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【初級者 編】

トーク

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 ◇

 プレイヤーのみに備わっている便利な機能のひとつ『フレンドシステム』。

 互いの同意により一度でも登録されれば、以後『メッセージ』や『トーク』を使用してダイレクトな意思疏通を可能とする。

 この世界においてのフレンドシステムとは『フレンド手帳』と称された、なんとも古風な紙媒体による手帳を指す。

 しかし、フレンド手帳とは現実世界での連絡帳とは似て非なる物と言えよう。

 見た目や感触は紙媒体に近しい物だが、その用途はコミュニケーションツールと同じ。

 ⬛︎ メールのように登録された連絡先のプレイヤーへ向け、文字を送信及び受信するメッセージ。

 ⬛︎ 電話のように互いの声によってリアルタイムで会話するトーク。

 ⬛︎ プレイヤー全員と繋がり文字で伝え合うチャット。

 この三点がフレンド手帳に備わった主な機能となる。

 メール又はチャットを使用したい場合、当然文字を入力しなければならず、手帳を開いた右側のページで文字を入力、送信。そして左側のページがモニター代わり。

 とはいえ、左右の切り替えは自由に変更可能で、EX日本サーバでは特に右利きである日本人が多いことから、この例えとした。

 そしてトークの場合、相手の声をそのままサポーターが伝える。伝えるというより『生の音声がサポーターの口から発せられる』と、言ったほうが分かり易いだろうか。こちらから伝える際には、声を発しなければならない。

 自身がトークを使用したい時はサポーターを呼び出し、連絡したい相手の名を伝えるだけで、後はサポーターが呼び出してくれる。その逆に呼び出された時には突如としてサポーターが現れ、電話の呼び鈴のように事を伝えてくる。


 そう、こんな風に――


 ――――――


 しがない戦闘に終止符がうたれ、一路サーパスを目指すチキン一行とプラス『α』。

 その『α』とはタケシである。

 回復役となるはずだった米子と、結局出会うことが出来なかったこともあり、とりあえずパーティーへ加えた感じ。

 正直なところタケシなど不要なのだが、チキンと意気投合してしまったからには仕方のないこと。

 それはバリュートも同じくハーレム好きな三人の仲が悪くなる筈もない――が、男性三名、女性二名となり、この一行にハーレム要素など皆無、だ。

 そして、まず先に言っておこう……。
 『タケシ要らなくね?』などは、無しとして欲しい。
 彼のメンタルは非常に低く、きっと泣いてしまうだろう。

 タケシはNPCキラーだったがペナルティなどはない。
 なぜなら敵に対して攻撃を行っていないからである。
 そして攻撃をしないのだから、危険人物でもない。

 そんなこともあり、罪人となっていないタケシをパーティーへ加えることは、それほど問題視されなかった。

「ゴメンナサイ氏……加え、ベニネコ氏とレイカ氏。フレンド申請を願えぬか?」
「俺様は構わんが? って、タケちゃんキャラ変わってね? 俺様としては気が合いそうだがな」

 チキンがこう言うのも、思いのほかヲタだったから。そう言うチキンもリアルオタク。

 タケシの恋、それは二次元。

「オレは、心を許した者にだけ真の姿を見せるんだZE? そう……沙織ンだけに見せたこの姿を、他の者に見せたのは初めてだと言えよう。ゴメンナサイ氏なら、この意味が分かるはずダロ?」
「さ……さおり、だとッ!? まさか、あの神ゲーから生み出された絶世の美少女――ランデビッチ・沙織・キム、の、ことかッ!!」

 ランディビッチ・沙織・キムとは、とある美少女系恋愛ゲームのヒロインである。

 彼女の名前から察しても『西洋?』『朝鮮?』それとも『シャッチョウサン(日本人)?』なのかと、国籍さえ疑ってしまう。彼女の性格は名前に反して純粋、更に超絶無垢。

 そのゲーム名は【私をお金で捕まえて!】、だ。

 タイトルから察するに、嫌らしくも大人の事情が絡んだ学園恋愛ストーリーに違いない。

 聞きたくも無いだろうが、物語の内容は――
 沙織は、生徒会長を夢見て眼鏡を使用していたが、眼鏡で生徒会長になれるはずもなく、ドベ落選最下位してしまう。……言い切るが、頭は悪い。

 主人公は、その落選により落ち込んだ沙織へと『不純な動機』で近づくが、彼女に散々金銭を持っていかれた挙句”ほぼ”フラれるという結末を辿る。

 これはゲームらしからぬリアルさ、とも言えよう。

 そもそもヒロインが超絶無垢すぎて恋愛に興味を示さず、結果結ばれないから腹ただしい。何も考えず、只々物を強請り続ける。

 主人公は愛がゆえに金を欲し、コンビニバイトから臓器売買、更には銀行強盗まで、金を稼ぐ手段は多種多様だ。
 無論、意味もなく一八禁であり、購入者全員に配布される然程価値もないポスターには――

『※ 沙織からのお願い。子供の君も! そして大人のあなたも! 身を亡ぼしちゃうから絶対に真似しないようにネ!』

 と、記された沙織(社員)の直筆注意書き付き。
 だが、達筆。
 今さら言う必要もないが、その販売数は降下を辿る一方だ。

 未だ誰もたどり着いたことのない領域とされた、ヒロインと結ばれる確率は『〇.二%』。どこぞのガチャゲーより酷いが難易度は最高級。

 それゆえにマニアックなゲーマーのみ好む。
 そんな謎ゲームの詳細はさておき、フレンド登録を済ませたチキンとタケシ。

 ベニネコとレイカは、当然フレンドを断固拒否した。

「タケシ君、ごめんねー。今フレンドの登録人数が、いっぱいなんだー」
「……ですですデス!」コクリ×三

 いわずもがな、断るための嘘。
 必要以上に判然とタケシへ伝えるレイカは、分かりやすく必死だ。

「え? フレンド登録できる人数、て……」

 フレンド登録の最大数は千人。
 もう、友達百人どころの話ではないだろう。
 それゆえ、登録数が超えることは先ずない。

「あ。べ、べつに嫌とか、そんなんじゃないんだからー! キモイとか、一分おきにメッセージ送信されそうとか、トークの向こう側で”ハァハァ”言いそうとか、そんなこと全然、全く、これぽっちも思ってないんだからね!」
「……ですデスですデス――ッ!」コクリ×二〇

 レイカの顔面が無数に増え続ける。
 ――カクカクと速い。

「お、思ってるんだ……NE」

 これを見聞きしていたチキンは、タケシの左肩へ右手を置き口を開く。

「なあ、涙拭けよ」
「ゴ……ゴべンダザイ、氏」

 続いてバリュートも、タケシの右肩へ手を添える。

「タケシくん……君には沙織さん? っと、いう素敵な彼女がいるじゃないか。その君が愛するゲェィム? とかいう世界に、ね」
「バリュート氏まで……アンタの命を狙っていたオレに優しくしてくれるなんて、大人ですな……ぅうっ」
「それは違うよタケシくん。君の心の痛みに比べたら、先ほどの出来事なんて取るに足らない事さ」

 バリュートは、こう大人の対応で接してはいるが心中で思う。
 ――今晩の彼は、自我では止まぬ大粒の涙で枕を濡らすであろう、と。
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