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第二章
第22話 弔いの誓い
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道すがら、マビューズの家族構成を聞いた。
レバーシー伯爵家はカートライア家と同じ二人兄妹。彼は長男で、下には妹のテイジア・レバーシーがいた。
魔物に侵攻された当初、彼は支援要求の為にトラジアーデ男爵領に使者として向かっていたようだ。そして領地に戻る前に、レバーシー伯爵領都の陥落を知ったらしい。
両親と妹を含めて家族の安否は不明。そのまま、最前線で戦っていたフッツァの隊に拾われて今に至る、とのことだった。
俺は伯爵邸に到着すると、中に入らずにそのまま建物を半周し、裏庭に向かった。そしてあの地下室の入口にマビューズを案内した。
「屋敷の魔物討伐の後に見つけました。この扉は内側から鍵がかかっていたため、私が破壊致しました」
「内側から?」
察しの良い人間ならば、この情報だけで大体の状況は察せられる。どうやらマビューズは思った以上に察しの良い人間の様だった。
俺とマビューズはゆっくりと階段を降り、例の地下室についた。
俺は手にしていたランプを彼に手渡した。
「お気を確かにお持ちください」
俺からランプを受け取ったマビューズは、ごくりと生唾を飲み込んで、そしてゆっくりとベッドに歩み寄った。
ベッドのそばに立った彼は、左手にランプを持ち替え、右手でそのベッドに掛けられた布の端をつまんだ。
「スー、ハー……」
静かな彼の呼吸だけが、その地下室に響き渡った。
マビューズは、少し手が震えていた。
きっとこの先目の当たりにするであろう、その光景を思い浮かべ、それに相対する覚悟を決めかねているに違いなかった。
そして、彼は数十秒の躊躇の後、ゆっくりとその布を捲った。
永遠にも思える、僅かな硬直。
「あああ、あああああああ……」
そして彼の口から、嗚咽がこぼれだした。
やがてその嗚咽は次第に大きくなり、叫び声へと変わっていった。
「ああああああ!!!!!! 母上! テイジア! ああああ!!」
そこには、ドレスを身に纏った高貴な身分であろう女性二人のミイラが横たわっていた。
「レバーシー伯爵は、魔物の侵攻を受け、ひとまずお二人をこの地下室に隠したのでしょう。無事に撃退し、再びここから出る事を前提として」
「あああああ……」
母と妹の変わり果てた姿を前に、マビューズはただただ涙を流していた。
「しかし、それは叶わなかった。魔物に喰われればその遺体は跡形も残りません。ですから伯爵のお姿は確認できませんでしたが、きっと最後までここで戦われたに相違ありません。そしてお母上と妹君は、最期まで御父上の言いつけを守り、御父上を信じて、決してトビラを開かなかった。弱り、衰弱死する最期まで」
マビューズは、寄り添うように、抱き合うように息絶えたその二人の遺体を前に、ただただ涙を流していた。
俺はその姿をただただ見守ることしか出来なかった。
どれだけの時間が過ぎただろう。
マビューズは、やがて意を決したように立ち上がった。
「ルレーフェ殿、二人を埋葬してもよろしいでしょうか?」
「……手伝いますよ」
俺の言葉を聞いて、マビューズは袖で自身の涙を拭きとると、俺の方に向き直った。その顔は何かの決意に満ちた様にも見えた。
「ル、ルレーフェ殿。何故あなたが、そんなに涙を流していらっしゃるのですか?」
マビューズにそう指摘されるまで、俺は自分で気づいていなかった。
俺は、頬を伝う程の、この薄暗い灯りの中でも明確に分かるほどの涙を流していた。
……そうか。
迂闊にも、俺は重ねてしまっていたのだ。
目の前で寄り添うように眠るマビューズの母君と妹君の姿に。
本当の姉妹のように仲睦まじかった二人。最期は俺が、二人が寄り添うように遺体をベッドに横たわらせたミューとエフィリアの姿を。
しかし、だ。
