59 / 100
閑話 ロッティは触れ合いたい
カモ・ネギの新生活
しおりを挟む
次章のお話が始まるまでの繋ぎのお話クマ~。
召喚主である勇者の家に連れて来られて六日目。
ネギはついに怖れていた日を迎えた。
召喚主イーノックの妹ロッティが目覚めたのだ。
まるで『恐るべき魔神が封印を破り再び目を覚ました!』みたいなおどろおどろしい文句だけれど、ネギにとってはそれに近い恐怖が伴っているのでそれほど間違った言い回しではない。
出来るだけロッティに見つからないようにしようと決意したネギは、従者の仕事も放棄して朝から厩舎の近くに潜んでいたのだけれど探知魔法一発で居場所がバレた。
そして今。
「はい、ご褒美あげる。アーン」
見た目だけは可憐な幼女だけれど、近づくだけであらゆる生物に死をもたらす『魔女』ロッティがニコニコとご機嫌な様子でネギに角砂糖を食べさせようとしていた。
「ご、ご褒美を頂くようなこと、ボクしてないよ?」
ネギが怯えながら一歩下がると、ロッティは角砂糖を摘まんだ手を前に出しながら二歩距離を詰めてくる。
「こないだ馬車の中で「一番強い人誰?」って訊いたとき、ちゃんと空気読んでお兄ちゃんを指してくれたでしょ。そのご褒美」
ロッティが近づくほど皮膚が焼けるような痛みが強くなる。
まるで巨大な火の玉がゆっくりと目前に迫ってきているような痛みだ。
『い、痛い、痛い、痛いぃー! こんなの絶対ご褒美じゃないよ! 罰ゲームだよ!』
ロッティが突き出している手とネギとの距離はすでに一メートルしかない。
魔族領東方地区で最も魔力耐性が高かったネギだからこそ耐えていられるのだけれど、普通の魔獣ならとっくに魔力焼けで死んでいる距離だ。
「ロッティ、ストップ! 素の状態でネギに近づくのはやめるんだ!」
ネギの皮膚の表面に麦粒ほどの小さな水膨れが出始めた頃になってようやく助けが来た。
「あ、お兄ちゃん」
どうやらイーノックは敷地中を走り回って二人を探していたらしく少しだけ息が上がっている。
イーノックがロッティの肩に手を置いた瞬間、ロッティの体にまとわりついていた余剰魔力が一瞬で霧散した。
肌を焼く魔力が消失してホッと安堵の息を吐いたネギ。
それとは対照的にロッティは不服そうに頬を膨らませた。
「むぅ~。この子ならお兄ちゃんの手を借りなくても頭ナデナデくらい出来ると思ったのに」
「チャレンジ精神は大切だけれど、付き合わされる方が大怪我するチャレンジは控えような。それをやるとかなりの高確率でネギの頭皮がズル剥けになると思うし」
「ずるっ!?」
ネギは目を見開いて頭を抱えた。
「じゃあ、角砂糖だけでも食べさせたい。餌付けしたい」
「う~ん。それも危ないから止めたいところだけど、初めてペットを飼うんだから餌付けをしたい気持ちもわかるし……」
「え? ボク本当にペット扱い!? 従魔で執事じゃなかったの!?」
愕然とするネギを気にもかけず兄妹は話を続ける。
「じゃあしていい? 餌付け」
「餌を持っている指がネギの口に触れないように気をつけるんだぞ。俺がロッティに触れている状態でもロッティ自身の魔力がなくなったわけじゃないから直に接触したらダメージは通ってしまうんだからな」
「手から直接食べさせようとしなければいいんじゃないの!? お皿とかに置こうよ!? というか阻止してよ、なんで餌付けOKの流れにしてるの!? そもそも餌付けとか言われるのも嫌なんだけど!?」
ネギが必死に抵抗したら、ロッティは「ん?」と首を傾げた。
「お兄ちゃんへの言葉遣いが雑になってる。ね、お兄ちゃん、ロッティが眠っている間にこの子とそんなに仲良くなったの?」
「ん~。そこそこ?」
「ズルイ。ロッティも仲良くなりたい」
「仲良く……」
なぜかイーノックは「くっ!」と肩を震わせながら呻いて目頭を押さえた。
「家族以外に決して心を許さなかったロッティが自分から誰かと『仲良くなりたい』と言う日が来るなんて……」
どうやら感動しているらしい。
「これがペットによる情操教育の効果というやつか。素晴らしい!」
「わかったよ。この子の前ではボクはペット扱いされるの確定なんだね」
ネギが肩をすくめてみせるとロッティがパチクリと目を瞬かせた。
「んん? 今ロッティのこと『この子』って言った?」
少し首を傾げたロッティは未知の生物を見たかのような表情でネギを見据えた。
「違くない? ペットが飼い主を『この子』って言うのはロッティ違うと思う」
「へ?」
「……躾、必要?」
子猫のようにつぶらな瞳が瞬きを止めてジッとネギを見ている。ルビーのように鮮やかな赤の瞳の奥に嗜虐性のある苛立ちを感じたネギは即座に姿勢を正して深々と頭を下げた。
「すみませんでした。ロッティ様」
「ん。ペットには舐められないようにするのが大事だってシャズナお姉ちゃんが言ってた。ロッティはネギと仲良くしたいけど、対等じゃないから。そこ大事。わかる?」
ネギは頭を下げた姿勢のまま小刻みに身体を震わせた。
「身に沁みてわかりました。ボクが思い違いをしたせいで、ヒンヤリとした死神の鎌がボクの首に触れた気がしますです」
ネギの顔から血の気が引いていた。ロッティの斜め後ろから彼女の肩に手を置いているイーノックも『え!? もしかしてロッティまでシャズナ姉ちゃんみたいになるのか!?』な当惑した表情で顔を青褪めさせていた。
次章予告。
母パネーと父マースォが長年にわたって根回ししていた縁談話が実を結び、王様の一人娘とイーノックの婚約が締結寸前。
そんな状況で『最弱勇者』と名高い貧弱なボウヤとの結婚を嫌がる王女殿下は婚約が確定してしまう前にこの話をブチ壊そうとバーグマン領に乗り込んでくるのだが……。
みたいな感じにしようと思ってるクマ~。
もうしばらくお待ちください(^(工)^)
召喚主である勇者の家に連れて来られて六日目。
ネギはついに怖れていた日を迎えた。
召喚主イーノックの妹ロッティが目覚めたのだ。
まるで『恐るべき魔神が封印を破り再び目を覚ました!』みたいなおどろおどろしい文句だけれど、ネギにとってはそれに近い恐怖が伴っているのでそれほど間違った言い回しではない。
出来るだけロッティに見つからないようにしようと決意したネギは、従者の仕事も放棄して朝から厩舎の近くに潜んでいたのだけれど探知魔法一発で居場所がバレた。
そして今。
「はい、ご褒美あげる。アーン」
見た目だけは可憐な幼女だけれど、近づくだけであらゆる生物に死をもたらす『魔女』ロッティがニコニコとご機嫌な様子でネギに角砂糖を食べさせようとしていた。
「ご、ご褒美を頂くようなこと、ボクしてないよ?」
ネギが怯えながら一歩下がると、ロッティは角砂糖を摘まんだ手を前に出しながら二歩距離を詰めてくる。
「こないだ馬車の中で「一番強い人誰?」って訊いたとき、ちゃんと空気読んでお兄ちゃんを指してくれたでしょ。そのご褒美」
ロッティが近づくほど皮膚が焼けるような痛みが強くなる。
まるで巨大な火の玉がゆっくりと目前に迫ってきているような痛みだ。
『い、痛い、痛い、痛いぃー! こんなの絶対ご褒美じゃないよ! 罰ゲームだよ!』
ロッティが突き出している手とネギとの距離はすでに一メートルしかない。
魔族領東方地区で最も魔力耐性が高かったネギだからこそ耐えていられるのだけれど、普通の魔獣ならとっくに魔力焼けで死んでいる距離だ。
「ロッティ、ストップ! 素の状態でネギに近づくのはやめるんだ!」
ネギの皮膚の表面に麦粒ほどの小さな水膨れが出始めた頃になってようやく助けが来た。
「あ、お兄ちゃん」
どうやらイーノックは敷地中を走り回って二人を探していたらしく少しだけ息が上がっている。
イーノックがロッティの肩に手を置いた瞬間、ロッティの体にまとわりついていた余剰魔力が一瞬で霧散した。
肌を焼く魔力が消失してホッと安堵の息を吐いたネギ。
それとは対照的にロッティは不服そうに頬を膨らませた。
「むぅ~。この子ならお兄ちゃんの手を借りなくても頭ナデナデくらい出来ると思ったのに」
「チャレンジ精神は大切だけれど、付き合わされる方が大怪我するチャレンジは控えような。それをやるとかなりの高確率でネギの頭皮がズル剥けになると思うし」
「ずるっ!?」
ネギは目を見開いて頭を抱えた。
「じゃあ、角砂糖だけでも食べさせたい。餌付けしたい」
「う~ん。それも危ないから止めたいところだけど、初めてペットを飼うんだから餌付けをしたい気持ちもわかるし……」
「え? ボク本当にペット扱い!? 従魔で執事じゃなかったの!?」
愕然とするネギを気にもかけず兄妹は話を続ける。
「じゃあしていい? 餌付け」
「餌を持っている指がネギの口に触れないように気をつけるんだぞ。俺がロッティに触れている状態でもロッティ自身の魔力がなくなったわけじゃないから直に接触したらダメージは通ってしまうんだからな」
「手から直接食べさせようとしなければいいんじゃないの!? お皿とかに置こうよ!? というか阻止してよ、なんで餌付けOKの流れにしてるの!? そもそも餌付けとか言われるのも嫌なんだけど!?」
ネギが必死に抵抗したら、ロッティは「ん?」と首を傾げた。
「お兄ちゃんへの言葉遣いが雑になってる。ね、お兄ちゃん、ロッティが眠っている間にこの子とそんなに仲良くなったの?」
「ん~。そこそこ?」
「ズルイ。ロッティも仲良くなりたい」
「仲良く……」
なぜかイーノックは「くっ!」と肩を震わせながら呻いて目頭を押さえた。
「家族以外に決して心を許さなかったロッティが自分から誰かと『仲良くなりたい』と言う日が来るなんて……」
どうやら感動しているらしい。
「これがペットによる情操教育の効果というやつか。素晴らしい!」
「わかったよ。この子の前ではボクはペット扱いされるの確定なんだね」
ネギが肩をすくめてみせるとロッティがパチクリと目を瞬かせた。
「んん? 今ロッティのこと『この子』って言った?」
少し首を傾げたロッティは未知の生物を見たかのような表情でネギを見据えた。
「違くない? ペットが飼い主を『この子』って言うのはロッティ違うと思う」
「へ?」
「……躾、必要?」
子猫のようにつぶらな瞳が瞬きを止めてジッとネギを見ている。ルビーのように鮮やかな赤の瞳の奥に嗜虐性のある苛立ちを感じたネギは即座に姿勢を正して深々と頭を下げた。
「すみませんでした。ロッティ様」
「ん。ペットには舐められないようにするのが大事だってシャズナお姉ちゃんが言ってた。ロッティはネギと仲良くしたいけど、対等じゃないから。そこ大事。わかる?」
ネギは頭を下げた姿勢のまま小刻みに身体を震わせた。
「身に沁みてわかりました。ボクが思い違いをしたせいで、ヒンヤリとした死神の鎌がボクの首に触れた気がしますです」
ネギの顔から血の気が引いていた。ロッティの斜め後ろから彼女の肩に手を置いているイーノックも『え!? もしかしてロッティまでシャズナ姉ちゃんみたいになるのか!?』な当惑した表情で顔を青褪めさせていた。
次章予告。
母パネーと父マースォが長年にわたって根回ししていた縁談話が実を結び、王様の一人娘とイーノックの婚約が締結寸前。
そんな状況で『最弱勇者』と名高い貧弱なボウヤとの結婚を嫌がる王女殿下は婚約が確定してしまう前にこの話をブチ壊そうとバーグマン領に乗り込んでくるのだが……。
みたいな感じにしようと思ってるクマ~。
もうしばらくお待ちください(^(工)^)
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる