幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第三幕 子猫はもっと遊びたい

子猫たちは猫探しを始める 2

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 境内の露店を一通り見物して歩き疲れた愛姫。

 人混みから外れた場所に置いてあった床几しょうぎに腰を下ろしてべっこう飴を舐めながら祭りを楽しむ人々の様子を眺めていると――、

「おあいちゃん見つけた、なの」

「おひゃ!?」

 突然真後ろから声をかけられて思わず頓狂とんきょうな声を上げた。

「なんじゃ、霧か。びっくりしたぁ……『お愛ちゃん』?」

 愛姫は霧の顔を見てほっと胸を撫で下ろした後、聞き慣れない名前で呼ばれたことにを不思議に思って訊き返した。

「うん、お外で姫の名前を出すの危険。だから町人みたく『おあい』ちゃんって呼ぶ、なの」

「なるほど、それは良い案じゃ」

「……どうしたの? それ」

 霧は愛姫が懐紙かいしからはみ出すほどべっこう飴を抱えているのを見て不思議そうに首を傾けた。

 耳の長さが不揃いの兎、奇妙に足の長い亀、首の短い鶏、なんと形容していいか分からない鳥らしき物体。

 どう見ても失敗作ばかりだ。

「なんだか知らないが見物してたらいっぱい貰ったのじゃ。霧も食べるかの?」

「うん。でも、先にウリ丸連れてくる。お愛ちゃんここから動かないで、なの」

 よく見ると、霧の額にうっすらと汗が浮いていた。愛姫とはぐれてからずっと探していたらしい。

「そうか、分かった。……すまぬな、手間をかけさせて」

「いい。はしゃぐ気持ち分かる、なの」

 霧はそう言うと足音もたてずに信じられないほどの早さで人混みの中に分け入っていった。

『おぉ、なんという素早さじゃ。霧は荒武者として名高い立花家の血筋なのに、まるで忍者のようじゃな』

 霧が百合丸を呼びに行っている間、言われたとおり飴を舐めながら一人で待っていると愛姫は奇妙なものを見かけた。

 おそらく町人の子らしいのだが、神社の社務所の縁の下に上半身を突っ込んでいて愛姫の方からは尻しか見えない。

『ふむ? おかしな奴じゃな』

 愛姫は首を傾げた。

 すぐそこから楽しそうな祭囃子まつりばやしが聞こえているというのに、その子は祭りの賑わいに見向きもせずに縁の下で一心不乱になにやらゴソゴソとやっている。

「おい、おぬし。何をしておるのだ? それはどのような遊びなのだ?」

 人とは違う奇異な行動をしている者に興味をそそられた愛姫は警戒することを忘れた家猫のようにすり寄って声を掛けると、少年は縁の下を覗いたまま顔も出さずに意外なことを言った。

「遊びではない。これはあきないだ」

「ほぉ? 面白いことを言う。縁の下を覗くことが商売になるのか。屋根に登っているなら鳶職とびしょくだろうと見当もつくが、これは皆目かいもく分からぬな。そちはいったい何屋なのだ?」

「縁の下を覗いただけでお金になるもんかい、人に頼まれて猫を探してるんだよ。……やれやれ、ここにもいないな」

 這いつくばっていた青太郎が立ち上がって裾についた土を払った。これまでに随分といろいろなところを探し歩いていたらしく、細い町人髷ちょうにんまげに蜘蛛の巣や泥がくっついていた。

