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第一章
第33話 目標に向かって
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女神は人を蘇らせられることは出来ない。
世界に大きな力を及ぼすことは出来ない。
しかし、ベル様は言った。
『俺の願いがそういう事であるならば何とかできるかもしれない』と。
大丈夫だろうか? きちんと伝わっていただろうか?
俺の願いは、『もう一回、ミューやエフィリアと共に世界を生きたい』と、そういう事なのだから。
『あなたの願いは、その大切な人たちとの人生をやり直す事。で良かったですか? であれば、何とかできるかもしれません』
ベル様が念を押してくれた。
そしてそれは正に俺の欲しかったパーフェクトなお言葉だった。
「なんとかできる、とは、それは、ど、どういう事でしょうか?」
さすがにその言葉に食いついた俺はそう言うと、ベル様の言葉を待った。
そしてベル様は、少し考えて、口を開いた。
『我々は観測者です。創造した世界に手を加える事は出来ません。いいえ、あなたに分かり易く言い換えるならば、〈手を加える事を是として作られていない〉と言ったほうが良いかもしれませんね』
ううん、どういう事だろう? なんとなくは分かるが、正解の、正確なニュアンスが欲しい所である。
ことベル様との会話に関しては、少しでも先走りや誤解があってはならない。
「ベル様、申し訳ありませんが、『手を加える事を是として作られていない』の意味がいまいちよく分かりませんので、もう少し分かり易く教えて頂けませんでしょうか?」
俺の質問にベル様は、困ったように固まった。そして言葉を失ってしまった。
いかんいかん、相手は創造主。人間とのやり取りでは無いのだ。ベル様に応えやすい形式で質問しなくてはいけない。いい加減学べ、俺!
「すみませんベル様、質問を変えます。『是として作られていない』という言葉を使って、別の例文を作って貰えますでしょうか?」
これなら問題ないはず。ベル様にとって、この言葉のニュアンスはひとつしかない。であればその例文は限りなく本意に近いものが出てくるはずだ。
『そうですね……〈人間は自分の心臓を自分で止めること、それを是としては作られてはいない〉という感じでしょうか』
……なるほど、良く分かった。
ちなみにこれは「『自殺すること』を是としては作られていない」という意味ではない。
哀しいかな、人間は自殺することを是として作られているのだから。それは、年間の自殺者の多さを見ても明らかである。
溺死であろうと、失血死であろうと、その場合、心臓が止まる、という現象は、あくまでも『最終的な結果』である。
自殺を図らずに、つまり、呼吸も止めずに、一滴も血を流さずに、薬も飲まずに、何のウィルスにも感染せずに、意志だけで「はいっ! 止める!!」と、物理的に心臓の鼓動を直接止める、と言うのは不可能だ。
つまりは、そういう事なのだろう。
「ありがとうございます。良く分かりました。続きをお願い致します」
俺の促しに、ベル様は頷き、続きを話し始めた。
『はい、しかし、時間軸の観測点を変えることは出来ます。これが、先ほどのあなたの質問、ここで過ごした数年を、たったの一秒にすることが出来る、という答えになります』
「つまり、過ぎ去った一年分を戻して、あちらの世界の一秒後にする、と、そういう事でしょうか?」
『少し違いますが、そういう風に解釈してもらえれば問題ありません』
なるほど、女神様たちは、大きな力を及ぼせない分、時間軸、という部分に関してのみ、無敵に近い力を持っている様であった。
『本来は無意味ですので、やることもありません。
例えば、地球で核戦争が起こり、人類が滅亡するとします。そこでその一年前に観測点を戻したとしても……つまり、一年前に時間を戻したとしても、結局一年後に核戦争で人類が滅亡する結果は変わりません。その一年の間の、地球の全人類の、その行動、発する言葉においてさえ、結果が変わらないのですから』
DVDを戻したところで、結果は変わらない。
だから、結果が変わることを願ってDVDを戻して再生したところで意味はない。
そういう事だろう。
あ、なるほど。
俺はピンときた。
「つまり、女神さまが観測点を戻して、そこに俺を送り込めば、違う行動を意識的に取ることの出来る俺にとっては、過去からやり直せる事と同義、と、つまりはそういう事でしょうか?」
『はい』
「しかし、今この場にウル様が存在できない以上、観測点をずらす、つまり過去に戻すことが出来ない、と」
『はい、ですから、あなたには続きをお願いすることになります』
読めて来た。そして、明確に、俺の仲に一縷の光明が見えた。
まとめよう。もの凄いざっくり言うけど。
現状ラルアー世界をタイムリープ出来る女神様が囚われの身。
だから、その拘束の元凶をぶっ壊す。
すると、女神さまが自由になる。
その状態で、女神さまに観測点をずらしてもらって、つまり過去に戻ってもらって、俺が良い感じの所に入り込む、と。
なんだ、完璧じゃないか!
