14 / 100
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
今回の件で一番の被害者のはキミじゃない
しおりを挟む
前触れも無く降り出した雨の中を馬車で進んで王宮に入ったパネー。
高位貴族のために用意された小部屋に案内されてから、パネーは思いのほか長時間待たされた。
この部屋は位置的に高位貴族と王族の側仕えしか入れないエリアにあるはずなのに部屋の外が妙に騒がしい。
誰かが騒いでいるような騒音ではなくて、多くの人が足早に部屋の前の廊下を行き来する足音がやけに多いのだ。
待っている間にも外の天候は大きく崩れて窓を叩くように大粒の雨が跳ねている。
嵐が来るって予報はなかったはずだけれど……。
そんな事を考えながら外を眺めていたら、やがて顔見知りの侍従がパネーを呼びに来た。
パネーが通されたのは招待状の文句にあったような会席の場ではなく王の執務室だった。
どうやら誘い出すための建前を律儀に守る気はないらしい。
「久しいなパネー。新年を祝う慶賀式以来か」
四十代半ばの王は窓越しに空模様を見上げていて、眉間に刻まれた皺を深くしている。
「陛下におかれましては本日もご機嫌麗しゅう――」
「今の余のどこを見てご機嫌麗しいと思ったんだパネー」
「定型文の挨拶にツッコミを入れられても困りますわ陛下」
王は不機嫌な様子を隠そうともせずに荒く鼻息を吹いて髭を揺らすと、再び豪雨の空を見上げた。
「パネー。おまえの領地からアイアンリバーの鉱山と町を取り上げる」
「!」
心臓が止まるような錯覚を覚えてパネーは思わず胸を押さえた。
アイアンリバーの鉱山や麓の街から上がって来る税収は領地の経営になくてはならないものだ。この収入がなければ領民を魔獣の脅威から守る私兵騎士団の存続すらままならない。
「陛下、それはあまりに危険な罰ではないでしょうか」
大きすぎる罰は瞬時にパネーの反逆心に火をつけた。理不尽に頬を打たれたら反射的に拳で殴り返すのがパネーだ。
パネーが『それは危険な罰』と言った真意は「そんな事をされて私が黙っていると思うなよ。ウチをナメてんのか。王家打倒の反旗掲げるぞ、いいのか? おぉん?」という意味である。
一瞬で目の中に獰猛な炎を点したパネーに気付いて王はヒクリと顔を強張らせた。
「その目を止めろパネー。余の親族でそこまで露骨に攻撃的な目を向けてくるのはおまえだけだぞ。まったく……」
「フレデリクがふざけたことを言うからです」
「昔みたいにフレデリク言うな。人目がなくても陛下と呼べ。王に即位してもう二十年も経つんだぞ」
「はいはい。で、本当にウチからアイアンリバーを取り上げる気? たかだか海を焼いただけでしょう。王都で許可なく戦略級魔術を行使するのは厳罰を下されるってのは知っているけど、反逆の意思の無い幼女が個人で放った魔法よ。今後三年の上納金を倍にするからそれで手を打ちなさいよ」
「あれをパネーの娘が個人で悪意なくやったことだと理解している。私の影が一部始終を見ていて腰を抜かしたらしいがな」
「随分優秀な影を飼っているのね。全然気づかなかったわ」
「で、ぶっちゃけた話、余はこれを機に力をつけすぎているバーグマン侯爵家の力をザックリ削いでおうかと思ったんだが」
「やったら、全力でやり返す」
「……だからその反抗的な目と態度をどうにかしろ。これじゃあどっちが王かわからぬ」
「ウチも無駄なケンカはしたくないからさっきの条件で手を打ちなさいって。それで終わりにしましょ」
いつもならこれで王が口をひん曲げながらも「ったく、しょうがねぇなぁ」と折れることで決着となるパターンなのだけれど、今回は違った。
「悪いが此度ばかりはその程度の罰金で許すわけにはいかなくなった」
常とは明らかに違う王の様子にパネーは眉を寄せて訝しむ。
反応が通常とは異なるということは、通常とは異なる要因がその背後にあるということだ。
「何かあったの?」
パネーの問いかけに王は腕を上げて窓の外を指差した。
王の執務室は城の最上階に近い場所にあって、そこからだと城下の街並みが一望できるし、その向こうに広がる海も見える。
