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第三幕

待ってくれる人のために

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「さてと、到着しましたよ!」
「あっさりし過ぎて困ってます」
そりゃあ、みんなが暴れ回ってる中、誰にも気づかれることなく移動を済ませば、そんなものですよ。
「まさか、ここまでたどり着く者がいるなんてね」
「やぁやぁ勇者様、死ぬ準備は出来てるかしら? 数の有利はないよ」
転移で無理やり放り出す。
「いった! もう少し丁寧に扱いたまえ」
のんびりしまくってたやつに言われたくない。
「魔王2人に、特殊な勇者か」
女神様の元に1人、2人は盾役かな?
女神様は何やら球状の物に取り込まれてる。
無様。
「たとえ君たちが魔王であっても、僕達には届かない」
「だとしても、世界を破滅させるわけにはいきません。聖女として、勇者を止めるのが責務です」
「こっちも、一応正式な魔王なのでな、悪いが引くわけにもいかぬ」
さて、お2人が目立ってくれて助かります。
余計な戦闘なんてする必要も無い。
ただ、勝てばいいのだから。
「1発殴るのだけは譲れませんよねー」
「いったーい!」
誤認って何に対して使うかによってもたらす効果が違う。
例えば、私を見た時に全くの別人に見えるようにっていうのは、私自身の持つ情報に違う情報が上乗せされている感じ。
この偽の情報を読み取ったものが誤った認識をするのだ。
さて、ではその対象となる存在はどこまで広げられるかという問題が出てくる。
答えは、認識する知能があるのなら全てをその対象に入れることが出来る。
そう、世界そのものを騙してみせる。
「勇者であれ、なんであれ、今この場で確実に倒せる手段を行使する。その為だけに私は精霊王から役割を与えられたんですよね」
「ねー、いーたーいー!」
うるさい女神ですね。
「なにが、おき、た」
「私に殺された。ただ、それだけですよ」
余計な力を全て削ぎ落として、一点特化させたのが今の私。
スキル統合。
たくさんのスキルではなく、1つのスキルに付随する技とすることで、システムから外す荒業。
私はその全てを誤認に統合し、世界にとんでもない嘘情報を読み込ませた。
今までのスキル練度全てを誤認に当てていたというデタラメな嘘である。
これにより、システム内におかしな計算式が入れこまれ、私の誤認スキルは一時的にとんでもない力になったのだ。
後は、ギリギリまで誤魔化し続けここまで来るだけ。
「さて、女神様? 大仕事が待ってますよ」
「うわぁ! 何これ破滅寸前じゃないの!」
こいつ、捕らわれてる間何もしてないな?
「誰のせいですか! 手伝いますからさっさとやりますよ」

「そうは行きませんよ」
深々と突き刺さる剣に呆然となる。
「残念ハズレ、この子には、まだ役割があるの」
女神様に突き飛ばされたと思えば、カリーナ様が女神様を刺し貫いていた。
「寄生スキル……」
「ちっ、まぁいいや、女神は無力化したし、あとは」
「着装、合成魔眼 暴喰」
視界に映る存在全てを魔力へと変換し、自らに取り込む。
許容範囲を超えるものは、誤認で誤魔化す。
今この瞬間以外に勝ちの目はない。
「嘘でしょ…… こんなにあっさり終わらせるとか有り得ないんだけど」
カリーナ様は無事、女神様は力なくしたけどセーフ。
私は、やばい。
破裂しそう。
「おい、今すぐ世界に向けてその力を使え、調整なんてものは考えるでない」
言われなくても分かってる。
このままだと、私だけじゃなくて全てが台無しになる。
「システム復旧は後回し、破滅の要因の指定、汎用勇者強制送還、スキル剥奪。正式な勇者強制送還、この世界の要因だけ排除。女神の力の修復、開始。神域結界修繕。溢れた魔力の循環、獣を魔物へと変貌、浄化のプロセスを構築。システム構築、生来スキル努力スキル排除。スキル取得難度を設定、才能による差別化設定、構築完了。残存魔力許容限界までダウン。吸収開始、全機能凍結、休眠を設定」
そして、世界は変貌した。


数十年後
「あー、もうなんで矛盾設定を放置するんですか、そんな事するから破滅しかけたんですからね!」
「これで今まで上手くいったもん、大丈夫大丈夫」
ぶん殴る。
「エルちゃん痛いの」
「ちゃんと仕事したら撫でてあげます」
「やった!」
何この子、めんどくさい。

