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外伝:アレクシス
あいしてるの罪 ep3 *
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「今宵、禰宜を拝命いたしました。お側によってもよろしいでしょうか」
アレクシスにとって二度目の発情がきた。
発情がくるまでの五ヶ月、何度神官や宮司から諌められても、アレクシスは誰とも縁を結ぶことは無かった。仕方なく再び宮司が夢見で占った相手に神託が出された。
「お前は、死ぬのは怖くないのか」
アレクシスは跪いた禰宜の前に立つと懐剣を抜いて見せた。
翡翠の君が禰宜を殺めた話なら、王都のαで知らぬ者はいないだろう。
「死が怖くないと言えば嘘になります。けれど貴方様がお望みなら、私はその運命を甘んじて受けましょう」
禰宜の男は淀みなく言って、アレクシスに微笑んだ。均整のとれた肉体に、礼節をもった柔らかな物腰。長い栗色の髪には手入れが行き届き、明るい鳶色の瞳が良く映えた。おおかた貴族の子息、王宮の近衛か何かだろう。
「お前も神の運命を信じる狂信者か」
吐き捨てるようにアレクシスが断ずる。
「いいえ。私は貴方様に奉仕する禰宜。死に殉じる事が貴方様をお救いするなら……ただそれに従うまで」
ゆったりと謳うような声音で彼は言う。
「俺を、救う、と」
アレクシスは笑った。何も知らないくせに。αのお前が、俺を救えるものか。
「救えるものなら、救ってみろ……!」
アレクシスが押し殺した激情を声にすると、禰宜の男は微笑みを崩さず立ち上がって。抜き身の懐剣をもつアレクシスの手を取った。
「ここを掻き切るだけです。それで、私の生命は貴方様のものになる」
アレクシスの傍らに膝をついて、彼は刃をそっと首筋の動脈に当てた。
「……!」
その眼差しはどこまでも真摯で。狂気に近い。
「さぁ、私をお召しください。それであなたの心が慰められるなら」
握られた手が離される。
ほんの少し、自分の腕を引いて刃を肌に食い込ませれば。動脈が破れ、血が噴き出して。それで終わりだった。
アレクシスは彼が首から血を流して、床に伏し、絶命していく様をまざまざと想像する。それは最初の神事で、禰宜の男を刺した場面を思い起こさせた。激情のまま振るった剣が、ずぶりと相手の肉を割いて、生暖かい血が流れおち、床に染みを作っていく様。
慄きが心の内を巡る。
けれど例え彼を、否、全ての禰宜を屠ったとして。
発情は止められない。
あの耐えがたい欲情の苦しみから、逃れることはできない。
そんなことなど、もう分かっていた。
「……いらない。お前なんか、」
絶望の中にアレクシスはただ立っていた。
欲しい物は何ひとつ手にはいらず。
いらないものばかりがやってくる。
「何も、いらない……」
アレクシスの手から滑り落ちた懐剣が、床に当たって甲高い音を立てる。
発情した身体は熱くて。
近づいたαの香りが、ひどく扇情的で。
こんな身体などいらなかった。
「Ωになんか、生まれたく無かった」
口にすると、涙が零れた。
「神巫さま」
禰宜の男が、呆然と涙を零すアレクシスをそっと抱きしめた。逞しい体躯に身体をすっぽりと抱き込まれると、もう抵抗する気は起きなかった。アレクシスは無防備に身体の力を抜くと小さく囁いた。
「もういい。……お前の好きにしろ」
「御意」
男に抱え上げられると、寝台の上に組み伏せられる。シーツに横たわる肢体はか細く、肌は抜けるように白くて、長い黒髪が良く映えた。
「こんなにも美しいのに」
男が感嘆すると、アレクシスは顔を背けて目をぎゅっと閉じた。
「さっさと済ませろ」
「承知。……けれどあなたを傷つけたくはない」
コレが入るのですよ、と男は自身の昂りをアレクシスの手に触れさせた。