晴れの日であれば風光明媚な景色が広がる展望も、今は厚い雨雲が垂れこめてシャワーのように街を洗い流している陰鬱な風景が見えるばかりだ。
「凄い雨勢だろう? 今日はずっと晴れていたのに突然この豪雨だ。どうしてだと思う?」
「……?」
王が何を言わんとしているのかを計りかねてパネーは首を傾げた。
「『水の循環』を思い出せ。『蒸発した海の水は大気に溶けて雨雲になる』ってやつだ」
「蒸発した海の水…………あ!」
パネーはロッティの魔法で焼けた海の光景を思い出した。
「さっき被害の第一報が届いた。西の岬で崖崩れが発生して灯台が海中に沈んだらしい。民家が数件倒壊したとの報告もある。それ以上に深刻なのは今こうしている瞬間にも川の増水が続いている事だ。半日も経てば王都の半分は川から溢れた水に沈んで十数万人規模の避難民が出るだろう」
「そんな……」
パネーは今から起きるであろう災害の規模を予測して顔から血の気を引かせた。
「天に上った水は雨となって地に落ちるのが節理。そして雨雲に国境はなく気流に乗って広がり続け、おまえの娘が放った魔術の着弾点からは今もまだ大量の水蒸気が上がっているそうだ。自然では発生し得ない高密度の豪雨がこれから刻々と王国全土に広がってゆくのだよ」
そこまで話したところで執務室の扉がノックされた。「入れ」の声と同時に飛び込んで来た政務官らしき男は額から汗を流しながら王に報告した。
「住民の避難が始まりました。必要な物資を掻き集めて避難所に運んでいますが必要量に届きそうにもありません。河川の土嚢積みをする人手も不足して――」
「不足分の物資は避難を開始している商人から買い上げろ。ただし現金は渡すな。買い上げた物資はその商人に搬入させて搬入を確認した後に証書を渡せ。支払いは後日証書との引き換えだ。人手が足りないなら近衛騎士を使え、余が許す。見習い騎士にも動員をかけろ。急げ」
王の矢継ぎ早な指示を手早く書き留めた政務官は「直ちに!」と頭を下げて部屋を出て行った。
「わかるかパネー。これから起きる被害の総額は王都の分だけでもバーグマン侯爵家の全財産を使っても補填しきれないのは明白だ」
非情な現実を突きつけられて流石のパネーも反抗する気概が失せた。
これは王の思惑が絡んだ理不尽な罰ではない。
純粋に自分の娘が犯した罪に対する罰であり、バーグマン家は償える限度を超えた罪を犯してしまった。ただそれだけの話だ。
「我が家を取り潰したうえで娘を収監。……というところでしょうか」
目の光が弱くなって俯いたパネーに王はため息をついて首を横に振った。
「そのような事をして何になる。それで全てが丸く収まるのならそうするが、その程度で収まる規模じゃいだろう」
「では、どのような罰を? もしくは私に何をしろと?」
パネーの問いかけに王はいたずらっ子のような悪い顔をした。
「ぶっちゃけ、ちょっと卑怯な手を使おうと考えている」
「卑怯?」
「今回のことはみんな魔王がやった事にすればいい」
「……はい?」
話が飛び過ぎてパネーには理解できなかった。
「人類の敵、魔族どもの上に君臨する魔王。そいつがやった事にすれば人々は今まで以上に魔王を憎むだろう。しかし元から人類のヘイトを一身に集めている存在だから人類社会に大した変化は起きない」
「それはそうだけど」
「今回の件を魔王がやったことにすれば、これから発生する被害は天災に準ずる扱いにできる。そうなれば法律に定められている通り、被災者の救援は各領の領主が自己資金で負担することになる。バーグマン侯爵家の金庫だけでは賄いきれない金額でもみんなで分担すればなんとかなるだろうよ」
「え、いいの? そんなんで」
パネーが呆れ顔をしたので、王はニヤリと笑みを強くした。
「このやり方なら国内で最も力のある貴族が全王国民から敵視される事態にはならないし、国内不破の挙句に内乱という悲惨な未来も回避できる。より多くの人が幸せでいられるなら余は臣下や国民に嘘をつくことを躊躇わないよ」
「凄いわねフレデリク、いつの間にかちゃんと政治が出来るようになってたのね。見直したわ」
