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桃源郷:ボディガード9
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『問題がありましたらスタッフへお声かけ下さい』
スタッフ一同、お客様がオークションを楽しめるよう心を配っております。体調不良・トラブル・気になることがございましたら、必ず近くにいるスタッフへ声をかけて下さい。我々はお客様のことをいつも見守っております、不審な行動がありましたらこちらから、お声かけしますのでご安心下さい。それでは後半の部が始まります。どうぞ後半の部もお楽しみ下さい。
「ここから出るにはどうしたら良いんだろう。ショウさんわかる?」
「大体、ここから出られるんじゃないかという目安はあるが、異なった次元だ。化粧室が闇オークションに出品する商品を閉まっている場所につながったように、少しづつズレがあるんじゃないかと思う」
「一番、安全そうな場所から行ってみない?」
ショウはしばらく黙ってじっとあらぬ方向を見てから、うんとうなづきました。
「少し歩くが、化粧室からさほど離れていないi廊下に出るんじゃないかと思う場所がある。突然現れてもあまり不自然にならないようにしないとな」
「さっきの場所に戻って、化粧室の前に出られない?」
「俺も考えたが、あれは本来の出入り口ではないんだと思う。何らかの理由で偶然開いてしまったんだろう。もし戻っても穴がふさがっている可能性があるし、万が一、あの扉を見たのではないかという疑いをかけられることは避けたい」
リンは黒のブーツをしげしげと眺めてから、自分たちが通ってきた場所に目をやります。白い乳白色の廊下は人がいないと恐ろしく静かで怖い印象がありました。捻った足の痛みはさほどではないものの、動かすとずきりとするのでため息をつきます。リンはもう片方のブーツを脱いで、自力で歩くと言いましたが、ショウがリンを抱え上げてしまいました。
「歩けないことはないと思うんだけど」
「これ以上、リンさんに怪我をさせるわけにいかないんでな。高時さんに報酬をもらえなくなってしまう」
「高時はちゃんと払うし、もし払わなくても私がちゃんと払う。約束します」
真面目な表情で覗き込むリンに、ショウがこれまた真面目な表情でうなづきました。
「よろしく頼む。俺の生活がかかってる」
二人で思わず笑みをこぼすと、急にショウの目つきが鋭くなりリンを片手で抱えたまま、右の拳を突き出しました。ショウの拳の先には一人の青年がにんまり笑って立っていました。ショウがゆっくりリンを下ろし、背中の後ろにかばおうとするのも構わず、リンは前に乗り出して青年を見つめました。浅黒い肌にぼさぼさの黒髪。後ろで軽く結わえた人物はリンの知り合いでした。ショウが警戒するのも構わず青年はリンににっこり笑います。
「おねーさん。こんなところで何してるの?高時さんたちに内緒であいびき?」
ショウがふっと身を沈めて、青年に向かって逆の拳を突き出しました。青年はひょいひょいっと避けていきます。人を食ったような様子に、ショウが素早く動こうとしますがリンがショウの背広を引っ張って止めました。
「ショウさん、この人、知っている人なの。ちょっと待って」
ショウは片眉を上げて構えを解くと、どういうことかと促しました。
「えーっと、知り合いっていうか、たまに会う泥棒さんなの」
「つまり、知り合いではないんだな?」
「あ、あの!大丈夫だと思う。お願い話をさせて」
「今、高時さんの名前を出したしな。話は聞こう」
リンに止められて構えは解いたものの、ショウは鋭い目つきのまま警戒を崩しません。青年はおっかないね~と笑っていました。
「高時と会ったの?」
会ったよんと言うと両腕を頭の後ろに組みます。リンににいっと笑ってから、ショウに微笑みました。
「安全に出られる場所教えるからさ、闇オークションの品物がある場所教えてくれない?」
「どういうこと?」
「時間がないの。高時さんから聞いて~」
ひらひらと手を振る青年は詳しい事情を話す気はないようです。リンが困ったような顔をしていると、ショウが大きく息を吐いてから、闇オークションを見た位置を話しました。ふんふんふんふんと聞いていた青年が大声を上げます。
「まっさか、おねーさんが見つけちゃうなんてね」
「いいから、早く出口を教えろ」
ショウは詳しいことを聞こうとしません。ただ早く出口を教えろとだけ迫ります。
「俺がこれからすること興味ないの?」
「俺の優先順位は、リンさんを安全な場所に連れて行くことだ。ボディガードだからな」
「ご立派ね!それじゃあ、すぐ隣にある非常用階段を三段上がってくれる?そこで数秒待っていれば、すぐに高時さんに会えるよん」
ショウがリンを抱え上げ、警戒しながら非常口へと向かいます。リンは思わず声を上げます。
「河童さんたちをどうするの?」
ショウがリンに黙るように言いますが、リンは我慢できませんでした。この青年は泥棒です。盗んでその先どうするのか気になりました。
「それも高時さんに聞いてね。俺、忙しいから」
それからショウの方に向かってきつい視線を投げかけます。思わず構えたショウに青年は鋭く言い放ちました。
「とっとと行きな。騒ぎになりかけてる。ボディガードだと言うんなら自分の役割を果たせ」
それからリンに向かってにんまり笑って、右手をひらひら振りました。
「それじゃあ、おねーさん、まったね」