いや、しかし、だ。
「しかし、その場合、俺が倒した元凶も復活してしまうのではないでしょうか?」
時間を戻す、ということはそういう事になる。
ん? でも、ウル様は自由の身なわけで、でも元凶が元通りになると、ウル様はまた不自由になるから、あれ?
『それは問題ないでしょう』
若干混乱気味の俺に、ベル様が、助け船をくれる。
『観測者が戻れば、世界はいつ、どこからでも回せます。そして、観測者不在で回っていた世界が、観測者が居る状態で回るだけのこと』
「うーん、分かりました」
いや、わかんない!
少なくとも、一地球人の常識と思考の範疇を超えている。
でもまぁ、ともかく俺が魔王を倒して全てが取り戻せるなら、もうそれでいい。
正直、ルールがブレイクされた前の世界と、後の世界との整合性が取れなさそうな感じもする。
途中でルールが変わる、ということはそういう事だ。
しかしともかく、この問題は、無事にルールをブレイクしてからだ。難しい事はその後だ。
そう腹をくくると、俄然やる気が湧いて来た。
俺が元凶を絶ち、世界を救う。
そして、ミューやエフィリア達との人生をやり直すんだ。
魔王がいない世界、きっとより幸せな世界を生きて行けるだろう。
待っててくれ、ミュー、エフィリア。必ず、俺が、運命を変えてやる。
「ベル様、それでは次の人生に進みたいと思います。その前に一つ、最後の質問を宜しいでしょうか?」
『ええ、どうぞ』
今の俺は、正直無敵である。
何度もやり直しができ、何度もラスボスに挑むことが出来るのだ。
そして一度勝てれば、それで俺の勝利。もはや時空と世界を超えたチートと言っても過言ではない。
だからこそ、気になった。
人間、浮かれているときにこそ足をすくわれるものなのだ。
「ベル様。この俺の挑戦において、失敗条件はありますでしょうか? つまり、もう俺がここに戻って来られない。戻って来られても再開できない。そんな可能性はありますでしょうか?」
ここさえ問題なければ、チート確定である。
頼む! 失敗条件は無い、と。無限に戦える、と、そう言ってくれ!
しかし、ベル様は、ハッとしたように息をのむと、何かを口にしようとした。しかし、その言葉を発せられなかった。何度も、何度も、ベル様は他の言葉で言い換えようとするが、どれも言葉にならない。恐らくは、俺の知らない、ラルアーの情報に直結する内容なのだろう。
なんだ?
もう既に、あの世界で17年も生きて来た俺がまだ知らない情報があるのだろうか。
やはり、フェリエラ期に生を受け、そこで生きてみなくてはなるまい。聖女にも魔法使いにも会う必要がありそうだ。
何度もチャレンジするベル様に申し訳ない気持ちになった。
少なくとも、何らかの失敗条件はある。それが分かっただけでも良しとしよう。その条件は、俺が解明してやればよいのだ。
俺がベル様に、もう大丈夫です、と言おうとした、その時である。ベル様の口から、言葉が漏れ出した。
『……慎重に。貴方の正体と目的を……』
と、ベル様はそれだけを言った。
十分だった。
今のでわかった事がある。
俺が異世界から来て、ルールをブレイクしようとしている。
もしもそれが魔王にバレれば、ルールを変更される恐れがある。ということだろう。
例えば、
『別の世界の者に殺されても、復活する』と。
そして、付け加えるならば、魔王は、ルールを書き換える事が出来る。という事もわかった。
危ない危ない。
あの時、「魔物の生まれ変わり」なんてでまかせを言っておいて良かったぜ。
「ありがとうございます。それだけで十分です」
『……そうですか、良かった』
「ええ、あなたが選んだ、あなたの世界の代表を信じて下さい」
その言葉に、ベル様が微笑んだような気がした。
こうして、俺は再び、ラルアー世界に舞い戻ることとなった。
「あ、そうだ、ベル様。その、あちらの世界で『魔法使い』に生まれる事は出来ますでしょうか?」
『残念ながら、難しいですね。あの世界の設定では、貴方として産まれた赤ん坊が、その力を持った人間だと認識するのは、数年後の未来になります。私にはそれを予知出来ません。ウルがこの場に居れば、観測点をずらせるので、容易い事なのですが』
まぁ、そんな気はした。なに、出来ない事を嘆いても仕方無い。それに、全くもって可能性が無いわけじゃない。
フェリエラ期に産まれる事だけは確定しているのだ。運良く魔法使いの力を持って産まれる事を願うばかりである。
ってか、俺が本当に異世界転生主人公なら、ご都合主義振りかざして、かなりの確率で魔法使いになれるんじゃねえか?
