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はじまり72
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~迎え~
王宮から離れたところに、美しい森林に囲まれた離宮が建っていました。
その一室で、一人の女性が臥せっていました。
この国の王妃であった、クリースティーヌという女性です。
窓から小さく見える王宮を眺めて、小さくため息をつきました。
王様は、戴冠式と時期国王であるキールの式に出席しています。
本来であれば、クリスティーヌも一緒に式典に参加するはずでしたが、
体調を崩してしまい、出席することはできませんでした。
「アカネ姫、とてもお綺麗な方だったわね」
キールが選んだという女性が、この離宮に挨拶に訪れました。
あかがね色の巻き毛がつやつやと輝き、なにより、
キールと顔を見合わせて微笑む姿に好感を持ちました。
「クローディアより、お似合いだと思うわ」
素直にそう思いました。それから、小さくため息をついて、
先日のクローディアとソウの訃報に心を痛めました。
ソウは王と王妃の唯一の一人息子でした。時期国王にと
育てていましたが、病により、子を成すことのできぬ体となりました。
残念ではあったものの、代わりに国の中枢で働くことができるよう
教育を施します。
クローディアに対しても、どこかの国へ嫁がせようと
考えていました。
その時、クローディアと共に行くか、この国に
残るかは、ソウの判断に任せることにしていました。
何があっても生きていけるようにと、教えてきたつもりでした。
額を右手で押さえて、またため息をつきます。
キールとの婚姻に王妃は反対でした。クローディアは国を
出た方がいいとの王妃の考えに王が真っ向から反対したのです。
『お前も、クローディアを手元においておきたいだろう』
王は、クローディアを手放すことを拒みました。
王妃も本音を言えば、手放したくなどなかったのです。
王妃にとって、クローディアとソウは特別可愛く思っていました。
だからこそ、表にださず、他の子供たちと表向きには
差をつけることでまわりとの調和をはかっていました。
「なにが悪かったのかしら」
「何も」
後悔と罪悪感のあまりに呟いた時、懐かしい涼やかな声が聞こえました。
驚いて右手をはずすと、昔のままに、穏やかに微笑むソウが
ベッドの脇に立っていました。
王妃は両手で口をおさえて、涙をこぼします。
「とうとう、お迎えがきたのね」
王妃の言葉に、困ったように微笑んで、
あっさりと否定しました。
その調子が本当に昔のままだったので、また涙をこぼしました。
つづく
王宮から離れたところに、美しい森林に囲まれた離宮が建っていました。
その一室で、一人の女性が臥せっていました。
この国の王妃であった、クリースティーヌという女性です。
窓から小さく見える王宮を眺めて、小さくため息をつきました。
王様は、戴冠式と時期国王であるキールの式に出席しています。
本来であれば、クリスティーヌも一緒に式典に参加するはずでしたが、
体調を崩してしまい、出席することはできませんでした。
「アカネ姫、とてもお綺麗な方だったわね」
キールが選んだという女性が、この離宮に挨拶に訪れました。
あかがね色の巻き毛がつやつやと輝き、なにより、
キールと顔を見合わせて微笑む姿に好感を持ちました。
「クローディアより、お似合いだと思うわ」
素直にそう思いました。それから、小さくため息をついて、
先日のクローディアとソウの訃報に心を痛めました。
ソウは王と王妃の唯一の一人息子でした。時期国王にと
育てていましたが、病により、子を成すことのできぬ体となりました。
残念ではあったものの、代わりに国の中枢で働くことができるよう
教育を施します。
クローディアに対しても、どこかの国へ嫁がせようと
考えていました。
その時、クローディアと共に行くか、この国に
残るかは、ソウの判断に任せることにしていました。
何があっても生きていけるようにと、教えてきたつもりでした。
額を右手で押さえて、またため息をつきます。
キールとの婚姻に王妃は反対でした。クローディアは国を
出た方がいいとの王妃の考えに王が真っ向から反対したのです。
『お前も、クローディアを手元においておきたいだろう』
王は、クローディアを手放すことを拒みました。
王妃も本音を言えば、手放したくなどなかったのです。
王妃にとって、クローディアとソウは特別可愛く思っていました。
だからこそ、表にださず、他の子供たちと表向きには
差をつけることでまわりとの調和をはかっていました。
「なにが悪かったのかしら」
「何も」
後悔と罪悪感のあまりに呟いた時、懐かしい涼やかな声が聞こえました。
驚いて右手をはずすと、昔のままに、穏やかに微笑むソウが
ベッドの脇に立っていました。
王妃は両手で口をおさえて、涙をこぼします。
「とうとう、お迎えがきたのね」
王妃の言葉に、困ったように微笑んで、
あっさりと否定しました。
その調子が本当に昔のままだったので、また涙をこぼしました。
つづく
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