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【初級者 編】
ハーフエルフ
しおりを挟むたまたま他のプレイヤーの声が聞こえてしまったふたり。
あまり良い話ではないのだが、聞こえてしまったのだから話題となってしまうのだろう。
「NPCキラーかー 最近増えてきたみたいだね。ギルド会館を使えなくして、意味あるのかな?」
「意味……無いとは、言えない ――だけど……」
レイカは、NPCキラーを行う意図を知っているかのような口調で応えたが、本人の気が乗らないのか続きを話すことに躊躇していようだ。
「ありゃりゃ? どうしたのレイちゃん?」
ベニネコは、突如として思い詰めた表情を浮かべたレイカの顔を、覗き込むようにして様子を伺う。そのレイカの顔色から、ここから先の話はあまり良い話では無いようにも。
そんな二人へ割り込むようにして聞こえてくる男性の声。
「君たちは……もしかして、ギルド会館から依頼を受けてここに来ているのかい?」
二人に話しかけてきた青年は、少しばかり早口で流暢な口調。その青年を一目みただけで、二人は探していた男性だと気づくことができた。
「あ、お兄さんはもしかして、もしかして……あれ? 誰だっけ?」
「バリュート……さん」
ベニネコはバリュートを指差しながら、覚えが悪いのか彼の名を思い出せなかったようだ。しかしレイカがすぐ彼の名を口にしたことにより、バリュートはホッと一息ついて再び口を開いた。
「いやー 良かった、良かった。これだけひとが多いと待ち合わせるだけで一苦労だね。僕はバリュート。君たちに護衛を依頼した者さ、よろしく」
「えっと。バ……お兄さんでいいよね? わたしはベニネコ。よろぴくね、お兄さん」
「レイカ……です」
このバリュートという青年はハーフエルフ。二人がすぐに気づけたのは、髪の色が純粋なエルフとは違っていたから。
エルフの髪は基本的に金髪、又は銀髪。対してハーフエルフは茶髪、又は黒髪に近い。これは髪の色が自由に選べるプレイヤーとは違い、彼が髪色を自由に選べないNPCだからだ。
NPCの髪色は限定されていることから、遠目からでもNPCと気づける状況も多々ある。
「いやあ。こんな可愛い子ちゃんたちに護衛してもらえるなんて、僕は幸せ者だなあ。うんうん」
こう、取って付けたような言葉を洩らし、ニコニコと嬉しそうな笑顔を見せるバリュート。この時点で彼が女好きと言う事は容易に察することができた。
このバリュートという青年。自称イケメンというだけのことはあり、肌に傷ひとつ見当たらない綺麗な容姿をしている。髪は茶髪で、女性二人と対面しても流暢な口調でさらりと『可愛い』などの言葉が出てくることから、女性慣れした様子が伺える。
「あははっ! 可愛いだなんて、ほーんと正直なお兄さんだね! そんで、お兄さん。護衛なんだけど、どこまで行けばいいの? わたしたちギルド会館からは護衛任務とだけしか聞いてないんだー」
「……です」
ギルド会館とは、NPCのみで運営される公共施設のようなもの。このギルド会館でモンスター討伐や護衛など、数々のクエストを受注することができる。
クエストの内容は様々だが、依頼を請けた者はクリア報酬としてアイテムや経験値を貰える。依頼はNPCに限らずプレイヤーでも行え、請負も同様NPCでも請けられるようだ。
「やはり、ギルドからは何も聞いてないようだね? そうか、そいつは困ったな。じつはあと一人……いや、できれば二人ほど護衛を増やすつもりだったんだけどな」
「ありゃりゃ? そんなに危険な場所へいくの?」
「危険……と、いうほどの場所ではないんだけど、最近ここらでキラーが出るって噂があるからね。それがどうも噂話では無さそうなんだよ。だから念には念を――ってところかな?」
バリュートが言う『キラー』とはNPCキラーのことである。
ベニネコとレイカの実力は、バリュートもギルド会館から聞いており信用はしているのだが、相手がNPCキラーとなると集団で襲ってくる可能性が高く、それを心配しているようだ。
通常のNPCキラーやPKは、確実に勝つことを目的としたプレイヤーの集まりであり、欲深くしたたかな者が多い。危険性を極力避けて集団行動する。
敢えて例えるなら、盗賊などに近しい存在だ。
「あ、そゆことかっ! お兄さん商人だもんねー。それなら納得できるカモ?」
「だね。僕みたいな商人が一番狙われ易いからね。僕もこの若さで消えたくないからさ、護衛は出来るだけ多めがいいんだ……と言っても、僕は大人数を雇えるほど裕福ではないから、少数精鋭と考えているんだ。それでも君たちを危険にさらすわけにはいかないし、後二人は欲しいかな」
パーティの最大人数は五名。それを踏まえてバリュートは“あと二人”と言った。
バリュートのような商人はNPCに限らず、プレイヤーからの襲撃をうけることが多い。何故ならば、戦闘力が低いわりに所持している経験値が高いからである。
NPCキラーにとって、最も利益があるキャラクターが商人。
それは先ほどレイカがベニネコへ言おうとして言えなかったことだった。
商人のみを狙い撃ちする行為を人間らしからぬ所業と心を痛め、話し辛かった。
NPCがゲーム内のキャラクターであっても、感情表現を表に出す者たちなのだから。
目の前で悲痛な叫びを上げ、必死に助けを求めても、尚傷つけることを辞めず惨殺する行為。これのどこが正常な人間がする事と言えようか。
「ベニネコ……あとふたり。呼ぶの」
「あ、そうだね。お兄さんちょっと待っててねー。誰か来れるか聞いてみるからー」
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