マビューズの妹君たちのご遺体が無事だったという事は、だ。
バリケードを張り、密室状態にしたあのエフィリアの寝室も無事である可能性が出て来た。
あの時は、俺の『この世界の理の外』というチート能力も分かっていなかったし、二人を埋葬する余裕はなかった。
しかし、もしもまだ、二人があのままならば、きちんと埋葬してやりたかった。十数年越しに俺はそう誓った。
いや寧ろ、気持ち悪い言い方をすれば、ミイラでも、白骨死体でも良い。もう一度、ミューとエフィリアに、彼女らの遺伝子として存在している有機物に触れたかったのかもしれない。
「いえ、大丈夫です。昔の辛い出来事を思い出してしまって」
「……そう、でしたか」
俺の言葉に、マビューズは追及しなかった。
俺たちは、二人の遺体を慎重に上へと運び出した。そして穴を掘って彼女らを埋葬し、墓標を立てた。
「遺体にお別れを言って、埋葬してあげられるだけでも、感謝しなくてはなりませんね」
マビューズは、鎮魂の祈りを済ませた後、静かにそう言った。その言葉には、俺も同意だった。
「ルレーフェ殿、私は、父上、母上、そしてテイジアの為にも、レバーシー伯爵家を復興させ、盛り立てていく事を今ここに誓います」
「はい。そのご決断、公爵家の人間として、しかと聞き届けましたよ。マビューズ・レバーシー伯爵」
俺のその言葉に再び涙を流しながら、マビューズは俺と力強い握手を交わしたのだった。
――それから一月後。
バベの町や無事である周辺地域から物資が届き、レバーシー領都はかなり過ごしやすい空間に変わっていた。
逃げていた元領都民も徐々に戻り始め、再び店が開き始めるのも時間の問題だった。
「付近の魔物の退治は引き続きしてはいるものの、未だここが最前線なのは言うまでもありません。ですので明日、私はリングブリムに向けての行程を再開しようと思います」
「ああ、俺もそろそろだと思っていたところだ」
俺の進言に、フッツァは同意した。
そもそもフッツァの最終目的はパリアペートの奪還である。その手前のレバーシー伯爵領を半分取り返したところでのんびりしている暇はないのだろう。
しかし、だ。彼は違う。彼には彼にしか出来ないことがある。
「分かってるって、ルル。マビューズはここまでだ。あいつはここでやらなくちゃならないことがあるからな」
俺の思考を読んだのか、フッツァが先に俺にそう言った。さすがはフッツァ、察しが良い男である。
「ありがとうございます、フッツァ」
「お? ようやく呼び捨てで呼んでくれる気になったのか?」
あれ、そうだっけ? これまでも度々呼んでた気もするけど、まあいっか。
「ええ、今後も期待してますよ、フッツァ」
俺は、ひとまずそう返しておいた。
「では、私は先行します。フッツァと義勇軍の皆様はこれまでと同じ流れでお願いします。マビューズは、リングブリムに救援物資を届けるためにも、奪還した前線にそれらを送る手筈をお願いします」
「ああ、任せろ。被害を出さずに、残った魔物を全滅させてやるぜ」
「お任せください、ルレーフェ殿。そのために、トラジアーデ男爵領からの支援物資をここまで運んでいるのですから。必ずやリングブリムに届けます!」
翌日、二人に指示を出して俺は旅立った。
目指すはドーウィの町、カルスス村、そしてリングブリムとの境にある西エオラーゼである。
それにしても、久しぶりにそこそこの時間、他人と一緒にいたので、なんかこうして一人に戻るとやはりちょっぴり寂しいな。
いやまあ、それもリングブリムにつくまでの話だ。あっちまでたどり着ければ、後はリングブリムの人たちとの共同戦線になるはずだ。
よーし、もう一息、頑張ろう!
「おりゃあああ!!」
俺は気合を入れなおして、街道にうろちょろしている魔物どもをザックザックと倒していったのだった。
――そして。
ドーウィの町、カルスス村、リングブリムとの境にある西エオラーゼ、ついでに東エオラーゼまで、二か月かけて、一気に攻略した。
早すぎるって?
