Ωの国

うめ紫しらす

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第三部

秘密の園 *

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「ッあ、まって、そ、こ」
 後ろから入ってきた男芯がぐっと奥に突き当たる。背をしならせて貫かれると、気持ちよくて。アァとため息のように声が漏れる。
「ん、ここか?」
「ん、そこ、んん、ぁ」
 手を取られて、手綱のように引かれ、ぐっと奥に突き立てられる。そのまま揺さぶられると、一番奥の狭い場所に切っ先が潜り込んでくる。

「やだ、奥、やだ……っ」
 言うと、「好きなくせに」と意地悪に囁かれて、離してもらえない。揺さぶられて、そのまま奥の狭い場所を拓かれると、こじ開けられた悦びに体がびぃんと震える。
「ん~~! あ、っあ、だめ」
 ちゅぽっと濡れた音を立てて打ちつけられ、追い立てられるように中を乱されると、背中が震える。達する時の快感が走り抜けて、「ぁあ」とだらしなく声が溢れた。

「……っ! ……ほんと。奥が好きだな」
 呆れるように言って、ガルシアは達した男芯を引き抜いた。とろりと、吐き出された精がこぼれ出て内股を伝う。
「……あんまり深く、攻めないで」
 カラカラになった喉で抗議すると、「やだね」とすげもなく答えが返る。

「せっかくの禰宜だ、役得は愉しませてもらうさ。……ほら、水」
「ん」
 杯を受け取って喉を潤す。
 ガルシアは自分の杯を空けると、うーんと伸びをしてから寝台に上がってくる。
 ぴたりと俺を抱き込むように体を寄せて。そっと耳元に囁いた。

「おかげさまで、売れ行きは好調だ。全ての宮で流行ってるぞ」
「そう、良かった。神官長は?」
「問題ない。まだ何が起こってるのか、……分かっちゃいないさ」
「……ありがとう」
 小さく言って、サービスとばかりに頬に口付けると、「まいどあり」と満更でもなさそうに笑う。

「しかし、嬢ちゃん、いい商売人になれるぞ。どうだ、俺のとこに嫁いで店をやるのは」
 本気なのか冗談なのか分からない口調でガルシアは言って、俺を腕の中に抱き込む。
「だめだよ。もう売約済みなんだ」
 耳元で囁いて断ると、ちぇっと拗ねたような声を立てて、ガルシアは笑った。
「あーあ。勿体ねえなあ。あれか、例の王子様か」
「秘密」
 ふふふ、と笑うと頭をぐりぐりと押しつけられる。

「嬢ちゃんが、まさかこんなタマになるとはな。まぁ、おかげでメシの種には困らねーが。それで……いったい何を企んでるんだか」
 探るような視線で俺の目を覗き込んで。ニコリと笑って見せると、呆れたように溜息をついた。
「俺とガルシアのだろ」
 挑発するように言って脚を絡ませて甘えて見せると、やれやれ、と分厚い手のひらで撫であげられる。発情した肌を撫でられるのは心地よくて、うっとりとした気持ちが心を満たした。
「まだ足りないのか」
「……うん」
 誘うと、しょうがねぇな、と指先が触れ方を変える。
「ぁ、っ……ん」
 香りが合う相手とは体の相性がいい、と言うのは本当のようで。ガルシアとの褥は発情の熱を解消するには効率が良い、と感じていた。純粋に快感を追い求めて、身体を使う、ただそれだけの遊戯のような気楽さがあって、妙に思い悩むこともない。

「なあ、どこからあんなモノ見つけて来た……? この俺が知る限り、近隣諸国にもあそこまで効果があるモノは見たことがない」
「ぁ。……それは、言わない約束だろ。
 ……んっ。
 詮索するなら、もうネタはやらない。禰宜にも呼ばない」
 ぴしゃりと言うと、ガルシアは降参したように手を上げてみせる。
 最初に提案された通り、ギブアンドテイクの間からで通せていることも、この関係の気安さにはきっと、必要不可欠だった。


 モノとは、Ω用の避妊薬だった。


 一年前、もう少し使い勝手のいいものを、といったルシアンが俺のむけた避妊の印を作り上げるまで、半年ほど時間が必要だった。物理的な物をつかって受胎を阻止するのではなく、身体が受胎できないようにをかける、のだと説明されたが、魔法の素養がない俺にとっては説明の言葉以上のことは想像することもできなかった。
 ただ、印を完成させるまでにはいろいろな……実験につきあわされて。それが終わることのほうが嬉しいくらいだった。

「なあ。この印って、他のΩにも使えるのか?」
 夜。私室で印をかけなおしてもらいながらルシアンにそう問いかけた。出来たばかりの印で施される制約は、かけ続ける、のは身体によくないらしく、定期的に効力を切って再びかけなおす必要があるという。
「どうでしょうね。……これはあなたの身体に合わせて作っているので」
 気乗りはしないようだったが、確認してほしい、と伝えると、ルシアンは隣国で協力者を募って試してくれた。結果は「たぶん、大丈夫です」というもので。

