Ωの国

うめ紫しらす

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第一部

はじまりの日 *

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 熱い。
 目が覚めたとき、発熱したのだと思った。全身が気怠く、やたらと喉が渇いている。

 まいったな、今日は教練の最終日だというのに。また、教官に怒鳴られるだろう。心身の鍛錬が足らないとかなんとか。

 うんざりと重い身体を引き起こし、手のひらを額に当てる。とにかく熱くて、汗だくだった。

「ニーア。起きてるか? ニーア、」
 隣の寝台に声をかけたが、声は返らない。暗がりの中を覗き込むと、なかはもぬけの殻だった。
 まだ夜明け前だというのに、どこへ?

 その時、バタバタと足音がした。それから荷車のような車輪の軋む音。
「起きてるか、サリュー」
 はあはあと息を切らした声は、ニーアのものだった。

「ああ、どうしたんだ? 魔物でも、でたのか?」
「ちがう。お前が、……」
 ニーアはそこで不自然に言葉を切った。続きを言いかけた声を、聞き慣れない声が遮る。

「状況説明は私からしましょう。あなたは下がって。貴公はサリュー・プラムランド、第三十四期士官候補生、第六班所属、出身はナギブで間違いないでしょうか」
「は、はい…」

 落ち着いた女性の声。ゆったりとした口調だが、上に立つものの風格を感じさせる声音だった。その圧にふわふわとした意識のまま答える。

「私は衛生監視官タチアナ・サルシマ、第三特務隊隊長を務めております。貴公の同室人から通報を受けて本件の対処にあたることとなりました。以下、貴公の身柄は第三特務隊の管轄となります」
「第三特務隊…?」
「そうです。発熱していますね? 扉の外まで芳香が香っております。届出には第二性はβとされていましたが、どうやら未分化だったのでしょう。

 貴公の身柄の安全のため、我々は貴公をシェルターへ移送いたします。我ら部隊は全てβの女性で、貴公の芳香に惑わされることはありません。また発情期に対する訓練もうけております。安心してください」

 芳香。発情期。
 落ち着いた声で告げられた事実に、ふわついた頭はついていかない。
「俺が、……発情期?」

「ええ。正式な鑑定は追って行いますが、Ωとして覚醒されたのです。

 ご存知でしょうが、βか未分化かの判定は完全ではありません。貴公の血統録をたどったところ、Ωが生まれる可能性はゼロではありませんでした。

 ……稀ではありますが無くは無い事象です」

「そんな………それじゃあ、俺は……」
「詳しくはシェルターの中でお話します。まずはご移動を。

 急がせてしまい申し訳ないですが、本校の教官であるαが暴走した場合、少々対処に手こずる事が予想されます。貴公の安全も確約できません。

 大丈夫です、初めての発情は軽微に終わることがほとんどですから。シェルターには芳香を閉じ込める印が結ばれ、出入も厳重に管理されます。体調に応じた薬湯の用意もございます」

 心配はいらない、と落ち着いた声が告げている。まだ事態を飲み込むことはできなかったが、発情したΩをシェルターに保護するのは当然のことだと、自分の学んだ知識が告げていた。

「……はい。どうすれば、いいですか……?」
「ありがとうございます。こちらが用意した輿こしに乗っていただきます。扉を開けますね」
 音がして、扉から薄い光が差し込む。光路虫のランプだ。薄い緑色を帯びた甲虫の灯りは、高官たちしか使うことのできない高級品だった。事態にあたる特務隊の地位の高さが伺える。

 布ずれの音と共に入室してきたのは、恰幅かっぷくの良い女士官だった。タチアナだろう。衛生部隊の身につける硬く分厚い木綿でできた生成りの制服に、司祭がまとうような色とりどりの刺繍がされた袈裟をかけている。

 初めて見る取り合わせの装束だったが、その出立ちはすぐに、彼女たちが司祭省の管轄にあることを理解させた。同じような、けれど身につけた袈裟の刺繍が簡素な若く屈強な女性が2人、輿と呼ばれた車軸のついた箱を戸口に引いている。

 小さな荷車に似た風情の輿は、荷台部分にひと一人がぎりぎり座れるほどの板貼りの箱を載せていた。艶やかな木肌の箱には赤や黄色の彩色で無数の印が刻まれており、その全てにしっかりと魔力が満ち、効力を生み出しているのが見て取れる。