「……むりだ」
こんなの、入るわけない。
自分のそれよりも、ユーゴのそれよりも、もっと大きい質量に、アレクシスは思わず目を見開いた。
「大丈夫……ゆっくり慣らして差し上げますから」
男はもう退かなかった。アレクシスの身体にのしかかり、その祭服を乱して肌をたどり、柔らかくて敏感な場所に触れる。
「ぁ、」
押し殺した喉からか細く声が漏れる。どれだけ心が拒否しても、発情した身体は触れられれば簡単に欲情した。
「……ん、っ」
熱が内側から溢れて、雫になってこぼれ落ちる。男の指先が濡れた先端に触れて、びくりと腰が揺れる。
「ゃだ、」
「大丈夫。好きな人のことでも考えて」
甘やかに耳元で囁かれる。
好きな人。
そんなの決まってた。この男とは似ても似つかない。最愛の人。
「ん……、ルー……」
呼ぶと、もう止まらなかった。
ぞくりと欲情が身体の奥で芽吹いて、指先までピンと感覚が張り詰める。
「その人はどんな風に触るの」
「知らない……、」
ウソだった。あの長い指先がどんなふうに巫女を、神巫を抱くのか、もう知っていた。年頃のαの嗜みとして神殿に通うようになったルシアンを、何度もこっそりと遠見で覗いた。
あの身体に組み敷かれるのが自分であったならと、何度も想像して自分を慰めた。
決して手に入らないものを欲して。
何もかもを呪って、ただ隣に居続けたくて。
――けれどもう、全て無くした。
「これは好き?」
雫を溢れさせている先端の窪みに指先が触れる。溢れ出すものをせき止める様に塞がれるともどかしくて。身をよじれば軽く爪を立てられる。
「……っあ」
小さな痛みが、心地よかった。
「もっと? 痛いのが好き?」
問いかけを無視して目をつぶる。
「これは?」
男の手がアレクシスの胸の尖りを捉えた。ぎゅっとつままれて。
「ひ、ぁ」
びりり、と走る快感を、アレクシスは背筋を反らしてやり過ごす。
「いいね。もう少しいじめてあげようか」
「……っぁ、ゃ、……っあ」
ぐにぐにと容赦無くせめられると、身体の奥が濡れてくる。その感覚を振り払うようにアレクシスは唇をかんだ。
「もっと酷くされたい?」
いやだ、とは言わなかった。最初の発情期も、どれだけ抗っても最後にはαに良いように虐げられて。けれど――それが快感だった。嬲られて甘く啼く自分に、絶望して。
その絶望がまた、快楽を引き寄せた。
「……して」
短く言えば、衣服を剥かれて足を開かれる。男はされるがままのアレクシスの腰を持ち上げると、脚を頭上に跳ね上げるようにしてアレクシスの身体を折り曲げた。
「ぅ」
不自然な格好に呻くアレクシスをよそに、男は掲げられた秘部を押し開く。
「うん、良い感じに濡れてるね」
指先が濡れた窄まりをなぞって、中に入り込む。
くぱりと開かれて空気に触れた内側に、舌先が入り込んでくる。
「ぁ、……ぁん」
舐められると気持ちよくて。アレクシスはもう声を抑えることを諦めた。
「あ、……そこ、やだ」
「ここね」
言った口が、執拗にしゃぶりついてくる。ビクンと、腰が跳ねて。張り詰めた前からダラダラと情欲の滴りが溢れて身体にかかる。
「もう少し、かな」
舌先が離れると、今度は指が沈み込んでくる。一本。二本。三本目が入り込むとキツくて、アレクシスは息を吐いた。
「……っ! いたい」
声に出すと「狭いね」と笑みを含んだような声が返る。
「力を抜いて」
指先でくぷくぷと中を押し開かれる。ぐいっと拡げられると、はち切れそうな感覚があった。怖くて。でも気持ちよくて。嫌悪感と絶望を押し流すように欲望が溢れて、身体が感情を乗っ取っていく。
「こわい」
うわ言のようにアレクシスが声を出すと、なだめるように口づけが与えられる。その間も指先はゆっくりと中を拓いていく。期待に濡れてびしょびしょになった秘所はもうアレクシスの言うことなど聞かず、はくはくと指先を美味しそうに飲み込んでいる。
