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わたくしが公爵家へ住み込みで働くようになり、1月が経ちました。

メイドの仕事は朝5時起床に始まり、素早く見苦しくないよう身支度を整えると使用人控室での朝礼に向かいます。そこでセイラ様から大まかな予定と今日の仕事の流れが申し渡されます。

本日のわたくしの主な仕事は公爵様のお部屋のお掃除とベッドメイキングです。
わたくしは皆様がやりたがらないことを率先して行うもので、ありがたいことに先輩方から大変可愛がられておりました。
その最たるお仕事が公爵様のお部屋のお掃除、特にベッドメイキングなのです。

公爵様は今は亡き前公爵様譲りの大変な美丈夫でいらっしゃいます。嫉妬深い大奥様はわざわざメイドに醜いものばかり選ばれ続け、その結果今の様な体裁ができあがったようです。

このお屋敷に美しい女は一人もおりません。そのためか公爵様はお邸にあまり寄り付かない様です。

ですが、たまにお戻りになられることもあります。その時は必ず見目麗しい女性を伴っていらっしゃるのです。
ただし見目重視のためかあまり性質のよろしくない女性達ばかりのようです。

その結果――公爵様がお使いになられた後の寝室の惨状は筆舌に尽くしがたいものとなっております。そしてうっかり女性と鉢合わせしようものなら、大変酷く罵倒されたり、殴られて怪我を負わされた方もおられるということです。
わたくしはまだ幸いなことにお部屋で鉢合わせしたことがありませんでした。

いつものように公爵様の私室へ向かいます。重厚で立派な扉を3度ノック。お返事がないようなので勝手に失礼させて頂きます。

中は――泥棒でも入られたのでしょうか?陶器の破片が床一面に散らばっております。大変お高いでしょうに……ベッドも良く分からない液体でドロドロになっております。
ええ、もうこんなものは慣れっこなのです。わたくしは窓という窓を開けて、どんよりとしたお部屋の空気を入れ替えました。
あとは……このお部屋だけで半日くらいはかかりそうな惨状ですね。腕まくりをすると、わたくしは張り切ってお部屋の片づけに取り掛かるのでした。

半時ほど経ったでしょうか、突然浴室の方から人が現れたのです。濡れた黒髪が目に飛び込んできて、わたくしはさっと顔を伏せて跪きました。このお邸で黒髪は公爵様ただお一人なのです。

「いらっしゃったとは存じ上げず、大変申し訳ございません公爵様」

「……いい、続けてくれ」

気怠そうに公爵様がおっしゃったので、わたくしはそちらを見ないように黙々と作業を続けることにいたしました。

床を掃き清め、ベッドを清潔なシーツへテキパキと換えてゆきます。ここまで徹底的に汚されると綺麗にし甲斐があるというものですね。
その様を公爵様はじっと見詰めているようでした。わたくしは特に気にすることもなく、いつもどおりただ黙々と作業を続けるのでした。あと一息というところまできたとき、ベッドに腰掛けた公爵様がわたくしを呼ばれました。

「おい、お前こっちにこい」
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