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【番外編】はじまり:はじまりのひと 9
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はじまりのひと 9
~常識~
「本当に、あの時、ロイの顔をひっぱたいてやりたかったわ」
当時のことを思い出して、クローディアは顔をしかめます。
「こちらとしては、意図を発してもらわなければ、動くことができないの」
リンが困ったように微笑みました。
「最初に決断だっけ?」
「私にはできませんでしたね」
シキもソウも、自分で決断をくだすことができませんでした。
二人は、決められた範囲の中で情報を集め、吟味して
決めていくことを得意としていました。
自分の想像を絶する未知なるものへの決断をつけることは、
できませんでした。
なにしろ、受け入れることすらできなかったのです。
彼らにできたのは、クローディアの決断に従うことでした。
「二人とも本当に、ずるいんだから」
行儀悪くカップの紅茶をすすって、宙を見据えます。
クローディアの決断を聞いた後、ロイとルナは迅速に
行動に移しました。
シキには、町で靴屋を営み、町の人たちと交流を深めることを提案します。
リンとソウは、自然と惹かれあう仲になったので、
この島で、一番大きなお屋敷に、資産家として住み着いてもらいました。
町には、クローディアたちと同じように町に住み着き、
コンタクティとして活躍している商人がいます。
彼らと引き合わせ、双子の片割れを育ててもらえるよう
お願いしました。
クローディアは、そのまま屋敷に残り、ルナやロイから
あらゆる情報をその身に宿します。
不思議な光のようなものが、クローディアの体の中へと
浸透し、その光がそのまま体の細胞にいきわたっていくのだそうです。
当時の医学では信じられないことでした。
それは、とても心地よいことであり、同時に恐ろしいことでもありました。
光に身を任せているときは、天にも昇るような心地がしましたが、
その後、心身の不調となってクローディアを襲いました。
「好転反応だよ、時期楽になる」
体、精神、魂に刻み込まれているというクローディアのまったく
知らない過去の記憶まで蘇り、しばらくは暴れました。
楽に流れていくようにと、ルナが手をかざして光を送り、
ロイが不思議な食べ物や飲み物を与えてくれました。
「これは、いつまで続くんだい?」
難しい顔をしたシキが、腕を組んで、ロイをにらみます。
好転反応が過ぎ去った後は、けろっとしていますが、
最中のクローディアを見ているのは、とても痛々しく感じました。
「心配かい?これでも彼女は楽な方なんだよ」
ロイの穏やかなまなざしに、シキはため息をつきます。
落ち着いたクローディアを抱きしめて、慰めます。
「もう、やめたい」
「いつでも、やめてもいいよ」
愚図るように泣く妻を優しく抱いていると、疲れたのかそのままシキに
体を預けて寝てしまいます。
それを何度も繰り返し、次第に好転反応の度合いが少なくなっていきました。
感情の荒れ具合も次第に穏やかになり、クローディアの薄いブルーの
瞳が以前にもまして澄んだように思えました。
そのころから少しづつ、クローディアとシキは心話の
練習を始めるようになりました。
「口を使わずに、相手に言葉を伝えるんだ」
「そうすれば、どんなに離れていても会話ができるのよ」
仲の良い夫婦や、相手と心が通じ合っているパートナーなど、
想いを伝えやすくなるのだといいます。
「最初はなんとなくで構わない、そのうちはっきりと言葉を
感じ取れるようになるよ」
聞くではなく、感じ取るという表現に違和感を覚えましたが、
徐々に二人は言葉を交わさなくても、相手の思いや感情を
共有し、言葉を交し合えるようになりました。
「うん、第一段階終了だね」
にっこり笑うロイに、まだあるのかと思わずげんなりとした
表情を浮かべた二人に、ルナがくすくすと笑いました。
つづく
~常識~
「本当に、あの時、ロイの顔をひっぱたいてやりたかったわ」
当時のことを思い出して、クローディアは顔をしかめます。
「こちらとしては、意図を発してもらわなければ、動くことができないの」
リンが困ったように微笑みました。
「最初に決断だっけ?」
「私にはできませんでしたね」
シキもソウも、自分で決断をくだすことができませんでした。
二人は、決められた範囲の中で情報を集め、吟味して
決めていくことを得意としていました。
自分の想像を絶する未知なるものへの決断をつけることは、
できませんでした。
なにしろ、受け入れることすらできなかったのです。
彼らにできたのは、クローディアの決断に従うことでした。
「二人とも本当に、ずるいんだから」
行儀悪くカップの紅茶をすすって、宙を見据えます。
クローディアの決断を聞いた後、ロイとルナは迅速に
行動に移しました。
シキには、町で靴屋を営み、町の人たちと交流を深めることを提案します。
リンとソウは、自然と惹かれあう仲になったので、
この島で、一番大きなお屋敷に、資産家として住み着いてもらいました。
町には、クローディアたちと同じように町に住み着き、
コンタクティとして活躍している商人がいます。
彼らと引き合わせ、双子の片割れを育ててもらえるよう
お願いしました。
クローディアは、そのまま屋敷に残り、ルナやロイから
あらゆる情報をその身に宿します。
不思議な光のようなものが、クローディアの体の中へと
浸透し、その光がそのまま体の細胞にいきわたっていくのだそうです。
当時の医学では信じられないことでした。
それは、とても心地よいことであり、同時に恐ろしいことでもありました。
光に身を任せているときは、天にも昇るような心地がしましたが、
その後、心身の不調となってクローディアを襲いました。
「好転反応だよ、時期楽になる」
体、精神、魂に刻み込まれているというクローディアのまったく
知らない過去の記憶まで蘇り、しばらくは暴れました。
楽に流れていくようにと、ルナが手をかざして光を送り、
ロイが不思議な食べ物や飲み物を与えてくれました。
「これは、いつまで続くんだい?」
難しい顔をしたシキが、腕を組んで、ロイをにらみます。
好転反応が過ぎ去った後は、けろっとしていますが、
最中のクローディアを見ているのは、とても痛々しく感じました。
「心配かい?これでも彼女は楽な方なんだよ」
ロイの穏やかなまなざしに、シキはため息をつきます。
落ち着いたクローディアを抱きしめて、慰めます。
「もう、やめたい」
「いつでも、やめてもいいよ」
愚図るように泣く妻を優しく抱いていると、疲れたのかそのままシキに
体を預けて寝てしまいます。
それを何度も繰り返し、次第に好転反応の度合いが少なくなっていきました。
感情の荒れ具合も次第に穏やかになり、クローディアの薄いブルーの
瞳が以前にもまして澄んだように思えました。
そのころから少しづつ、クローディアとシキは心話の
練習を始めるようになりました。
「口を使わずに、相手に言葉を伝えるんだ」
「そうすれば、どんなに離れていても会話ができるのよ」
仲の良い夫婦や、相手と心が通じ合っているパートナーなど、
想いを伝えやすくなるのだといいます。
「最初はなんとなくで構わない、そのうちはっきりと言葉を
感じ取れるようになるよ」
聞くではなく、感じ取るという表現に違和感を覚えましたが、
徐々に二人は言葉を交わさなくても、相手の思いや感情を
共有し、言葉を交し合えるようになりました。
「うん、第一段階終了だね」
にっこり笑うロイに、まだあるのかと思わずげんなりとした
表情を浮かべた二人に、ルナがくすくすと笑いました。
つづく
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