前回はヴィ・フェリエラ期に産まれたから、抽選すら受けられなかった。しかし、次回はその抽選を受けられる。そんな展開、もしラノベだったら確実に魔法使いに産まれるだろ?!
あ、危ない危ない、忘れるところだった。もう一つお願いしなくてはならないことがあった。
「ベル様、では次回は、王族に産まれる事って出来ますか? 調べてみたいことがありますので」
『少し、お待ちくださいね』
ゲートをくぐろうとする前の、俺の追加の最後のお願いに、ベル様はそう言うと、一瞬光に包まれ、姿を消した。
そして再び現れると、俺にこう言った。
『どうも、王族に近々子供が生まれる様子は無さそうですね。次の世代まで待つのならばそれでも構いませんが』
「いえ、それなら結構です」
うーん、それは残念。
何故魔王が王都に現れないか。それを探るのに都合がよいと思ったのだけど。
にしても、今一瞬消えたのは、力を使って、ラルアー世界を調べた、という事だろう。それだけでもここから消えるくらいは力を使うという事か。そりゃあ、いちいち俺のあちらでの人生を観測することなんて、確かに無理そうである。
ラルアー世界の女神ウル様が、どれだけ大変な事をしているのかが推し量れた。
「では、今までと同じ条件で構いません。公爵家か侯爵家を優先にして頂ければ」
『分かりました。ではそのように』
こうして、俺はゲートをくぐり、再びあのラルアー大陸に産まれ落ちる事となった。
見ていろ、今度こそ、絶対にあの世界のルールをブレイクしてやる。
そして、いつか再び、ミューやエフィリアと出会うために。再び、ヴァルクリス・カートライアとしての一生を全うするために。
「今は魂かもしれないが、待っていてくれ、ミュー、エフィリア」
俺は、その、向かうべき目標を、心に誓ったのであった。
……しかし。
「魔王にルールを変更される」
俺は先程、自分の心の中で言った、その一言の違和感に、気づくことは出来なかった。
- 第一章『ヴァルクリス・カートライア編』 完 -
(第二章 第1話『魔物の侵攻』へつづく)
世界に大きな力を及ぼすことは出来ない。
しかし、ベル様は言った。
『俺の願いがそういう事であるならば何とかできるかもしれない』と。
大丈夫だろうか? きちんと伝わっていただろうか?
俺の願いは、『もう一回、ミューやエフィリアと共に世界を生きたい』と、そういう事なのだから。
『あなたの願いは、その大切な人たちとの人生をやり直す事。で良かったですか? であれば、何とかできるかもしれません』
ベル様が念を押してくれた。
そしてそれは正に俺の欲しかったパーフェクトなお言葉だった。
「なんとかできる、とは、それは、ど、どういう事でしょうか?」
さすがにその言葉に食いついた俺はそう言うと、ベル様の言葉を待った。
そしてベル様は、少し考えて、口を開いた。
『我々は観測者です。創造した世界に手を加える事は出来ません。いいえ、あなたに分かり易く言い換えるならば、〈手を加える事を是として作られていない〉と言ったほうが良いかもしれませんね』
ううん、どういう事だろう? なんとなくは分かるが、正解の、正確なニュアンスが欲しい所である。
ことベル様との会話に関しては、少しでも先走りや誤解があってはならない。
「ベル様、申し訳ありませんが、『手を加える事を是として作られていない』の意味がいまいちよく分かりませんので、もう少し分かり易く教えて頂けませんでしょうか?」
俺の質問にベル様は、困ったように固まった。そして言葉を失ってしまった。
いかんいかん、相手は創造主。人間とのやり取りでは無いのだ。ベル様に応えやすい形式で質問しなくてはいけない。いい加減学べ、俺!
