乳房星(たらちねぼし)

佐伯達男

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第1話・遠くへ行きたい

【見上げてごらん夜の星を】

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時は、夜7時半頃のことであった…

実母と施設長さんたちが乗っているワゴン車6台とニッサンパッカードは、道後温泉の伊佐彌坂(いさにわざか)にある置屋の前に到着した。

置屋は、施設長さんの妹さんの晶さん(以後、晶姐(ねえ)はんと表記する)が経営している芸妓(げいこ)はんの置屋である。

ところ変わって、置屋のあがり口にて…

あがり口の6畳の居間には、水色のふりそでときらびやかな名古屋帯の和服姿の晶姐はんがいる。

晶姐はんは、温泉街にある旅館や料亭へ向かう芸妓はんたちのお見送りをしている。

この時、おしろい顔で髪の毛にキラキラのかんざしをつけている和服姿の芸妓はん2人が出発する時であった…

「ほな姐(ねえ)はん、行ってまいりやす。」
「きばっていっといでや~」

2人の芸妓はんは、晶姐はんにあいさつしたあと派遣先の旅館へ向けて出発した。

それから1分後に、施設長さんが晶姐はんのもとへやって来た。

「晶、いま着いたわよ。」
「あっ、眞規子姐はん。」
「溝端屋のダンナはんたちは、どこにおるんねん?」
「溝端屋のダンナはんたちは奥道後のホテルに宿泊してはるわよ…ホテルまでの道順を書いた地図を渡しとくね。」

晶さんは、施設長さんに溝端屋のダンナたちが宿泊している奥道後のホテルまでのルートを記載したメモ用紙を手渡した…

それから数分後、一行が乗っているワゴン車は奥道後へ向かった。

時は、夜8時過ぎのことであった…

ところ変わって、奥道後にあるホテル奥道後の20畳の和室の宴会場にて…

宴会場では、溝端屋のダンナたちがコンパニオンさんたちと一緒に宴会を楽しんでいる…

お膳で囲まれているスペースで、コンパニオンさんと男性客ひとりが、芸妓はんたちの三味線演奏に合わせて、野球拳おどりを楽しんでいる。

掛け軸がかざられているかべの側に、溝端屋のダンナ・溝端源五郎と今治のやくざ組織・田嶋組の組長の田嶋竜興(たつおき)とナンバーツーの男・小林順慶(じゅんけい)と元組員の男で、愛媛県議会議員の山岡重秀(しげひで)の4人がお膳をならべて座っている…

周囲の席に座っている30人の男性客たちは、溝端屋と取り引きをしている喜多郡にある取引先の会社の社長さんたちである。

三味線演奏に合わせて踊ったあと、最初でグーのじゃんけんをして負けた方が大きめのマスに入っているヤマタン正宗(日本酒・激辛風味の酒である)を一気にのみほす形の野球拳である。

この時、負けつづけていた男性が叫んだ。

「ワシ…脱ぎの野球拳おどりがええわ!!酒なんぞいらんわ!!」

この時、周囲の社長さんたち…いいえ、スケベジジイどもがチョーシにのって『ええなぁ~』と言うて、コンパニオンさんに脱ぎの野球拳おどりを強要した…

コンパニオンさんは、スケベジジイどもの要求通りに脱ぎの野球拳おどりをイヤイヤ引き受けた…

その後、野球拳おどりが再開された…

三味線演奏に合わせて踊ったあと、最初でグーのじゃんけんに負けた方が1枚ずつ衣服を脱ぐ形に変わった…

この時、コンパニオンさんが負けてばかりいたので1枚ずつ衣服がとられた…

そしてとうとう、コンパニオンさんは生まれたままの姿になった…

この時、ひどく酔っているスケベジジイどもがねまきを脱いだ。

そして、コンパニオンさんの身体をむさぼりまくった…

「あっ、イヤ、イヤ、イヤ…」
「おお、Mカップのものすごくおっきなおっぱいだぁ…」
「吸いてぇ…」

スケベジジイどもは、コンパニオンさんのMカップのふくよか過ぎる乳房に抱きついて、乳首を吸いまくっている。

(クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ…)