「ほぉほぉ、猫探しか。……ふむ、それは面白そうじゃな。よし、ひとつ私が手伝ってやろう」

 城中で行儀作法や和歌などの習い事をするだけな退屈極まる毎日に飽き飽きしていた愛姫は単なる猫探しでもワクワクしてきた。

「手伝ってくれるのか?」

「そうじゃ、有り難く思うが良い!」

 むふんと鼻息荒く胸を張る愛姫。

 そんな彼女を見下ろして青太郎は眉を寄せた。愛姫はどう見ても青太郎より四つ、五つほど年下だ。

「なんだい、私より年下のくせに大層偉そうな口ぶりなのが気にくわないけど、お武家さんの娘かい?」

「あ……うん、まぁそんなところじゃ」

 武家かと問われてぎくりと目を逸らした愛姫は、咄嗟に上手な嘘をつくことが出来ずに曖昧な返事をした。

 武家かと尋ねた途端に焦り顔で目を泳がせた愛姫にただならぬ怪しさを感じた青太郎。

 よく見ると着ている物はとても貧相なので、どこぞの貧乏旗本の子かと見当をつけたのだが……、

「ふむぅ?」

 青太郎は首を傾げて目の前の女の子を観察した。

 目の前の女の子には言いようの無い違和感ある。

 まずはこの子猫のような丸い目だ。

 さっき武家かと問うた時には慌てて目を逸らしたが、今はもう全く物怖じせずに強い眼光で見つめ返している。まるで普段から見られることに慣れているかのような素振りだ。

 次に、彼女自身に健康的な艶があることがおかしい。

 貧乏な武家の子弟ならば食うや食わずの日々を送っているはずなのに、間近で見た彼女の肌理きめ細やかな頬はぷっくりと血行が良く、髪は漆を流したように手入れが行き届いていて、彼女が今着ている貧乏臭い着物にまるで合っていない。まるでどこかの大名家で姫として育てられてきた箱入り娘が無理矢理貧乏な町人に成りすましているようだ。

 ……と、青太郎はそこまで見当を付けておきながら、普段から物事を深く考えていない彼は、

「まぁ、いいや」

 今日もいつものように疑問を疑問のままに残して、気にしないことにした。

「人手はあったほうがいいし一緒に探してくれるなら助かるよ。私は青太郎。頼まれている仕事は『頭に丸、尻に三つ柏』の柄の三毛猫を探してくれという内容だ」

「そうか。随分と特徴的な猫じゃな。わらわの名はめご……ん、んっ! 妾はおあいじゃ」

「おあい? ふ~ん、なんだか口の中が引きつりそうな音の並びだね」

 青太郎はそう言いながら愛姫の頭越しに周囲をキョロキョロと見まわしている。

「こら。人と喋っておるときによそ見をする奴があるか。それに女が名を教えたらどんな名前でもまず褒めるのが男のたしなみじゃないのか?」

 どんな身分の者であってもまず『おもてなし』をされて当然の愛姫にとって、褒められなかったことが不自然だった。

 青太郎は『なんだか面倒な子に絡まれたなぁ』と思いながら口をへの字に曲げた。

「そんな嗜みなど聞いたこともないけど? というか、それを実践している奴が本当にいるのかい?」

「うむ。少なくとも妾の叔父たちは息をするくらい自然な様子で褒め言葉を吐いておるぞ」

「へぇ……うちの大番頭は女を褒めると後々面倒なことになるから滅多なことでは褒めない。って、虫を噛み潰したような顔で言っていたけどね」

「そんなモテ自慢みたいなことを言うていいのはほんの一握りの良い男だけじゃ。おぬしは違う」

「ふん、そうかい。そう言うお前さんは……なんだい、よく見ると本当に綺麗な顔をしているじゃないか。それだけ器量が良ければ普段から沢山褒められて、褒められるのも飽きているんじゃないのかい?」

 普通なら「嫌味か?」とケンカに発展するところだけれど、青太郎はバカ正直に思ったままを言っていて、愛姫も嫌味を言われるような環境で育っていないので、すんなりとその言葉を受け入れた。

「まあ、確かにそうじゃな。……おぬしは間の抜けた顔をしているのに人を見る目はあるようじゃの」

「ちぇっ、『間の抜けた顔』は余計だよ。それより次はあっちだ。あそこの縁の下を調べよう」

 青太郎が自分の店の丁稚へ指図するように拝殿を指差しながらくるりと体をまわすと――、

「貴様、よもや人攫ひとさらいか……」

 振り返ったその目の前に抜刀した少女剣士がいて青太郎に刀の切っ先を向けていた。

「ひいっ!?」

 亡くなった先代に叩かれたことは一度も無いものの、奉公人の雷蔵に何度も叱られ、ぶたれた経験のある青太郎。折檻された経験ならそんじょそこらの悪童なんぞ足元にも及ばないのだが、殺気を孕んだ白刃を向けられたのは流石に初めての経験だった。

「ひえぇぇぇぇ……」

 思わず腰が抜けた青太郎はその場にへたりと尻餅をついた。
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