「すみませんベル様、質問を変えます。『是として作られていない』という言葉を使って、別の例文を作って貰えますでしょうか?」
これなら問題ないはず。ベル様にとって、この言葉のニュアンスはひとつしかない。であればその例文は限りなく本意に近いものが出てくるはずだ。
『そうですね……〈人間は自分の心臓を自分で止めること、それを是としては作られてはいない〉という感じでしょうか』
……なるほど、良く分かった。
ちなみにこれは「『自殺すること』を是としては作られていない」という意味ではない。
哀しいかな、人間は自殺することを是として作られているのだから。それは、年間の自殺者の多さを見ても明らかである。
溺死であろうと、失血死であろうと、その場合、心臓が止まる、という現象は、あくまでも『最終的な結果』である。
自殺を図らずに、つまり、呼吸も止めずに、一滴も血を流さずに、薬も飲まずに、何のウィルスにも感染せずに、意志だけで「はいっ! 止める!!」と、物理的に心臓の鼓動を直接止める、と言うのは不可能だ。
つまりは、そういう事なのだろう。
「ありがとうございます。良く分かりました。続きをお願い致します」
俺の促しに、ベル様は頷き、続きを話し始めた。
『はい、しかし、時間軸の観測点を変えることは出来ます。これが、先ほどのあなたの質問、ここで過ごした数年を、たったの一秒にすることが出来る、という答えになります』
「つまり、過ぎ去った一年分を戻して、あちらの世界の一秒後にする、と、そういう事でしょうか?」
『少し違いますが、そういう風に解釈してもらえれば問題ありません』
なるほど、女神様たちは、大きな力を及ぼせない分、時間軸、という部分に関してのみ、無敵に近い力を持っている様であった。
『本来は無意味ですので、やることもありません。
例えば、地球で核戦争が起こり、人類が滅亡するとします。そこでその一年前に観測点を戻したとしても……つまり、一年前に時間を戻したとしても、結局一年後に核戦争で人類が滅亡する結果は変わりません。その一年の間の、地球の全人類の、その行動、発する言葉においてさえ、結果が変わらないのですから』
DVDを戻したところで、結果は変わらない。
だから、結果が変わることを願ってDVDを戻して再生したところで意味はない。
そういう事だろう。
あ、なるほど。
俺はピンときた。
「つまり、女神さまが観測点を戻して、そこに俺を送り込めば、違う行動を意識的に取ることの出来る俺にとっては、過去からやり直せる事と同義、と、つまりはそういう事でしょうか?」
『はい』
「しかし、今この場にウル様が存在できない以上、観測点をずらす、つまり過去に戻すことが出来ない、と」
『はい、ですから、あなたには続きをお願いすることになります』
読めて来た。そして、明確に、俺の仲に一縷の光明が見えた。
まとめよう。もの凄いざっくり言うけど。
現状ラルアー世界をタイムリープ出来る女神様が囚われの身。
だから、その拘束の元凶をぶっ壊す。
すると、女神さまが自由になる。
その状態で、女神さまに観測点をずらしてもらって、つまり過去に戻ってもらって、俺が良い感じの所に入り込む、と。
なんだ、完璧じゃないか!
いや、しかし、だ。
「しかし、その場合、俺が倒した元凶も復活してしまうのではないでしょうか?」
時間を戻す、ということはそういう事になる。
ん? でも、ウル様は自由の身なわけで、でも元凶が元通りになると、ウル様はまた不自由になるから、あれ?
『それは問題ないでしょう』
若干混乱気味の俺に、ベル様が、助け船をくれる。
『観測者が戻れば、世界はいつ、どこからでも回せます。そして、観測者不在で回っていた世界が、観測者が居る状態で回るだけのこと』
「うーん、分かりました」
いや、わかんない!
少なくとも、一地球人の常識と思考の範疇を超えている。
でもまぁ、ともかく俺が魔王を倒して全てが取り戻せるなら、もうそれでいい。
正直、ルールがブレイクされた前の世界と、後の世界との整合性が取れなさそうな感じもする。
途中でルールが変わる、ということはそういう事だ。
しかしともかく、この問題は、無事にルールをブレイクしてからだ。難しい事はその後だ。
そう腹をくくると、俄然やる気が湧いて来た。
俺が元凶を絶ち、世界を救う。
そして、ミューやエフィリア達との人生をやり直すんだ。
魔王がいない世界、きっとより幸せな世界を生きて行けるだろう。
待っててくれ、ミュー、エフィリア。必ず、俺が、運命を変えてやる。
「ベル様、それでは次の人生に進みたいと思います。その前に一つ、最後の質問を宜しいでしょうか?」
『ええ、どうぞ』
今の俺は、正直無敵である。
何度もやり直しができ、何度もラスボスに挑むことが出来るのだ。
そして一度勝てれば、それで俺の勝利。もはや時空と世界を超えたチートと言っても過言ではない。
だからこそ、気になった。
人間、浮かれているときにこそ足をすくわれるものなのだ。
「ベル様。この俺の挑戦において、失敗条件はありますでしょうか? つまり、もう俺がここに戻って来られない。戻って来られても再開できない。そんな可能性はありますでしょうか?」
ここさえ問題なければ、チート確定である。
頼む! 失敗条件は無い、と。無限に戦える、と、そう言ってくれ!
