Ωの国

うめ紫しらす

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番外編

Wedding Rhapsody ep.3

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 慌ただしく時間は進む。
 式を挙げれば、俺は大神殿を出て行く。それはつまり、宮司副官の任を降りるということで。
 それまでにやりきりたい仕事にかかりきりになっていると、見かねたリファとハクロに、お肌の手入れや髪の美容に連れて行かれる。
 衣装の仮縫いや輿の調整など、俺の立ち合いが欠かせないものもあり、スケジュールは過密になっていった。ルシアンも多忙なのか、茶会の頻度も減り、事務的な手紙だけが私室に送り届けられた。
 忙殺される中で、何としてでも式を成功させたい自分と、その使命を受けて舞台の中心に立たなければならない自分が、互いにプレッシャーをかけて。
 日に日に気持ちに余裕がなくなっていった。

 自分に務まるのか、という疑念は消えなくて。
 でも走り始めてしまった以上は完遂したくて。
 胃が痛くて、眠れなくて、食欲もなくて。
 本当に倒れてしまうんじゃないかと、気が気でなかった。


「お綺麗です…!」
 式の四日前。最後の衣装合わせの場で、担当してくれた神官は感嘆するようにそう言った。
 鏡の中の自分は、確かにまるでいつもの自分とは違って見える。
「すごい。イメージ通り! 柘榴様、すてき」
「よくお似合いです。本当に」
 信頼のおけるリファとハクロに手放しで褒められると、嬉しくて。
「ありがとう。二人のおかげだよ」
 そう言うと、抱えていた不安の何割かが消え去っていく。

 ほっとしたら、気が抜けて。

 しゃがみ込むと、もう立ち上がれなかった。ああ、せっかくの衣装が、シワになる……。
「ちょっと、柘榴様?」
 慌てたリファの声に、倒れ込む身体を抱きとめられる感覚。
「ごめん、眠くて」
 と呟いた口は声にならなくて。
 心配かけちゃうな……と思いながら意識を手放した。


 目が覚めると、宮の私室だった。
 あたりは静まり返り、夜の気配がする。
 慌てて起き上がって。
「ルー、おいで」
 小箱の中からルーの待つ指輪を取り出した。予定外に外したままだと、心配をかけるに違いない。
「ごめん、ルシアン。ちょっと遅れた」
 言うと、ルーが飛び出してくる。くるりと宙で輪を描けば、音もなくルシアンが現れた。
「倒れたと、聞きました。リファさんがルーにも聞こえるように部屋の中で話してくれたので」
 そっと言ったルシアンの腕の中に抱き込まれる。それだけで、すごく安心する。やっぱり、番と離れている、ということも、ストレスになっていたんだろう。
「すいません。私がもっと分担すればよかった」
「いや、大丈夫……って言っても説得力ないけど。忙しさって言うより、プレッシャーに負けたっていうか……ここんとこ、上手く寝れてなくて」

 思ったままに口にして言うと、安心したのか思いがけず涙がにじんだ。よほど気を張っていたんだろう。
「本当ですか? ……もう少し聞かせてください」
 誘われて、寝台に並んで腰掛ける。自分の中でも整理がついてるわけじゃなくて。うまく説明できる言葉をさがす。
「よく分からないけど……。こんな風に、話題の中心になるのが、自分でいいのか、ちゃんと納得できてなくて。
 今日、リファとハクロに衣装を見てもらって、褒めてもらえて。なんとか大丈夫そうだって思ったら……気が抜けて。
 ずっと、怖かったんだと思う。自分で良いのか。ちゃんと務まるのかって……まだ、全然自信はないけど」
 自分でやると言った手前、弱気な態度を見せることはできないと自縛して。結局は、自分を追い詰めてしまったんだろう。
「……すいません。私が話を大きくしたせいで」
 謝ってくれるルシアンに「いや、俺もやるべきって思ったから」と返す。
「あのさ……。ちょっと、まだ眠いから……側にいてくれる?」
 話せて安心したのか、番の気配に甘えているのか。さっきまで眠っていたはずなのに身体が眠気に引きずられていく。
「ええ。大丈夫、あとはゆっくり休んでください」
 言われて、肩を抱き寄せられて。
 触れ合った感覚に目を閉じると、まっすぐに眠りに落ちていく。その感覚はとても心地よくて。
 この香りの中でぐっすり眠って目が覚めたら、きっともう大丈夫だって。そんな風に闇雲に信じられるのだから――本当にΩにとって『番』というのは、良くも悪くも唯一無二の相手なのだと、実感した。
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