幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

文字の大きさ
84 / 94
第五幕 やんちゃな子猫は空を舞う

お江戸の町は大騒ぎ 4

しおりを挟む
「菊花。先ほどはなぜ私に判断を仰いだのですか?」

 城から十分離れたところで柘榴ざくろは歩きながら振り返りもせずに後ろの菊花に訊いた。

 門番の片桐から謀反を企んでいる者の情報を得たので、それによってどう行動するかを柘榴に確認したことを言っているらしい。

「謀反などという大事件があったので、諜報部隊で一番腕の立つ師匠たちが全員このまま愛姫保護の任務を継続していていいのかと思いまして……」

 藤花が飼っているくのいちの中で荒事が得意な上位三人、柘榴ざくろ孔雀くじゃく鼈甲べっこうが揃って出てきているので、何人かはそちらの方に向けたほうがいいのでは……と菊花は考えたらしい。

「なるほど。状況に大きな変化があったので現場の判断で臨機応変に対処べきだと。そう考えたのですね」

「はい」

「孔雀。鼈甲。あなた方は私に何も訊かないのですね?」

「当然です。確かめるまでもありませんわお姉様」

 派手な髪飾りをつけた孔雀はまるで算術の問題を解いた子供のような得意顔でそう返答した。

「訊く必要が無い」

 浅黒い肌で黒目の大きな鼈甲はつまらなそうに淡々と答えた。

「ふむ、良い答えね鼈甲。では、あなたが菊花に教えてあげなさい。なぜ『訊く必要が無い』のか」

「面倒だ。断る」

「……鼈甲、私に逆らうの?」

 不意に柘榴が足を止めた。ゾクリと肌が粟立つほどの寒気が流れ始め――、

「菊花、よく聞け。臨機応変というのはその者の立ち位置によってやるべきことの異なる言葉だ。例えば今の場合だと、我らは藤花様から愛姫の保護を命じられている。この目的は我らの独自判断で変更してはいけない部分だ。我らがしても良い『臨機応変』とは、その目的を達成するための手段をより確実性の高いものに変更することだ。命じられている以外の任務を後から付け加えたり、任務遂行の人員構成変更は最初に命令を出した藤花様にしかできない事で、現場の独断でそれを変更することは越権行為になる。だから先ほどの場合でも命令に変更は無いかと柘榴様に確認する必要は無く、それゆえに私は『訊く必要が無い』と答えたのだ」

 鼈甲がまるで立て板に水を流したような流麗さでスラスラと喋り始めたので、柘榴は一度舌打ちをしてから再び歩き出した。

「えっと、鼈甲姉さん? 今みたいな大事件が起きても現場で対応することはいけないって事でしょうか?」

「目の前しか見えていなければ効率が悪いように思えるかもしれないが、大局的には正しい行動だ。我らは組織。統制が取れていればこそ組織は集団で動いている強みが発揮されるのであって、個々が恣意的に行動していたのではただの烏合の衆だ。……こんな感じでいいですか柘榴様」

 首元に刀を突きつけられて尋問されている捕虜のような饒舌さで菊花に説明をした鼈甲は、前を歩く柘榴に恐る恐るといった様子でお伺いを立てた。

「……えぇ、良い説明でした。その必死さに免じて先ほどの反抗的な態度は不問にしてあげます」

 柘榴の胸元でパチンと音がした。

 まるで懐剣を鞘に納めたような音だったが、彼女の後ろについて歩いている菊花たちからは見えないので今の音が何だったのかなんて分からない。もちろん菊花たちはそれを確かめるような愚かな行為はしなかった。

 ちょっとした緊張感が漂う彼女たちの前方を五人の同心が全速力で走り過ぎた。

「よぉし瓶底寺だ! まだ謀反人がそこにいる可能性が高い! 一人残らず踏ん捕まえて大出世じゃ!」

「待て! 奴隷どもから嘆願されたのはわしじゃ! おぬしらはお奉行に命じられた当初の命令である愛姫の保護を優先するべきじゃ!」

「阿保抜かすな! そりゃ愛姫を保護したらそれなりに褒美が出るだろうが、一番得するのは命令を出したお奉行で、実行したわしらが貰えるのは白餅一つがせいぜいじゃ。今はそんな褒美で終わる程度の仕事をしている場合じゃねぇよ!」

「手柄を独り占めしようったって、そうはいかないですぞ小磯殿。我ら五人はいつでも一緒の仲良し与力でしょうに。くふふふっ!」

「くそっ! こんな時に限って有りもしない友情を振りかざしおって!」

 五人の同心が言い争いながら走り抜けていくのを見送った柘榴は、彼らが巻き上げた土煙を手扇で払い落した後でおもむろに振り返って菊花を見据えた。

「見ましたか菊花? 現場の判断で勝手に動くと言うことはあれほど醜い行為なのですよ」

「えぇ、本当に醜いですね。実はまだ現場の判断で即応してはならないという縛りに納得できない気持ちでいましたが、今のを見て心が冷えました。師匠の言葉は紛れも無く正しいのだと心から理解できた気がします」

「よろしい。では私たちは当初の命令通り伝試練寺へ向かいます。少し歩みを早めますので遅れずについてきて下さい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

本所深川幕末事件帖ー異国もあやかしもなんでもござれ!ー

鋼雅 暁
歴史・時代
異国の気配が少しずつ忍び寄る 江戸の町に、一風変わった二人組があった。 一人は、本所深川一帯を取り仕切っているやくざ「衣笠組」の親分・太一郎。酒と甘味が大好物な、縦にも横にも大きいお人よし。 そしてもう一人は、貧乏御家人の次男坊・佐々木英次郎。 精悍な顔立ちで好奇心旺盛な剣術遣いである。 太一郎が佐々木家に持ち込んだ事件に英次郎が巻き込まれたり、英次郎が太一郎を巻き込んだり、二人の日常はそれなりに忙しい。 剣術、人情、あやかし、異国、そしてちょっと美味しい連作短編集です。 ※話タイトルが『異国の風』『甘味の鬼』『動く屍』は過去に同人誌『日本史C』『日本史D(伝奇)』『日本史Z(ゾンビ)』に収録(現在は頒布終了)されたものを改題・大幅加筆修正しています。 ※他サイトにも掲載中です。 ※予約投稿です

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...