「どうかな……試してみようか」
そう言った男が指先を引き抜いた。
「最初だけ、我慢して」
言われて見やれば、怒張した先端はさっきより質量を増していた。
無理だ、とアレクシスは身体を強張らせた。濡れた先が後腔に触れて。上から、押し込まれる。
「……!!っア」
「もう少しだよ」
グッと、体重がかかって。
押しつぶされる。
「ぃ、……っ!」
声にならない悲鳴を漏らして、ギチギチに開かれたアレクシスの身体は震えた。
「は、やっぱり、狭いな……」
溜息のような声で男が言う。
「でも切れたりしてない。上手く飲み込めて、えらいね」
怒張に開ききったフチを男の指先が確認するようになぞった。その僅かな振動だけで、もう喘ぐように息を吐くしかない。
「むり、……抜いて」
「まだ動かさないほうが良い」
男はそういうと、手を伸ばしてアレクシスの男芯を撫でた。
「こっちで一回イこうか」
事も無げにいって、男は緊張に張りを失った先をぐりぐりとなぶった。
「やだ、止めて……っは」
弱々しく抵抗したアレクシスを無視して、指先が動くたび、男芯は硬さを取り戻していく。
「あ、……っん」
こんな状況になっても快楽を諦めない身体に、アレクシスは呆れて。いっそ可笑しくなって。
笑った。
どこまでいっても発情したΩというのは、まるで欲望に支配された獣のようだと。
「気持ち良くなってきた?」
「うん、……いい」
考えることを放棄して、与えられる刺激に溺れるように身を任せる。
天罰だと思った。
Ωなのに、出仕を拒んだりするから。
兄弟なのに、ルシアンを好きになったりするから。
だから、もう、何をされても仕方が無かった。
「は、っ……!」
指先で擦られて、駆け上がるように絶頂へと追い詰められ、男芯から精を零す。ぼとぼとと体に降りかかった白濁が生暖かくて気持ち悪い。
はぁはぁと荒い息を吐くと、身体は弛緩して。
「いくよ」
ゆっくりと腰を引かれた。
「ン………!」
内側を圧倒的な質量が擦っていく。苦しくて。でも気持ちよくて。
「しんじゃう」
口にすると、涙がこぼれた。
「大丈夫、よく馴染んでる。いい子だね」
慰めるような言葉で、でも全然悪びれずに男は言う。「ゆっくりするから」
ぐ、と押し込まれて。
「ひ、」
アレクシスは息をのんだ。
「あ、っん、あ」
ゆっくりと押し進められるたびに声が漏れる。
「そう、上手。いいよ……気持ちいい」
「あ、……っあ、っあ」
奥まで、深く埋められる。もう、はくはくと息をつなぐだけで精一杯だった。
「あと少し、入るかな」
男の声に視線を向けると、あとほんの少し、根本までには達していないことが見て取れる。
「むり、」
いったアレクシスを諭すように、男はその髪を優しくなでる。
「……男のΩの奥にはね、少しだけ狭い場所があるんだ。その奥にΩの子宮が隠れてる。ちょうど、ココかな」
ノックするように奥を突かれる。その場所は狭くて、苦しくて。けれどじわりと身体の奥が期待するように震えるのがわかった。
どこまでもあさましくて、貪欲な、Ωの身体。
その本能が、欲しいとねだっている。
「……いれて」
捨て鉢な気分でアレクシスが囁くと、男は嬉しそうに笑った。
「いいね。とても良い。その表情、とっても素敵だよ……」
ぐっ、と体重がのしかかってくる。
「アッ、……あっ、……っ!」
最奥の窄まりを押し開かれる。身体がバラバラになりそうで。ならいっそ壊れてしまえばいいとアレクシスは思った。
「……あぁ!」
貫かれて、ぐしゃぐしゃに抱かれて、奥に熱を吐き出される。
目が覚めるとひとりで。
抱き潰された身体はボロボロで。
発情は治まっていた。
それから。
アレクシスは自分が、受胎したのだと悟った。
アレクシスにとって二度目の発情がきた。
