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第三章
第13話 生への反逆 その1
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北グリドリエには、住人の姿はもはやなかった。
いや、北グリドリエだけではない。
バジェル伯爵領との境界にある街や村は、こぞって放棄されている状況だった。
それはそうだろう。
目の前には謎の赤い壁の結界。
その壁の結界が解けた瞬間、人間を食い殺すどう猛な魔物が襲い掛かってくるのだ。
領主軍や、金で雇われた傭兵ならいざ知らず、一介の村人が留まる理由など何一つ無かった。
まあ、俺たちにとっては都合が良いけれどね。
「さて、ミュー。どこの家にしようか?」
「……え?」
俺の発言の意味が分からず、聞き返すミュー。
あ、そうか、フェリエラ期に生きていないとなかなか抵抗があるか。
「ああ、俺が前回戦っていた時なんかは、あちこちの廃村を回ったからな。討ち捨てられた家を放置しておいても勿体ないから、拝借していたんだ」
「……なるほど、確かに」
こういう時に、合理的に考えてくれるところは、ミューの良い所だ。
そして、しばし考えを巡らせた後に、ミューが提案した。
「井戸の傍で、結界の見通しが良い所が良いですね。風呂完備の家となると……」
本当に考える事は一緒だった。
まあ結局、町長や領主の別邸ではなく、そこそこ大きめの商家の家を拝借することになったのだけどね。ここなら石造りだし、万が一魔物が雪崩のように走って来ても、簡単に瓦解することは無いだろう。
……さて。
カートライアを出てからはや九ヶ月。
およそ一年で魔王が復活することを考えると、そろそろ準備をしておかなくてはならないな。
まあ、それまでは三カ月、このディストピアの村でのミューとの二人暮らしになるのだけどね。
……本来ならば。
その日、俺たちは討ち捨てられた村で、飯と風呂にありつき、食後のお茶をすすりながら席についた。
「さて、ミュー。魔王の結界の解除についてだが、その期間は本来一年というルールになっている」
「はい」
もろもろの話をするときに、「ルール」の一言で片付くのはとても便利である。
「であれば、カートライアを出立するのをもう三カ月遅らせても良かったところなのだけど、ちょっとした懸念があってね。早めに到着することにしたんだ」
「……ということは、魔王の結界の解除が、一年よりも早まる可能性がある、という事でしょうか?」
「ああ」
毎度のことだが、本当に話が早くて助かるぜ。さすがはミュー。
「もしも、この魔王の結界のルール。これが『聖女によって設定されたもの』であった場合、何があっても一年という決まりは揺るがない。しかし、前回魔王の復活においては、結界の解除が大幅に遅れたらしい」
「そうなのですか?」
「ああ、巷では、最強剣士のヴァルクリスと、疾風の戦乙女ミューの奮闘により、魔王の完全復活を遅らせた、と言われている」
そう、「聖女が『魔王の結界は一年で消失』と確定で決めたルール」ならば、こう言った誤差は起こりえない。つまり、聖女は、「結界消失の時間」についてはルールを設定していない事が確定する。
逆に言えば、何らかの事情で結界消失までの時間にずれが生じる可能性が否定出来ない、ということになる訳だ。
「そして今回、恐らく、魔女シャルヘィスと魔獣ゲージャは復活しない」
「確かに、もしかしたらその分、時間が短縮される可能性はありますね」
「ああ、だから念のため早めに到着したわけだけど……。しかし逆に最悪な事態も予想される」
「最悪?」
「魔王の結界が永遠に解けない、というパターンだ」
もしも『幹部魔物四人の完全復活』が結界を解く鍵に設定されていた場合、条件が未来永劫整うことは無い。
そして、もしそうなれば、今回の聖女はさっさと自らの命を絶ち、ルールの再設定をするだろう。
もしもそこで、俺やミューのような、別の世界の魂の存在に気づかれれば、きっと次は無い。
あくまでの聖女に気づかれることなく、ルールを破壊しなくてはならないのだ。
「ともあれ、魔王の結界が解けてくれることを願いつつ、様子を見る事にしよう」
