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第三幕

精霊姫のおつかい

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私カリーナはその時、全てが終わったと思った。
やっと、悪ふざけをしても笑って許してくれるまでに関係を築けたのに、台無しにされた。

まず、エルフィーリア様は魔王である前に精霊である。
元は人間だからか、こちらの事情にある程度合わせてはくれるが、本質は精霊なのだ。
故に扱いは慎重になる。
国として名乗りをあげると言うのなら、全力で協力するし、必要なものは全て用意してみせる。
精霊は、与えられたものに対して返してくれる存在だ。
しかし、与えられたものが敵意であった場合、精霊はどこまでも恐ろしい存在となる。
かつての例で言うなら、契約した人間を人質にし、意のままに精霊を操ろうとしたどこぞの王が一族どころか国ごと滅ぼされたと言う。
エルフィーリア様はそんな精霊の中でも王となる存在。
そんなエルフィーリア様に敵意どころか、殺意を向けただけでなく、行動に移してしまったとあれば、その報復はどこまで及ぶか想像もつかない。
まだ、マーリンがやらかした事の方はなんとでも出来た。
実際の被害が出る前だったからだ。
「アリオス、あなたは、なんてことをしてくれたんですか」
「あれは、魔王だろう? 何をそんなに慌てているんだ?」
ああ、この人は何をしてくれたのか全く理解していない。
「アリオス、あなたは死の領域にエルフィーリア様を落としましたね?」
「当然だ、魔王ともなれば、相応の力がなければ倒せん。であれば、確実な手段を取るまで」
ええ、ただの魔王ならそれでカタがついたかもしれませんが。
残念ながらエルフィーリア様は森の属性を持つ精霊姫。
彼女の言葉を借りるなら、森とは生命のサイクルが完結している小さな世界のようなもの。
つまり、彼女に死の属性は効かない。
自分自身が持つ属性で精霊は傷つかない。
「残念ですけど、エルフィーリア様は生命の属性を持っています。意味を持つものの死を与えるあの領域では彼女は死にません」
「仮に死ななくても、出てくることは叶うまい」
そんな簡単な話であれば、私も慌てたりはしない。
エルフィーリア様は間違いなく短時間でこちらに戻ってくる。
そして戻ってくれば、私達がどうなるか想像もつかない。
「……覚悟だけ決めておいてください。私たちに出来るのはそれだけです」




「私のレイスの森に空気が似てるー」
「元気なお客さんです事、って思ったけどあのバカがまた私を利用してきたのね」
落ちてきた先は真っ暗な空間だった。
不思議と周りが見えるので真っ暗という感覚になるだけで光はあるんだと思う。
「森の精霊姫のエルフィーリアです」
「ご丁寧にどうも、私は意味あるものに訪れる全ての死を司る領地を与えられている精霊姫よ。名前は特にないわね。元がレイスだから」
領地と言うと、ここは国なのだろう。
それにしても、レイスからの精霊姫って面白い。
元が肉体のない存在なのに、精霊姫になったから、肉体を持つことになるなんて、かなり不便だと思うんだけど。
まぁ置いとこう。
聞きたいこといっぱいあるし。
「霊ちゃんと呼ぼう」
「却下、フィーネとかフィーニスって呼んで」
どっちも終わりって意味じゃなかったっけ?
ラテン語とかその辺。
「フィーちゃんに聞きたいんだけど」
「貴女より歳上なのだけど?」
フィーちゃんがいいと思ったのに。
だって私とそんなに見た目変わらないし、顔立ちは可愛い感じだし。
お人形さんみたいって言うのかな?
綺麗系の方じゃなくてこう、よしよーしってしながら持ち歩く方の。
青と紫が混ざった黒っぽい髪を肩まで下ろしてて、どことなくナイトドレスっぽいなんかエロい服装の子を可愛いと呼ぶのは間違ってる気がしなくもないけど。
「見た目そんなに変わらないじゃないですか」
「貴女はどう見ても幼女、私は少女。どこかの言葉で言うなら、小学生の低学年ぐらいなのが貴女で、私は中学生ぐらい。だいぶ見た目という意味で違う」
むー、そう言われると確かに大きく違う気がするけども。
「まぁ、私もあと500年ぐらいあれば、ある程度成長しますよ」
「いや、貴女の力が強すぎるから、500年じゃ、精々小学生高学年になるかならないかぐらい」
えっ、ちょっと待ってそれ私が結婚できる年齢であろうって身体になるまで何年かかるの?
「子ども産める身体になるには何年かかりそうなんです?」
「人族換算での身体なら1000年じゃ足りないと思うけど?」
やば、黒姉さんをそんなに待たせたら私が死ぬ。
間違いなくドリアードとしての本気の求めについていけなくて死ぬ。
神樹様経由の時よりはマシだろうけど。
「もうこの際、いざとなったらあっさり死のう。うん、精霊になってしまうしかないじゃない」
「ところで、なんで貴女はまだ消えないの?」
そりゃ、レイスの森と変わらない程度の死じゃ私の管轄内だから、死なないよ。
その程度なら既に私の属性領域だし。
「レイスが持つ力と同じだからですよ」
「そりゃ、私の力の範囲だからね、それじゃあ答えになってない。貴女は、レイスだったわけじゃない」
「生命の属性は表裏一体と言えば分かります?」
首を傾げられたので仕方なしに説明をする。
まず、生命の属性について。
これは、プラスとマイナスの両方を持つ特性である。
プラスは命を紡ぐ属性。
つまり、活性化させ生き生きとさせる方向で作用する。
極端に言うなら、一気に生物を成長させたりなどできる。
そんなことをしたら、魂が摩耗して短命になるけどね。
次にマイナスにあたる部分。
これが死である。
先程から言っているレイスはこの属性の塊みたいなものである。
肉体を持たず、意志を持って生者を害する存在。
その力は意味を持って存在する全てに作用する。
私はこの子達がいる森を私の1部にしている。
よって、両方の属性を司る精霊姫となり、意味あるものの死とやらは、私には通じないのだ。
「ちょっと待って、それって貴女は死なないってこと?」
「少し違いますね。ここの特性が私には通じないのであって、私自身は殺せば死にますし、普通に寿命でも死にます。長すぎますけど」
死という状態を与えるのがこの領域。
それは既に持ってるから私には効かない。
要するに、生きている状態に死んでいる状態を押し付けて、生きている状態を消すのがこの領域なんだけれど、私はどっちも属性として持っているから、今更押し付けられても意味が無いということ。
「まあ、最強の攻撃だけが効かない欠陥品みたいな状態なんですよ。本来ならその全てを克服したから手に入るはずのものが、中身がすっぽ抜けてまま手に入れてしまったから起きたバグみたいなものですね」
「手順を踏まない限り死なないってことね。だったら、少し頼まれてくれない? 報酬は私が戦力として貴女と契約を交わすというのでどう?」
「内容によりますよ?」
異世界に連れていけとか言われても無理だしね。
「簡単よ、門の鍵を持ってるからと、便利な道具のようにここを利用するバカをここに、落として。貴女なら簡単に行き来出来るでしょ?」
そりゃ、何とかなるけども。
「そんな事でいいんですか?」
「いいよ、あいつは最近度が過ぎてるから、王が怒ってるの。でも、彼の精霊姫は私を含めて、ここを出る方法がないから、やってくれるならそれぐらいの報酬は出せる」
精霊の逆鱗ってとこか。
死の精霊王が怒るということは、何かほかにしでかしてるね。
怖い怖い。
「それじゃあ、さくっと行ってきます」
そうして私はあっさりと元の場所に戻った。