「さあ。こちらへ。立てますか?」
 タチアナがゆったりと誘い、手を差し出す。寝台の上から重い身体を引きずるように立ち上がり、その手を取る。人肌の滑らかな感触。ずくん、と途端に身体に痺れたような甘いおののきが走る。戸惑う間もなく、手が引かれ、よろめくように足が輿へと進んだ。
「これを。お守りです。シェルターは祭事塔の地下にあります」
 タチアナに押し込まれるように輿に乗ると、小さな布袋が手渡された。訳もわからず受け取り、狭い車内の小さな座面に座り込む。乗り込んだ扉が外から施錠される音。まるで虜囚りょしゅうだと小さくため息をついた。

 窓のない車内には小さな蛍光石のほのかな灯りが一つ。これも魔力が込められた代物だ。ぼんやりと薄明るい車内は柔らかな綿を詰めた布ばりで、もたれかかれば安らぎを感じる薬草の匂いがした。見かけは虜囚だが、扱いには充分な丁重さを感じる。
「出立します。揺れますので、お気をつけください」
 タチアナの声。ぎしり、と荷台がかしいで、車輪が進む。がたん、ごとん、と揺れながらゆっくりと輿は進む。祭事塔まではさほど距離はない。

 ぎしぎしと車軸の軋む音を聞きながら、目を閉じた。先ほど触れた人肌に感じた甘やかな痺れが身体の奥底によどんで、ゆっくりと全身に広がっていくようだった。

 あれほど強い感覚は、初めて感じるものだった。一体その正体がなんなのか、ぼんやりと熱に浮かされた頭ではわからない。ただ、きっとあれは、自分の身体が覚醒し、発情期を迎えたことと無関係ではないことはおのずと知れた。

 まるで慣れ親しんだ自分自身の身体が、別物になってしまったようで、恨めしい。
「なんで、俺が」
 呟くと、熱く潤んだ目尻から涙が溢れでた。いったん流れ出した感情は、すぐに止めどもない奔流となって嗚咽がこぼれる。
「うっ、ううっ……」
 熱を持った身体は、嗚咽おえつし震える布ずれの触感にさえ、さざめきのようにあえかな情感を育てていく。

 がたん、と車体が段差を乗り越え、布張りの内装に身体を打ち付けた。はっと意識を取り戻すように、己の身体の感覚を俯瞰し、身体の奥がじっとりと濡れていることを感じた。

 Ωには男であっても妊娠が可能な性器がある。この世の理としてまことしやかに伝え聞く男Ωの生態を思い起こし、なお一層の慟哭が胸を突いた。

 生まれ育った村では、記憶にある限りΩの男を見かけたことはない。女性のΩであれば、祭祀を司る巫女として見かけたことは幾度かあった。しかし彼女たちは村の権力者であるαたちの番であり、その生活は神殿と屋敷の中に閉ざされていた。

 男のΩは、巫女になれるのか……? 朧げな記憶の中の巫女たちを思い返す。祭りの日、篝火かがりびの中で、豊穣と繁栄を祈る舞をあでやかに奉納していた巫女様はたしかに皆、女性だった。

 がたん、と車が揺れる。
「あっ、……」
 布ずれのなかから砂金を探すように快感を求めていた身体の奥が、着火点を越えたようにほてった。ずくん、と快感が背筋を駆け抜けて、全身を貫く。
「ん、ぁ」
 おもわず身体を抱きしめると、己の指先さえ貪欲に快楽のきっかけにして、発情した身体はさらに熱を高めた。

「嫌だ、……」
 こんなのは自分ではない。
 こんな身体、知らない。

 歯を食い縛るように身をよじると、タチアナに手渡された小袋が手に触れた。わずかな希望をかけて、薄明かりに翳して袋の中身を取り出す。

「これは、……」
 袋の中から出てきたのは、小さな懐剣だった。飾り紐で封じられたそれは、高貴な女性が護身のために持つものとされる。

 だが市中に流布する物語で懐剣が飛び出す場面といえば、もっぱら情事の相手を殺める際か、暴漢に襲われた高貴な姫君が純潔を守るために自刃するためのものだった。

 ――お守り。
 そうタチアナは言った。その意味。

「……誰かに、抱かれるのか」
 確認するように呟くと、それだけで身体の奥は期待するように痺れた。

 Ωの巫女であれば、当然のことだ。彼女たちの性は神に捧げられる供物であり、発情は多産の具現であり、繁栄をもたらす象徴だった。

 だからこそ、発情期間は祭祀として番のαとの子をなす営みに励む事が義務付けられている。
 ならば……俺もきっとαに抱かれるのだ。
 発情した、Ωなのだから。

 誰に、だろう。
 教官の誰かだろうか。
 この学舎で暮らす候補生の誰かだろうか。

 国の士官を排出するためのこの学び舎には多くのαが在籍している。その、誰か。
 ……それを自分は、受け入れられるのだろうか?

「着きました。降りられますか」
 タチアナの声。手にした懐剣を手の中に握り込み、開かれた扉の外を見る。あたりは薄暗く、タチアナが手にした光路虫のランプが淡く足元を照らしている。
「う、」
 首肯うなずいて外へと足を下ろそうとし、しかし身体には上手く力が入らない。崩れそうになった姿勢を両脇から年若い二人に抱え上げられる。

「お気になさらず。私どもは慣れておりますゆえ。この先でみそぎの湯浴みをさせていただきます。お身体がつらいとは思いますが、今しばらく辛抱ください」

 ああ。やはり。

「俺を、供するのか」
「……すべてのΩは司祭省の管轄となり、その性は神に捧げられるものです」
 淡々と、タチアナは告げる。もはや俺は供物として神に捧げられる贄だった。

 それは、途方もない栄誉に違いなかった。村でも、Ωであることがわかった女たちが巫女として盛大な祝賀の中で神殿へと出仕していく道中を何度も見てきた。

「男でも……?」
「はい。司祭省ではこれまでも数多の男性Ωを、神巫かんなぎとして奉ってまいりました」
 こちらへ、と通された先には小さな湯殿があり、湯女ゆなが面覆いをつけて控えている。神殿の巫女に仕える神官に似た装束に、揃いの結い髪。

「私はこちらで失礼します。またお帰りの際に参りますので」
 タチアナが一礼してきびすを返す。その背を見送る余裕もなく、湯女たちが勝手知ったる仕草で俺の粗末な寝巻きを剥ぎに手を伸ばす。もはや、抗う気持ちは湧き上がらなかった。否。彼女たちの滑らかな指先の接触を、発情した身体は明らかに欲していた。

「ぁ……っ」
 裸身を湯桶に誘われ、心地よい香草の薫るスポンジで清められる。その刺激ですら、多大な快楽となって声が漏れる。だが湯女たちは慣れているのか、こちらの身体の反応にもなんらひるむことなく、手際良く作業を進めていった。

 湯を流した肌を清潔な布で拭くと、巫女が着るような真っ白な長衣が着せられる。それから、彼女たちは俺が手にしていた懐剣の飾り紐を解き、首から下げるようにしてくれた。封を解いた懐剣は鞘を抜けばいつでも使える状態だ。

「これを、……使うのか?」
 揶揄するようにこぼすと、年嵩らしい湯女がわずかに目元を曇らせ、小さく「お心のままに」と囁いた。

「こちらへ」
 湯女たちに支えられて移った次の間には、豪奢な寝台があった。おもわずごくりと喉がなり、辺りに目を向ける。まだ、誰の姿も見えない。
封環ふうかんをお付けします。どうぞ、御身おんみをご大切に」
 寝台に腰掛けると、先程の年嵩の湯女が手を伸ばして俺の首筋を覆うように銀の首輪を嵌めた。それは話しに聞くΩの首筋を護る装飾品に他ならなかった。

 Ωはαに首筋を噛まれる事で番の契りを果たす。Ωにとって噛まれた相手は生涯唯一の番だが、αにとってはそうではない。だからこそ誰にうなじを噛ませるかは慎重に決めなければならない。
 封環は、意に染まぬ相手からの一方的な契約を防ぐため、Ωに無くてはならないものだった。

「……ありがとう」
 まさか自分がそんな物を付けることになるとは思わなかったが、彼女の気遣いは感謝すべきものだった。

「鍵はお帰りの際に。まもなく今宵の禰宜ねぎが参ります。先ほどの湯浴みで抑制効果のある香草を使っております。半刻ほどは効果があると思います。

 その間に、禰宜に不都合がありましたらこの鈴でお知らせください。禰宜は貴方様の性を神に届ける、貴方様のための奉職です。貴方様はただ己の性を満たすことにお励みくださいますように」

 つまり、選択権はこちらにある、ということだろう。こくりと首肯いて見せると、彼女は深く一礼して部屋を辞した。

 わずかな静寂。

 コツ、と小さな足音が響いて。
 湯殿の向こう、入ってきたシェルターの扉が開く。
 ふわり、と芳しい香りが風もない中で漂う。それだけで、ぞくっと、身体の奥が響いた。

 コツ、コツ、と足音が近づく。気配が、香りが、濃くなっていく。

 欲しい。
 欲しい。
 あれが、欲しい。

 飢えに似た渇望感が湧き起こる。
「や、だ、いやだ……」
 ひどくケモノじみた感覚。剥き出しの強い欲望。

 これが、αの芳香。
「やめてくれ……」
 寝台の上をずりずりと後ずさる。
 なのに、身体は今か今かとその瞬間を待ち望んでいる。

 まるで自分の心と身体が別の生き物になったようだった。

「失礼致します。今宵の禰宜を拝命いたしました。お側によってもよろしいでしょうか」

 凛とした声が柔らかに響く。寝台から見える戸口に跪いた長身。
「フェルせんぱい……」

「いいえ、私は今宵は名もなき禰宜。世俗の名などお忘れください」
 おもてを上げたその顔は、何度も教練場で見かけた勇姿だ。黄金のように豊かな輝きを持つ髪と、サファイアのごとき輝きを持つ瞳。文武に長け、第三十二期総代を務めた才と、この国の第七王子である高貴な血筋。

 紛れもない学内の憧れを一身に集める若き虎。

「お側によっても?」
 その甘い声。優しい眼差し。
「……はい」
 考えるまでもなく、応えが声になっていた。

「ありがたき幸せ」
 ゆっくりと立ち上がると、先輩は笑みのまま寝台に腰掛ける。それから、じっとこちらを見た。

「突然のことで驚きでしょうね。初めての時は、誰しもそうなるものです」
「せんぱいも……?」
「ええ。αとして覚醒してから、Ωの発情に巡り合うたびに、己の性に打ちのめされます。……決して、抗う事ができない……まるで呪いのように」

 王家の生まれであれば、Ωの巫女と番う縁者も多くいることだろう。ならばΩと共にしとねを過ごすことも、Ωに対するαとしての振る舞いも、慣れ親しんだものなのかもしれない。

「とてもかぐわしい香りだ……」
 指先をとった先輩が、手の甲に唇を押し当てる。
 触れられた場所が、熱い。
 ちろり、と先輩の舌が肌を舐める。
「っあ、」
 ずん、と衝動が腹の中をうごめく。

「大丈夫。怖がらないで」
 先輩の体がにじり寄る。
 芳しい香りが濃くなり、鼓動がどくどくと脈打つ。指先が近づく。その動きから目が離せない。

「かわいい方だ」
 柔らかな衣の上から抱きしめられる。
「あ、やだ、…なに、……っ!」
 過敏になった肌は指先でなぞられるだけでしゅわしゅわと泡立つように快楽を生み出していく。

 抱きしめられて近づいた先輩の香りが、甘く身体の芯を縛り付ける。ほんの少し指先でなぞられるだけで、あらゆる部位が性感帯になってしまったかのように、心地よい快楽を生み出した。

 すべての感覚が研ぎ澄まされ、もっと、と叫んでいる。

「気持ちいい? 大丈夫。今宵、私は貴方のものです。もしお嫌ならこの剣で御身をお守りください。誰も貴方を咎めはしない」
 首から下げた懐剣に口付け、先輩は俺をじっと見つめた。

「口付けても?」
 指先が優しく唇に触れる。口付けなどした事もない。なのに触れられた場所がむずむずと疼いて仕方がなかった。

 こくりと首肯くと、先輩は優しく笑った。「いい子だ」
 唇が近づく。吐息が重なる。
 あとはもう、溶けるように快楽に落ちていくだけだった。

「っあ、はっあ」
 呼吸を忘れるほどの口付け。舌先から、歯の根から、口腔内のすべての場所が悦びを味わう器官に変わり果てたように貪欲に快楽を貪る。
「っぁう。っは」

「……嗚呼。素晴らしい」
 感嘆するように先輩が囁く。
「まるで花が開くように貴方の香りはいっそうかぐわしさを増しています。
 ……もし私が我を忘れて貴方を害することがあれば、遠慮なく私を刺し殺すのですよ」

 ふふ、とまだ余裕のある笑みで先輩は俺の手を取り、指先に口付ける。
「貴方のすべてを味合わせてください。よろしいですか」

「……男でも、いいんですか」
 学内外を問わず女性に人気のある先輩に、自分の身体を見せるのは恥ずかしかった。彼なら、もっと美しい、もっと可愛らしい、素晴らしい相手との経験があるだろう。