「イヤー!!やめてぇー!!」
「ハア~、長生きできる~…ありがたやありがたや~」
「コラ!!タキノヤ!!ワシにも乳を吸わせろ!!」
「イヤや…」
「ふざけるなよコラ!!オドレのセガレの嫁に頼んで吸わせてもらえや!!」
「そういうミズタヤのじいさんも、セガレに嫁がいてはるやないかぇ!!」
「おいタキノヤ!!ワシにもコンパニオンさんの乳よこせ!!」
「いいや、ワシが吸うんじゃ!!」

スケベジジイどもは、コンパニオンさんひとりをめぐって大ゲンカをくり広げていた。

その時であった。

溝端屋の番頭はんが宴会場にやってきた。

ももけた腹巻き姿の番頭はんは、源五郎の耳もとで耳打ちをして、施設長さんたちが到着したことを伝えた…

「ああ、さよか…ほな、行くわ…」

このあと、源五郎は田嶋と小林と山岡と番頭はんの5人は、宴会場を出た…

その一方で、スケベジジイどもがコンパニオンさんひとりをめぐってヨレヨレになるまで大ゲンカを続けた。

ところ変わって、源五郎が宿泊している部屋にて…

10畳ひと間の部屋には、溝端屋の大番頭はんの君波誠一郎と五十崎の公証役場の事務長はんの守口是清と会社経営者の宮出勝利と施設長さんが30人の付き人軍団の男たちと一緒に源五郎たちが部屋に入ってくるのを待っていた。

(ガラッ…)

しばらくして、入り口のふすまが開いた…

ふすまが開いたあと、番頭はんの案内で源五郎と田嶋と小林と山岡が部屋に入る。

付き人の男ひとりが、開いたままになっているふすまをしめる。

「あっ、だんなさま。」
「君波、守口、宮出、待たせてすまなんだのう。」

源五郎たちは、ざぶとんの上にどっかりと腰を下ろしたあと、あぐらをかいた。

部屋にいる付き人軍団の男たちは、窓のカーテンをしめて、まくら元に使うスタンドの灯りをつけた。

その後、天井に吊り下げている蛍光灯を消したあと、部屋の周りを取り囲んだ。

その直後に密談が始まった…

「ほな、話し合いを始めまひょか?」
「へえっ…」

源五郎は、宮出さんの横に座っている施設長さんに声をかけた。

「その前に…眞規子はん。」
「だんなさま。」
「きょうこちゃんの様子はどないや?」
「はい…女性スタッフさん5人と一緒にとなりの部屋で休んでいます。」
「あっ、さよか…きょうこちゃんは、今何ヶ月目かな?」
「8ヶ月目です…予定日は11月の終わり頃です…」
「11月の終わり頃か…よし分かった…ほんなら早いうちにてぇ打っといた方がええみたいや…」

源五郎は、ひと間隔を置いて事務長はんに例のアレはどうなっているのかを聞いた。

「守口。」
「へえっ…」
「例のアレは、どないなっとんねん?」
「へえっ、コリンチャンスイワマツキザエモンセヴァスチャンの遺言書とイワマツグループとイワマツ家の財産書については、弁護士さんのケントさんご夫妻が預かってはります…ケントさんご夫妻は、アイスランドのアークレイリの大聖堂にて、付き人軍団の男たちと一緒に待機しています。」
「よし分かった…せやったら、今すぐにきょうこちゃんを連れて日本から出国させよう…君波、守口、宮出…きょうこちゃんと眞規子はんを連れてすぐに旅立て…」
「へえっ…」

このあと、実母と施設長さんは大番頭はんたちと一緒に旅に出た。

(ボーッ、ボーッ…)

一行は、翌日の深夜2時頃に三津浜港を出発する防予汽船のフェリーに乗って旅に出た。

2時間半後、一行は柳井港に到着した。

その後、車に乗りかえて国鉄下松駅へ移動した。

(ピーッ、ゴトンゴトンゴトン…)

明け方6時過ぎ、一行は国鉄下松駅から寝台特急あさかぜに乗って博多駅へ向かった…

(ゴーッ)

一行は、その日の午後1時過ぎに福岡空港からソウルキンポ空港行きの大韓航空機に乗って出国した…

その後、第三国のフィリピンを経由してどこかの国へ向かった。

その一方で、建材店を職場放棄して逃げ回っている実父の詳細は不明である。
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