 それは、おそらく多くのΩにとって――革命的な発明だった。

「あのさ……この印を世に出したい、と思う。いいか?」
「別に構いませんが。……私はやりませんよ」
 面倒事はごめんだというように言って。そこから、ルシアンを宥めすかしながら印を販売できる形――小さな錠に閉じ込めて、飲み込める形式――に仕立て上げるまで、さらに半年ほどが必要だった。
 出来上がった薬は、飲めばしばらくの間は受胎することを防ぐが、自然と効力が切れる、そういう物になっていた。

「これでいいでしょう。あとは、好きにしてください」
 自覚がないのか、興味がないのか、ルシアンはその丸薬の作り方をざっと書き記すとそういった。
「……いいのか? 俺が勝手にして」
「いいです、私はいま目立つことをすべきで無い」
 それは、そう、だった。追放の身でありながら、夜毎、大神殿の俺のもとに現れるのは不法行為でしかなくて。わざわざ人目を集める必要など、どこにもない。

「分かった。ありがとう」
「いいえ。……サリュー、忘れないでください。あなたの為だから、出来たんです。あなたが望まなければ出来なかった。それを、私の手柄だとは思いません」
 そっけなく言って、ルシアンは俺を抱きしめる。そう言ってもらえるのは嬉しい。けど、もっと自分の功績を自覚してほしくもあった。
「……でもさ、ルシアンじゃなきゃ、きっと出来なかったことだよ。それを、俺は誇らしく思うよ」
 そう言って抱き返すと、彼は満更でもなさそうに微笑んでみせる。
 αであるルシアンには、実感がないかもしれなかった。けれど、この印で救われるΩはきっと沢山いた。

 ――神事で受胎がわかれば、その日の禰宜と番になる。

 その理は、巫覡にとって、大きな枷だった。
 たとえ好いた相手がいても、他の禰宜を与えられ、神事で受胎すれば、番になることはかなわない。
 夜毎にあたえられる禰宜を受け入れるしかない巫覡にとって、事前に懐妊する可能性をコントロールできるなら、それは多くの不安を取り除くことになった。

 最初は、不具合がないかを確かめるため口づてで信頼のおける巫覡たちに流した。
 発情に影響がない、飲んでもおかしな反応がない、とわかれば、次はどうやって広く流通させるかが課題だった。

 発情しているのに懐妊しない――それは、子孫繁栄を謳う神殿の教義とは、相容れないもので。
 上手く話を運ばなければ、神殿によって規制されることは目に見えていた。

 アテはあった。
 ガルシアに手紙を書いて、茶会に招待すれば、その課題はすぐに解決に向かった。
「いい話だ。けど、たしかに神殿にとっちゃ表向きは『不都合』な薬だな」
 そういうと、彼はどうしたら神官たちに目を付けられず、薬を売りだすことができるのかを考え、根回しを買って出てくれた。
「やつらにとって、旨味があればいい……任せとけ」
 儲け話をきちんと理解してくれたガルシアの立ち回りで、最終的には、神殿としては公認しないが、さして流通を咎めもしない、という状況に持ち込むことが出来た。
 ――上出来だった。

 まずは、ひとつ。
 神殿のなかでΩの被る不利益をそそぐことができたと思うと、嬉しかった。
 だけど、これで終わりじゃない。


「なあ、ハーク卿からの返事はあったか?」
 散々抱き合って、発情の熱がすっかり引いてから、思い出したようにガルシアに問う。諸外国との交易を手掛けるハーク卿と、ガルシア商会で協定を結び、避妊薬の販路を拡大する話を進めてもらっていた。
「ああ。相手も乗り気だ。そこまでこじれる事は無いだろう。でも良いのか? もっと条件を釣り上げたって良いと思うぞ」
「いいよ。いまは目先の儲けより、スピードを上げたいんだ。粗悪な模倣品がでる前に、出来るだけ広く販路を押さえたい。……Ωがいるのはこの国だけじゃからね」

 言えば「ほんとに、嫁に来てもらいもんだ」と満足そうにガルシアは笑った。
「良いだろう。この調子で繋げるだけツテを繋げてやる。製造の方も任せろ。腕利きを揃えてやる」
 周辺諸国へ、一気にΩ向けの避妊薬を売り出す。この国ほど厳格ではないが、近隣諸国でもΩに対するアタリは強いと聞く。
 Ωが自分たちの受胎を管理できるようになれば――理不尽な扱いの一部は回避できる様になる。そのためには、確実に効くものが、安価に手に入れられることが必要不可欠だった。

「頼りにしてるよ」
 微笑んでいえば、手を取られてうやうやしく甲に口づけされる。
「こちらこそ。どうぞお手柔らかに」

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