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I think you(何してるの?) 2
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最初は気のせいかと思ったけれど、胸の痛みは日が経つほどにひどくなった。
なぜ? どうして?
ラヴィは眉を寄せながらうんうんと考えて、ようやく気がついた。
「ああっ! ボクが山を下りたの、胸が痛いのをなんとかしてもらいたかったからなのに!?」
他に痛いところがいっぱいあったからそれどころじゃなかったし、ラチアと一緒にいる間は一度も空胸感を覚えなかったから、すっかり忘れていた。
「そうだ。今からまたラチアのところに行って……」
ラチアはイジワルだけれど頼めばそれくらいの事なんて簡単にしてくれると思う。
ラヴィは勢いよく立ち上がって――……すぐに耳をふにゃりと垂らして腰を落とした。
巣へ帰る日。ラチアが別れ際に言った言葉を思いだしたのだ。
「これに懲りたら、もう人里には下りてくるんじゃないぞ。もちろん俺の所にもだ。いいな?」
ラチアはしつこいくらいに、そう言って念を押した。
ラチアはおばあちゃんの最期の言葉を知らないはずなのにおばあちゃんと同じような事を言ったので、それが不思議で「どうして?」と訊いたら、ラチアは少し困ったような顔をした。
「ん……まぁ、アニオンが人間と一緒にいるのはあまり良い事じゃないからな」
「ボク、人間と一緒にいたらダメなの?」
「ダメってことはないがきっと辛い思いをすることになる。山の中で自由に暮らせるのなら、それがオマエにとって一番いい事なんだ」
「……ん?」
言っている言葉はわかるけれど、言っている内容がいまいち把握できなくて首を傾げると、ラチアは苦笑いをした。
「ま、ザックリとした言い方をすれば『あまり人間に懐くな』って事だ。意味なんて分からなくていい。そういうものなんだって覚えていてくれればオマエは幸せでいられる」
「ラチアに会うのもダメ?」
「あぁダメだ」
「もし、また来たら?」
「怒る」
「怒るの?」
「あぁ、怒る。こっぴどく怒る。だからもう二度と山を下りてくるんじゃないぞ」
「うん。わかった」
あのときはあまり深く考えないで返事したけれど、山に帰ってきて日が経つほどにまた会いたいって気持ちが強くなってきて……あんな返事するんじゃなかったって後悔した。
「ボクがまた山を下りたら、ラチア本当に怒っちゃうかな……でも、なでなでしてもらいたいなぁ……。痛いのやだよ……」
ラヴィは両手で頭を押さえながらうんうんと悩んでみた。
「『頭なでなでしてもらいたくて山を下りてきたんだ』って理由だけだと、ラチアは怒るかもしれない。もっと何かこう『なるほど、それならしかたがないな』ってラチアが納得するくらいのちゃんとした理由があれば……」
うんうんうんうんと考えて、考え続けて、はたと気がついた。
「そういえば、ボク怪我の治療してもらったのに『ありがとう』って言っただけで、まだお礼をしてない! そうだ、お礼をしに行こう。それならラチアはきっと納得するよね。それどころか『ちゃんとお礼ができるなんてラヴィは立派だな』って褒めてくれるかもしれない。うん、きっとそうだ。お礼の木の実をたくさん持っていってあげよう。ラチア、喜んでくれるよね」
夜が明けたらすぐラチアのところに行こう。心の中でそう予定を立てたラヴィは、足元に転がっていたリンゴを拾い上げてにこにことしながら頬張った。
この時にはもう胸の痛みを感じなくなっていたけれど、ラヴィはそれに気付いてなかった。
なぜ? どうして?
ラヴィは眉を寄せながらうんうんと考えて、ようやく気がついた。
「ああっ! ボクが山を下りたの、胸が痛いのをなんとかしてもらいたかったからなのに!?」
他に痛いところがいっぱいあったからそれどころじゃなかったし、ラチアと一緒にいる間は一度も空胸感を覚えなかったから、すっかり忘れていた。
「そうだ。今からまたラチアのところに行って……」
ラチアはイジワルだけれど頼めばそれくらいの事なんて簡単にしてくれると思う。
ラヴィは勢いよく立ち上がって――……すぐに耳をふにゃりと垂らして腰を落とした。
巣へ帰る日。ラチアが別れ際に言った言葉を思いだしたのだ。
「これに懲りたら、もう人里には下りてくるんじゃないぞ。もちろん俺の所にもだ。いいな?」
ラチアはしつこいくらいに、そう言って念を押した。
ラチアはおばあちゃんの最期の言葉を知らないはずなのにおばあちゃんと同じような事を言ったので、それが不思議で「どうして?」と訊いたら、ラチアは少し困ったような顔をした。
「ん……まぁ、アニオンが人間と一緒にいるのはあまり良い事じゃないからな」
「ボク、人間と一緒にいたらダメなの?」
「ダメってことはないがきっと辛い思いをすることになる。山の中で自由に暮らせるのなら、それがオマエにとって一番いい事なんだ」
「……ん?」
言っている言葉はわかるけれど、言っている内容がいまいち把握できなくて首を傾げると、ラチアは苦笑いをした。
「ま、ザックリとした言い方をすれば『あまり人間に懐くな』って事だ。意味なんて分からなくていい。そういうものなんだって覚えていてくれればオマエは幸せでいられる」
「ラチアに会うのもダメ?」
「あぁダメだ」
「もし、また来たら?」
「怒る」
「怒るの?」
「あぁ、怒る。こっぴどく怒る。だからもう二度と山を下りてくるんじゃないぞ」
「うん。わかった」
あのときはあまり深く考えないで返事したけれど、山に帰ってきて日が経つほどにまた会いたいって気持ちが強くなってきて……あんな返事するんじゃなかったって後悔した。
「ボクがまた山を下りたら、ラチア本当に怒っちゃうかな……でも、なでなでしてもらいたいなぁ……。痛いのやだよ……」
ラヴィは両手で頭を押さえながらうんうんと悩んでみた。
「『頭なでなでしてもらいたくて山を下りてきたんだ』って理由だけだと、ラチアは怒るかもしれない。もっと何かこう『なるほど、それならしかたがないな』ってラチアが納得するくらいのちゃんとした理由があれば……」
うんうんうんうんと考えて、考え続けて、はたと気がついた。
「そういえば、ボク怪我の治療してもらったのに『ありがとう』って言っただけで、まだお礼をしてない! そうだ、お礼をしに行こう。それならラチアはきっと納得するよね。それどころか『ちゃんとお礼ができるなんてラヴィは立派だな』って褒めてくれるかもしれない。うん、きっとそうだ。お礼の木の実をたくさん持っていってあげよう。ラチア、喜んでくれるよね」
夜が明けたらすぐラチアのところに行こう。心の中でそう予定を立てたラヴィは、足元に転がっていたリンゴを拾い上げてにこにことしながら頬張った。
この時にはもう胸の痛みを感じなくなっていたけれど、ラヴィはそれに気付いてなかった。
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