「おいおい、ぶっちゃけ今までの余はどれだけ評価が低かったんだ。あぁ、聞きたくないから言わなくていいぞ」
「じゃあ、デキる王様の策に乗って、ウチは『関係無し』の『お咎め無し』って事でいいのね?」
少しだけ媚びるように微笑むパネーに王は黒い微笑みを返す。
「そこまで余は甘くないよパネー。キミには災害復興が済んだ後、早急ににやってもらいたいことがある」
「真実を把握している王家に対してまとまった額の災害復興義援金を上納しろって事かしら?」
「それもあるが、もう一つ。『勇者』に魔王を討伐して来てもらいたい」
「はぁ!?」
「いずれ魔王と戦う運命にある託宣の勇者が魔王のところにカチコミをかけるのは何も不自然じゃないだろう」
「そうだけど、まだウチのイーノックは……」
「これも政治だよパネー。この件は魔王の戦略級魔法で被害を受けた事になっているのに、余が何の反撃をしないでいたら王政に対する不満や不信感が生じる。どんな形であれ余が魔王に一矢報いたという実績がいるんだよ、対外的にね。別に最強の大魔王をやってこいなんて言わない。魔族領の外周を守る方面魔王の一人を倒してくれればいい」
「でも、それは……」
返事を渋るパネーに王は少々イラついた顔で黒い笑顔を強めた。
「ん? じゃあ本当のことを公表するか? これからどれほどの国民が被災者になるか分からない状態で『お前たちの平穏な日常を奪ったのはバーグマン侯爵家だ』と告げるのか? 誰も幸せにならない未来しか見えないぞ、ぶっちゃけ」
「うっ……」
パネーは返事を躊躇ったが、口を閉ざして返事を待つ王に見据えられても反論できる材料は何も思い浮かばなかった。パネーは苦渋に満ちた顔で王の提案を受け入れた。
「……わかった。魔王討伐の提案を受けるわ」
「そんな辛そうな顔はよしてくれ。今回の件で一番の被害者のはキミじゃない」
「分かっているわ。国民こそ真の被害者よね」
「いいや、国民よりもずっと可哀想な奴がいるのを忘れちゃいけない」
「誰よそれ?」
「何もしていないのに完全なとばっちりで君の子供に命を狙われるハメになった魔王が一番の被害者だ」
高位貴族のために用意された小部屋に案内されてから、パネーは思いのほか長時間待たされた。
この部屋は位置的に高位貴族と王族の側仕えしか入れないエリアにあるはずなのに部屋の外が妙に騒がしい。
誰かが騒いでいるような騒音ではなくて、多くの人が足早に部屋の前の廊下を行き来する足音がやけに多いのだ。
待っている間にも外の天候は大きく崩れて窓を叩くように大粒の雨が跳ねている。
嵐が来るって予報はなかったはずだけれど……。
そんな事を考えながら外を眺めていたら、やがて顔見知りの侍従がパネーを呼びに来た。
パネーが通されたのは招待状の文句にあったような会席の場ではなく王の執務室だった。
どうやら誘い出すための建前を律儀に守る気はないらしい。
「久しいなパネー。新年を祝う慶賀式以来か」
四十代半ばの王は窓越しに空模様を見上げていて、眉間に刻まれた皺を深くしている。
「陛下におかれましては本日もご機嫌麗しゅう――」
「今の余のどこを見てご機嫌麗しいと思ったんだパネー」
「定型文の挨拶にツッコミを入れられても困りますわ陛下」
王は不機嫌な様子を隠そうともせずに荒く鼻息を吹いて髭を揺らすと、再び豪雨の空を見上げた。
「パネー。おまえの領地からアイアンリバーの鉱山と町を取り上げる」
「!」
心臓が止まるような錯覚を覚えてパネーは思わず胸を押さえた。
アイアンリバーの鉱山や麓の街から上がって来る税収は領地の経営になくてはならないものだ。この収入がなければ領民を魔獣の脅威から守る私兵騎士団の存続すらままならない。
「陛下、それはあまりに危険な罰ではないでしょうか」
大きすぎる罰は瞬時にパネーの反逆心に火をつけた。理不尽に頬を打たれたら反射的に拳で殴り返すのがパネーだ。
パネーが『それは危険な罰』と言った真意は「そんな事をされて私が黙っていると思うなよ。ウチをナメてんのか。王家打倒の反旗掲げるぞ、いいのか? おぉん?」という意味である。
