めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞

マルシラガ

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第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち

よく聞け召喚士! 私は決して人間なんかに屈しない!

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 俺は天幕の中で呆然と立ち尽くしていた。
 召喚で現れた魔族の美少女をにどんな態度をとっていいのかわからない。

 魔物だったら召喚後すぐに襲い掛かってくるらしいから、そのまま戦って魔物に負けを認めさせてから契約魔法で従魔に……って流れで終わるらしいんだけど……。

 どうしよう、なんか全然襲ってこないんだけど?
 俺のこと眼中にないみたいに蹲って悔しがっている。

 こういう場合こっちから襲わなきゃダメなのか?

 それにしても、おっぱいデカいなこの子。さすがにシャズナ姉ちゃんほどじゃないけれど、メルセデス姉ちゃんに匹敵するデカさだ。

 いや、そこは今考える事じゃない。これからどうするかを考えなければ!

 この子を俺の従魔として使えるようにするまでの手順を頭の中でイメージしてみた。



 魔法陣から美少女魔族が現れた。
     ↓
 よっしゃ待ってたぜ! と襲い掛かって力づくで屈服させる。
     ↓
 屈服させた女の子に契約を迫って従魔にする。
     ↓
 従魔にした女の子を俺の言いなりになるようにいろいろと仕込む。



 ……あれ? 俺、すごい悪い事しようとしてんじゃね?

 どう考えても悪人の所業だよ。
 まるで極悪な奴隷商人みたいだ。

 いったい何のためにこの子を召喚したんだよ俺?

 ……あ、そうだ。この子を召喚した当初の目的がすっかり頭から飛んでいた。

 そもそも俺は俺を守ってくれる強い従魔が欲しかったんだよ。俺の言いなりになってくれるちょっとエッチな美少女が欲しくて召喚したんじゃない(欲しいのは否定しない)。

 この子魔族だから普通の人間より強いはずだけれど……。

 俺は改めて彼女を観察する目で眺めた。

 ……うん、スタイルいいよな。肌もツルツルだし。わぁ、腰細いなー……。

 じゃなくて!

 俺は腰を引きながら邪念を抑えた目で女の子を見る。

 どう見ても戦いに慣れているふうには見えない。かといって平民のように労働になれているふうにも見えない。艶のある髪と整えられた長めの爪、どこかの貴族のお嬢様って感じだ。

 はぁ……。命が危ないって状況なのに全然戦えない子呼んじゃったよ。護ってくれる従魔じゃなくて、守ってあげなきゃいけない系の従魔を呼んじゃったよ……。

「守ってあげなきゃいけない系だと?」
「え?」

 ずっと蹲ったままだった女の子がユラリと立ち上がった。

「えっと、言葉に出てた?」

 訊くと女の子は忌々しそうに俺を睨んで、自分の体に巻き付いている魔力の糸を掴んだ。

『召喚魔法の魔力の糸で繋がれているから、言葉にできるほど明確な思考なら声に出さなくても聞こえてくる。……召喚士ならそれくらい知っていて当然だと思ったんだけど?』

 あ、本当に声しにしなくても聞こえてくる。

 突然ザワリとした驚愕の感情が俺の中に滑り込んで来た。

『本当に知らなかったのか……え? 召喚成功したのが初めて!? 嘘……そんなド素人にこの私が……』

 やばい、俺の心読まれてる!?

 俺は魔力の糸が絡みついている祝福されし棒を慌てて手放した。

 唖然とした顔で俺を見ていた女の子は「そうか、恐ろしいほどの才能はあるがまだ素人なのか。ならばまだ希望はあるな」と呟いて「ふふふふ」と笑いながら悪い顔になった。

 あ、その顔すごく魔族っぽい。ゴージャス系美少女だから今の表情のほうが似合ってるな。なんだか『悪役令嬢』って表現が似合う。

「よく聞け召喚士! 私は決して人間なんかに屈しない!」

 なんかもう負け確定みたいなセリフ吐いちゃいましたよ!?

「初めて成功した召喚で私を引き当てたことはオマエにとって最大の幸運であり最悪の不幸だったのだ!」

 悪役令嬢(全裸)は偉そうにふんぞり返って俺を指差しながら見下すように言い放つ。

「そうか。でも今は夜だからもうちょっと声抑えめでお願いできる? ここ布一枚だけで囲った天幕の中だから声が通りやすいんだ」

「む、わかった。……これくらいなら良いか?」
「うん。それくらいで」

 悪役令嬢が聞き分けの良い子で助かった。

「それでだな、私は従魔になりたくなんかないので全力で抵抗するのだ」
「あ、抵抗してくれるんだ? 良かった、何もしてない子と戦うのなんか気が引けてたんだよ」

 俺がホッとしてると良い子な悪役令嬢は「ん~……?」と、微妙な顔で眉を寄せている。

「なんだろう? これから命懸けの戦いをして必死の抵抗をするっていうのに『何かズレてる感』がありすぎて、すごく戦いづらいのだが……」

「あー、でも別に戦わなくてもいい気がする」
「は?」

「勝手に呼び出しておいてこんな事を言うのもなんだけど、キミを従魔にするのはやめておくよ」

「私を従魔にするのは無理だと悟って諦めたのか。それなら私も面倒なことをせずに済むからそれでもかまわないが、一度もやり合わないうちに負けを認めるとは情けないのぅ」

「負けを認めたとかじゃなくて、契約するときって魔力半分以上持っていかれるらしいから今キミと契約するわけにはいかないんだ。実は俺けっこうヤバい状況でさ。今は強い従魔が必要なんだよ。だからゴメンね」