発情がくるまでの五ヶ月、何度神官や宮司から諌められても、アレクシスは誰とも縁を結ぶことは無かった。仕方なく再び宮司が夢見で占った相手に神託が出された。
「お前は、死ぬのは怖くないのか」
アレクシスは跪いた禰宜の前に立つと懐剣を抜いて見せた。
翡翠の君が禰宜を殺めた話なら、王都のαで知らぬ者はいないだろう。
「死が怖くないと言えば嘘になります。けれど貴方様がお望みなら、私はその運命を甘んじて受けましょう」
禰宜の男は淀みなく言って、アレクシスに微笑んだ。均整のとれた肉体に、礼節をもった柔らかな物腰。長い栗色の髪には手入れが行き届き、明るい鳶色の瞳が良く映えた。おおかた貴族の子息、王宮の近衛か何かだろう。
「お前も神の運命を信じる狂信者か」
吐き捨てるようにアレクシスが断ずる。
「いいえ。私は貴方様に奉仕する禰宜。死に殉じる事が貴方様をお救いするなら……ただそれに従うまで」
ゆったりと謳うような声音で彼は言う。
「俺を、救う、と」
アレクシスは笑った。何も知らないくせに。αのお前が、俺を救えるものか。
「救えるものなら、救ってみろ……!」
アレクシスが押し殺した激情を声にすると、禰宜の男は微笑みを崩さず立ち上がって。抜き身の懐剣をもつアレクシスの手を取った。
「ここを掻き切るだけです。それで、私の生命は貴方様のものになる」
アレクシスの傍らに膝をついて、彼は刃をそっと首筋の動脈に当てた。
「……!」
その眼差しはどこまでも真摯で。狂気に近い。
「さぁ、私をお召しください。それであなたの心が慰められるなら」
握られた手が離される。
ほんの少し、自分の腕を引いて刃を肌に食い込ませれば。動脈が破れ、血が噴き出して。それで終わりだった。
アレクシスは彼が首から血を流して、床に伏し、絶命していく様をまざまざと想像する。それは最初の神事で、禰宜の男を刺した場面を思い起こさせた。激情のまま振るった剣が、ずぶりと相手の肉を割いて、生暖かい血が流れおち、床に染みを作っていく様。
慄きが心の内を巡る。
けれど例え彼を、否、全ての禰宜を屠ったとして。
発情は止められない。
あの耐えがたい欲情の苦しみから、逃れることはできない。
そんなことなど、もう分かっていた。
「……いらない。お前なんか、」
絶望の中にアレクシスはただ立っていた。
欲しい物は何ひとつ手にはいらず。
いらないものばかりがやってくる。
「何も、いらない……」
アレクシスの手から滑り落ちた懐剣が、床に当たって甲高い音を立てる。
発情した身体は熱くて。
近づいたαの香りが、ひどく扇情的で。
こんな身体などいらなかった。
「Ωになんか、生まれたく無かった」
口にすると、涙が零れた。
「神巫さま」
禰宜の男が、呆然と涙を零すアレクシスをそっと抱きしめた。逞しい体躯に身体をすっぽりと抱き込まれると、もう抵抗する気は起きなかった。アレクシスは無防備に身体の力を抜くと小さく囁いた。
「もういい。……お前の好きにしろ」
「御意」
男に抱え上げられると、寝台の上に組み伏せられる。シーツに横たわる肢体はか細く、肌は抜けるように白くて、長い黒髪が良く映えた。
「こんなにも美しいのに」
男が感嘆すると、アレクシスは顔を背けて目をぎゅっと閉じた。
「さっさと済ませろ」
「承知。……けれどあなたを傷つけたくはない」
コレが入るのですよ、と男は自身の昂りをアレクシスの手に触れさせた。
「……むりだ」
こんなの、入るわけない。
自分のそれよりも、ユーゴのそれよりも、もっと大きい質量に、アレクシスは思わず目を見開いた。
「大丈夫……ゆっくり慣らして差し上げますから」
男はもう退かなかった。アレクシスの身体にのしかかり、その祭服を乱して肌をたどり、柔らかくて敏感な場所に触れる。
「ぁ、」
押し殺した喉からか細く声が漏れる。どれだけ心が拒否しても、発情した身体は触れられれば簡単に欲情した。
「……ん、っ」
