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第一幕 子猫は勝手気ままに散歩に出かける
登城 2
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「こらぁ百合丸」
間延びした声とは裏腹に見事な足捌きで一瞬に百合丸へ詰め寄った余三郎が、刀に添えた百合丸の手首を押さえる。
「し、しかし殿! 今、霧殿が!」
半分涙目になって真剣に訴えるので、余三郎がやれやれと肩をすくめながら後ろに振り返ると、
「殿……霧、なんにもしてない、なの」
霧は捨てられた子犬のような目をして余三郎に無実を訴えた。
「う、嘘でござる! 霧殿は嘘を!」
「百合丸ぅー。なんでおまえは霧と仲が悪いんだ。霧はまだ八歳なんだぞ? もうちょっとお姉さんらしく霧の面倒をみてやってもいいくらいなのに……」
「と、殿は拙者よりも霧殿の言う事を信用するのでござるか……拙者と殿との繋がりは霧殿よりも薄いのでござるか……」
わなわなと体を震えさせた百合丸は鼻の穴がぷっくりと膨らませて、大泣きする寸前の様子をみせたものだから余三郎は困り果てて眉間を押さえた。
「信用するとかしないとかの話じゃない。年長者としての我慢をしろと言ってるんだ」
「だ、だって……」
ひっく。ひっく。としゃくり上げる百合丸から目を外すと、今度は自分の背後に隠れている霧と向き合って、その小さなおかっぱ頭をこつんと叩いた。
「霧もいい加減におし。あんまり百合丸をからかったらいけないよ」
思わぬお仕置きを喰らった霧は頭を押さえながら、普段は半分しか開いていない目を丸くして驚いた。
「殿……気づいてた? なの」
「わしを見くびるな。それくらいは気配でわかる。もうそんな事するんじゃないぞ」
たしなめるように少しだけ怖い顔をされたので、霧は「ごめんなさい、なの」と言いながら拗ねて頬を膨らませた。
現金なもので、今度は逆にぱぁぁっと百合丸の表情が晴れる。
「殿ぉ……」
もし百合丸がワンコだったとしたら、千切れんばかりに尾を振り回していたに違いない。
「家臣同士の諍いはお家断絶の元だ。二人はわしの家臣で、通い女中の菊花さんを除けばおぬしたち以外にわしには家臣はいないんだからちゃんと仲良くおし」
「は、はいっ!」
元気良く応える百合丸に対し、霧は――。
「それ無理、なの」
ぷくっと頬を膨らませたまま、そっけなく否定した。
「霧ぃ……」
聞き分けのない子供にもう一度辛抱強く仲良しの大切さを教えようとしたが、霧はいじけたまま「それに霧は殿の家臣じゃない、なの」と言ってぷいっと横を向いた。
「え? 家臣じゃないって……」
あまりの貧乏っぷりにとうとう八歳児すら猫柳家に愛想を尽かしたか。と余三郎が寂しそうに眉をひそめたのだが、霧は真反対の事を言い放った。
「霧は将来、殿の奥方になる。だから家臣じゃない、なの」
「なぁっ――!?」
霧の奥方宣言に驚いて声を上げたのは当の余三郎より百合丸のほうだった。
「なるほど、そういう意味での『家臣ではない』か。ふむふむ、でもな霧、そういう話はもっと大人になってからするもんだぞ」
「殿。今の返事、大人になった霧と結婚……って意味。なの? 将来夫婦確定。なの?」
霧が頬を赤くしてもじもじしている。
「な、な、な、なぁーっ!? ダメでござる! 絶対にダメでござるっ!」
「……ウリ丸。本当に邪魔、なの」
「ダメでござる! ダメでござる! ダメでござるっ!」
余三郎の言葉をちょいと捻って婚約の言質に変えようとしている霧と、駄々をこねる子供のように手足をジタバタさせている百合丸。
これではどっちが年上なのか分からない。
間延びした声とは裏腹に見事な足捌きで一瞬に百合丸へ詰め寄った余三郎が、刀に添えた百合丸の手首を押さえる。
「し、しかし殿! 今、霧殿が!」
半分涙目になって真剣に訴えるので、余三郎がやれやれと肩をすくめながら後ろに振り返ると、
「殿……霧、なんにもしてない、なの」
霧は捨てられた子犬のような目をして余三郎に無実を訴えた。
「う、嘘でござる! 霧殿は嘘を!」
「百合丸ぅー。なんでおまえは霧と仲が悪いんだ。霧はまだ八歳なんだぞ? もうちょっとお姉さんらしく霧の面倒をみてやってもいいくらいなのに……」
「と、殿は拙者よりも霧殿の言う事を信用するのでござるか……拙者と殿との繋がりは霧殿よりも薄いのでござるか……」
わなわなと体を震えさせた百合丸は鼻の穴がぷっくりと膨らませて、大泣きする寸前の様子をみせたものだから余三郎は困り果てて眉間を押さえた。
「信用するとかしないとかの話じゃない。年長者としての我慢をしろと言ってるんだ」
「だ、だって……」
ひっく。ひっく。としゃくり上げる百合丸から目を外すと、今度は自分の背後に隠れている霧と向き合って、その小さなおかっぱ頭をこつんと叩いた。
「霧もいい加減におし。あんまり百合丸をからかったらいけないよ」
思わぬお仕置きを喰らった霧は頭を押さえながら、普段は半分しか開いていない目を丸くして驚いた。
「殿……気づいてた? なの」
「わしを見くびるな。それくらいは気配でわかる。もうそんな事するんじゃないぞ」
たしなめるように少しだけ怖い顔をされたので、霧は「ごめんなさい、なの」と言いながら拗ねて頬を膨らませた。
現金なもので、今度は逆にぱぁぁっと百合丸の表情が晴れる。
「殿ぉ……」
もし百合丸がワンコだったとしたら、千切れんばかりに尾を振り回していたに違いない。
「家臣同士の諍いはお家断絶の元だ。二人はわしの家臣で、通い女中の菊花さんを除けばおぬしたち以外にわしには家臣はいないんだからちゃんと仲良くおし」
「は、はいっ!」
元気良く応える百合丸に対し、霧は――。
「それ無理、なの」
ぷくっと頬を膨らませたまま、そっけなく否定した。
「霧ぃ……」
聞き分けのない子供にもう一度辛抱強く仲良しの大切さを教えようとしたが、霧はいじけたまま「それに霧は殿の家臣じゃない、なの」と言ってぷいっと横を向いた。
「え? 家臣じゃないって……」
あまりの貧乏っぷりにとうとう八歳児すら猫柳家に愛想を尽かしたか。と余三郎が寂しそうに眉をひそめたのだが、霧は真反対の事を言い放った。
「霧は将来、殿の奥方になる。だから家臣じゃない、なの」
「なぁっ――!?」
霧の奥方宣言に驚いて声を上げたのは当の余三郎より百合丸のほうだった。
「なるほど、そういう意味での『家臣ではない』か。ふむふむ、でもな霧、そういう話はもっと大人になってからするもんだぞ」
「殿。今の返事、大人になった霧と結婚……って意味。なの? 将来夫婦確定。なの?」
霧が頬を赤くしてもじもじしている。
「な、な、な、なぁーっ!? ダメでござる! 絶対にダメでござるっ!」
「……ウリ丸。本当に邪魔、なの」
「ダメでござる! ダメでござる! ダメでござるっ!」
余三郎の言葉をちょいと捻って婚約の言質に変えようとしている霧と、駄々をこねる子供のように手足をジタバタさせている百合丸。
これではどっちが年上なのか分からない。
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