「……は? つまりあれか? 私が弱そうだから従魔にしたくないと?」
「あ~、まぁ……ぶっちゃけ」

 俺が頷いてみせると、まるでエッチなご奉仕をしてくれるお姉さんがお客に「ぶっさ、チェンジでw」って半笑されながら鼻先でドアを閉めらる侮辱を受けたような顔で頬をピクピク痙攣させた。

「ほ、ほほぉ? ずいぶんとナメた事を言ってくれるじゃないか召喚士」

 悪役令嬢(全裸)はブチ切れ寸前の威圧感マックスな様子で俺に近づくと、俺の胸元あたりから至近距離で俺を見上げた。

 あ、わりと小柄だったんだな。髪の量が多いから大きく見えてたよ。

「そのように腰が引けてるビビリにこの私が弱そうだと思われていたとは心外だ」

 俺の腰が引けてるのは別の理由だよ。というか全裸のまま普通に会話できる方がおかしいと思うのだけれど……。もしかしてこの子って淫魔サキュバス

「ゴメン。侮辱したつもりはないんだ。弱そうっていうか、そもそも戦闘に向いてない種族なんじゃないかなーって。だから無理しなくていいから。もう帰っていいよ?」

「なめるな!」

 できるだけプライドを傷つけないように言ったつもりなのに、どうやらそれは逆効果だったみたいで、これ以上無いほどに激高した悪役令嬢は俺の胸ぐらを掴むと怒りをそのままぶつけるように魔力の塊を俺に放った。

 バシッ!

 一瞬で俺の服が弾け飛ぶ。

 おぉ、凄いなこの子! ロッティの八割くらいの魔力を出せてたんじゃないか?

 魔族って人間よりも魔力が強いって聞いてたけど戦闘向きじゃない種族でもここまで高出力の魔力を出せるなんて……やはり魔族って怖いなぁ。

 俺が感心しながら見下ろしていると、悪役令嬢は俺を見上げながら愕然としていた。

「嘘……なんで平気なの?」

「魔力攻撃とか効かない体質なんだ、俺」
「!?」

 悪役令嬢の顔が愕然から驚愕に変化したとき、護衛の騎士がバサッと無遠慮に天幕の布を持ち上げて顔を出した。

「おい、うるさいぞ。何やって――」

 騎士は服が弾けて半裸になってる俺と、もともと全裸の悪役令嬢を見て数秒ほど固まっていたが、チッと大きな舌打ちをして顔を引っ込めた。

 天幕の向こうから別の騎士と会話する声が聞こえる。

『どうだ、勇者は何してた? さっき中から女の声で「なめるな」って聞こえたけど』

『どうもこうもねぇよ。あのクソガキ、女と乳繰り合ってやがった。この間も姉だって言う娼婦が来てたのを追い返したんだが、とうとう中に連れ込みやがった……』

『あぁ「なめるな」って声がしたのは、変なところを舐めようとして怒られた声だったのか。いったいどこを舐めようとしたのやら。へへっ』

『俺、ちょっとはあのガキ可哀想だと思ってたんだけどよ、まったくその気が無くなったわ。つか挽肉のように切り刻まれて欲しいと心から願う』

 なんだかヒドイ誤解をされた。

 すぐに誤解を訂正しようと外に向かおうとしたら、悪役令嬢に腕を掴まれた。

 バンッ!

 また大きな魔力を叩きつけられて今度はズボンが飛び散る。

「本当に平気なんだな……私の魔力でも全く痛痒を感じていないなんて」

「試すだけならこんな大きな魔力使わないでくれる? 俺まで全裸になっただろ」
「俺まで? ……あ」

 俺の言葉に小首を傾げた悪役令嬢はスイッと目線を下げて、呼吸に合わせてたわわに揺れている自分の胸を見て……顔を真っ赤に染めた。

 丸出し状態のまま俺と話していたのだと今になって気が付いたらしい。

 すぐに「きゃああぁぁ、見ないでぇ!」と悲鳴をあげながら身体を隠すだろうと思ったが、悪役令嬢は斜め上の反応を俺に見せつけた。

 反射的に胸やら股間やらを隠そうとしていた手を腰にあてて、ついっとふんぞり返る。

「お、お前が魔力に対して抵抗が高いのは理解した。だが、それだけで私を従魔にできると思ったら間違いだ。私を従魔にしたければ物理戦闘でも私を上回っていると証明してくれないとな!」

 悪役令嬢は涙目になりながらも眉尻を吊り上げて俺に従魔条件をつきつけた。

「……お、おう」

 正直言ってそんなことに付き合ってやる必要性なんて無いんだけれど、なんだか必死になって誤魔化そうとしているこの子のを邪魔しちゃ悪い気がして頷いた。

「だからな、ちょっと今から武器とか防具とか準備してくるから。このまま動かないで待っているように!」
「分かった。待ってる」

 悪役令嬢は耳まで真っ赤にさせながらも身体を隠す素振りを見せずに召喚陣を跨いで元の場所に戻った。

 その後すぐに召喚陣の向こうからドタバタと走り回って扉や棚を開ける音が聞こえてきた。
 シュルッと微かな衣擦れの音に混じって「くうぅ、しくじったぁ……」と嗚咽する声も……。

「……」

 俺は黙って魔法陣を消した。
 馬鹿正直にあの子が来るのを待って恥の上塗りをさせるのは紳士じゃないよね。

 なんだかとても切ない気持ちになったけれど、俺は気持ちを切り替えて別の従魔を求めて新たな召喚魔法を行った。

「さっきの子よりも強い従魔、来い!」

 それから俺は五回も召喚に挑戦したのに一匹の魔物も魔族も出てこなかった。
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