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第二章
第46話 遺言
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東区域の魔物を討伐した日の夜。
俺はロヴェルとヒューリアの部屋を訪れた。
今日一日を費やしたのであろう、その部屋はかなり当時の状態を戻しつつあった。
「懐かしいな。もう一度ここに来られるとは思わなかった」
その部屋は、以前はヒューリアの部屋として使われていたもので、昔はよくエフィリアやミューと一緒に来たものだった。
「今ここに、ミューとエフィリアが居ないのが、本当に悔しいわね。……二人に会いたいわ」
「……ああ」
ヒューリアの言葉にロヴェルは眉をひそめて同意した。
安心しろ、俺はいまそのために戦っているのだから。
俺はそう言ったやりたかったが、仮に俺がそれを成し遂げられたとしても、きっとその時の二人は、今目の前に居る二人とは違う時間軸の二人なのだ。目の前のロヴェルとヒューリアが二人に会うことは、この先一生無いのだろう。そう思った。
勿論いずれにせよこの事実を明かすことは出来なかったが。
「で、ヴァルス、用事とは?」
ロヴェルが俺に話を促した。
きっとロヴェル達もそうなのだ。俺たちが誰一人欠けることなく、魔王フェリエラを打ち倒して凱旋し、この後に平和な五十年が訪れると、そう信じているに違いないのだ。
それはきっと、これまでの過去何回にも及んで、聖女が間違いなく勝利をしている。その伝えられた事実によるところが大きいのだろう。
でも、今回は違う。
魔王を倒すのは俺なのだ。
「ああ、魔王の討伐についてだ」
どう切り出そうか迷ったが、俺は言葉少なげに話し出した。
「実はな……俺は女神に頼まれて、この世界を救うために人生をやり直したんだ。それは、魔王が二度と復活をしない世界にするためだ」
「なんだって?」
俺の言葉に二人が息を飲んだ。
二人には「女神の慈悲を受けてもう一度生まれ落ちた」としか伝えていない。この話は二人にとっては寝耳に水な話だった。
「そ、そんなことが出来るの?」
ヒューリアの言葉に、俺は「わからない」と答えた。
「その方法はあるらしい。そしてきっとそれがコレなんだ、というところまでは掴んでいる。詳しくは話せない、すまない」
「……そ、そうなのか」
その方法を聞きたかったのであろうロヴェルとヒューリアが、強制的に言葉を飲み込んだ。そのように見えた。
「もしもの事があったら、二人に頼みたいことがある」
「もしもの事?」
「ああ。その『もしも』に該当することは二つ。俺がその方法を失敗する。あるいは、その方法が全くの見当違いの方法だったという場合だ」
二人にとっては雲をもつかむような話である。
しかし、俺がこの世界で、この頼みごとが出来る人間は、この二人しかいない。それは明らかだった。
「仮に、その『もしも』の事が起こったら、ヴァルスはどうなるの?」
「分からない。死ぬかもしれないし、普通に討伐出来て戻ってくるかもしれない。いずれにしても、また50年後には魔王が復活するけどな」
「ってことは、ヴァルスはまた……」
「ああ。再び50年後に、ヴァルクリス、そしてルレーフェの記憶を持ったまま別の人間として産まれる事になる」
俺の言葉に声を失う二人。ヒューリアは、余りの事実に手で口を押えていた。
「ヴァルスは、魔王の復活を止めるために、たった一人で、何十年も、いや下手したら何百年も戦い続けるというの? そんなの、そんなの苦しすぎるわ」
そう言うヒューリアの目からは涙が零れだしていた。
確かに、もしも何も分からずに繰り返しを強要させられていたら、おかしくなってしまうのかもしれない。
しかし、これは、あくまでも俺の意志だ。ベル様は決して俺に強要はしていない。俺にだけしか出来なくて、俺が最も適材だと思ってくれたから選ばれた。それに俺が応えた。それだけの事なのだ。
……あ。
ちょっと待て、今更ながらに、大事なことを言わなかったか、俺。もちろん心の中でだが。
なんでこの世界の救済に俺が選ばれたのか。