いや、だって別に何にも起こんなかったし。
一人で魔物を斬って、進んで、また群れを見つけて斬って、進んで。その繰り返し。
村や町を開放したタイミングのみ、お風呂にありつけるご褒美付き。まあ、それも自分で沸かさないといけないけど。
マジでそれの繰り返しだから。
ところで、リングブリム領はいまだ健在とはいえ、さすがにレバーシー伯爵領との境目の街のエオラーゼは滅んでいた。となれば、持ちこたえている町まではこのまま進軍すべきなのだろう。
ここでフッツァたちを待っても良いが、それでは時間のロスになる。
ここはひとつ書置きを残して、先に進むとしよう。
あ、いや、今日はさすがにここで休むけどね。お風呂ご褒美デーだからさ。
まあ、このまま生きているリングブリム領に出くわすまでは西側を掃討しつつ、拠点を確保、生きている領地を見つけたらリングブリムと協力し、フッツァたちの軍と挟み撃ちして、西側を完全確保。レバーシー伯爵領とのパイプラインを繋ぐ。これがベストだ。
予想ではリングブリム最強の砦街ダグシェワ。
恐らくはそこが生きているリングブリム最西端であり、最前線に違いないだろう。
であれば、途中通過する村はひとつ、エレダグシェワの村のみである。
ちなみにこれは「ダグシェワの手前」という意味になる言葉である。
俺は、エレダグシェワの奪還に向かう旨の手紙をフッツァに向けて書き、元は酒場だったと思われる、廃墟の店のカウンターの上にそれを置いた。まあ、ここだったら 誰かしらの目には止まるだろう。
よーし、じゃあ、ご褒美お風呂タイムだ!
数日後には十数年ぶりのリングブリム領だ。
このまま一気に蹴散らすぞ!
……と。
ここまでの順調な行軍から、ついついそんな事を考えていた時期が、俺にもありました。
――一週間後。
エレダグシェワを通過して、ダグシェワまで目と鼻の先というところにまで差し掛かった時、そいつは俺の視線の遥か先にその姿を現した。
「……まじかよ」
巨大な体。
大きな翼。
頭に生えた二本の角。
「……ドラゴン」
俺は、地球で呼ばれていたその言葉を思わず口にした。
そしてその名称は、こちらの世界では別の呼び方に変換出来た。
『魔獣ゲージャ』と。
奴が向かっている先はたった一つ。
恐らくはリングブリムの最前線。ダグシェワの砦だった。
(第23話 『魔獣ゲージャ』へつづく)
レバーシー伯爵家はカートライア家と同じ二人兄妹。彼は長男で、下には妹のテイジア・レバーシーがいた。
魔物に侵攻された当初、彼は支援要求の為にトラジアーデ男爵領に使者として向かっていたようだ。そして領地に戻る前に、レバーシー伯爵領都の陥落を知ったらしい。
両親と妹を含めて家族の安否は不明。そのまま、最前線で戦っていたフッツァの隊に拾われて今に至る、とのことだった。
俺は伯爵邸に到着すると、中に入らずにそのまま建物を半周し、裏庭に向かった。そしてあの地下室の入口にマビューズを案内した。
「屋敷の魔物討伐の後に見つけました。この扉は内側から鍵がかかっていたため、私が破壊致しました」
「内側から?」
察しの良い人間ならば、この情報だけで大体の状況は察せられる。どうやらマビューズは思った以上に察しの良い人間の様だった。
俺とマビューズはゆっくりと階段を降り、例の地下室についた。
俺は手にしていたランプを彼に手渡した。
「お気を確かにお持ちください」
俺からランプを受け取ったマビューズは、ごくりと生唾を飲み込んで、そしてゆっくりとベッドに歩み寄った。
ベッドのそばに立った彼は、左手にランプを持ち替え、右手でそのベッドに掛けられた布の端をつまんだ。
「スー、ハー……」
静かな彼の呼吸だけが、その地下室に響き渡った。
マビューズは、少し手が震えていた。
きっとこの先目の当たりにするであろう、その光景を思い浮かべ、それに相対する覚悟を決めかねているに違いなかった。
そして、彼は数十秒の躊躇の後、ゆっくりとその布を捲った。
永遠にも思える、僅かな硬直。
「あああ、あああああああ……」
そして彼の口から、嗚咽がこぼれだした。
やがてその嗚咽は次第に大きくなり、叫び声へと変わっていった。
