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第10話・長い夜

【この空をとべたら】

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時は、日本時間1月3日の朝9時半頃であった。

またところ変わって、徳島市入田町《とくしましにゅうでんちょう》にあるお寺さんにて…

お寺さんは、いとの実家の檀家にあたるお寺さんである。

いとの遺骨は、このお寺さんに預けられていた。

この日は、いとの十二回忌の法要を執り行ったあと遺骨を墓地におさめる予定である。

(ポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポク…)

お寺の特大広間に木魚の音と住職さんがおきょうを読んでいる声が響いていた。

A班のメンバーたちは、正座した状態でひとことも言わずに住職さんのおきょうを聞いていた。

午前11時頃であった。

いとの十二回忌の法要のあと、お寺さんの中にある墓地に向かった。

ところ変わって、いとの実家の本家の墓地にて…

A班のメンバーたちは、いとが入るお墓の前に集まっていた。

いとが入るお墓の墓石は、最高級の大島石で作られた墓石である。

この時、大番頭《おおばんと》はんとゆきさんが住職さんと一緒にいとの遺骨が入っている骨壺《つぼ》を納骨スペースにゆっくりとおさめた。

しかし、ゆりさんとゆかさんとゆいさんは納骨をしなかった。

いとの遺骨が入っている骨壺《つぼ》を納骨スペースを封印したあと、ゆきさんが右手に持っている毎日香(おせんこう)に住職さんが点火した。

おせんこうを立てたあと、大番頭《おおばんと》はんが花束を墓前にそなえた。

(チーン~)

このあと、住職さんがかねをチーンと鳴らしながらおきょうをとなえた。

A班のメンバーたちは、それにあわせてお祈りをささげた。

(ブロロロロロロロロロ…)

時は、午後2時過ぎであった。

A班のメンバーたちが乗り込んだ特大バスが高速道路を走行していた。

バスは、神戸淡路鳴門自動車道から第二神明道路~阪神高速道路3号神戸線を通って神戸市中心部へ向かった。

午後4時半頃であった。

特大バスが山陽新幹線新神戸駅のすぐ近くにある全日空クラウンプラザホテルに到着した。

A班のメンバーたちは、バスから降りたあと館内に入った。

フロントで宿泊の手続きを取ったあと、部屋に移動した。

時は、夜8時55分頃であった。

ところ変わって、キッチン付きの豪華スイートルームにて…

スイートルームの特大和室のテーブルにA班のメンバーたちが集まっていた。

テーブルの上には、ぼんち揚げが入っている木の入れ物が置かれていた。

(ピンポーン~)

この時、玄関の呼び鈴が鳴ったので子守女《こもりめ》さんがドアの応対に出た。

しばらくして、子守女《こもりめ》さんがゆなさんとゆみさんを連れて和室にやって来た。

ゆりさんがゆなさんとゆみさんに声をかけた。

「ゆな、ゆみ、無事に着いたのね。」
「うん。」

ゆなさんとゆみさんが空いている席に座った。

この時、風香《フー》ちゃんがゆきさんに声をかけた。

「先生。」
「なあに風香《フー》ちゃん。」

ゆきさんは、こわい表情を浮かべていた。

風香《フー》ちゃんは、おそるおそるの表情でゆきさんに言うた。

「あの…法要の時…なぜおねーさまたちは…納骨をなさらなかったのですか?」

風香《フー》ちゃんからの問いに対して、ゆきさんは下唇をぎゅーとかみながら震えていた。

「先生…あの…」

風香《フー》ちゃんは、心配げな表情で言うた。

ゆきさんは、ものすごくしかめた表情で風香《フー》ちゃんに言うた。

「風香《フー》ちゃん…お茶をいれる支度を始めなさい!!」
「あっ、すみませんでした。」

このあと、風香《フー》ちゃんはお茶をいれる支度を始めた。

この時、リチャードさんが心配げな表情でゆかさんにたずねた。

「ゆかさん。」
「なあにリチャードさん。」
「ゆきさん、どうなされたのですか?」

ゆかさんは、リチャードさんにわけを説明した。

「おとーちゃんとおかーちゃんの子はゆきだけよ。」
「えっ?…どうしてですか?」

ゆりさんは、木の入れ物に入っているぼんち揚げをつまみながらわけを話した。

「うちとゆかとゆいとゆなとゆみのおかーちゃんは違う人なのよ。」
「違うって…」
「違うけん違うと言うたのよ~」

ゆかさんは、ぼんち揚げをふくろから出したあとふたつに割りながらリチャードさんにわけを説明した。

「おねーちゃんとうちとゆいとゆなとゆみのおかーちゃんのお墓は、丹波の福知山にあるのよ。」
「福知山…」
「山陰線《さがのせん》と福知山線《たからづかせん》の分岐駅《わかれえき》の市《まち》よ。」