「はい。まさか、魔王の復活を願う日が来るなんて思いもしませんでした」
「俺もさ」
魔王が復活してくれなければ、この世界が終わるかもしれないのだ。
俺たちは冗談を言い合ったが、とても笑い合う気にはなれなかった。
しかし、その心配も杞憂に終わった。
俺たちが到着して僅か三日後。
「坊ちゃま! 結界の様子が変です!」
早朝に部屋に駆け込んできたミューの声で飛び起き、俺は外に飛び出した。
確かに北グリドリエと南グリドリエを遮っていた赤い壁に変化が現れ始めた。
「なんでしょうか? ひびが入っているような」
確かに、至近距離で見ると今まで見て取れなかったようなひびが結界に入っていた。
(これが数日間にも及ぶようなら、恐らく何らかの文献に「結界が割れる前兆」として記述が残されるはずである。それが無かったという事は……)
答えは一つだ。
「ミュー、急ぎ出立の支度を! かさばるものはここに置いていく!」
「はい!」
俺たちがそう言った瞬間だった。
赤い結界が音を立ててはじけ飛んだ。
そして、その向こうから、無数の小型魔物が湧き出し、一斉にこちらに向かってきた。
「愛馬達を小屋の中に! ひとまずやり過ごすぞ!」
俺たちは、魔物の巻き添えを食わないように愛馬たちを家の中に引き入れ、扉を閉めた。
二人でそっと窓の外を見る。
そこには、まるでマラソンのスタートのように塊となった小型魔物たちが、北へ東へと向かって行く姿があった。
「……やはり、ミューも魔物に認識されないようだな。良かった」
そう言って振り返る。
しかし、そこには瞳孔を開いて、激しい呼吸を繰り返す彼女がいた。
「はあっ! はあっ! ……うっ!」
きっと、カートライア邸で魔物と戦った時の事を思い出したのだろう。
目の前のこいつらに、父上と母上は喰われ、エフィリアを殺され、そして自身の命をも落としたのだ。
トラウマにならない方がおかしい。
「ミュー、大丈夫だ。もうあの時とは違う」
俺はミューの顔を俺の胸に押し付け視界を塞いだ、そして優しく抱き締めた。
回した両手で、背中と頭を撫でてやる。
「このヴァルクリスがずっとついている。安心しろ」
その言葉で、少しづつミューの呼吸が安定してきた。
そしてしばらくの後、落ち着きを取り戻したミューは、深呼吸を一つすると、
「……もう大丈夫です、すみません、坊ちゃま」
と、悲しそうに微笑んで言った。
きっと父上達やエフィリアを守れなかったことへの自責の念と、俺を安心させるための気持ちが合わさって、そんな顔になったのだろう。
ミューのそんな悲しそうな顔を見ると、心の奥がシクシクと痛んだ。
もう二度と、この娘にこんな顔をさせない。
俺は人知れず、そう誓った。
しばし待機して様子を伺っていると、外の様子が落ち着いて来た。
未だに、バジェル伯爵領から湧き出してくる小型はあれど、馬に乗りながら避けて通れないほどではない。
「よし、行くぞ、ミュー。行けるか?」
「問題ありません」
俺たちは、愛馬たちを家から出すと、直ぐに跨り、魔王のいる伯爵邸に向けて、すれ違う小型魔物を全て無視して走り出した。
死中に活を求める、という言葉がある。
この瞬間以上に、俺はこの言葉を感じたことは無かった。
……いや、死中に活、ではないな。
少なくとも、いまの俺たちは生命を脅かされているような「死中」ではない。
今の俺たちのこの行動。
それは、言うなれば、『聖女によって与えられた生』への反逆行為に他ならなかった。
生への反逆に活を求める。
それが今の俺たちだった。
「さすがは北グリドリエ。こんなに近いとはな」
数時間後、俺たちはバジェル伯爵領都の伯爵邸の前に居た。
ちなみに、見つからないとはいえ愛馬たちを放置しておくのは危険だったため、領都内の無人の頑丈そうな家の中に繋いで、そこから徒歩でここまで来た。
「さあ、行こう」
「は、はい」
最初は、魔物の横を素通りするのにも緊張していたミューだったが、少しづつ慣れて来たようであり、何とか普通の声量で話せるようになった。
しかし、さすがに、魔王の居城に入るのは緊張するか。
堂々と中に入り、正面玄関の扉を開ける。
やはり中庭に居るのだろうか?
そう思い、ロビー正面の扉を開けるが、どうもそこにはいないようだった。
うーん、確かに、このサイズ感じゃあ、魔王には相応しくない感じだな。
そう思うほどバジェル伯爵家の中庭はこじんまりだった。
「坊ちゃま、あそこに……」
ミューに指さされた、中庭の奥の方を見ると、そこには「ホール入口」というプレートが壁にかかっていた。
貴族によっては、屋敷に広いパーティーホールのような施設を用意しているところも少なくない。カートライアには無かったけど。
もしかしたら、『魔王の復活場所は屋敷の中で一番広い部屋』と設定されているのかもしれないな。
「行こう」
慎重に近づき、その扉を開けた。
中の様子が、俺の網膜に映し出される。
その向こう、一番奥に。
……ヤツはいた。
長い銀髪に金色の角、黒いドレスのスリットから覗く、紫色の肌。
確かに、魔王フェリエラその人である。
「ほう、まさかこんなところに人間が来るとはな」
全く、どこかで聞いたようなセリフを吐きやがって。
「……でも、初めてではないだろう? 魔王フェリエラよ。……久しいな」
俺のその言葉に、魔王はピクリと反応した。
舐めるように俺を見る。
そして暫く硬直していたフェリエラは、大きく息を吐くと、俺に向かって口を開いた。
『……その魂、忘れてはおらんぞ。久しいな、ヴァルクリスよ』
(第14話 『生への反逆 その2』へつづく)
いや、北グリドリエだけではない。
バジェル伯爵領との境界にある街や村は、こぞって放棄されている状況だった。
それはそうだろう。
目の前には謎の赤い壁の結界。
その壁の結界が解けた瞬間、人間を食い殺すどう猛な魔物が襲い掛かってくるのだ。
領主軍や、金で雇われた傭兵ならいざ知らず、一介の村人が留まる理由など何一つ無かった。
まあ、俺たちにとっては都合が良いけれどね。
「さて、ミュー。どこの家にしようか?」
「……え?」
俺の発言の意味が分からず、聞き返すミュー。
あ、そうか、フェリエラ期に生きていないとなかなか抵抗があるか。
「ああ、俺が前回戦っていた時なんかは、あちこちの廃村を回ったからな。討ち捨てられた家を放置しておいても勿体ないから、拝借していたんだ」
「……なるほど、確かに」
こういう時に、合理的に考えてくれるところは、ミューの良い所だ。
そして、しばし考えを巡らせた後に、ミューが提案した。
「井戸の傍で、結界の見通しが良い所が良いですね。風呂完備の家となると……」
本当に考える事は一緒だった。
まあ結局、町長や領主の別邸ではなく、そこそこ大きめの商家の家を拝借することになったのだけどね。ここなら石造りだし、万が一魔物が雪崩のように走って来ても、簡単に瓦解することは無いだろう。
……さて。
カートライアを出てからはや九ヶ月。
およそ一年で魔王が復活することを考えると、そろそろ準備をしておかなくてはならないな。
まあ、それまでは三カ月、このディストピアの村でのミューとの二人暮らしになるのだけどね。
……本来ならば。
その日、俺たちは討ち捨てられた村で、飯と風呂にありつき、食後のお茶をすすりながら席についた。
「さて、ミュー。魔王の結界の解除についてだが、その期間は本来一年というルールになっている」
「はい」
もろもろの話をするときに、「ルール」の一言で片付くのはとても便利である。
「であれば、カートライアを出立するのをもう三カ月遅らせても良かったところなのだけど、ちょっとした懸念があってね。早めに到着することにしたんだ」
「……ということは、魔王の結界の解除が、一年よりも早まる可能性がある、という事でしょうか?」
「ああ」
毎度のことだが、本当に話が早くて助かるぜ。さすがはミュー。
「もしも、この魔王の結界のルール。これが『聖女によって設定されたもの』であった場合、何があっても一年という決まりは揺るがない。しかし、前回魔王の復活においては、結界の解除が大幅に遅れたらしい」
「そうなのですか?」
「ああ、巷では、最強剣士のヴァルクリスと、疾風の戦乙女ミューの奮闘により、魔王の完全復活を遅らせた、と言われている」
そう、「聖女が『魔王の結界は一年で消失』と確定で決めたルール」ならば、こう言った誤差は起こりえない。つまり、聖女は、「結界消失の時間」についてはルールを設定していない事が確定する。
逆に言えば、何らかの事情で結界消失までの時間にずれが生じる可能性が否定出来ない、ということになる訳だ。
「そして今回、恐らく、魔女シャルヘィスと魔獣ゲージャは復活しない」
「確かに、もしかしたらその分、時間が短縮される可能性はありますね」
「ああ、だから念のため早めに到着したわけだけど……。しかし逆に最悪な事態も予想される」
「最悪?」
「魔王の結界が永遠に解けない、というパターンだ」
もしも『幹部魔物四人の完全復活』が結界を解く鍵に設定されていた場合、条件が未来永劫整うことは無い。
そして、もしそうなれば、今回の聖女はさっさと自らの命を絶ち、ルールの再設定をするだろう。
もしもそこで、俺やミューのような、別の世界の魂の存在に気づかれれば、きっと次は無い。
あくまでの聖女に気づかれることなく、ルールを破壊しなくてはならないのだ。
「ともあれ、魔王の結界が解けてくれることを願いつつ、様子を見る事にしよう」
「はい。まさか、魔王の復活を願う日が来るなんて思いもしませんでした」
「俺もさ」
魔王が復活してくれなければ、この世界が終わるかもしれないのだ。
俺たちは冗談を言い合ったが、とても笑い合う気にはなれなかった。
しかし、その心配も杞憂に終わった。
俺たちが到着して僅か三日後。
「坊ちゃま! 結界の様子が変です!」
早朝に部屋に駆け込んできたミューの声で飛び起き、俺は外に飛び出した。
確かに北グリドリエと南グリドリエを遮っていた赤い壁に変化が現れ始めた。
「なんでしょうか? ひびが入っているような」
確かに、至近距離で見ると今まで見て取れなかったようなひびが結界に入っていた。
(これが数日間にも及ぶようなら、恐らく何らかの文献に「結界が割れる前兆」として記述が残されるはずである。それが無かったという事は……)
答えは一つだ。
「ミュー、急ぎ出立の支度を! かさばるものはここに置いていく!」
「はい!」
俺たちがそう言った瞬間だった。
赤い結界が音を立ててはじけ飛んだ。
そして、その向こうから、無数の小型魔物が湧き出し、一斉にこちらに向かってきた。
「愛馬達を小屋の中に! ひとまずやり過ごすぞ!」
俺たちは、魔物の巻き添えを食わないように愛馬たちを家の中に引き入れ、扉を閉めた。
二人でそっと窓の外を見る。
そこには、まるでマラソンのスタートのように塊となった小型魔物たちが、北へ東へと向かって行く姿があった。
「……やはり、ミューも魔物に認識されないようだな。良かった」
そう言って振り返る。
しかし、そこには瞳孔を開いて、激しい呼吸を繰り返す彼女がいた。
「はあっ! はあっ! ……うっ!」
きっと、カートライア邸で魔物と戦った時の事を思い出したのだろう。
目の前のこいつらに、父上と母上は喰われ、エフィリアを殺され、そして自身の命をも落としたのだ。
トラウマにならない方がおかしい。
「ミュー、大丈夫だ。もうあの時とは違う」
