めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞

マルシラガ

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第三章 童貞勇者の嫁取り物語

俺が勇者だってことに比べたらそれほど不思議じゃないような気がしますけど

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「おや、どうしたんですかイーノック受講生。もしかして今の話を聞いて従魔を呼び出すのが怖くなってしまったのですか?」

 イーノックがわかりやすく落ち込んだのでサード女史は楽しくなってきたらしい。怜悧な顔ににやついた笑みを浮かべて煽りを入れてきた。

「いえ、そうではなくて……というか俺の従魔はずっと呼び出したまんまですよ、今は一人で散歩に出してます」

「は?」
「へ?」

「ちょぉーっと待ってください? あなたの従魔は元魔王ですよね? あなたはそんな凶悪な従魔を呼び出しっ放しなのですか? 正気ですか!? ピクシーくらい害の無い妖精ならともかく、どうして元魔王を放置してるのですか!?」

 サード女史がイーノックにこんな焦り顔を見せるのは初めての事だった。

「あ、はい。確かに元魔王だけどピクシーよりも害の無いやつなんです」

 顔が近いのでしっかりと言葉は耳に届いていたはずなのにサード女史はイーノックの返事を理解するのに少しの間が空いた。

「確認させてもらいますがイーノック受講生の従魔は魔王だったんですよね? 元は」
「はい、魔王でした。元は」

「それなのに無害なんですか?」
「はい」

「ピクシーくらい弱々なんですか?」

「むしろ町の人に虐められていないか心配なくらい気の弱い子です」

「……なんでそんな子が魔王だったんですか」

 サード女史はがっくりと項垂れた。

 どうやら自分の中にあった『魔王』という存在に対する恐怖とか畏怖とかのイメージがガラガラと崩れていったのがショックだったらしい。

「気持ちはわかりますが、俺が勇者だってことに比べたらそれほど不思議じゃないような気がしますけど」

「それもそうですね」

 イーノックが自分を例にして説明するとサード女史はすぐに納得してくれた。

「そんな雑な扱いをしているくらいなら躾のやり直しも簡単なのでは? ちなみに今はどのあたりにいるんですか? 近くにいるなら私が躾の仕方を実演しますよ」

「アイアンリバーにいると思います。町を見物してくるって言っていたので」
「はぁ~……」

 イーノックの何気ない返事を聞いたサード女史は大きなため息を吐きながら再び項垂れて教卓に手をついた。

「悪い予感しかしないのですが一応訊きますよ? どうして召喚主なのに従魔の居場所をリアルタイムで把握できてないんですか。従魔につけている首輪の反応で分かるでしょう」

「首輪の反応? ぐふっ!」

 こてんと首を傾げたイーノックに雷のような鞭が振り下ろされた。

「前回の受講を本当に何も聞いていなかったんですねイーノック受講生! 従魔を獲得したら何よりもまず従魔に『従魔の首輪』を嵌めるのが常識でしょう!? 首輪もつけないでどうやって従魔を管理しているんですか!」 

 イーノックが机に突っ伏して頭を抱えながらサード女史を見上げた。

「管理? えっと、素直な奴だから普段はメイド長に預けて家の雑用をさせていて、他の使用人と同じように……」

「それは使用人の管理の仕方です! どうして一般人と従魔を同列で扱おうとするんですか?! それに首輪が無い状態の魔族が町をうろついていたら逃亡従魔だとみなされて冒険者に狩られてしまうじゃない!」

「狩られる!? なんで? 俺が行ってこいって許可しているのになんで逃亡扱いに!?」

 スパーン!

 再びイーノックに鞭が振り下ろされた。

「あなたが自分の従魔に首輪をつけてないからですよ! 本当にダメダメですねあなたは! どんなに弱々な従魔でも元魔王という肩書があれば超レアとして取引されるのは確実。市場に流されたら買い戻しが非常に困難になりますよ、金額的な意味で! それが嫌なら早く自分の従魔を回収してきなさい! 他の冒険者に狩られて転売されないうちに!」

 イーノックはサード女史に貰った従魔の首輪を持って慌てて走り出した。
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