「ああああああ!!!!!! 母上! テイジア! ああああ!!」
そこには、ドレスを身に纏った高貴な身分であろう女性二人のミイラが横たわっていた。
「レバーシー伯爵は、魔物の侵攻を受け、ひとまずお二人をこの地下室に隠したのでしょう。無事に撃退し、再びここから出る事を前提として」
「あああああ……」
母と妹の変わり果てた姿を前に、マビューズはただただ涙を流していた。
「しかし、それは叶わなかった。魔物に喰われればその遺体は跡形も残りません。ですから伯爵のお姿は確認できませんでしたが、きっと最後までここで戦われたに相違ありません。そしてお母上と妹君は、最期まで御父上の言いつけを守り、御父上を信じて、決してトビラを開かなかった。弱り、衰弱死する最期まで」
マビューズは、寄り添うように、抱き合うように息絶えたその二人の遺体を前に、ただただ涙を流していた。
俺はその姿をただただ見守ることしか出来なかった。
どれだけの時間が過ぎただろう。
マビューズは、やがて意を決したように立ち上がった。
「ルレーフェ殿、二人を埋葬してもよろしいでしょうか?」
「……手伝いますよ」
俺の言葉を聞いて、マビューズは袖で自身の涙を拭きとると、俺の方に向き直った。その顔は何かの決意に満ちた様にも見えた。
「ル、ルレーフェ殿。何故あなたが、そんなに涙を流していらっしゃるのですか?」
マビューズにそう指摘されるまで、俺は自分で気づいていなかった。
俺は、頬を伝う程の、この薄暗い灯りの中でも明確に分かるほどの涙を流していた。
……そうか。
迂闊にも、俺は重ねてしまっていたのだ。
目の前で寄り添うように眠るマビューズの母君と妹君の姿に。
本当の姉妹のように仲睦まじかった二人。最期は俺が、二人が寄り添うように遺体をベッドに横たわらせたミューとエフィリアの姿を。
しかし、だ。
マビューズの妹君たちのご遺体が無事だったという事は、だ。
バリケードを張り、密室状態にしたあのエフィリアの寝室も無事である可能性が出て来た。
あの時は、俺の『この世界の理の外』というチート能力も分かっていなかったし、二人を埋葬する余裕はなかった。
しかし、もしもまだ、二人があのままならば、きちんと埋葬してやりたかった。十数年越しに俺はそう誓った。
いや寧ろ、気持ち悪い言い方をすれば、ミイラでも、白骨死体でも良い。もう一度、ミューとエフィリアに、彼女らの遺伝子として存在している有機物に触れたかったのかもしれない。
「いえ、大丈夫です。昔の辛い出来事を思い出してしまって」
「……そう、でしたか」
俺の言葉に、マビューズは追及しなかった。
俺たちは、二人の遺体を慎重に上へと運び出した。そして穴を掘って彼女らを埋葬し、墓標を立てた。
「遺体にお別れを言って、埋葬してあげられるだけでも、感謝しなくてはなりませんね」
マビューズは、鎮魂の祈りを済ませた後、静かにそう言った。その言葉には、俺も同意だった。
「ルレーフェ殿、私は、父上、母上、そしてテイジアの為にも、レバーシー伯爵家を復興させ、盛り立てていく事を今ここに誓います」
「はい。そのご決断、公爵家の人間として、しかと聞き届けましたよ。マビューズ・レバーシー伯爵」
俺のその言葉に再び涙を流しながら、マビューズは俺と力強い握手を交わしたのだった。
――それから一月後。
バベの町や無事である周辺地域から物資が届き、レバーシー領都はかなり過ごしやすい空間に変わっていた。
逃げていた元領都民も徐々に戻り始め、再び店が開き始めるのも時間の問題だった。
「付近の魔物の退治は引き続きしてはいるものの、未だここが最前線なのは言うまでもありません。ですので明日、私はリングブリムに向けての行程を再開しようと思います」
「ああ、俺もそろそろだと思っていたところだ」
俺の進言に、フッツァは同意した。
そもそもフッツァの最終目的はパリアペートの奪還である。その手前のレバーシー伯爵領を半分取り返したところでのんびりしている暇はないのだろう。
しかし、だ。彼は違う。彼には彼にしか出来ないことがある。
「分かってるって、ルル。マビューズはここまでだ。あいつはここでやらなくちゃならないことがあるからな」