この時、風香《フー》ちゃんは、石鎚黒茶《おちゃ》が入っている砥部焼きの湯呑みをメンバーたちにゆっくりと配った。

たつろうさんは、ぼんち揚げのふくろをあけながら言うた。

「戦国武将の明智光秀ゆかりの市《まち》ですね。」
「せや…その福知山よ。」

リチャードさんは、受け取ったお茶をひとくちのんでからゆかさんに言うた。

「ゆかさんたち5人きょうだいのおかーさまのご実家は?」

ゆかさんは、お茶をひとくちのんでからリチャードさんに言うた。

「開業医《おいしゃさん》よ…おねーちゃんとうちとゆいとゆなとゆみのおかーちゃんは、女医さんよ。」
「女医さん。」
「うちら5人のおかーちゃんは、成績優秀で最終学歴はカリフォルニア州にある医大卒よ…腕のいい外科医だったわよ。」
「腕のいい外科医…なぜ、お亡くなりになられたのですか?」

ゆりさんは、しかめた表情で言うた。

「うちら5人のおかーちゃんは…在籍していた京都伏見にある総合病院で発生したレントゲン事故で被爆したことによる白血病で亡くなったの…2番目のおかーちゃんは、名東県《みょうとうけん》(明治時代の廃藩置県後に制定された時に呼ばれた県名~徳島県と呼ぶ前はみょうとうけんと呼んでいた)いちの庄屋《ええトコ》のお嬢さんだったわ…きょうだいはいたけど、まわりは男の子ばかりだったわ…女の子のきょうだいは…2番目のおかーちゃんだけだった…そうよねゆき。」

ゆりさんの問いに対して、ゆきさんはつらい表情でこくんとうなづいた。

リチャードさんは、心配げな表情でゆかさんに言うた。

「それでは…ゆらさんは?」

ゆかさんは、ものすごくしかめた表情で答えた。

「ゆらはフテイの子よ!!」
「フテイの子?」
「ゆらのホンマの親は甘ったれの中高生カップルの子よ!!ゆらのホンマのテテオヤは、ボーソー族だったわ…たしか、堺区《さかい》で一番悪のボーソー族がいたと思うけど…バイク事故で亡くなったわ…ゆらのホンマのおかーちゃんは…まだ中2だったわ…おとーちゃん、あのときのことをおぼえているよね。」
「ああ、せやったな~」

大番頭《おおばんと》はんは、お茶をひとくちのんでから言うた。

「あの時、家に保健婦さんが問題の女の子を連れてきた…問題の女の子は…『産みたい産みたい産みたい産みたい産みたい…』と言うてシクシクシクシクシクシクシクシク泣きよったワ…」

ゆなさんは、ぼんち揚げをふたつに割りながら言うた。

「あの女の子は、かわいい制服を着ていたわね…」

風香《フー》ちゃんは、心配げな表情で言うた。

「それで…ゆらさんのおかーさまはどうなされたのですか?」

ゆりさんは、しかめた表情で答えた。

「ゆらを出産したあと…リスカして生命を絶った…その後、ゆらは養女で君波《うち》の籍《コセキ》に入ったのよ。」
「そうでしたか…弟さんは?」

ゆみさんは、怒った表情で答えた。

「遥輝《はるき》は、2番目のおかーちゃん…伯父《おじ》のセクハラの被害を受けて命を絶ったOLさんの子よ…おとーちゃんとおかーちゃんが責任を取る形で君波《うち》の家に養子で迎えたのよ。」
「そうでしたか…」

ゆりさんは、疲れた表情で言うた。

「もうこなな辛気《しんき》くさい話はやめにしよや…ゆっくりお茶のんで休もうよ~」

私は、ひとことも言わずにお茶をのんでいた。

時は、1月4日の午前11時過ぎであった。

またところ変わって、福知山市正明寺《たんばふくちやましょうみょうじ》にあるお寺さんにて…

お寺さんは、ゆりさんとゆかさんとゆいさんとゆなさんとゆみさんの実のお母さまの実家の檀家にあたるお寺さんである。

この日は、遠忌の法要のあと遺骨を納骨する予定である。

お寺の中にある墓地にて…

A班のメンバーたちは、墓石の前に集まっていた。

この時、大番頭《おおばんと》はんとゆりさんとゆかさんとゆいさんとゆなさんとゆみさんがおかーさまの遺骨を納骨スペースにおさめていたがゆきさんはしなかった。

納骨のあと、毎日香のおせんこうをたむけて花束をお供えした。

(チーン~)

住職さんは、かねを鳴らしながらおきょうをとなえた。

A班のメンバーたちは、ひとことも言わずに静かにいのりをささげた。
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