一瞬で目の中に獰猛な炎を点したパネーに気付いて王はヒクリと顔を強張らせた。
「その目を止めろパネー。余の親族でそこまで露骨に攻撃的な目を向けてくるのはおまえだけだぞ。まったく……」
「フレデリクがふざけたことを言うからです」
「昔みたいにフレデリク言うな。人目がなくても陛下と呼べ。王に即位してもう二十年も経つんだぞ」
「はいはい。で、本当にウチからアイアンリバーを取り上げる気? たかだか海を焼いただけでしょう。王都で許可なく戦略級魔術を行使するのは厳罰を下されるってのは知っているけど、反逆の意思の無い幼女が個人で放った魔法よ。今後三年の上納金を倍にするからそれで手を打ちなさいよ」
「あれをパネーの娘が個人で悪意なくやったことだと理解している。私の影が一部始終を見ていて腰を抜かしたらしいがな」
「随分優秀な影を飼っているのね。全然気づかなかったわ」
「で、ぶっちゃけた話、余はこれを機に力をつけすぎているバーグマン侯爵家の力をザックリ削いでおうかと思ったんだが」
「やったら、全力でやり返す」
「……だからその反抗的な目と態度をどうにかしろ。これじゃあどっちが王かわからぬ」
「ウチも無駄なケンカはしたくないからさっきの条件で手を打ちなさいって。それで終わりにしましょ」
いつもならこれで王が口をひん曲げながらも「ったく、しょうがねぇなぁ」と折れることで決着となるパターンなのだけれど、今回は違った。
「悪いが此度ばかりはその程度の罰金で許すわけにはいかなくなった」
常とは明らかに違う王の様子にパネーは眉を寄せて訝しむ。
反応が通常とは異なるということは、通常とは異なる要因がその背後にあるということだ。
「何かあったの?」
パネーの問いかけに王は腕を上げて窓の外を指差した。
王の執務室は城の最上階に近い場所にあって、そこからだと城下の街並みが一望できるし、その向こうに広がる海も見える。
晴れの日であれば風光明媚な景色が広がる展望も、今は厚い雨雲が垂れこめてシャワーのように街を洗い流している陰鬱な風景が見えるばかりだ。
「凄い雨勢だろう? 今日はずっと晴れていたのに突然この豪雨だ。どうしてだと思う?」
「……?」
王が何を言わんとしているのかを計りかねてパネーは首を傾げた。
「『水の循環』を思い出せ。『蒸発した海の水は大気に溶けて雨雲になる』ってやつだ」
「蒸発した海の水…………あ!」
パネーはロッティの魔法で焼けた海の光景を思い出した。
「さっき被害の第一報が届いた。西の岬で崖崩れが発生して灯台が海中に沈んだらしい。民家が数件倒壊したとの報告もある。それ以上に深刻なのは今こうしている瞬間にも川の増水が続いている事だ。半日も経てば王都の半分は川から溢れた水に沈んで十数万人規模の避難民が出るだろう」
「そんな……」
パネーは今から起きるであろう災害の規模を予測して顔から血の気を引かせた。
「天に上った水は雨となって地に落ちるのが節理。そして雨雲に国境はなく気流に乗って広がり続け、おまえの娘が放った魔術の着弾点からは今もまだ大量の水蒸気が上がっているそうだ。自然では発生し得ない高密度の豪雨がこれから刻々と王国全土に広がってゆくのだよ」
そこまで話したところで執務室の扉がノックされた。「入れ」の声と同時に飛び込んで来た政務官らしき男は額から汗を流しながら王に報告した。
「住民の避難が始まりました。必要な物資を掻き集めて避難所に運んでいますが必要量に届きそうにもありません。河川の土嚢積みをする人手も不足して――」
「不足分の物資は避難を開始している商人から買い上げろ。ただし現金は渡すな。買い上げた物資はその商人に搬入させて搬入を確認した後に証書を渡せ。支払いは後日証書との引き換えだ。人手が足りないなら近衛騎士を使え、余が許す。見習い騎士にも動員をかけろ。急げ」
王の矢継ぎ早な指示を手早く書き留めた政務官は「直ちに!」と頭を下げて部屋を出て行った。
「わかるかパネー。これから起きる被害の総額は王都の分だけでもバーグマン侯爵家の全財産を使っても補填しきれないのは明白だ」
非情な現実を突きつけられて流石のパネーも反抗する気概が失せた。
