めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞

マルシラガ

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第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ

これ、そういう事を本人の目の前で言うでない。未来が変わってしまうじゃろ

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 一階には降りずに二階の階段脇行ってそこから玄関を見下ろすように覗くと、不思議な雰囲気を漂わせている三人の来訪者がいた。

 一人はいかにも賢者らしい風貌をした老人で長いあごひげを胸元まで垂らしている。白い釣り竿を肩に掛け、細い枝を編んだ魚籠びくを大事そうに提げているけれど中は空っぽのようだ。

 もう一人は珍しいことにエルフの男性だった。二十歳くらいに見えるけれどエルフの実年齢は同族でも推測が難しいらしいので若いのか老けているのかはわからない。美形なのはエルフの特性みたいなもので特に気に掛けることでもないけれど、下町のチンピラのように姿勢が悪くて猫背になっていて、腰帯の左右に二〇センチくらいのL字に曲がった魔法杖を差し込んでいる。

 最後の一人は冒険者のような革鎧を着込んだ小人族の少女。一見人間の子供のように見えるけれど身体に比して手と足だけが大人のように大きいのですぐ小人族だと分かった。小人族もエルフ同様に長寿の種族なので実年齢は不明。童女のような子供っぽい顔の口許から大きな八重歯が見えていて、背中には二つに分解された望遠鏡を担いでいる。

 三人とも自分たちが聖人だと自称しているだけなのに、一目で常人とは思えない異様な雰囲気を漂わせているので不思議とそれを疑う気にはなれなかった。
 そんな三人が興味津々な様子でメルセデス姉さんを取り囲んで好き勝手なことを言っている。

「ほほぉ、これはまた奇跡的な子供じゃな。もう少し星の巡りが擦れておればこの子が『勇者』じゃったかもしれぬ」
「しかし気の動きが淀んでいる。これが晴れれば一段と強くなれるであろうに、惜しいな」

「この子は視たことあるッチ。しばらくしたら『戦姫いくさひめ』と呼ばれるようになる子だッチ」
「これ、そういう事を本人の目の前で言うでない。未来が変わってしまうじゃろ」
「うっかりだッチ。てへっ☆」

「あ、あの。三聖人様? できればお名前とご用件を窺いたいのですが」

 キャラの濃い客たちに囲まれてメルセデス姉さんは珍しく困惑しているようだった。

「おぉ申し訳ない。我らが三人揃うのがかなり久しぶりで年甲斐もなく浮かれてもうた」
「俺の名はバックショット。こっちの釣り竿持っている爺はカンブリ・ヒミーで、そこのロリババァがプピ・チッチだ」
「用件は神から伝言を頼まれたので来たんだッチ。いわゆる『託宣』だッチね」

「託、宣……ですか?」

 メルセデス姉さんは対外用の微笑のまま少しだけ首を傾げた。

「託宣って何か知らないのか? 簡単に言うと神から伝言だ」

 立ち姿がチンピラのような猫背のエルフは口の利き方も品が無かった。こんな態度でも聖人として認められているんだから神様は何を基準に人選しているのか皆目見当もつかない。

「人選の基準は呆れるほど単純だ。神は自分と波長が合って、言葉を送っても頭が沸騰しないくらい脳みそが頑丈な奴を選んでいる。それだけだ。神からすれば人間や亜人種なんて猿と同レベルの存在だからな、礼儀正しいとか品行方正だとか、そんな些事は『聖人』の選定基準にはならねぇ」

 バックショットと名乗ったエルフの男は二階で隠れて覗いていた私へ当たり前のように目を合わせて私の心の中の疑問に答えた。
 他の二人も私がここにいる事を見通していたようで些かも視線を彷徨わせることなくピタリと私に目を合わせてきた。

 神秘を獲得できる三聖人にとってはどうと言うことも無い仕草なのだろうけれど、何もかも見通したようなその行動が私にはひどく気味悪く感じられた。
 まるで得体のしれない怪物に見つめられているような感覚になってゾワッと腕に鳥肌が立ったのを私は数年経った今でも明確に覚えている。

「さて、そろそろお嬢さんたちの父殿も我らに会う用意が整った頃であろう。案内してくれるかの?」

「昨夜からずっと歩きっぱなしだったからプピは疲れてるッチ。お腹も空いてるッチから軽食出してくれるのは嬉しいッチね。あの子はそういう気配りが出来るから将来――おっと、この先は言わないッチよ。またカンブリに怒られるのは嫌ッチ」

 応接室へ案内された三聖人は父さんとの挨拶を終えるとすぐに人払いを要求した。

「すまないッチね。託宣はプピたちを介した言葉でも聞く側に強い負担が掛かるッチ。神に指名された託宣の受取人で、且つ神殿騎士だった君たちのパパなら神聖系負荷に耐性があるから大丈夫ッチけど、他の人が聞くと脳みそが焼けるッチよ。半身不随になりたくないなら素直に出て行った方が良いッチ」

 サンドイッチを盛った大皿を独り占めするように抱えたプピはニコニコしながら恐ろしい言葉で私たちを追い出そうとした。

「そんなに残念そうな顔をするな。気になるなら後で親父から聞けばいい。託宣の内容を一語一句違わずに語っても、俺たちが直接語るのでなければ聞く側に負荷はかからない」

「あの、そんな危険な託宣を私が聞いても大丈夫でしょうか?」

「というわけで、他の人はみんな出て行くッチよー」

 脳が焼けると聞かされて父さんは腰が引けているようだったけれど、そんな不安に構うことなくプピさんがパンパンと手を叩いて私たちを追い立てた。



 それから十分後、応接室から出てきたプピさんに「もうこっちに来ても良いッチ」と手招きされて私と姉さんが応接室に戻ると父さんは耳から黒い煙を上げて憔悴しきっていた。

「父さん大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ。頭はひどく痛いがなんとか耐えられた。神の言葉を聞くのがこんなに心身が圧迫されるものだとは思わなかったよ。あぁ、そんな事よりイーノックをここに呼んでくれ」

「イーノックを? まだ寝ていると思いますが」

「寝ていたら無理矢理起こしてでも連れて来てくれ。託宣はイーノックに向けられたものだった。本人にすぐ伝えておくべきだろう」

 父さんが託宣を受けている間、私と姉さんは託宣の内容はきっと魔力暴走が止まらない妹についてだと予想していたのだけれど、その読みは大きく外れた。
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