当初、それは、俺があらゆる異世界作品に精通しているからだとか思っていた。
この世界は恐らく、何らかの異世界作品をモチーフに作られた世界である。
しかし、もしもそうならば、俺の既存の情報が合ってしかるべきである。
「この世界の住人は、もれなく神から加護が与えられる」とか。
「生まれながらに、最大五つまでのSからEランクのスキルがランダムに割り振られる」とか。
それこそ「クリスタル」や「召喚獣」の存在が認められるとか。
そういう既知の情報があれば、「ああ、コレはあのアニメ、あのゲームの世界なのか」と認識できる。それが確定すれば、攻略は容易い。
始めは、「聖女が現れ黒い魔物を倒す話」というところで一つの仮定が浮かんだが、実際は全く違っていた。
そもそも、聖女に加えて、魔法使いまでもが特別な希少存在として産まれてくる、なんて設定の物語は俺の記憶には無い。
ではきっと、この世界は色んな作品の寄せ集めで出来ているのだろう。そして俺ならばきっとそれに気づくことが出来るはずだ。
過去の俺はそうして、ひとまず「俺が最適材者として選ばれた理由」を無理に納得した。
そして、忘れていた。
もちろん、完全に忘れていたわけでは無い。
しかし、思考のテーブルに乗せる優先順位をかなり低くしてしまったことには違いない。
くそっ! なんで今こんなことを思い出した。
推理モノにおいて、これはとてもまずい感覚だ。
絶対に納得しなくてはいけない条件があり、それが解明できていない限りは正解にたどり着けない、みたいな。
例えるなら、そう。
とあるRPGのラストダンジョンで、何に使うのか分からないが、「捨てられません」「売れません」みたいなめちゃ重要そうなアイテムを手に入れたのにも関わらず、それを使わずにラスボス戦に辿り着いてしまったような、あの感覚に近い。
得てして、それは、ラスボス討伐の為の必須イベントの見落としだったりするのだ。
「ヴァルス? ヴァルス!」
その声にハッと我に返る。
急に考え込んだ俺を、二人が心配そうに見ていた。
「ああ、すまない」
俺は自身の袖で、かいていた冷や汗を拭ってそう返した。
「こういうところを見ると、本当にヴァルスなんだなって納得するわよね」
「ああ、良く話の途中で自分の世界に入り込んでいたもんな」
軽い口調で二人が笑う。
きっと、無理やりにでも和ませようとしてくれているのだろう。
「すまない、二人とも、またやってしまったな」
俺はそう言うと気を取り直して、話を戻した。
ここまで来ては仕方がない。結果がどうなろうと、ひとまず俺は魔王をブレイクするだけである。
「俺はこの先、何百年かかろうと、この世界を救うために戦う。それは俺の意志だ。だからそこは別に問題ない。しかし、その為にも、二人の協力が必要だ」
ロヴェルとヒューリアは黙って頷いた。
「もしも、俺が戻って来なかったら、今魔王城になっている、カートライア辺境伯邸の管理を頼みたい。あそこには誰も入らないようにしてほしい。そして、もしも俺が産まれ変わったら、その入場許可を出して欲しいんだ」
これにはいくつかの理由があった。
もちろんここからは、次回、つまり三回目が存在したと仮定しての話であるが。
一つ。あの家には、前世で父上と共に調べた過去の魔王出現にまつわる情報が数多く貯蔵されている。ヴァルクリスとしてヴィ・フェリエラ期を生き、ルレーフェとしてフェリエラ期を生きた今の俺が、再び一から情報を照合するのは必ず意味がある。
二つ。次回いつに産まれる事を選択するかは分からないが、もしもヴァルクリスの時のように、魔王の出現タイミング以前に産まれる場合、次回の出現場所にならないであろうカートライア邸に身を潜めれば、運悪く魔王の結界に閉じ込められることはない。
三つ。俺がまだこの世界でやっていない事と言えば、魔王城の調査くらいのものだ。もしも俺がしくじって、アイシャがフェリエラを討伐した後、そのままの状態で残しておいて貰えれば、何かのヒントを見つけられるかもしれない。
そして最後に……。あそこにはエフィリアとミューが眠っている。なによりも、俺はその場所を守ってやりたかった。
俺のお願いに、二人は拍子抜けしたような表情になった。
「もっと、大変な事を頼まれるかと思っていたが、そんな事で良いのか。もしもお前が帰って来なかったら、なんて仮定はしたくはないが、もしも、万が一そうなった時は、お前の親友として、その願い、必ず果たそう」
「ああ、ありがとうロヴェル」
俺たちはそう言うとがっちりと握手を交わした。
「ヴァルスが無事に戻ってきたら、どうするつもりなの?」
ヒューリアのその問いに対しての答えは、もちろん既に決まっていた。
「エミュが最高の提案をしてくれてな。その時は、俺は国王陛下に奏上して、カートライア辺境伯領を頂くことにする。そこで、家名をカートライアに改めて、ルレーフェ・カートライア辺境伯家としてエミュと一緒に生きて行こうと思っている。また、ご近所さんだ、宜しく頼むぜ」
「なんだよ! 最高じゃねえか、それ! お前、絶対帰って来いよな!」
「ほんと、素晴らしいわね。ヴァルス! 死んだら許さないから!」
ああ、本当にそんな未来が来ればいい。
少なくとも、この時間軸においては、それが最高の幸せだろう。
俺はそう思っていた。
そして二日後。
俺たちの姿は、パリアペート領都の北の門にいた。
ロヴェルとヒューリア、そしてエリモッドが見送りに来ていた。
俺は、密かに二人に近づいた。
そうそう易々殺される訳にはいかない。
しかし、もしも俺が魔王戦で命を落とせば、例え生まれ変わろうと、二人とは今生の別れになる。例えルールブレイクを成功させようと、今の二人にはもう二度と会うことは出来ないのだ。
「ロヴェル、ヒューリア。お前らに会えたことが人生最大の幸運だった。俺と友達になってくれてありがとう」
「馬鹿、やめてよ。絶対に帰って来てよね」
「もちろんそのつもりだ。でも、言えるうちに行っておかないと後悔するからな」
「帰って来たお前が、『あんな恥ずかしい事言って出て行くんじゃなかった』って後悔するのが目に浮かぶぜ」
そんな事を言いつつも、二人は目に涙を浮かべていた。
「さあ、行こうか!」
「ええ!」
こうして俺たちは、パリアペート領都を後に、最後の戦いに旅立ったのだった。
(第47話 『スヴァーグから見た二人』へつづく)
俺はロヴェルとヒューリアの部屋を訪れた。
今日一日を費やしたのであろう、その部屋はかなり当時の状態を戻しつつあった。
「懐かしいな。もう一度ここに来られるとは思わなかった」
その部屋は、以前はヒューリアの部屋として使われていたもので、昔はよくエフィリアやミューと一緒に来たものだった。
「今ここに、ミューとエフィリアが居ないのが、本当に悔しいわね。……二人に会いたいわ」
「……ああ」
ヒューリアの言葉にロヴェルは眉をひそめて同意した。
安心しろ、俺はいまそのために戦っているのだから。
俺はそう言ったやりたかったが、仮に俺がそれを成し遂げられたとしても、きっとその時の二人は、今目の前に居る二人とは違う時間軸の二人なのだ。目の前のロヴェルとヒューリアが二人に会うことは、この先一生無いのだろう。そう思った。
勿論いずれにせよこの事実を明かすことは出来なかったが。
「で、ヴァルス、用事とは?」
ロヴェルが俺に話を促した。
きっとロヴェル達もそうなのだ。俺たちが誰一人欠けることなく、魔王フェリエラを打ち倒して凱旋し、この後に平和な五十年が訪れると、そう信じているに違いないのだ。
それはきっと、これまでの過去何回にも及んで、聖女が間違いなく勝利をしている。その伝えられた事実によるところが大きいのだろう。
でも、今回は違う。
魔王を倒すのは俺なのだ。
「ああ、魔王の討伐についてだ」
どう切り出そうか迷ったが、俺は言葉少なげに話し出した。
「実はな……俺は女神に頼まれて、この世界を救うために人生をやり直したんだ。それは、魔王が二度と復活をしない世界にするためだ」
「なんだって?」
俺の言葉に二人が息を飲んだ。
二人には「女神の慈悲を受けてもう一度生まれ落ちた」としか伝えていない。この話は二人にとっては寝耳に水な話だった。
「そ、そんなことが出来るの?」
ヒューリアの言葉に、俺は「わからない」と答えた。
