乳房星(たらちねぼし)−1・0

佐伯達男

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第22話・砂の十字架

【おもいで河】

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(ブロロロロ…)

時は、1994年10月5日の午前4時過ぎであった。

倉庫から勝手に出た私は、ヒッチハイクした長距離トラックに乗って西へ向かった。

勝手に職場放棄してにげまわる気か…

…と言う声が聞こえるけど、今の私はひろこねえさん方を続けていく余力《ちから》はなかった。

私が18か19…または20代前半だったら、多少アタマに来てもこらえる力はあったと思う。

けれど、40代後半である私にひとつの事業所に雇われて働くと言うことはコンナンであった。

人生の大部分を学生中心で通した…

陸自少年工科学校《りくじのダンシコー》~防衛大学校に在籍していた時は国家公務員ではあったが、正式な自衛官ではなかった。

防衛大学校を卒業したが、日本国籍がないので幹部自衛官になれなかった。

防衛大学校の卒業式は、みんなと違う場所で静かに行われた。

卒業証書と在籍中に取得した国家資格の授与だけで終わり…

その後、自衛隊はクビになった。

そして、よど号ハイジャック事件が発生する前日に日本を離れて再渡米《とべい》した。

その後、アメリカ合衆国の国防総合大学へ進学した。

その後も学生生活を続けた。

…と言う人生だった。

1994年7月から9月までの間にお試しでいろんな事業所で働いたけど、どの仕事も私に合わなかった…

社会経験がとぼしい私に、なにができると言うのだ…

考えただけでも腹立たしくなるわ…

それなら、カラオケ流しを再開するか…

いえ…

やっぱり…

やめとくわ…

最初のうちはおひねりをたくさんもらえたけど、時の経過とともに周囲の目がきびしくなる…

とくに、スナックやナイトクラブへ流しに行った時はボロクソにたたかれた。

あれはいつだったかおぼえてないけど、1981年の9月24日の夜9時半頃だった。

場所は、長崎市中心地の浜んまち通り(アーケード街)付近にあるスナックにて…

私が店に入った時、店に7~8人の男性客《きゃく》と派手なドレスを着たママとチーママがテレビを見ていた。

テレビの画面に長崎放送が映っていた。

この時間は『ザ・ベストテン』が放送されていた。

私は、にこやか表情で『こんばんは~』と言うたあと『一曲どうですか?お兄さまにちょうどいい歌がありますよ~』と言うた。

この時、男性客《きゃく》のひとりがこう言うた。

「オドレはアホか?」
「えっ?」
「『えっ?』じゃねえだろ!!」

なんで私が『アホか?』と言われたのか?

わけがわからずにコンワクした。

男性客《きゃく》は、私に対してこう言うた。

「おれたちは今、『ザ・ベストテン』を見てるのだぞ!!」

だからなんだと言うのだ…

言われた私は、ムッとした表情を浮かべた。

男性客《きゃく》のひとりは、私にこう言うた。

「へたくその流しの歌なんか聞きたくねえんだよ…かえれ!!」

なんや…

へたくそだと…

ものすごく怒った表情を浮かべた私は、店から出ていった。

別の男性客《きゃく》は、他にも『もうすぐ注目の1位の歌手が出てくるのだよ!!』と言うたあと私をグロウする言葉を言うた。

私はカチンと来たけど、アホンダラと闘ってる場合ではないと強く言い聞かせた。

(ブロロロロ…)

深夜11時半頃であった。

私は、路面電車《トラム》に乗って蛍茶屋《ほたるじゃや》の電停《えき》まで行った。

蛍茶屋《ほたるじゃや》の電停《えき》で路面電車《トラム》を降りたあと歩いて500メートル先にある終夜営業のラーメン店へ行った。

ラーメン店にいた運転手《うんちゃん》にヒッチハイクの交渉をした。

その後、私はヒッチハイクした長距離トラックに乗って旅に出た。

トラックは、国道34号線を東へ向かって走行した。

それから3時間後の深夜2時半頃であった。

私は、佐賀県みやき町の簑原《みのはる》にある工場の手前200メートルのところでトラックから降りた。

その後、国道34号線を歩いて東へ向かった。

ショルダーバッグを持って歩いている私は、と方にくれていた。

私は…

この先どうやって生きて行けばいいのだよ…

大番頭《おおばんと》はんたちがいないと…

困るのは私なんだよ…

救いがほしい…

救いがほしいよ…

自暴自棄におちいる手前になった私に、やりなおしの機会はあるのか?
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