熱が内側から溢れて、雫になってこぼれ落ちる。男の指先が濡れた先端に触れて、びくりと腰が揺れる。
「ゃだ、」
「大丈夫。好きな人のことでも考えて」
甘やかに耳元で囁かれる。
好きな人。
そんなの決まってた。この男とは似ても似つかない。最愛の人。
「ん……、ルー……」
呼ぶと、もう止まらなかった。
ぞくりと欲情が身体の奥で芽吹いて、指先までピンと感覚が張り詰める。
「その人はどんな風に触るの」
「知らない……、」
ウソだった。あの長い指先がどんなふうに巫女を、神巫を抱くのか、もう知っていた。年頃のαの嗜みとして神殿に通うようになったルシアンを、何度もこっそりと遠見で覗いた。
あの身体に組み敷かれるのが自分であったならと、何度も想像して自分を慰めた。
決して手に入らないものを欲して。
何もかもを呪って、ただ隣に居続けたくて。
――けれどもう、全て無くした。
「これは好き?」
雫を溢れさせている先端の窪みに指先が触れる。溢れ出すものをせき止める様に塞がれるともどかしくて。身をよじれば軽く爪を立てられる。
「……っあ」
小さな痛みが、心地よかった。
「もっと? 痛いのが好き?」
問いかけを無視して目をつぶる。
「これは?」
男の手がアレクシスの胸の尖りを捉えた。ぎゅっとつままれて。
「ひ、ぁ」
びりり、と走る快感を、アレクシスは背筋を反らしてやり過ごす。
「いいね。もう少しいじめてあげようか」
「……っぁ、ゃ、……っあ」
ぐにぐにと容赦無くせめられると、身体の奥が濡れてくる。その感覚を振り払うようにアレクシスは唇をかんだ。
「もっと酷くされたい?」
いやだ、とは言わなかった。最初の発情期も、どれだけ抗っても最後にはαに良いように虐げられて。けれど――それが快感だった。嬲られて甘く啼く自分に、絶望して。
その絶望がまた、快楽を引き寄せた。
「……して」
短く言えば、衣服を剥かれて足を開かれる。男はされるがままのアレクシスの腰を持ち上げると、脚を頭上に跳ね上げるようにしてアレクシスの身体を折り曲げた。
「ぅ」
不自然な格好に呻くアレクシスをよそに、男は掲げられた秘部を押し開く。
「うん、良い感じに濡れてるね」
指先が濡れた窄まりをなぞって、中に入り込む。
くぱりと開かれて空気に触れた内側に、舌先が入り込んでくる。
「ぁ、……ぁん」
舐められると気持ちよくて。アレクシスはもう声を抑えることを諦めた。
「あ、……そこ、やだ」
「ここね」
言った口が、執拗にしゃぶりついてくる。ビクンと、腰が跳ねて。張り詰めた前からダラダラと情欲の滴りが溢れて身体にかかる。
「もう少し、かな」
舌先が離れると、今度は指が沈み込んでくる。一本。二本。三本目が入り込むとキツくて、アレクシスは息を吐いた。
「……っ! いたい」
声に出すと「狭いね」と笑みを含んだような声が返る。
「力を抜いて」
指先でくぷくぷと中を押し開かれる。ぐいっと拡げられると、はち切れそうな感覚があった。怖くて。でも気持ちよくて。嫌悪感と絶望を押し流すように欲望が溢れて、身体が感情を乗っ取っていく。
「こわい」
うわ言のようにアレクシスが声を出すと、なだめるように口づけが与えられる。その間も指先はゆっくりと中を拓いていく。期待に濡れてびしょびしょになった秘所はもうアレクシスの言うことなど聞かず、はくはくと指先を美味しそうに飲み込んでいる。
「どうかな……試してみようか」
そう言った男が指先を引き抜いた。
「最初だけ、我慢して」
言われて見やれば、怒張した先端はさっきより質量を増していた。
無理だ、とアレクシスは身体を強張らせた。濡れた先が後腔に触れて。上から、押し込まれる。
「……!!っア」
「もう少しだよ」
グッと、体重がかかって。
押しつぶされる。
「ぃ、……っ!」
声にならない悲鳴を漏らして、ギチギチに開かれたアレクシスの身体は震えた。
