幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第五幕 やんちゃな子猫は空を舞う

希望の架け橋

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「ふぅ……危ない危ない。死んじまうかと思ったよ」

「そ、それはこっちのセリフでござる! 心臓が止まるかと思ったでござるよ!」

 百合丸が半泣きの顔で怒っていた。霧も涙目になりながら無言で余三郎を睨みつけている。

「そう怒るな。なんとかなったんだから良いじゃないか」

 わりと本気で怒っているっぽい二人の様子に余三郎は誤魔化すように目を逸らしながら跳ね橋を下ろす装置を調べた。

 装置自体は簡素な作りで、橋を吊り上げている鎖がいくつかの滑車を経由して装置の回転盤に接続されている。

「ふむ、これを回せばよいようだな。他に弄るような仕掛けも見当たらないし」

 余三郎は回転盤を固定している木杭を抜いて、糸巻きのような仕掛けの部品をゆっくりと回し始めた。

 橋の可動部分は巨大な蝶番のよう部品で繋がれていて、余三郎が仕掛けを回すとそれが耳を擦るような音を発しながら動いて橋がゆっくりと降りてきた。

「あぁよかった、これで私らは助かるんだね」

 小猿に追いつかれることを何よりも恐れていた青太郎がようやく安堵してホッと肩の力を抜いた。

 小猿を一段下の坂道にいるのを見てからそれほど時間は経っていない。

 しかも奴は足を引き摺るほどの怪我をしていたのだから、ここに追いついて来るのはまだまだ先になるだろう。

「そうじゃな、なんにしろこれでやっと城に帰れる。叔父上が妾と話している最中に突然走り出したときには肝が冷えたがのぅ。ああいう無茶はもう勘弁してもらいたいものじゃ、今も心の蔵がバクバク言うておるわ」

「まったく、拙者には無茶をするなと言っておきながら殿が一番無茶をするのだからタチが悪いでござるよ」

「帰ったらお仕置きが必要、なの。菊花姐さんにチクってキツイお仕置きしてもらう、なの」

 崖の向こう側から何やら不穏な言葉が聞こえてきて余三郎の頬には先ほどとは質の違った冷や汗が流れた。

『兎にも角にもここを渡ってしまえば距離的にも城はすぐそこのはず。みなが無事なら菊花さんに怒られるくらい平気……いや、平気でもないな、あの人わりと真剣に怒るし……』

 それぞれに考えていることは違っていても、皆が一様にこれで助かったのだと気を緩めていた。……ところが五人に降りかかった災難はまだ終わっていなかった。

 ギ、ギギギ、ギ、キイィィ……、

 軋みながらも順調に橋を下ろしていた鉄鎖が何やら不気味な音を出し始めた。

 皆が『……あれ?』と不安に思い始めた直後、ギイィン! と鼓膜を打つほどの大きな音を放って鉄鎖が千切れる。

「うわっ!」

 橋が自由落下を始める。

 橋の根元の蝶番部品は急に増した摩擦によって鉄の焼けるような臭いと白い煙を発し、橋はまるで水を放出した後の鹿威ししおどしのように勢いをつけて愛姫がいる側へと落ちた。

 バアァン! と轟雷のような衝突音をたてて橋は百合丸たちの目の前に落ちる。

 接地の衝撃に耐えきれなかった橋は中間あたりでへし折れて、木屑を撒き散らしながら崖下の闇へと落ちていった。

「…………」

 橋が落ちてゆく様子を唖然と眺めているしかできなかった余三郎たちは呆然とし、自分たちが再びどうにもならない窮状に陥った事に愕然とした。

 あまりの出来事に言葉も無く、皆の思考が停止する。

 けれど、いくら人の思考が停止していてもときは菜をきざむようにトントンと無情に過ぎてゆく。

 こうしている間にも猿顔の刺客は着々と迫ってきている。

 この状況で真っ先に立ち直ったのは余三郎だった。

「仕方ない、わしがそちらに戻ってあの刺客と戦おう。こちらの方が高いから戻るのは簡単だ」

 余三郎はことさら明るい口調で何でもないように言ってみせた。

「待つのじゃ叔父上。あの者と戦っても勝てないと言っていたのは叔父上自身であろう。絶対に勝てないと思ったからこそ命懸けで跳んだ。そうであったな? ならば叔父上がこっちに戻って来ても死体が一つ増えるだけじゃ。無駄死にをするくらいならそこに居れ。来てはならぬ」

「それは……確かにそうは言ったが……」

 ついさっき愛姫たちに「まるっきり歯が立ちません」と言い切ってしまったことが仇となった形だ。

 もちろん戦うことになったら全く勝てる気がしないのは本当だし、どう頑張っても意味の無い時間稼ぎ程度にしかならないだろう。愛姫が指摘したようにここで余三郎が愛姫たちの所に戻っても、死体が一つ増える結果になるだけだ。

「そうでござるよ殿。そちらにいれば死なずに済むのでござる。わざわざこちらに戻ってくる必要はないでござる」

「うん。殿は霧たちの分まで長生きすればいい、なの」

 百合丸と霧が怖さに震えながらも強がってみせて余三郎が来るのを拒んでいる。

 幼い家臣たちにそんなやせ我慢の顔を見せられてしまっては、彼女たちの主として、男として、たとえ無駄だと分かっていても戦ってやろうという気になってくる。

「いやいや、やってみれば案外あっさり勝てるやもしれ……百合丸、そこに立たれてはそちらに跳べぬからちょっと退いてくれぬか。というかなぜ抜刀した刀をわしに向けているのだ」

「こうでもしないと殿がこちらに跳んで来るからでござるよ。……殿、絶対にこちらに来てはダメでござる。百合丸は殿に死なれるのは嫌でござるよ。本当に、本当に、嫌でござるよ……」

「それはわしも同じ気持ちじゃ百合丸。わしもお主たちに死なれるのは嫌なのだ。たとえ敵わぬ強敵だとて主たるわしが家臣のために何もせず、ただ見ているだけなんてできるものか!」

「そんな殿だから死んでほしくないなの! 絶対ダメなの!」

「霧……」

 猫柳家の主従が死ぬ死なぬで常にない真剣な気持ちをぶつけ合っているところに、場の空気を読まないで話に割り込んでくる者がいた。

 両腕で一両を抱いたままこれまでずっと傍観していた青太郎だ。

「あ、あのさ、ちょっと聞いてほしいんだけどね。あんたらだけなら向こう側に渡せるかもしれないよ」

 今にも涙を落としそうなくらいに感情を高ぶらせていた猫柳の面々は「は?」と一様に不信顔を向けた。

「こりゃ、こんな時に洒落にもならぬ冗談をいうものじゃないぞ。おぬしにそんなことが出来るなら、とっくに向こうに渡っておるはずじゃろうが」

 愛姫が青太郎の胸に顔がつくぐらいに近づいて睨み上げると、青太郎はその迫力に気圧されて数歩下がった。けれど青太郎は今の発言を翻すことはしなかった。

「今思いついたんだってば。それにこの方法だと私だけは向こうに行けないんだよ」

「おぬしは行けない?」

「狐屋殿、その話をお聞かせいただきたい。悪いがもう時間があまりない。できるだけ手早く、簡潔にお願いする」

 そろそろあの刺客が来てもおかしくない時間に差し掛かっている。青太郎もそれは分かっていて彼にしては珍しく実に簡素に愛姫たちを青太郎のもとへ渡す方法を言ってみせた。

「簡単な話だよ。私がこの子らを投げればいいんだ」

「…………は?」
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