたあときれいになった。

しかし、あつこの心の奥底は今も傷ついたままであった。

今のあつこは、カレと結婚することしか頭にないので高校に行ける状態ではなかった。

てつやもまた、高校に行ける状態ではなかった。

その頃、てつやは友人が暮らしているアパートに滞在していた。

てつやは、市民の森で祐希《ゆうき》を殺した事件を犯した翌日から外へ出なくなった。

これにより、昭久《あきひさ》のたったひとつの楽しみはあっけなくぶち壊れたようだ…

ここより、神谷《こうのたに》家の悲劇が本格的に始まった。
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