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【プレイヤー 編】

なあ、食えよ

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 鑑定を行うには、先ず魔法陣を描く。
 どの鑑定屋でも似たような感じなのだが、鑑定室は薄暗く、基本的に魔法陣以外のものは置かれていない。

 魔法陣の中心部にアイテムを置き、鑑定士が詠唱すると魔法陣から文字が浮かぶ。鑑定士はその文字を読み取り、アイテムの情報を得る……と、いうのが鑑定士としての作業内容となる。

 鑑定士はアイテム情報に限らず、錬金のようなもので調合し使用効果を上げたり、アイテム全般で様々なことが出来る。
 
 鑑定士とは、言わばアイテムのエキスパート。

 アイテムのランクに鑑定士が届かない場合、浮かび上がる文字が足りなく、全ての情報を得ることが出来ない。これは、ランクにより鍵のようなものがかかっているからと言われている。

 リーザの鑑定室ランクは『S』だが苟且の宝玉ランクは、その上をゆく。

 結果、彼女が宝玉から知り得た情報とは――――

「リーザさん、どうです? なんか分かりましたか?」
「んー。そうだな……まず、これがどんなアイテムかって話をするよ。よく聞きな」
「はい。お願いします」

 リーザがアイテムの説明を始めようとすると、米子、ベニネコ、レイカの三人は聞けるであろう宝玉の情報に耳を傾けた。
 
「これはね、一度っきりしか使えないアイテムみたいだね」
「それは……毒消しなどのように、一度使えばそれで終わりってことですよね?」

 アイテムの使用回数は物により異なる。
 現時点の全アイテム情報で、使用回数について分類するとこうなる。

 ■ 一回の使用で消滅

 ■ 複数回の使用で消滅

 ■ 消滅はしないが、規定回数後は暫く使用不可となる。

 ■ 無限に使用可能(条件あり)

 このように、大きく分類すると四つ。
 
「――そうなるね。でも、回復アイテムのような効果じゃないね。もっと……そうだね、使用者自身を変えてしまうような効果だと思うんだけど?」

「ええ!? なにそれ、あぶなー!」
「そ、そうなんですか? どうしよ……」

「まあ、効果までは分からなかったんだけどね。これはあたしの予想なんだけど、このアイテム限定の固有スキルが習得できたり、未知の職種がついたり? どんな効果にせよ、とんでもない事になることは確かさあね」

 どのような効果でも「とんでもないこと」と言われると期待してしまう。固有スキルや職種を未だに取得していない米子としては、とくに気になって仕方がないのだ。

「なんか使ってみたい気も……します。もう二度と、このような貴重アイテムが手に入らないでしょうから」
「きっと、そうだろうね。あたしもこんなアイテム初めてみるんだから。とくに他人へ被害が及ぶものでもなさそうだし、使ってみれば? 勿論――――」

 リーザは、なぜか子供じみた笑いを浮かべ、会話を続けた。

「いま、ここで、ね。今使ってみせてくれるっていうなら……鑑定料、タダにしてやってもいいよ?」
「ええ!? あの強欲なリーザが無償で鑑定? 珍しくこともあるもんだねー」

 リーザが鑑定料を請求しない意図とは、宝玉の効果が知りたいだけ。まだ誰も知らないアイテムの効果を知ることは、鑑定士にとっても利益に繋がる。

 何より、他の鑑定士が知り得ないことを知るというのは、知名度を上げるには持って来いと言えよう。

「あたしの鑑定料は、もともと高いんだよ? 強欲とかじゃなくて、それなりに満足させる仕事をしてるんだから当然だろ」
「ま、腕だけはいいからねー」
「”だけ”とは、なんだい。ったく、これでも美人鑑定士で有名なんだからね。……それで、マイコはどうするんだい?」

 間違いなくリーザは美人だが、自分で言ってしまうのはどうかと思う。
 しかし、そんなことより悩むのはアイテムの使用なのだが。
 米子としては、鑑定料の支払いを問題としているわけではない。

 もし自身が持つ経験値の全てと言われても、支払うつもりでいた。いったい、どのように自身が変化してしまうのか――そこが悩みの種なのだ。

 そして思い悩む米子の脳裏に浮かんできたものとは。

【そのアイテムを使えば、きっとまた逢える】

 こう言った”彼”の言葉だった。

「そうですね……ちょっと不安ですけど、使ってみようと思います」

 不安をかき消したオッサンの言葉は米子に勇気をも与え、確と見つめる瞳は迷いのないことを皆へ無言で伝えた。

「そうかい……マイコは話がわかるコだねぇ。この宝玉であんたがどんなことになっても、悪いようにはしない。安心して使っておくれ」

「マイコちゃんがそういうならいいけどー。実はわたしも見てみたかったりしてたり?」
「興味津々……です」

 米子はコクリと一度大きく頷くと、宝玉を手に取ってリーザへ問う。

「リーザさん。これって、どうやって使用するのでしょうか?」

 この問いに対し、リーザは口を開く。

「あ、そうだったね、すっかり忘れてたよ。その宝玉の使い方はね――」

 一同は静寂のまま、リーザの答えを待つ。

 その答えとは――


 ――『食べる』、だ。


「「「はい(です)?」」」

 まさかの食べ物だった件。
 おバカなマイコも驚愕すぎて、食べた麺類も鼻から出る思い。

(これは、ちょっと……無理系?)

 と、思う米子の脳裏を駆け巡っているのは、先ず衛生的な問題。

 普通にポシェットへ入れてたり、誰が触ってるか分からないとかなどは軽微なことであり、最も問題なのは蛇や蜥蜴とも知らぬ謎のモンスターの【玉】だということなのだ。

「ほら。どーせゲームなんだし、潔くパクッといっちゃいな? あんがい美味しいかもよ?」
「これを……でしょうか?」

 想像力と豊かな米子は、やはりこの玉とリーザに思いを打つけてしまう。

 ――もし、これがモンスターのタマタマだったら、どーしてくれるのかな? この強欲ばばあリーザッ!

 など、悪いことしか浮かんで来ない。

「マ、マイコちゃん。ファイト!」
「……――DEATH(です)ッ!」

(それ、死んでますってレイカすぁん)

 ベニネコとレイカの”お熱い”声援。リーザは、ほくそ笑んでるようにも見える……その笑みは米子がリーザを初めてみたとき魔性と感じたのは嘘偽りなき真実だったと気づかせてくれた。

 それでも、この謎アイテムを食べなければならないのだと心に決めた。

 米子は宝玉へ、ぱくりと一気に被りつく。


 もう、どうにでもなれってんだい、てやんでい、ばーろ、ちくちょうめ、と――(……ァ)
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