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【プレイヤー 編】
鑑定屋へ
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◇
米子が四二階層へたどり着くと、逃げてきたプレイヤーたちが集まっていた。
その様子から見て、各パーティーは再び上層を目指すか迷っているようだ。
米子へ駆け寄ってくる四名の足音。飛び込むようにして抱きついてきたのはベニネコで、その後ろに力士山、レイカ、チキンの姿も見える。
「ぶ、無事だったんだー! 逃げちゃって、ごめんねー!」
「面目ないっす……」
「……」ペコリ。
「きょ、今日は調子が悪かっただけだし。あー まだ腹痛が痛いわ」
腹”痛”が”痛”いと、重複していることすら分からないチキンの知能は猿以下。聞いているほうの頭痛が痛く……失礼、頭が痛くなる。
「あ、気にしないで下さい。始めはびっくりしましたけど、全然平気だったって言うか……幸運だったって言うか――」
これを聞いたベニネコは、身体全体で”揺らし”ながら言う。
「ありゃりゃ? なんか上の方で、どっぐぉおおんって、すっごい音してたけどー? ほんと大丈夫?」
(あなたのお乳も、ど――っぐおんぐおん、ですね)
米子の心中はさて置きベニネコが言う”凄い音”とは、オッサンがいつくもの天井を打ち抜いた音や、黄龍を倒した時の音など。四二階層まで響くほどの音により、気が引けて上層にいる米子を迎えにいくことが出来ずにいたのだろう。
それはこの場に集まるプレイヤーたちも同じ。
それでも、すぐ下の階層で待ち米子を心配する気持ちは、複雑ではあるが素直に嬉しいとも思える。
「はい、大丈夫です。それよりこれを見てください」
米子は腰に据えた革製のポシェットから、手に入れた苟且の宝玉を取り出す。
「「「「えっ!? こ、これ……(です)!?」」」」
宝玉の透き通った神秘的な輝きに、騒然とするプレイヤーたち。
その宝玉をキッカケに、周りが”どよめき”始めた。
「お、おい……あれを見ろよ。もしかして最上層で手に入るって言われるアイテムじゃねぇか?」
「確かに見たことないアイテムだな。チクショー! オッサンに気を取られて先越されちまったかー」
「オッサンと出会ったら、逃げるしかねーだろ? アイテムなんかより、消されないほうがいいわ」
プレイヤーたちには遠目ながも、米子の手のひらに乗る宝玉が今まで見たことも無いアイテムだと分かる。
「すっごー! これ苟且の宝玉だよね? どうやって手に入れたのー?」
メンバーも眼を丸くして宝玉から目が離せない。
現在時刻は午後四時五分前。米子がいた四三階層から四八階層までは残り六層あるのだから、どれほど急いだとしても、一時間足らずで往復どころか最上層まで行くことは不可能。
常識的に考えて絶対無理なのだから、メンバーが驚くのも当然の反応。
だが、メンバー以外のプレイヤーは四三階層に米子がいたことを知らないため、それに気づいてはいない……『知らない』と言うより、必死に逃げていたからこそ、すれ違った者など目に入ってなかった。
「えっと。あ、親切なひとから貰ったんです! それに助けてもらったのも、そのひとで……」
米子は、敢えて”彼”の名を口にしなかった。
それは彼がプレイヤーから恐れられ、そして嫌われていると本人より聞いていたからである。
「まだプレイヤーが残っていたっすね! 良かったっす!」
「そっかー。そのひとって最上層のボス倒してくるんだから、相当な強さだよねー。それに宝玉までくれるお人好しさんとか、変わったプレイヤーもいるんだねー」
上手く誤魔化せたとまではいかないが、米子ひとりでは何も出来ないのだからメンバーは、これを信じる。
そしてプレイヤーたちの目的はアイテムや経験値であって、米子の強さや宝玉を入手した経緯など興味が無く、聞く気もない。
プレイヤーが今最も知りたいこと。それは宝玉が最上層にあると言われたアイテムかどうか、である。
「は、はい。幸運でした。それでその……これを鑑定屋さんに持って行きたくて。今日は解散してもよろしいでしょうか?」
「ふん! 俺様の先をゆくプレイヤーがいたとはな。最上層にボスがいないのならこれ以上先に進む意味もねーし、解散でいんじゃね?」
「そうだね。それなら四〇階層まで戻って、解散しよっかー?」
この会話に耳を傾けていたプレイヤーたちは、やはり宝玉が目的のアイテムと知り、残念な表情を見せぞろぞろと四〇階層へ。その群れに紛れて進んだため、米子たちも苦労することなく安全階層まで到着することができた――――
――――――
――米子は四〇階層にてパーティーを離脱し、ベニネコ、レイカと一緒に、転送陣より『始まりの街』へ向かう。
始まりの街は名の通りプレイヤーがEX開始時に初めて転送される街の名である。
EXには他にも大きな街は多く存在。米子がこの街を選んだ理由は、ベニネコの知り合いが鑑定屋を開設しているから。
経験値を使用し自身の店を構えることも可能である。
この経験値の用途は無数と言われ、プレイヤーの選べる選択肢もそれと比例し自由度も高めだ。
「マイコちゃん、本当にわたしの知り合いのとこでいいのー? べつに他でもいいんだよー?」
「いえ。鑑定屋さんは信用できるところが一番ですから。それにもう少し皆さんと、お話をしたかったので」
鑑定士は、全てのアイテムに対して鑑定できるわけではない。
希少価値が高いほど鑑定士としての力量は問われ、優秀でなければ鑑定することが出来ないアイテムもある。
そして多額の鑑定料を支払わせようとする鑑定士も少なくはなく、レアでもないアイテムをレアと言ったり、思わせぶりなフリをして客を騙す輩もいるのだ。
そんなことから鑑定屋は慎重に選ぶべき。
「まあ、ちょっと変わり者だけど信用は出来るし、腕もいいひとだよー。わたしも知り合ってから二年経つしねー」
「……です」
「へぇー 知り合って二年も経つんですか? それなら尚更ベニネコさんのいう鑑定屋さんに行くべきですよ」
三人は会話を進めながら、ベニネコの知り合いである鑑定屋へ向かう。
街の転送陣から鑑定屋までは徒歩一〇分とかからない場所にあり、ベニネコの案内により、迷うことなくたどり着けた。
米子が四二階層へたどり着くと、逃げてきたプレイヤーたちが集まっていた。
その様子から見て、各パーティーは再び上層を目指すか迷っているようだ。
米子へ駆け寄ってくる四名の足音。飛び込むようにして抱きついてきたのはベニネコで、その後ろに力士山、レイカ、チキンの姿も見える。
「ぶ、無事だったんだー! 逃げちゃって、ごめんねー!」
「面目ないっす……」
「……」ペコリ。
「きょ、今日は調子が悪かっただけだし。あー まだ腹痛が痛いわ」
腹”痛”が”痛”いと、重複していることすら分からないチキンの知能は猿以下。聞いているほうの頭痛が痛く……失礼、頭が痛くなる。
「あ、気にしないで下さい。始めはびっくりしましたけど、全然平気だったって言うか……幸運だったって言うか――」
これを聞いたベニネコは、身体全体で”揺らし”ながら言う。
「ありゃりゃ? なんか上の方で、どっぐぉおおんって、すっごい音してたけどー? ほんと大丈夫?」
(あなたのお乳も、ど――っぐおんぐおん、ですね)
米子の心中はさて置きベニネコが言う”凄い音”とは、オッサンがいつくもの天井を打ち抜いた音や、黄龍を倒した時の音など。四二階層まで響くほどの音により、気が引けて上層にいる米子を迎えにいくことが出来ずにいたのだろう。
それはこの場に集まるプレイヤーたちも同じ。
それでも、すぐ下の階層で待ち米子を心配する気持ちは、複雑ではあるが素直に嬉しいとも思える。
「はい、大丈夫です。それよりこれを見てください」
米子は腰に据えた革製のポシェットから、手に入れた苟且の宝玉を取り出す。
「「「「えっ!? こ、これ……(です)!?」」」」
宝玉の透き通った神秘的な輝きに、騒然とするプレイヤーたち。
その宝玉をキッカケに、周りが”どよめき”始めた。
「お、おい……あれを見ろよ。もしかして最上層で手に入るって言われるアイテムじゃねぇか?」
「確かに見たことないアイテムだな。チクショー! オッサンに気を取られて先越されちまったかー」
「オッサンと出会ったら、逃げるしかねーだろ? アイテムなんかより、消されないほうがいいわ」
プレイヤーたちには遠目ながも、米子の手のひらに乗る宝玉が今まで見たことも無いアイテムだと分かる。
「すっごー! これ苟且の宝玉だよね? どうやって手に入れたのー?」
メンバーも眼を丸くして宝玉から目が離せない。
現在時刻は午後四時五分前。米子がいた四三階層から四八階層までは残り六層あるのだから、どれほど急いだとしても、一時間足らずで往復どころか最上層まで行くことは不可能。
常識的に考えて絶対無理なのだから、メンバーが驚くのも当然の反応。
だが、メンバー以外のプレイヤーは四三階層に米子がいたことを知らないため、それに気づいてはいない……『知らない』と言うより、必死に逃げていたからこそ、すれ違った者など目に入ってなかった。
「えっと。あ、親切なひとから貰ったんです! それに助けてもらったのも、そのひとで……」
米子は、敢えて”彼”の名を口にしなかった。
それは彼がプレイヤーから恐れられ、そして嫌われていると本人より聞いていたからである。
「まだプレイヤーが残っていたっすね! 良かったっす!」
「そっかー。そのひとって最上層のボス倒してくるんだから、相当な強さだよねー。それに宝玉までくれるお人好しさんとか、変わったプレイヤーもいるんだねー」
上手く誤魔化せたとまではいかないが、米子ひとりでは何も出来ないのだからメンバーは、これを信じる。
そしてプレイヤーたちの目的はアイテムや経験値であって、米子の強さや宝玉を入手した経緯など興味が無く、聞く気もない。
プレイヤーが今最も知りたいこと。それは宝玉が最上層にあると言われたアイテムかどうか、である。
「は、はい。幸運でした。それでその……これを鑑定屋さんに持って行きたくて。今日は解散してもよろしいでしょうか?」
「ふん! 俺様の先をゆくプレイヤーがいたとはな。最上層にボスがいないのならこれ以上先に進む意味もねーし、解散でいんじゃね?」
「そうだね。それなら四〇階層まで戻って、解散しよっかー?」
この会話に耳を傾けていたプレイヤーたちは、やはり宝玉が目的のアイテムと知り、残念な表情を見せぞろぞろと四〇階層へ。その群れに紛れて進んだため、米子たちも苦労することなく安全階層まで到着することができた――――
――――――
――米子は四〇階層にてパーティーを離脱し、ベニネコ、レイカと一緒に、転送陣より『始まりの街』へ向かう。
始まりの街は名の通りプレイヤーがEX開始時に初めて転送される街の名である。
EXには他にも大きな街は多く存在。米子がこの街を選んだ理由は、ベニネコの知り合いが鑑定屋を開設しているから。
経験値を使用し自身の店を構えることも可能である。
この経験値の用途は無数と言われ、プレイヤーの選べる選択肢もそれと比例し自由度も高めだ。
「マイコちゃん、本当にわたしの知り合いのとこでいいのー? べつに他でもいいんだよー?」
「いえ。鑑定屋さんは信用できるところが一番ですから。それにもう少し皆さんと、お話をしたかったので」
鑑定士は、全てのアイテムに対して鑑定できるわけではない。
希少価値が高いほど鑑定士としての力量は問われ、優秀でなければ鑑定することが出来ないアイテムもある。
そして多額の鑑定料を支払わせようとする鑑定士も少なくはなく、レアでもないアイテムをレアと言ったり、思わせぶりなフリをして客を騙す輩もいるのだ。
そんなことから鑑定屋は慎重に選ぶべき。
「まあ、ちょっと変わり者だけど信用は出来るし、腕もいいひとだよー。わたしも知り合ってから二年経つしねー」
「……です」
「へぇー 知り合って二年も経つんですか? それなら尚更ベニネコさんのいう鑑定屋さんに行くべきですよ」
三人は会話を進めながら、ベニネコの知り合いである鑑定屋へ向かう。
街の転送陣から鑑定屋までは徒歩一〇分とかからない場所にあり、ベニネコの案内により、迷うことなくたどり着けた。
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