青年が音もたてずに走り去っていきます。行く先は闇のオークションに出品するための商品があるところでしょう。リンは何もできない自分が悔しくなりました。
つづく
スタッフ一同、お客様がオークションを楽しめるよう心を配っております。体調不良・トラブル・気になることがございましたら、必ず近くにいるスタッフへ声をかけて下さい。我々はお客様のことをいつも見守っております、不審な行動がありましたらこちらから、お声かけしますのでご安心下さい。それでは後半の部が始まります。どうぞ後半の部もお楽しみ下さい。
「ここから出るにはどうしたら良いんだろう。ショウさんわかる?」
「大体、ここから出られるんじゃないかという目安はあるが、異なった次元だ。化粧室が闇オークションに出品する商品を閉まっている場所につながったように、少しづつズレがあるんじゃないかと思う」
「一番、安全そうな場所から行ってみない?」
ショウはしばらく黙ってじっとあらぬ方向を見てから、うんとうなづきました。
「少し歩くが、化粧室からさほど離れていないi廊下に出るんじゃないかと思う場所がある。突然現れてもあまり不自然にならないようにしないとな」
「さっきの場所に戻って、化粧室の前に出られない?」
「俺も考えたが、あれは本来の出入り口ではないんだと思う。何らかの理由で偶然開いてしまったんだろう。もし戻っても穴がふさがっている可能性があるし、万が一、あの扉を見たのではないかという疑いをかけられることは避けたい」
リンは黒のブーツをしげしげと眺めてから、自分たちが通ってきた場所に目をやります。白い乳白色の廊下は人がいないと恐ろしく静かで怖い印象がありました。捻った足の痛みはさほどではないものの、動かすとずきりとするのでため息をつきます。リンはもう片方のブーツを脱いで、自力で歩くと言いましたが、ショウがリンを抱え上げてしまいました。
「歩けないことはないと思うんだけど」
「これ以上、リンさんに怪我をさせるわけにいかないんでな。高時さんに報酬をもらえなくなってしまう」
「高時はちゃんと払うし、もし払わなくても私がちゃんと払う。約束します」
真面目な表情で覗き込むリンに、ショウがこれまた真面目な表情でうなづきました。
「よろしく頼む。俺の生活がかかってる」
二人で思わず笑みをこぼすと、急にショウの目つきが鋭くなりリンを片手で抱えたまま、右の拳を突き出しました。ショウの拳の先には一人の青年がにんまり笑って立っていました。ショウがゆっくりリンを下ろし、背中の後ろにかばおうとするのも構わず、リンは前に乗り出して青年を見つめました。浅黒い肌にぼさぼさの黒髪。後ろで軽く結わえた人物はリンの知り合いでした。ショウが警戒するのも構わず青年はリンににっこり笑います。
「おねーさん。こんなところで何してるの?高時さんたちに内緒であいびき?」
ショウがふっと身を沈めて、青年に向かって逆の拳を突き出しました。青年はひょいひょいっと避けていきます。人を食ったような様子に、ショウが素早く動こうとしますがリンがショウの背広を引っ張って止めました。
「ショウさん、この人、知っている人なの。ちょっと待って」
ショウは片眉を上げて構えを解くと、どういうことかと促しました。
「えーっと、知り合いっていうか、たまに会う泥棒さんなの」
「つまり、知り合いではないんだな?」
「あ、あの!大丈夫だと思う。お願い話をさせて」
「今、高時さんの名前を出したしな。話は聞こう」
リンに止められて構えは解いたものの、ショウは鋭い目つきのまま警戒を崩しません。青年はおっかないね~と笑っていました。
「高時と会ったの?」
会ったよんと言うと両腕を頭の後ろに組みます。リンににいっと笑ってから、ショウに微笑みました。
「安全に出られる場所教えるからさ、闇オークションの品物がある場所教えてくれない?」
「どういうこと?」
「時間がないの。高時さんから聞いて~」
ひらひらと手を振る青年は詳しい事情を話す気はないようです。リンが困ったような顔をしていると、ショウが大きく息を吐いてから、闇オークションを見た位置を話しました。ふんふんふんふんと聞いていた青年が大声を上げます。
「まっさか、おねーさんが見つけちゃうなんてね」
「いいから、早く出口を教えろ」
ショウは詳しいことを聞こうとしません。ただ早く出口を教えろとだけ迫ります。
「俺がこれからすること興味ないの?」
「俺の優先順位は、リンさんを安全な場所に連れて行くことだ。ボディガードだからな」
「ご立派ね!それじゃあ、すぐ隣にある非常用階段を三段上がってくれる?そこで数秒待っていれば、すぐに高時さんに会えるよん」
ショウがリンを抱え上げ、警戒しながら非常口へと向かいます。リンは思わず声を上げます。
「河童さんたちをどうするの?」
ショウがリンに黙るように言いますが、リンは我慢できませんでした。この青年は泥棒です。盗んでその先どうするのか気になりました。
「それも高時さんに聞いてね。俺、忙しいから」
それからショウの方に向かってきつい視線を投げかけます。思わず構えたショウに青年は鋭く言い放ちました。
「とっとと行きな。騒ぎになりかけてる。ボディガードだと言うんなら自分の役割を果たせ」
それからリンに向かってにんまり笑って、右手をひらひら振りました。
「それじゃあ、おねーさん、まったね」
青年が音もたてずに走り去っていきます。行く先は闇のオークションに出品するための商品があるところでしょう。リンは何もできない自分が悔しくなりました。
つづく
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