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第10話

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ボストンを出発する日を8月31日と決めたアタシは、前日までに出発する準備を完了させるために行動を起こした。

バイトで稼いだお金は、西海岸にたどりつくまでの当面の生活費用に充てる。

コンビニのバイトとハンバーガーショップのバイトは7月いっぱいでやめた。

その後は、大リーグのレッドソックスのホームゲームがある日にフェンウェイパークのスタジアムの内野スタンドでピザとビールの売り子さんのバイトをしておカネを稼いだ。

売り子さんのバイトは、日当60ドルである。

他にも、スポーツバーのウェイトレスさんのバイトで日当45ドル50セントを稼いだ。

また、お客様からいただいたチップ・300ドルも全額貯金に回した。

アタシは、西海岸へ旅立つ日までの間必死になって働いた。

8月14日のことであった。

フェンウェイパークの売り子のバイトを終えてお給料を受け取った後、スタジアムの近くにあるバックベイフェンス(公園)に行った。

公園のベンチに座っているアタシは、考え事をしていた。

公園に、カップルさんたちや家族連れやベビーカーに赤ちゃんをのせて散歩をしているお母さまたちがたくさん来ていた。

幸せいっぱいのカップルさんたちや家族連れの姿をみたアタシは、曇った表情を浮かべた。

アタシは…

どうして、離婚と再婚ばかりを繰り返すようになったのか…

もう一度、過去にさかのぼって原因を考えてみた。

結婚しても、理想通りに行かないから離婚した。

それから再婚と離婚を繰り返すようになった。

その元凶は、19歳の時にあったと想う…

アタシ…

タメルランと出会うべきではなかった…

アタシは、タメルランとなあなあな気持ちでつき合っていたから、失敗した。

他にも、家庭内の複雑な事情や問題をたくさん抱えていた。

アタシの実家は、良縁にまったく恵まれていない家であった。

アタシはこの時、ハイスクール時代に親しかった友人のことを思い出した。

アタシがハイスクール時代に親しかった友人は、同じ学校内で付き合っていた同級生のカレがいた。

しかし、カノジョはよその学校にいた別のカレシとフタマタをかけていた。

それどころか、男をコロコロと変え続けていた。

アタシの良縁に恵まれていない元凶は、そこにあったと思う。

その後、カノジョは複数の男とトラブって行方不明になった。

もうひとつの元凶は、女子大時代にあった。

あの時、先輩の女子大生たちにムリヤリジョシカイに連れて行かれた。

先輩の女子大生に『ショッピングに行かないか…』と誘われて、言われるがままについて行った。

たどり着いたところは、セールィシエヴァ通りにあるレストランである。

レストランに着いた時、先輩の女子大生7~8人が店の奥のボックス席にいた。

カノジョたちは、豪華な料理とどぎついウォッカを頼んで、アタシが来るのを待っていた。

最初のうちは、和気あいあいと飲食をしながら会が進んだ。

ところが、22歳の女子大生3人と21歳の女子大生2人が調子にのって『プリニスィーチェパジャールスタプーチンカピャーチ!!(プーチンカを5人前下さい)』とウェイトレスさんに言うて、ウォッカを5人前を注文した。

その後、5人の先輩の女子大生はどぎついウォッカをびんごと一気にゴクゴクとラッパ飲みした。

ウォッカを一気にのみほした5人は、ウェイトレスさんに注文して、また一気にのみほす…を繰り返した。

5人は、グデングデンに酔っぱらった挙げ句に、グロいことを口々にしゃべりまくった。

挙げ句の果てに、5人は広場で騒いでケーサツの御用となった。

それが原因で、アタシは良縁に恵まれなかったと思う。

アタシはこの先…

どのようにして、生きて行けばいいのか…

8月24日…

一定の金額がたまったので、予定を前倒ししてボストンを出発することにした。

昼2時頃であった。

アタシは、エレンと一緒にパブリックガーデンへ行った。

公園の中にあるラグーン(水辺)で、カップルさんたちがスワンボートに乗って楽しくデートをしている。

アタシとエレンは、公園のベンチに座って話しをしていた。

「ねえアリョーナ、本当に西海岸へ行くの?」
「うん、本当よ。」
「どの辺りに行くの?」
「シアトルまで行こうと思っているの…」
「シアトル。」
「シアトルの近辺だったら、時給が10ドル以上のバイトがあると思う。」