 そんな相手に、士官候補生として鍛錬に勤しみ、けれど目覚ましい成果も挙げられていない、凡庸な身体を見せるなど。とてもできたものではない。

「もちろん。私はね、男のΩこそ最も美しいと思うのです」
 ほら、と先輩は指先を這わせ、俺の股間で勃ち上がり、だらだらと欲情の印を溢れさせている中心にそっと触れた。

「男性であるからこそ、男のΩは豊穣と繁栄の、与える性と育む性の両者を体現する事ができる。それは神に捧げられるもっとも尊いにえとなりましょう……」

 ゆっくりとした愛撫が屹立を辿り、後ろに周りこむ。後腔と呼ばれる男性Ωのもう一つの性器。そこは知らぬ間にすっかりと熟れており、十分に濡れそぼっている。
「ぁあっ!」
 服の下に潜り込んだ指先がゆっくりと後腔をなぞり、潜り込む。
 びりり、と強い刺激が走って、おもわず先輩の服を握りしめた。

「本当に、可愛らしい方だ。少し姿勢を楽にして。そう、私を見て」
 たくましい腕が俺の身体を抱えて横たえ、衣服の合わせを開いていく。口付けが肌の上におち、胸元の小さな乳首を探り当てられる。

「あんっ」
 まるで女のような甘い嬌声をあげてしまい、激しい羞恥心が湧き起こった。その心地を見透かしたかのように、先輩は一度動きを止めると、そっと俺の手を引いて、自分の股間へと導いた。

「貴方のすべてに、私は欲情しています。痛いほど張り詰めて、貴方の中に潜り込むことを切望してる」
 ほら、と手のひらに押し当てられた先輩の欲望は、自分と同じように欲情しきって硬く屹立していた。

「ほんとに、おれで、」
「ええ、貴方をください。貴方の、初めてのαにならせてください」

 甘い囁き。
 αの圧倒的な欲望の香り。
 ああ、これを、この身体は、欲している。

「……ください。あなたのを」
 熱に浮かされるように、けれど本心から言葉があふれた。もはや身体中が煮えたぎるマグマのように、欲望の坩堝るつぼと化していた。

 欲しい。もっと、もっと。

 湧き上がり溢れ出た言葉に、なおいっそう激しく欲望が期待する。
「嗚呼。神よ……!」
 歓喜に堪えないといった声音で先輩が囁き、そしてーー彼は俺の中に入ってきた。

「あ……。っ! あ。ぁ!」
「大丈夫、息をすって。そう、ほら、……入った」
どろどろに濡れそぼっていた奥は、充分に熟れて柔らかにほぐれ、押し当てられた先輩の硬く張り詰めた熱をゆっくりと確実に飲み込んでいった。

 けれど未踏みとうの地を押し開き、他人の熱を受け入れる感覚は、思った以上の混乱と不安感を駆り立てる。
「……苦しい、奥が、いっぱい、で」
「大丈夫、怖がらないで……」
 ゆっくりと、慣らすように入り込んだ先輩の切っ先が中を揺らす。
「あ、あっ!」
中をられるたびに声があがってしまう。それが恥ずかしくて、奥がきゅっと締まるような力が入った。
「あんっ」
「そう、その調子。もっと、気持ち良くなって」
 クンッとさっきよりもはっきりと中をかき混ぜられる。
「あんっ、あ!やめっ」
「止めて欲しければ、この剣をお使いなさい。でもほら、貴方の中はまだ物足りなさそうです」
 ぐっと先輩が腰を引いて。
「あぁン!」

 ぱちゅん、と一息に打ち付けられると、あられもない声が喉からあふれた。

 まるで射抜かれた獲物のように寝台に留められ、何度も腰を打ち付けられる。
 ぱちゅん。ぱちゅん。
「あんっ、あっ。あぁ!ン~~」

 それが快感だと認めてしまえば、もう、止まらなかった。
「あ、きもち、い、そこ、あ、あんっ」
 奥の奥までかき混ぜられて、けれどまだ足りない、と中がびくびくと痙攣する。
「嗚呼。いい……」
「先輩、気持ち、いい……!」

 いちどタガが外れてしまうと、あとに残るのは純粋な、欲望だけ。
「あ、あ~~」
 ぴん、と全身が張り詰めて絶頂に上り詰める。
「ッ!」
 と、ビクンと先輩が中で爆ぜた。注ぎ込まれる精を、受け止めて。
 うっとりと、全身が弛緩した。

 それから。
 お互いに何度果てただろう。
 飽きることなく欲望を貪りあって。
 気を失うように、眠ったようだった。

 そして――目覚めたとき。

 そこに、先輩の姿はなかった。
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