「エルフィーリア様、お帰りなさいませ」
「……あれ? 勇者は?」
「逃げました」
えっ? 軽く戦闘して叩き落とそうと思ったのに。
「見つけた! 何かアレに言い残すことある? さっきの場所に届けないといけないから、下手すると二度と会えないけど」
「いいえ、覚悟を決めろと言っておいたのにも関わらず逃げるような者に思い残すようなものはありません」
カリーナ様がそれでいいならいいけど。
ただ、一言ぐらい掛けとかないと、結局悩むことになるんじゃないかな。
「森の迷宮って名付けたんだけど、勇者さんは逃げ切れる?」
お手軽拘束魔法である。
私の領域の1部を限界させて取り込むという雑な魔法。
大量に魔力を保有している私ですら、連発するとガス欠するぐらいには燃費の悪い魔法である。
精霊王クラスになると、下手すると無限に打てる。
私には、まだ気の遠くなるぐらい先の話。
「ちっ、メギド!」
「闇は持ち合わせてないなー、属性合成 聖炎」
光と炎の魔法。
私の属性じゃないからちょっと苦手。
でも、勇者だからね。
鍛えてるからこのぐらい余裕。
ほんと、勇者のチートって卑怯だと思う。
使っておいてなんだけど。
「なんだと! 森の精霊がなぜ炎を扱えるんだ!」
「魔王ですからね、それに私はあなたとは少し違いますが、勇者でもありましたし」
その前に、精霊は普通に魔法を使います。
自分の属性の魔法の方が楽だから苦手とする属性の魔法を使わないのだ。
呼吸かのように当たり前のようにできることと、息を止めないとできないようなことであればどちらを選ぶかという話だ。
私は後者を率先して選ぶけど。
苦手をなくした方が選択肢増えるし。
「ところで、私は精霊姫ですので、精霊王から命じられると自由が無くなるんですよね」
なんでか私だけなんだよね。
普通は、自分が契約した精霊王か、自分と似た属性、あるいは精霊王から隷属の魔法でもかけられたかとかになるだろう。
私? 肝心の私の手綱を握れる精霊王がいないから、他の精霊王が管理することになってるのである。
めんどい。
アディのせいだ。
「森の精霊王が俺になんの用があるというんだ」
「用があるのは死の精霊王ですね。いってらっしゃい」
『お前も来い、話がある』
ゲートを開けたらまた落とされた。
「いーやーでーすー!」



「エルフィーリア様、私は待っていれば良いのでしょうか?」
何故かマーリンごと連れていかれてしまったので、残された私は途方に暮れるのであった。
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