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第二章

近接戦だけで事足りる固定砲台

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勘違いに拍車のかかる人間のオスを諦めさせるために決闘を受けることにしましたけど。
何も成長しておりませんね。

「決闘のルールは制限なし、本気で来なさい。死ぬかもや殺してしまうかもなどと手を抜くことは許しません。何より、そんな甘さでは、この先、戦いなど出来はしません。勇者は、子供を差し向ければ勝てるなどと吹聴されれば、誰が傷つくことになるかは、分かることでしょう」
剣で充分ですね。

「勝敗は、戦闘続行不可能になるか、死ぬかで負けという事で、では、構えなさい」
「君の怒りは理解したし、どうしようもない自分にも腹が立つ。だが、悪いが勝たせてもらう」
ふむ、その覚悟は褒めましょう。
ですが、それだけですね。

「剣聖技 閃刃一刀」
「その技は、もう見切った!」
いや、盾で防ぎなさい。
威力がないことに気づけてないじゃないですか。
大元に剣を合わせてしまえば、無力化できるのは確かですけど。
そんな面倒なことをしてどうするんですか。
剣士ならまだしも、盾役がやることではありませんね。

「今度はこちらから行くぞ!」
「……遅い、剣聖技 閃刃一刀 崩し 二連」
単純に、2回放つのではなく、速度が一つ一つバラバラになるので、合わせにくくなる。
ほんと、あの剣聖は人間であることを辞めていると思います。
魔法で再現しないと、腕の筋肉が引きちぎれますよ。

「くっ、だが、その程度なら、超えてみせる!」
強引に突破すればいいだけですよ。
まったく、私と互角の近接戦なんて、情けないと思わないのですか?

「剣聖技 終刀一閃 崩し 逆巻」
終刀一閃は、閃刃一刀の逆。
数多の剣閃となるべきものを、一つに圧縮する。
意味が分からないのは、正常です。
私も分かりませんから。
なので、これはある意味において、私のオリジナルです。
魔法で行う、剣閃を圧縮して、重ねております。
逆巻は、それをインパクトの瞬間に、解放することで、重なっていた剣閃が弾け、切り裂きます。
所詮は、初見殺しの芸事のような技です。

「ぐっ、まだだ、まだ行ける!」
「剣聖技 紫電」
神速の抜刀による、空気との摩擦で雷を纏うが如き一撃。
などと、剣聖は言っておりましたが、こんなもの、魔法でやれば、簡単なんですよ。
私の場合、刺突剣なので、超速の突きになりますが。
電磁的な加速をさせれば大した力は必要ありませんし。

「ヘビーストライク!」
「遅い!」
全く、まだ気付かないのですか。
剣技もどきに付き合う必要などないのだと。
精霊王に頼まれていなければ、こんな面倒なこと引き受けたりしませんのに。

「ぐっ、まだだ、まだ終われない。俺を助けてくれた、あの人のためにも!」
「……へぇ」
気が変わりました。
もういい加減、成長とやらに期待するのも終わりです。

剣を消して、距離をとる。
後は、動く必要も無い。

「師匠に対して、何とも思ってないことは、よく分かりました。加減はやめましょう。ルールに基づき、本来のハイエルフの戦いをしてあげます」
消え失せろ。

「ファイアーボール」
さぁ、踊れ、人間のオス。

「なっ、一度にこれほどの数を放てるだと! くっ、ホーリーウォール」
視界を塞ぐとは、馬鹿なんですね。

「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」
そら、全部で60ぐらいですかね。
死ぬ気で防ぐといい。
なんなら、死ねばいい。

「アンチマジックスフィア!」
なるほど、確かに、卑怯な手でもどうぞと許可した以上、問題はありませんね。
獣人のメス。
私が、魔法職なだけであれば、完璧な援護です。

「カイト! 大丈夫? こっから私も手伝うから、2人で倒そう」
「すまない、助かった。そうだな、俺達は2人でたくさんの困難に打ち勝ってきたんだ、今回も乗り越えるぞ」

やはり、15年間、交尾してたんじゃないですか?
私に勝てると思ってるんですか?
Cランク程度のスカウトに、Bランク程度のパラディン如きで?

「茶番は終わりでいいですか? それじゃあ、いきますよ、ファイアーボール」
メテオぐらい大きくしてぶつけてあげましょう。

「ここは聖域なりて、害するものを阻む! サンクチュアリ」
対魔領域、サンクチュアリですか。
正面から受けるとは、馬鹿なんですね。
獣人のメスに遊撃を頼み、押し潰すぐらいの勢いで距離を詰めてこないと、私からすれば的ですよ。
「サークルボルト」
雷撃を円形に展開し、内側の存在を締め上げるだけの簡単な魔法。
もちろん、威力なんて望めない。
初級の魔法なのだから、当然。
だからこそ、これで充分。

超越種とは、人を遥かに凌牙する。
そんな理不尽な存在なのだから。

「なん、なんなんだ、これは」
「嘘、こんな事って」

何を悲観しているのです?
2人なら、私を倒せるのでしょう?
当時、ソロのAランクだったスカウトの師匠を役立たずと呼んだのです。
これぐらい、どうとでもなるでしょう?
私の師匠なら、切り抜けますよ。
障壁となっている聖域を解除し、前方に、魔を弾く杭を刺し、無理やりに隙間を作り、駆け抜けるとか、サークルボルトより高く跳び、範囲外に逃れるとか、そんなやり方で脱出します。
ハイエルフと魔法で対抗するなんて、悪魔や魔族のような、特殊な種族がやることです。

サンクチュアリでまともに受け止めるには、練度が足りませんよ。
人間のオス。

「砕け散れ」

サンクチュアリは粉々になり、内側にいたものは、焼け焦げながら、潰れて死ぬはずだった。


「聖剣、その辺にしておきなさい。やめてあげますから」
まだ幼い人間のメスのような姿の精霊が、その身を盾にしながら護ろうなんてしなければ、そうなっていたことでしょう。

泣きそうな顔で、こちらに懇願なんてしなければ、まとめてグチャっとするつもりでしたが、言わなきゃ分からない範囲でしょう。


なんですか、聖剣。
その魔王でも見たかのような表情は?
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