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第二章

淑女の嗜みでしてよ

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あれから、魔導弓の扱いをメインに教わっているのですけれど、難しいですわね。
主に、飛距離という面で。

「意外です。アナスタシア様がこんなに弓が上手いとは」
「わたくしの元婚約者様は、狩りが趣味でしたので、わたくしも話が合わせられるようにと練習していただけですわ。貴族の令嬢であれば、淑女の嗜みの範疇ですわよ」
そう言いつつ、受付嬢さんが的として発動している鬼火という魔法を撃ち抜く。
フワフワと不規則に動き回るので、狙い撃つのが難しいですわ。
特に距離を伸ばそうとすると、狙いが荒くなるんですのよ。

「視界の彼方と言っていい距離に当てるなんて芸当が嗜みなんですね」
「当然ですわ、狩りとはどんな獣を相手取るにしろ、危険が付き物。殿方であれば、剣や魔法を用いた戦闘行為も可能でしょうが、令嬢であるわたくし達は、少しでも距離を置くために曲射も練習しますのよ? 血に汚れるようなことは、騎士を目指す者以外は、あってはならない事なのですから」
曲射に関しては魔力を使って、超速で撃ち、落下時に更なる加速を与えるので、普通に真っ直ぐ加速させて撃つ方が遥かに難易度が低いのですけれど。

「なるほど、曲射することで、矢を獲物の視線から外し、油断を誘うと、さらに、混戦時に仲間の隙間を縫うより、上から下へと落とす軌道で、邪魔をしないと。理にかなっておりますね。難易度を度外視すれば」
「ましてや、この魔導弓では、曲射は無理ですわね、放つのは矢ではありませんから。それなら狙撃地点に直接出現させる方が難易度が低くなりそうですわ」
つまりは、事実上不可能。
そんな魔法は存在しない。
スキルにはあるのですけれど。
努力で身につくものではありませんわ。
元から持っている類のものですから。

「しかし、これなら特に注意することもありませんね。間違って魔物を撃たないでくださいなんてのは、分かりきってるようですし」
手負いの魔物に間違ってヒール掛けちゃいました。
なんてことしたら、わたくしが討伐されますわね。
テイマーなどが連れている従魔であれば良いでしょうが。

「それよりも、なんでわたくしに魔導弓なんて教えてくださるのかしら? そろそろ説明してくれても良いのではなくて?」
さすがに、気になって仕方ありませんのよ。
これは、戦場に立てと言われているように思えますもの。

──────────────────
それは、最悪のリッチとして出現した。
リッチとは、アンデッドの1つ、魔法を使うアンデッドという認識で構わない。
生前に魔法職だったものが、恨みや執着などの様々な負の感情を強く持ったものが成り果てる存在だ。
それ故に、大半が近接戦闘に弱く、ヒールなどの聖属性や光属性の魔法であっさりと死ぬ。
いや既に死んでいるのだから、ちゃんとした死を与えると言うべきかもしれない。
さておき、基本的にリッチとは厄介ではあるが、倒せないような存在ではない。
ただし、元となる人物によっては、討伐が不可能になることがある。
ひとつ、聖職者がリッチになった場合である。
この場合、ヒールなどは一切効かない。
それでいて、聖域などの広範囲デバフ領域を作り、優位性を覆してくるのだ。
だが、結局のところ近接戦闘ができる訳では無いため、倒すことは可能だ。
問題は、元となった人物がバトルメイジであった場合である。
前衛ができる魔法職がリッチ化することにより、より強力な魔法を手にすることになり、手がつけられなくなるのだ。
近接戦闘を容易く対処し、極大な威力の魔法を乱発しつつ、デバフも駆使するだけでなく、スケルトンなどを配下とし軍団も使役する。
まともな手段で、これを倒すことは不可能であろう。
つまり、まともではない手段でそれを成そう。
これはただ、それだけの話。
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