俺の思考を読んだのか、フッツァが先に俺にそう言った。さすがはフッツァ、察しが良い男である。
「ありがとうございます、フッツァ」
「お? ようやく呼び捨てで呼んでくれる気になったのか?」
あれ、そうだっけ? これまでも度々呼んでた気もするけど、まあいっか。
「ええ、今後も期待してますよ、フッツァ」
俺は、ひとまずそう返しておいた。
「では、私は先行します。フッツァと義勇軍の皆様はこれまでと同じ流れでお願いします。マビューズは、リングブリムに救援物資を届けるためにも、奪還した前線にそれらを送る手筈をお願いします」
「ああ、任せろ。被害を出さずに、残った魔物を全滅させてやるぜ」
「お任せください、ルレーフェ殿。そのために、トラジアーデ男爵領からの支援物資をここまで運んでいるのですから。必ずやリングブリムに届けます!」
翌日、二人に指示を出して俺は旅立った。
目指すはドーウィの町、カルスス村、そしてリングブリムとの境にある西エオラーゼである。
それにしても、久しぶりにそこそこの時間、他人と一緒にいたので、なんかこうして一人に戻るとやはりちょっぴり寂しいな。
いやまあ、それもリングブリムにつくまでの話だ。あっちまでたどり着ければ、後はリングブリムの人たちとの共同戦線になるはずだ。
よーし、もう一息、頑張ろう!
「おりゃあああ!!」
俺は気合を入れなおして、街道にうろちょろしている魔物どもをザックザックと倒していったのだった。
――そして。
ドーウィの町、カルスス村、リングブリムとの境にある西エオラーゼ、ついでに東エオラーゼまで、二か月かけて、一気に攻略した。
早すぎるって?
いや、だって別に何にも起こんなかったし。
一人で魔物を斬って、進んで、また群れを見つけて斬って、進んで。その繰り返し。
村や町を開放したタイミングのみ、お風呂にありつけるご褒美付き。まあ、それも自分で沸かさないといけないけど。
マジでそれの繰り返しだから。
ところで、リングブリム領はいまだ健在とはいえ、さすがにレバーシー伯爵領との境目の街のエオラーゼは滅んでいた。となれば、持ちこたえている町まではこのまま進軍すべきなのだろう。
ここでフッツァたちを待っても良いが、それでは時間のロスになる。
ここはひとつ書置きを残して、先に進むとしよう。
あ、いや、今日はさすがにここで休むけどね。お風呂ご褒美デーだからさ。
まあ、このまま生きているリングブリム領に出くわすまでは西側を掃討しつつ、拠点を確保、生きている領地を見つけたらリングブリムと協力し、フッツァたちの軍と挟み撃ちして、西側を完全確保。レバーシー伯爵領とのパイプラインを繋ぐ。これがベストだ。
予想ではリングブリム最強の砦街ダグシェワ。
恐らくはそこが生きているリングブリム最西端であり、最前線に違いないだろう。
であれば、途中通過する村はひとつ、エレダグシェワの村のみである。
ちなみにこれは「ダグシェワの手前」という意味になる言葉である。
俺は、エレダグシェワの奪還に向かう旨の手紙をフッツァに向けて書き、元は酒場だったと思われる、廃墟の店のカウンターの上にそれを置いた。まあ、ここだったら 誰かしらの目には止まるだろう。
よーし、じゃあ、ご褒美お風呂タイムだ!
数日後には十数年ぶりのリングブリム領だ。
このまま一気に蹴散らすぞ!
……と。
ここまでの順調な行軍から、ついついそんな事を考えていた時期が、俺にもありました。
――一週間後。
エレダグシェワを通過して、ダグシェワまで目と鼻の先というところにまで差し掛かった時、そいつは俺の視線の遥か先にその姿を現した。
「……まじかよ」
巨大な体。
大きな翼。
頭に生えた二本の角。
「……ドラゴン」
俺は、地球で呼ばれていたその言葉を思わず口にした。
そしてその名称は、こちらの世界では別の呼び方に変換出来た。
『魔獣ゲージャ』と。
奴が向かっている先はたった一つ。
恐らくはリングブリムの最前線。ダグシェワの砦だった。
(第23話 『魔獣ゲージャ』へつづく)
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