「その方法はあるらしい。そしてきっとそれがコレなんだ、というところまでは掴んでいる。詳しくは話せない、すまない」
「……そ、そうなのか」
その方法を聞きたかったのであろうロヴェルとヒューリアが、強制的に言葉を飲み込んだ。そのように見えた。
「もしもの事があったら、二人に頼みたいことがある」
「もしもの事?」
「ああ。その『もしも』に該当することは二つ。俺がその方法を失敗する。あるいは、その方法が全くの見当違いの方法だったという場合だ」
二人にとっては雲をもつかむような話である。
しかし、俺がこの世界で、この頼みごとが出来る人間は、この二人しかいない。それは明らかだった。
「仮に、その『もしも』の事が起こったら、ヴァルスはどうなるの?」
「分からない。死ぬかもしれないし、普通に討伐出来て戻ってくるかもしれない。いずれにしても、また50年後には魔王が復活するけどな」
「ってことは、ヴァルスはまた……」
「ああ。再び50年後に、ヴァルクリス、そしてルレーフェの記憶を持ったまま別の人間として産まれる事になる」
俺の言葉に声を失う二人。ヒューリアは、余りの事実に手で口を押えていた。
「ヴァルスは、魔王の復活を止めるために、たった一人で、何十年も、いや下手したら何百年も戦い続けるというの? そんなの、そんなの苦しすぎるわ」
そう言うヒューリアの目からは涙が零れだしていた。
確かに、もしも何も分からずに繰り返しを強要させられていたら、おかしくなってしまうのかもしれない。
しかし、これは、あくまでも俺の意志だ。ベル様は決して俺に強要はしていない。俺にだけしか出来なくて、俺が最も適材だと思ってくれたから選ばれた。それに俺が応えた。それだけの事なのだ。
……あ。
ちょっと待て、今更ながらに、大事なことを言わなかったか、俺。もちろん心の中でだが。
なんでこの世界の救済に俺が選ばれたのか。
当初、それは、俺があらゆる異世界作品に精通しているからだとか思っていた。
この世界は恐らく、何らかの異世界作品をモチーフに作られた世界である。
しかし、もしもそうならば、俺の既存の情報が合ってしかるべきである。
「この世界の住人は、もれなく神から加護が与えられる」とか。
「生まれながらに、最大五つまでのSからEランクのスキルがランダムに割り振られる」とか。
それこそ「クリスタル」や「召喚獣」の存在が認められるとか。
そういう既知の情報があれば、「ああ、コレはあのアニメ、あのゲームの世界なのか」と認識できる。それが確定すれば、攻略は容易い。
始めは、「聖女が現れ黒い魔物を倒す話」というところで一つの仮定が浮かんだが、実際は全く違っていた。
そもそも、聖女に加えて、魔法使いまでもが特別な希少存在として産まれてくる、なんて設定の物語は俺の記憶には無い。
ではきっと、この世界は色んな作品の寄せ集めで出来ているのだろう。そして俺ならばきっとそれに気づくことが出来るはずだ。
過去の俺はそうして、ひとまず「俺が最適材者として選ばれた理由」を無理に納得した。
そして、忘れていた。
もちろん、完全に忘れていたわけでは無い。
しかし、思考のテーブルに乗せる優先順位をかなり低くしてしまったことには違いない。
くそっ! なんで今こんなことを思い出した。
推理モノにおいて、これはとてもまずい感覚だ。
絶対に納得しなくてはいけない条件があり、それが解明できていない限りは正解にたどり着けない、みたいな。
例えるなら、そう。
とあるRPGのラストダンジョンで、何に使うのか分からないが、「捨てられません」「売れません」みたいなめちゃ重要そうなアイテムを手に入れたのにも関わらず、それを使わずにラスボス戦に辿り着いてしまったような、あの感覚に近い。
得てして、それは、ラスボス討伐の為の必須イベントの見落としだったりするのだ。
「ヴァルス? ヴァルス!」
その声にハッと我に返る。
急に考え込んだ俺を、二人が心配そうに見ていた。
「ああ、すまない」
俺は自身の袖で、かいていた冷や汗を拭ってそう返した。
「こういうところを見ると、本当にヴァルスなんだなって納得するわよね」
「ああ、良く話の途中で自分の世界に入り込んでいたもんな」