アタシは、ひと間隔あけてエレンに言うた。

「あのねエレン…アタシ…今度こそは女ひとりで生きて行くと決心したの…アタシ…新しい恋も結婚もしたくない…」
「アリョーナ、あんたそんなギスギスした気持ちで、暮らして行くの?もう一度ボブさんと話しあうことはできないの?」
「できるわけないよ…あいつはアタシの理想の結婚相手じゃないから、すてた!!…アタシは、女ひとりで気ままに生きて行くことがしょうに合ってるのよ…だから…これ以上過去のことをほじくらないでよ!!」

エレンにこう言ったアタシは、右手で髪の毛をくしゃくしゃにかきむしった。

そして、アタシが西海岸へ旅立つ日がやって来た。

アタシは、バイトでせっせと稼いで貯めた7万9000ドルが入っている預金通帳と生活に必要な品物が入っているボストンバッグと赤茶色のバッグを持って旅に出る。

アタシは、インターステートハイウェイ93号線のランプの近くへ歩いて向かった。

ヒッチハイクで車を乗り継いで、最終目的地シアトルを目指す。

インターステートハイウェイのランプの近くにある通りまで行く途中、ボストンコモン(アメリカ最古の公園)の公園にて…

敷地を歩いている時、アタシはタメルランと再会した。

タメルランは、白のランニングシャツにダボダボのデニムパンツとボロボロに破れた靴のだらしない姿でアタシの前に再び現れた。

タメルランは、悲しそうな表情でアタシを見つめながら言うた。

「アリョーナ。」
「何よタメルラン!!」
「アリョーナ、お前これからどこへ行くのだよぉ?」
「アタシがどこへ行こうとかまわないでしょ!!」

アタシは、タメルランを怒鳴り付けた。

タメルランは、なおも泣きそうな表情でアタシに言うた。

「アリョーナ、なあアリョーナ…」
「アタシとあんたはとっくに終わったのよ!!」

アタシの言葉に対して、タメルランはやりきれない表情で言うた。

「それじゃあ…アリョーナはオレのことはもう…」
「ええ!!そうよ!!あんたはアタシの乳房(むね)の中にいないわよ!!」

アタシは、ひと間隔をあけてからタメルランにきつい言葉をぶつけた。

「アタシ、女ひとりで気ままに生きて行くと決めたの…あんたとやり直したいと言う気持ちはないわよ…アタシ!!もう行くから!!」

タメルランに別れを告げたアタシは、タメルランの元から立ち去った。

アタシはもう…

振り返らない…

そして、その日の夕方のことであった。

アタシは、インターステートハイウェイのランプの近くの通りにいた。

大きな画用紙に『コンコード』(ニューハンプシャー州)と書いて、車をヒッチハイクした。

それから5分後…

コンコードまで行く1台のトラックをヒッチハイクして、トラックの荷台に乗り込んだ。

トラックの荷台に乗り込んだアタシは、ボストンバッグと赤茶色のバッグを持って旅に出た。

それから一時間後…

タメルランは、市内のナイトクラブがたちならんでいる通りで事件を起こした。

タメルランは、ほれた女のことをめぐって、客の男と乱闘騒ぎを起こした。

タメルランは、駆けつけてきた警察官数人に取り押さえられて逮捕された。

その頃、アタシはボストンバッグと赤茶色のバッグを持ってアメリカ西海岸を目指してひたすら進んだ。

少しの金額でもいいから、いい暮らしがしたい…

アタシはもう…

後にはひかない…

アタシの幸せ探しの旅は、ここから始まった。
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