「は、やっぱり、狭いな……」
溜息のような声で男が言う。
「でも切れたりしてない。上手く飲み込めて、えらいね」
怒張に開ききったフチを男の指先が確認するようになぞった。その僅かな振動だけで、もう喘ぐように息を吐くしかない。
「むり、……抜いて」
「まだ動かさないほうが良い」
男はそういうと、手を伸ばしてアレクシスの男芯を撫でた。
「こっちで一回イこうか」
事も無げにいって、男は緊張に張りを失った先をぐりぐりとなぶった。
「やだ、止めて……っは」
弱々しく抵抗したアレクシスを無視して、指先が動くたび、男芯は硬さを取り戻していく。
「あ、……っん」
こんな状況になっても快楽を諦めない身体に、アレクシスは呆れて。いっそ可笑しくなって。
笑った。
どこまでいっても発情したΩというのは、まるで欲望に支配された獣のようだと。
「気持ち良くなってきた?」
「うん、……いい」
考えることを放棄して、与えられる刺激に溺れるように身を任せる。
天罰だと思った。
Ωなのに、出仕を拒んだりするから。
兄弟なのに、ルシアンを好きになったりするから。
だから、もう、何をされても仕方が無かった。
「は、っ……!」
指先で擦られて、駆け上がるように絶頂へと追い詰められ、男芯から精を零す。ぼとぼとと体に降りかかった白濁が生暖かくて気持ち悪い。
はぁはぁと荒い息を吐くと、身体は弛緩して。
「いくよ」
ゆっくりと腰を引かれた。
「ン………!」
内側を圧倒的な質量が擦っていく。苦しくて。でも気持ちよくて。
「しんじゃう」
口にすると、涙がこぼれた。
「大丈夫、よく馴染んでる。いい子だね」
慰めるような言葉で、でも全然悪びれずに男は言う。「ゆっくりするから」
ぐ、と押し込まれて。
「ひ、」
アレクシスは息をのんだ。
「あ、っん、あ」
ゆっくりと押し進められるたびに声が漏れる。
「そう、上手。いいよ……気持ちいい」
「あ、……っあ、っあ」
奥まで、深く埋められる。もう、はくはくと息をつなぐだけで精一杯だった。
「あと少し、入るかな」
男の声に視線を向けると、あとほんの少し、根本までには達していないことが見て取れる。
「むり、」
いったアレクシスを諭すように、男はその髪を優しくなでる。
「……男のΩの奥にはね、少しだけ狭い場所があるんだ。その奥にΩの子宮が隠れてる。ちょうど、ココかな」
ノックするように奥を突かれる。その場所は狭くて、苦しくて。けれどじわりと身体の奥が期待するように震えるのがわかった。
どこまでもあさましくて、貪欲な、Ωの身体。
その本能が、欲しいとねだっている。
「……いれて」
捨て鉢な気分でアレクシスが囁くと、男は嬉しそうに笑った。
「いいね。とても良い。その表情、とっても素敵だよ……」
ぐっ、と体重がのしかかってくる。
「アッ、……あっ、……っ!」
最奥の窄まりを押し開かれる。身体がバラバラになりそうで。ならいっそ壊れてしまえばいいとアレクシスは思った。
「……あぁ!」
貫かれて、ぐしゃぐしゃに抱かれて、奥に熱を吐き出される。
目が覚めるとひとりで。
抱き潰された身体はボロボロで。
発情は治まっていた。
それから。
アレクシスは自分が、受胎したのだと悟った。
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白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
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彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
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