俺はミューの顔を俺の胸に押し付け視界を塞いだ、そして優しく抱き締めた。
回した両手で、背中と頭を撫でてやる。
「このヴァルクリスがずっとついている。安心しろ」
その言葉で、少しづつミューの呼吸が安定してきた。
そしてしばらくの後、落ち着きを取り戻したミューは、深呼吸を一つすると、
「……もう大丈夫です、すみません、坊ちゃま」
と、悲しそうに微笑んで言った。
きっと父上達やエフィリアを守れなかったことへの自責の念と、俺を安心させるための気持ちが合わさって、そんな顔になったのだろう。
ミューのそんな悲しそうな顔を見ると、心の奥がシクシクと痛んだ。
もう二度と、この娘にこんな顔をさせない。
俺は人知れず、そう誓った。
しばし待機して様子を伺っていると、外の様子が落ち着いて来た。
未だに、バジェル伯爵領から湧き出してくる小型はあれど、馬に乗りながら避けて通れないほどではない。
「よし、行くぞ、ミュー。行けるか?」
「問題ありません」
俺たちは、愛馬たちを家から出すと、直ぐに跨り、魔王のいる伯爵邸に向けて、すれ違う小型魔物を全て無視して走り出した。
死中に活を求める、という言葉がある。
この瞬間以上に、俺はこの言葉を感じたことは無かった。
……いや、死中に活、ではないな。
少なくとも、いまの俺たちは生命を脅かされているような「死中」ではない。
今の俺たちのこの行動。
それは、言うなれば、『聖女によって与えられた生』への反逆行為に他ならなかった。
生への反逆に活を求める。
それが今の俺たちだった。
「さすがは北グリドリエ。こんなに近いとはな」
数時間後、俺たちはバジェル伯爵領都の伯爵邸の前に居た。
ちなみに、見つからないとはいえ愛馬たちを放置しておくのは危険だったため、領都内の無人の頑丈そうな家の中に繋いで、そこから徒歩でここまで来た。
「さあ、行こう」
「は、はい」
最初は、魔物の横を素通りするのにも緊張していたミューだったが、少しづつ慣れて来たようであり、何とか普通の声量で話せるようになった。
しかし、さすがに、魔王の居城に入るのは緊張するか。
堂々と中に入り、正面玄関の扉を開ける。
やはり中庭に居るのだろうか?
そう思い、ロビー正面の扉を開けるが、どうもそこにはいないようだった。
うーん、確かに、このサイズ感じゃあ、魔王には相応しくない感じだな。
そう思うほどバジェル伯爵家の中庭はこじんまりだった。
「坊ちゃま、あそこに……」
ミューに指さされた、中庭の奥の方を見ると、そこには「ホール入口」というプレートが壁にかかっていた。
貴族によっては、屋敷に広いパーティーホールのような施設を用意しているところも少なくない。カートライアには無かったけど。
もしかしたら、『魔王の復活場所は屋敷の中で一番広い部屋』と設定されているのかもしれないな。
「行こう」
慎重に近づき、その扉を開けた。
中の様子が、俺の網膜に映し出される。
その向こう、一番奥に。
……ヤツはいた。
長い銀髪に金色の角、黒いドレスのスリットから覗く、紫色の肌。
確かに、魔王フェリエラその人である。
「ほう、まさかこんなところに人間が来るとはな」
全く、どこかで聞いたようなセリフを吐きやがって。
「……でも、初めてではないだろう? 魔王フェリエラよ。……久しいな」
俺のその言葉に、魔王はピクリと反応した。
舐めるように俺を見る。
そして暫く硬直していたフェリエラは、大きく息を吐くと、俺に向かって口を開いた。
『……その魂、忘れてはおらんぞ。久しいな、ヴァルクリスよ』
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