結局、予定外な乱入により大惨事になりかけた世界は私の緊急対処でどうにか保ち、私が休眠を終えるまでの約50年ぐらいは目が覚めた女神様が何となく眺めるという形でしのいだ。
ただ、女神様は随分と幼い感じで再構築されたのか、かなりめんどくさい。
と言うか私は早く帰りたい。
「女神様、力はどの程度戻りました?」
「エルちゃんより強いぐらいには戻ったけど、割合で言うなら元の3分の1ぐらい」
まだしばらくこっちに居ないといけませんねー。
「となると、端から端までは目が届きませんね、仕方ありません半分は私が担当しますよ」
「3割ぐらい削ったら楽だと思う」
引っぱたいておいた。
「痛いの……」
「楽しないで頑張るんですよ」
実際、この空間に1人でいたら私もサボり癖がつくと思う。
何にもないもん。
時折、様子を見ておかしいようなら修正。
デバッグに近い作業を1人でやり続けるのだ。
段々と雑になるだろう。
「エルちゃん、精霊姫やめる気ない?」
「どんなに時間がかかっても、寿命が尽きるか殺されるかしない限りやめませんよ」
いきなり何を言い出すんだろうね。 
「じゃあ、これから戻る時に注意だけど、精霊姫を好き放題する方法があるから気をつけてね、こればっかりはエルちゃんでもどうにもならないから」
「あー、あれでしたら私には効きませんよ?」
精霊姫を使ったゴブリンスタンピードがあったらしいんだよね。
たまに産まれるゴブリンキングを精霊姫を使えば、大量に作れるわけですよ。
後はまあ、そうそう死ぬ事の無い精霊姫だからね、大変なことになるわけ。
その時に作られたのが、首輪のような魔道具と、刻印のように身体に刻む魔法陣。
どちらかだけでいいんだけど、これで力を封じれるというもの。
でも、これ私には効かない。
「あれ? エルちゃんにも効くはずだけど」
「誰かさんの力を大量に取り込んでしまいましたからね? 私の種族、精霊姫であり女神の亜種となっているんですよ。私を封じるには、精霊姫としてだけじゃなくて、神を封じる必要があるんですよね」
まぁ、そのせいで成長がほぼ止まってるけどね。
やばいね、5000年経ってもたぶん幼女だよ。
「そういえば、あの寄生虫みたいな勇者ってどうなったの? あの時のエルちゃんの力じゃ吸えないでしょ?」
人を掃除機みたいに言わないで欲しい。
「私の中にいますよ? あの場で宿主に出来そうなの私だけだったでしょうから」
「解体するね」
何とんでもないこと口走ってるの、この女神。
「しなくても大丈夫ですよ、ここを出る時に勝手に消滅しますから」
ふふふ、私は用意周到なのだ。
勇者は強制送還だからね。
私はもう、勇者じゃないから問題ない。
「あー、そういえばそんな設定だね。エルちゃんは、ここを出てどうするの?」
「とりあえずは、黒姉さんの所に行きますけど?」
後は、お世話になった人に挨拶するぐらい?
「エルちゃん、すごーく今更で忘れてたんだけど、ここから出た時、多分知り合いはいないと思うよ? 何年ズレるか聞いてないの?」
えっ? ズレるも何も一緒でしょ?
「どういう事です?」
「ここ来る時はいいんだけど、出る時はかなりズレるよ? 平気で1000年とかいう単位で」
……え、黒姉さんってそんなに長く生きれたっけ?
「今すぐ帰ります」
「帰れないって! 無理無理、エルちゃんが今出たら存在が消えちゃう」
ちょっと待って! 私そこまで時間にズレがあるとか聞いてない!
まだ、何にも始まってないのに!
「そんな、だってまた会えるはずで、そのつもりで私は」
「ごめん、知っててきてくれたんだと思ってた」
カリーナ様もあの吸血鬼もあの場で普通に帰れてるはず。
なんで、私だけ……
「エルちゃんだけは、ここに来たらそうなるんだよ。エルちゃんは空席の精霊王の姫だから」
「私がいない間に精霊王が生まれ、精霊姫ができると、空席になるその時まで私は帰れないと」
いや、帰ることは出来るのだろう、ちゃんと存在できる時代に送られるだけで。
「うん、たぶんエルちゃんが帰ることが出来るのは、エルちゃんがこっちに来た時から最低でも2000年ぐらいはズレると思う」
「黒姉さんなら或いは、生きていられるかもしれませんね」
フェリーシア様あたりは無理かな。
でも、神樹はそうそう滅びたりしないし。
「エルちゃんの帰りを待つ者がいなくなるのがそのぐらいなんだよ」
「……私一人になるんですか」
「1人じゃないよ、私とだけは繋がるから。どれだけズレても私だけは常に存在する」
そっか、一人ではないのか。
「……言葉だけでも伝えられませんか?」
「影響を与えない範囲だけなら」




「分かっちゃいたけどね、それはずるいんじゃないかい? アイナ」
ふと眺めていた樹に刻まれていた文字。
それは、待ち続けると決めた相手からのメッセージ。

生まれ変わった貴女を必ず見つけます。
記憶を継げなくても、私を愛せなくても、次の貴女を私は必ず見つけます。
だから、待たないで。
次は、私が追い求めますから。
貴女のアイナは必ず、次の貴女にたどり着きますよ!
また会いましょう、アリア


────────────────
はい、という事で本編? 終わります。
完結というわけでもなく、ちまちま続けますが、戻ってきたエルフィーリア様のお話になりますので、のんびりです。
主に私の執筆スピード的な意味がですが。
新しく書きたいものもありますので、こっちは息抜きで進めようと思います。

読んでくれた皆様、ありがとうございました。
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