乳房星(たらちねぼし)−1・0

佐伯達男

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第1話・風のララバイ

【ざんげも値打ちもない】

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時は、8月2日の午前10時半頃であった。

またところ変わって、今治市中心部ドンドビ交差点付近にある今治大丸(デパート)の正面玄関前にて…

おしゃれなデート着姿の詠美《えいみ》は、ソワソワした表情で私が来るのを待っていた…と思う。

この時であった。

詠美《えいみ》の前にチャラい格好の男がやって来た。

男は、過度に優しい表情で詠美《えいみ》に声をかけた。

「あの~…」
「(詠美《えいみ》、ものすごくイヤな表情で言う)なんでしょうか?」
「あの~…す、スギヤマ(女子大)の口総詠美《くちすぼえいみ》さまでございますか?」
「(詠美《えいみ》、ものすごくイヤな表情で言う)なにしに来たのよ?」
「なにしに来たって…ぼくはピンチヒッターで来たのです~」
「イヤ、帰ってよ!!」
「どうして拒否するのですか?」
「アタシは、(別のカレ)さんとデートするのよ!!」
「(別のカレ)さんが運転していた車がエンコしたからぼくが代わりに来たのだよ…」
「聞いてないわよ~…」
「きょうは、ぼくと一緒にデートしましょう~」
「イヤ!!帰ってよ!!」

詠美《えいみ》は、チャラい格好の男をふりきったあとその場から離れた。

詠美《えいみ》に冷たくされたチャラ男は、詠美《えいみ》を追いかけていった。

(カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ…)

この時であった。

チャラ男が詠美《えいみ》に対してしつこくつきまとっている現場をヤキソバヘアでももけた服巻姿のあやしい男がキャノンの一眼レフカメラで撮影した。

カメラで撮影したあやしい男は、番頭《ばんと》はんであった。

その上に、番頭《ばんと》はんはチャラ男が落としていった大学の学生証を拾った。

「あっ…これはこれは…京都の大学《エエトコ》の学生《クソガキ》や…ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…」

番頭《ばんと》はんは、うす気味悪い表情で嗤《わら》いながら学生証を腹巻に隠したあと足早に立ち去った。

さて、その頃であった。

またところ変わって、北九州遠賀町《きたきゅうしゅうおんが》の国道3号線沿いにあるラーメン屋の店内にて…

私は、ぎょうざダブル(2人前)付きの唐揚定食《せんざんきていしょく》でおそい朝食を摂りながらテレビを見ていた。

店のテレビの画面は、九州朝日放送テレビが映っていた。

この時間は、横山ノックさんと上岡龍太郎さん(横山パンチさん)と和田アキ子さんの3人が司会を努めている『ラブアタック』が放送されていた。

番組は、後半の第二部に入っていた。

4人のアタッカー(男子大学生)が狙っているかぐや姫(女子大生)は、こともあろうに詠美《えいみ》だった。

テレビの画面には、3人目のアタッカーの男子大学生が詠美《えいみ》に交際を申し込んだあと例のイスに座る場面が映っていた。

この時、観客席から『堕《お》ちろ~』コールが聞こえていた。

観客たちは、アタッカーが奈落の底ヘ堕《お》ちるところが見たいからああ言うてると思う。

上岡龍太郎さんが『行きましょう~』と言うたあと、上岡龍太郎さんと横山ノックさんと和田アキ子さんが『スイッチオン!!』とコールした。

その結果…

見事、カップルが成立した。

4番目のアタッカーは、奈落の底ヘ堕《お》ちて行った…

奈落の底ヘ堕《お》ちたみじめアタッカーは、こともあろうにあのチャラ男だった。

テレビを見ている私は、冷めた表情でつぶやきながらめしを食べた。

あの番組(ラブアタック)で成立したカップルが成婚に至った…という話は全くない(ひとくみを除いてはね…)…と言うことを知らないみたいだ…

あのコたちは、大学を遊び場にしているからますますけしからん…

幼少期~10代~20代~今までの間、ひたすらがまんしたのだぞ!!

ガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンしてガマンして…

ガマンして、勤勉ひとすじで通して来たのだぞ!!

それなのに…

今どきの若いものはけしからん!!

大学を遊び場に使いやがって!!

ゴーコン!!サークル!!ガッシュク!!

…………

なんかできんかった!!

私は…

楽しい時間をガマンして勤勉ひとすじで生きてきたのだぞ!!

ふざけるな!!

私は、より激しい怒りに震えながら食べかけの唐揚《せんざんき》を食べた。
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