めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞

マルシラガ

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第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち

俺は勇者とガチガチに戦って闘争本能を満足させることができればそれでいい

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 頭に突然穴が空いて猿翁は死んだ。
 猿翁は血を噴出しながら倒れていくのを俺は唖然と見ていた。

 おそらく猿翁の奴ぁ自分が死んだことも気付かずに死んだ。
 口が俺に対して何か言いかけたままで止まっていた。

「ノッブタ、猿翁に何をした!」

 既に息絶えている人間どもに対して斬撃を繰り返し、仄暗い笑顔を浮かべながら「チタタプ、チタタプ」と呟いていたザバルダーンが突然起きた怪現象にギョッと驚いて、あろうことかこの俺様に猜疑の目を向けてきた。

「あぁん!? 俺ぁ何もしてねぇ! つかなんだその口の利き方は? 立場をわきまえろよ雑兵が!」

 ザバルダーンがグッと息を飲んだ。

 ざまぁみやがれ。

 ちょっと前に魔王の怒りをかって雑兵に落とされたことのあるザバルダーンにはこの煽り文句が一番効く。

 あのクソ魔王が遁走したことで四天王に復帰したけれど、前のように四天王筆頭ではない。今は一番の新参者という立場になっている。

 序列を一番気にしていたあの野郎が俺より下の地位に落ちたのは気分が良い。もっとからかって泣かせたいって気分になったが、今はそれより猿翁が突然死んだことが気になる。

「おい、ガンバン。おめぇは何か見なかったか? 猿翁の頭に穴が空いた瞬間を見たか?」

 同じ四天王だからという理由で無理矢理連れ回してきたロックゴーレムのガンバン。
 大木の根元で膝を抱えて月を見上げていたガンバンはゆっくり目線を下ろして俺を見ると、僅かに首を振ってまた月を見上げた。

 いったい何なんだコイツは……。

 俺と同じ四天王の地位にいながら闘争心の欠片もない様子に俺はイラつく。

 ガンバンはどんな激しい戦闘に駆り出されても必ず生還することで実績を積み上げて、遂には四天王にまで上り詰めた実力派だからそれなりに強いのだろうけれど、俺はこいつが戦っているところを見たことが無い。

 まぁいい、俺は勇者とガチガチに戦って闘争本能を満足させることができればそれでいい。

 俺の足元では猿翁がまるで間欠泉のように頭の穴から血を噴出している。同僚の中で唯一俺と気の合う男だったが死んでしまったのならもう用はない。

 そういえば猿翁はここと城の中間あたりにデケェ反応があるって言ってたな。

 猿翁は探知魔法を逆手に取られて狙撃された?

 いや、猿翁の傷は長距離魔法や弓矢でつけられたような傷じゃねぇ。音も振り切るくらいの速度でミスリルの槍を投げ込まれたような尋常じゃない貫通力をもつ一撃だ。

 それだけのパワーがある攻撃をされて俺たちが何も感知できないとか有り得ないだろ。

 俺は猿翁が反応があると言っていた北北西に体を向けて木々に囲まれた森へ目を凝らした。

 その時だった――。

「ぬっ!?」

 ゾクッと背筋を駆け上がる殺気に対して反射的に抜刀したのと、首筋ギリギリで火花が散ったのはほぼ同時だった。

「ちっ、勘がいいのですね」

 森の中から弾丸のように飛び出してきた人間は軽く舌打ちをすると、地面を軽く蹴って俺から五メートル離れた位置に音も無く着地した。

 俺を暗殺し損ねた人間は着地した姿勢から立ち上がらずに、足をM字に開いたままユラユラと左右に体を揺らして俺に飛びかかるタイミングを狙っている。

 ……あ、これヤバイ奴だ!

 俺の本能が悲鳴を上げた。

 絶対強い。コイツめっちゃ強いパターンだ!

 俺を見る目は冷たくて鋭くて、まるで捕食対象の虫を見る蜘蛛のように無機質。人間の兵士が着る金属製の胸鎧を装備しているが、まるで他人から奪った物のようにサイズが合っていない。

 分かる。それ、死体から剥ぎ取って使ってるんだよな? オマエそんなキャラっぽいし。

 使っている武器が左右の手に握られたナイフだっていうのに金属鎧を装着している時点で違和感あり過ぎるし、そんな違和感があることに違和感が無い。

 ダメだぁー! コイツ絶対強いぃー!

 もしかしてコイツが今代の勇者!?

 無理無理無理無理! これ勝てないよ! コイツと戦いたがってる奴がいるとかマジ自殺!

 闘争本能? なにそれ? 生存本能より大事な本能なんて俺知らない!

 今すぐ回れ右して逃走したいけれど、コイツに背中を向けた瞬間俺の命の火が消えそうだ。

 ここは少しでも隙をみせないようにするために俺は命懸けではったりをかます。

「ふっ、人間にしてはやるようだな。ちょっとは楽しめそうだ」

 俺は足が震えるのをなんとか堪えながら笑みを浮かべて指を鳴らした。

 指の上でブウゥンと黒い魔力の塊パァン!

 ……え?

 作りかけの炸裂魔法が人間の投げた小石で破壊された。

「悪魔によくいる魔法剣士ですか。剣も魔法も中途半端な練度しかないから小石一つで次の一手が潰されるんです。私が来たからにはその程度の魔法はもう使えないと思ってください」

 いやいやいや! こんな事されたの初めてだから! 普通小石なんかじゃ潰せないから!

 俺が内心で焦りの滝汗を流していると、相手の実力が計れないザバルダーンが目を剥いて怒鳴り散らした。

「貴様かぁ! 猿翁をやったのは!」

 よしっ! いいぞ、ザバルダーン! 今はおまえの無能さが俺を救ってくれる!

 頑張ってヘイトを集めるんだ! 期待してるぞ身代わり肉人形!
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