軽い口調で二人が笑う。
きっと、無理やりにでも和ませようとしてくれているのだろう。
「すまない、二人とも、またやってしまったな」
俺はそう言うと気を取り直して、話を戻した。
ここまで来ては仕方がない。結果がどうなろうと、ひとまず俺は魔王をブレイクするだけである。
「俺はこの先、何百年かかろうと、この世界を救うために戦う。それは俺の意志だ。だからそこは別に問題ない。しかし、その為にも、二人の協力が必要だ」
ロヴェルとヒューリアは黙って頷いた。
「もしも、俺が戻って来なかったら、今魔王城になっている、カートライア辺境伯邸の管理を頼みたい。あそこには誰も入らないようにしてほしい。そして、もしも俺が産まれ変わったら、その入場許可を出して欲しいんだ」
これにはいくつかの理由があった。
もちろんここからは、次回、つまり三回目が存在したと仮定しての話であるが。
一つ。あの家には、前世で父上と共に調べた過去の魔王出現にまつわる情報が数多く貯蔵されている。ヴァルクリスとしてヴィ・フェリエラ期を生き、ルレーフェとしてフェリエラ期を生きた今の俺が、再び一から情報を照合するのは必ず意味がある。
二つ。次回いつに産まれる事を選択するかは分からないが、もしもヴァルクリスの時のように、魔王の出現タイミング以前に産まれる場合、次回の出現場所にならないであろうカートライア邸に身を潜めれば、運悪く魔王の結界に閉じ込められることはない。
三つ。俺がまだこの世界でやっていない事と言えば、魔王城の調査くらいのものだ。もしも俺がしくじって、アイシャがフェリエラを討伐した後、そのままの状態で残しておいて貰えれば、何かのヒントを見つけられるかもしれない。
そして最後に……。あそこにはエフィリアとミューが眠っている。なによりも、俺はその場所を守ってやりたかった。
俺のお願いに、二人は拍子抜けしたような表情になった。
「もっと、大変な事を頼まれるかと思っていたが、そんな事で良いのか。もしもお前が帰って来なかったら、なんて仮定はしたくはないが、もしも、万が一そうなった時は、お前の親友として、その願い、必ず果たそう」
「ああ、ありがとうロヴェル」
俺たちはそう言うとがっちりと握手を交わした。
「ヴァルスが無事に戻ってきたら、どうするつもりなの?」
ヒューリアのその問いに対しての答えは、もちろん既に決まっていた。
「エミュが最高の提案をしてくれてな。その時は、俺は国王陛下に奏上して、カートライア辺境伯領を頂くことにする。そこで、家名をカートライアに改めて、ルレーフェ・カートライア辺境伯家としてエミュと一緒に生きて行こうと思っている。また、ご近所さんだ、宜しく頼むぜ」
「なんだよ! 最高じゃねえか、それ! お前、絶対帰って来いよな!」
「ほんと、素晴らしいわね。ヴァルス! 死んだら許さないから!」
ああ、本当にそんな未来が来ればいい。
少なくとも、この時間軸においては、それが最高の幸せだろう。
俺はそう思っていた。
そして二日後。
俺たちの姿は、パリアペート領都の北の門にいた。
ロヴェルとヒューリア、そしてエリモッドが見送りに来ていた。
俺は、密かに二人に近づいた。
そうそう易々殺される訳にはいかない。
しかし、もしも俺が魔王戦で命を落とせば、例え生まれ変わろうと、二人とは今生の別れになる。例えルールブレイクを成功させようと、今の二人にはもう二度と会うことは出来ないのだ。
「ロヴェル、ヒューリア。お前らに会えたことが人生最大の幸運だった。俺と友達になってくれてありがとう」
「馬鹿、やめてよ。絶対に帰って来てよね」
「もちろんそのつもりだ。でも、言えるうちに行っておかないと後悔するからな」
「帰って来たお前が、『あんな恥ずかしい事言って出て行くんじゃなかった』って後悔するのが目に浮かぶぜ」
そんな事を言いつつも、二人は目に涙を浮かべていた。
「さあ、行こうか!」
「ええ!」
こうして俺たちは、パリアペート領都を後に、最後の戦いに旅立ったのだった。
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