これは王の思惑が絡んだ理不尽な罰ではない。
純粋に自分の娘が犯した罪に対する罰であり、バーグマン家は償える限度を超えた罪を犯してしまった。ただそれだけの話だ。
「我が家を取り潰したうえで娘を収監。……というところでしょうか」
目の光が弱くなって俯いたパネーに王はため息をついて首を横に振った。
「そのような事をして何になる。それで全てが丸く収まるのならそうするが、その程度で収まる規模じゃいだろう」
「では、どのような罰を? もしくは私に何をしろと?」
パネーの問いかけに王はいたずらっ子のような悪い顔をした。
「ぶっちゃけ、ちょっと卑怯な手を使おうと考えている」
「卑怯?」
「今回のことはみんな魔王がやった事にすればいい」
「……はい?」
話が飛び過ぎてパネーには理解できなかった。
「人類の敵、魔族どもの上に君臨する魔王。そいつがやった事にすれば人々は今まで以上に魔王を憎むだろう。しかし元から人類のヘイトを一身に集めている存在だから人類社会に大した変化は起きない」
「それはそうだけど」
「今回の件を魔王がやったことにすれば、これから発生する被害は天災に準ずる扱いにできる。そうなれば法律に定められている通り、被災者の救援は各領の領主が自己資金で負担することになる。バーグマン侯爵家の金庫だけでは賄いきれない金額でもみんなで分担すればなんとかなるだろうよ」
「え、いいの? そんなんで」
パネーが呆れ顔をしたので、王はニヤリと笑みを強くした。
「このやり方なら国内で最も力のある貴族が全王国民から敵視される事態にはならないし、国内不破の挙句に内乱という悲惨な未来も回避できる。より多くの人が幸せでいられるなら余は臣下や国民に嘘をつくことを躊躇わないよ」
「凄いわねフレデリク、いつの間にかちゃんと政治が出来るようになってたのね。見直したわ」
「おいおい、ぶっちゃけ今までの余はどれだけ評価が低かったんだ。あぁ、聞きたくないから言わなくていいぞ」
「じゃあ、デキる王様の策に乗って、ウチは『関係無し』の『お咎め無し』って事でいいのね?」
少しだけ媚びるように微笑むパネーに王は黒い微笑みを返す。
「そこまで余は甘くないよパネー。キミには災害復興が済んだ後、早急ににやってもらいたいことがある」
「真実を把握している王家に対してまとまった額の災害復興義援金を上納しろって事かしら?」
「それもあるが、もう一つ。『勇者』に魔王を討伐して来てもらいたい」
「はぁ!?」
「いずれ魔王と戦う運命にある託宣の勇者が魔王のところにカチコミをかけるのは何も不自然じゃないだろう」
「そうだけど、まだウチのイーノックは……」
「これも政治だよパネー。この件は魔王の戦略級魔法で被害を受けた事になっているのに、余が何の反撃をしないでいたら王政に対する不満や不信感が生じる。どんな形であれ余が魔王に一矢報いたという実績がいるんだよ、対外的にね。別に最強の大魔王をやってこいなんて言わない。魔族領の外周を守る方面魔王の一人を倒してくれればいい」
「でも、それは……」
返事を渋るパネーに王は少々イラついた顔で黒い笑顔を強めた。
「ん? じゃあ本当のことを公表するか? これからどれほどの国民が被災者になるか分からない状態で『お前たちの平穏な日常を奪ったのはバーグマン侯爵家だ』と告げるのか? 誰も幸せにならない未来しか見えないぞ、ぶっちゃけ」
「うっ……」
パネーは返事を躊躇ったが、口を閉ざして返事を待つ王に見据えられても反論できる材料は何も思い浮かばなかった。パネーは苦渋に満ちた顔で王の提案を受け入れた。
「……わかった。魔王討伐の提案を受けるわ」
「そんな辛そうな顔はよしてくれ。今回の件で一番の被害者のはキミじゃない」
「分かっているわ。国民こそ真の被害者よね」
「いいや、国民よりもずっと可哀想な奴がいるのを忘れちゃいけない」
「誰よそれ?」
「何もしていないのに完全なとばっちりで君の子供に命を狙われるハメになった魔王が一番の被害者だ」
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる