はじまり

第二部 はじまりは美しい３０

～変わらぬ光～　　


｢もっと落ち込むかと思った｣ 

労わるような優しい声に、ルエラはくるりと振り向きます。 
自分とはまったく似ていない双子の弟に微笑んで、歩調をゆるめて 
一緒に隣を歩きます。 

昨夜皆で夜通し話しこんだ後、それぞれ休息をとりました。 
その後、どうしても森の中に散歩に行きたいというルエラに、 
ノエルがつきあいます。 

朝露を含む葉がゆれて、小さくしずくが降り注ぎます。 
柔らかな新緑の色彩が目に眩しくて、思わず目を細めました。 

｢なんだかね、安心したのよ｣ 

｢安心？｣ 

本当のことを話してもらった時、ルエラはとても戸惑いました。 
今まで自分が信じていたものが違うのだと言われた時、 
みんなの気持ちも大きく変わってしまうのだと思いました。 

自分に対するみんなの気持ちが大きく変わり、みんなが離れていって 
しまうのではないかとすら思えました。 
そう思うと恐ろしくて、自分の感情を置き去りにしたまま、 
言葉をだすこともできませんでした。 

それが、昨夜夜通し話したことで、何も変わらないのだということに 
ルエラは気づいたのでした。 

自分をみつめるまなざしも、かけられる声の柔らかさも 
以前と変わったように思えませんでした。 
変わったこととといえば、屋敷の主人がルエラの額にキスをするように 
なったことでしょうか。 

複雑な想いはあるものの、ほんの少しの変化はルエラにとって、 
嬉しいものでした。 

｢うん。僕の時も何も変わらなかった｣ 

ノエルも自分の生い立ちを初めて知った時、ルエラと同じような 
感覚に襲われました。 
もう、自分はいらならくなってしまったのかとすら思えて反発したことを 
語りました。 

｢そうね、何も変わらないわ｣ 

ノエルの言葉を繰り返します。 
さわさわと風がそよいで、光が踊ります。 
まるで、森の中を光がかけぬけていくようでした。 



つづく