しかし、ベル様は、ハッとしたように息をのむと、何かを口にしようとした。しかし、その言葉を発せられなかった。何度も、何度も、ベル様は他の言葉で言い換えようとするが、どれも言葉にならない。恐らくは、俺の知らない、ラルアーの情報に直結する内容なのだろう。
なんだ?
もう既に、あの世界で17年も生きて来た俺がまだ知らない情報があるのだろうか。
やはり、フェリエラ期に生を受け、そこで生きてみなくてはなるまい。聖女にも魔法使いにも会う必要がありそうだ。
何度もチャレンジするベル様に申し訳ない気持ちになった。
少なくとも、何らかの失敗条件はある。それが分かっただけでも良しとしよう。その条件は、俺が解明してやればよいのだ。
俺がベル様に、もう大丈夫です、と言おうとした、その時である。ベル様の口から、言葉が漏れ出した。
『……慎重に。貴方の正体と目的を……』
と、ベル様はそれだけを言った。
十分だった。
今のでわかった事がある。
俺が異世界から来て、ルールをブレイクしようとしている。
もしもそれが魔王にバレれば、ルールを変更される恐れがある。ということだろう。
例えば、
『別の世界の者に殺されても、復活する』と。
そして、付け加えるならば、魔王は、ルールを書き換える事が出来る。という事もわかった。
危ない危ない。
あの時、「魔物の生まれ変わり」なんてでまかせを言っておいて良かったぜ。
「ありがとうございます。それだけで十分です」
『……そうですか、良かった』
「ええ、あなたが選んだ、あなたの世界の代表を信じて下さい」
その言葉に、ベル様が微笑んだような気がした。
こうして、俺は再び、ラルアー世界に舞い戻ることとなった。
「あ、そうだ、ベル様。その、あちらの世界で『魔法使い』に生まれる事は出来ますでしょうか?」
『残念ながら、難しいですね。あの世界の設定では、貴方として産まれた赤ん坊が、その力を持った人間だと認識するのは、数年後の未来になります。私にはそれを予知出来ません。ウルがこの場に居れば、観測点をずらせるので、容易い事なのですが』
まぁ、そんな気はした。なに、出来ない事を嘆いても仕方無い。それに、全くもって可能性が無いわけじゃない。
フェリエラ期に産まれる事だけは確定しているのだ。運良く魔法使いの力を持って産まれる事を願うばかりである。
ってか、俺が本当に異世界転生主人公なら、ご都合主義振りかざして、かなりの確率で魔法使いになれるんじゃねえか?
前回はヴィ・フェリエラ期に産まれたから、抽選すら受けられなかった。しかし、次回はその抽選を受けられる。そんな展開、もしラノベだったら確実に魔法使いに産まれるだろ?!
あ、危ない危ない、忘れるところだった。もう一つお願いしなくてはならないことがあった。
「ベル様、では次回は、王族に産まれる事って出来ますか? 調べてみたいことがありますので」
『少し、お待ちくださいね』
ゲートをくぐろうとする前の、俺の追加の最後のお願いに、ベル様はそう言うと、一瞬光に包まれ、姿を消した。
そして再び現れると、俺にこう言った。
『どうも、王族に近々子供が生まれる様子は無さそうですね。次の世代まで待つのならばそれでも構いませんが』
「いえ、それなら結構です」
うーん、それは残念。
何故魔王が王都に現れないか。それを探るのに都合がよいと思ったのだけど。
にしても、今一瞬消えたのは、力を使って、ラルアー世界を調べた、という事だろう。それだけでもここから消えるくらいは力を使うという事か。そりゃあ、いちいち俺のあちらでの人生を観測することなんて、確かに無理そうである。
ラルアー世界の女神ウル様が、どれだけ大変な事をしているのかが推し量れた。
「では、今までと同じ条件で構いません。公爵家か侯爵家を優先にして頂ければ」
『分かりました。ではそのように』
こうして、俺はゲートをくぐり、再びあのラルアー大陸に産まれ落ちる事となった。
見ていろ、今度こそ、絶対にあの世界のルールをブレイクしてやる。
そして、いつか再び、ミューやエフィリアと出会うために。再び、ヴァルクリス・カートライアとしての一生を全うするために。
「今は魂かもしれないが、待っていてくれ、ミュー、エフィリア」
俺は、その、向かうべき目標を、心に誓ったのであった。
……しかし。
「魔王にルールを変更される」
俺は先程、自分の心の中で言った、その一言の違和感に、気づくことは出来なかった。
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