乳房星(たらちねぼし)−1・0

佐伯達男

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第10話・長い夜

【歌人】

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さて、その頃であった。

またところ変わって、那智勝浦町北浜《きいかつうらきたはま》にある豪華ホテルにて…

館内の結婚披露場で結婚披露宴が開かれていた。

披露宴の主役は、風香《フー》ちゃんである。

結婚披露宴は、後半のキャンドルサービスが行われていた。

ローズ色のかわいいウェディングドレス姿の風香《フー》ちゃんは、各テーブルのキャンドルに小さな灯りを灯した。

風香《フー》ちゃんのダンナさんになった相手《おあいて》は、お仕事の都合上来ることができない…

…ので、風香《フー》ちゃんひとりが挙式披露宴の主役であった。

風香《フー》ちゃんのダンナさんは、ジャクサ(宇宙開発事業団)の飛行士であった…

来月はじめに宇宙ステーションに行く予定なので、さまざまな準備などで超多忙であった。

宇宙ステーションに滞在する期間は、2月1日から15年間の予定である。

その間、風香《フー》ちゃんとダンナさんは離れ離れになる…

なので、イワマツグループのA班のメンバーに再合流することになった。

時は、夕方4時頃であった。

またところ変わって、ホテルの正面玄関前にて…

正面玄関の前に特大バスが到着した。

それから20分後に風香《フー》ちゃんと挙式披露宴に出席したみなさま方たちが正面玄関に集まった。

医療事務服姿の風香《フー》ちゃんは、濃いネイビーの大きめのサックスバーのスーツケースを持ってみなさま方たちの前に立ったあと出発のごあいさつをした。

「みなさま、本日はお忙しい中…挙式披露宴に出席してくださいましてありがとうございます…これから私は、再び旅に出ます…尾鷲の総合病院にいた時にお世話になりましたみなさま…陸上自衛隊にいた時にお世話になりましたみなさま…そして、(ダンナ)さまのおうちのご親族のみなさま方…たいへんお世話になりました…みなさま方…ありがとうございました。」

風香《フー》ちゃんがあいさつを終えたあと、バスの扉が開いた。

同時に、たくさんの拍手がわき起こった。

その後、風香《フー》ちゃんはスーツケースを持ってバスに乗り込んだ。

それから10分後であった。

(ピーッ…)

JRの車掌さんにふんしたホテルのウェディングスタッフさんがホイッスルを鳴らしたと同時に、特大バスがゆっくりと出発した。

その後、みなさま方がバンザイ三唱をした。

(ブロロロロロロロ…)

時は、夕方5時過ぎであった。

特大バスは、国道42号線の海沿いの道を和歌山方面に向かって走行していた。

座席に座っている私は、夕暮れの海を見つめながらエクスペリアのウォークマンで歌を聴いていた。

イヤホンから村下孝蔵さんの全曲集に収録されている歌がたくさん流れていた。

『春雨』『松山行きフェリー』『ゆうこ』『初恋』『踊り子』『夢のつづき』『花れん』『少女』『陽だまり』…

…が流れていた。

バスが阪和道のみなべインター付近に来た時であった。

イヤホンから流れていた歌は、『歌人』に変わった。

バスは、高速道路に入ったあと和歌山インターまで走行した。

バスは、和歌山インターで高速道路から降りたあと和歌山港へ向かった。

(ボーッ!!)

時は、夜10時過ぎであった。

A班のメンバーたちが乗り込んだ南海フェリーが和歌山港から出航した。

フェリーは、深夜0時半頃に徳島沖の洲マリンターミナルに到着した。

(ブロロロ…)

深夜1時半頃であった。

A班のメンバーたちが乗り込んだ特大バスが徳島沖の洲マリンターミナルから出発したあと目的地へ向かった。

今夜は、車内で一泊した。
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