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良心

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「でも、あなたはどうしてそんなことを知ってるの? あなたの言うことが本当だと確かめる手段は私たちにはない。それなのにあなたはどうやってそれを知ったの?」
 ライアーネ様だった。止血のための布を頭に巻かれたライアーネ様が、オロオロとした様子の団員たちを制しながら歩み出てきて、カッセルに問い質した。
 その問い掛けに、カッセルはまた悲しそうな顔をする。
「教えてもらったからだよ…… 彼女に……」
 そう言ってカッセルが指差したのは、魔王。
 …はい? それって、どういう……?
 訳が分からず戸惑う私たちに、彼は語る。
「正確には、今は魔王の中にいる、ティタニアにね……彼女は、神妖精しんようせい族の巫女でありながら、悪逆非道なバーディナムの行いに疑問を抱いた、唯一の<良心>とも呼ぶべき存在だった」
 <ティタニア>という名前が出た途端、巫女たちに動揺が走ったみたいにざわざわとした空気になる。
「ティタニアって……?」
 私に抱きかかえられたアリスリスを心配してそばに立ってたリリナに尋ねる。すると彼女も青い顔をして、
「私たち、神妖精しんようせい族の巫女のおさです。まさか彼女が……?」
 って。
 その時、それまでは黙って話を聞いていたドゥケが、不意に口を開いた。
「お前の言うことが本当かどうかは、俺にはどうでもいい。正直、あそこにいる<怪物>が神なのか魔王なのかもどうでもいい。ただ俺は、あの子を奪った魔王が許せない。だから俺は、魔王を倒す。バーディナムの力も借りれば、倒すこともできそうだ」
 渓谷を破壊しながら互いに殴り合う二匹の巨人の光景を見ながら、彼は言った。
 そうだ。そうだよ。どっちが正しいかなんて関係ない。奴は、魔王は、ポメリアとティアンカの命を奪った。それだけでも十分、倒す理由になる…!
 私の中にも、カアッとした熱いものが再び噴き上がってくるのが分かった。直接バーディナムを恨む理由は私にはないけど、魔王を倒す理由ならある…!
 ギリっと奥歯を噛みしめ、
『私も!!』
 と声を上げようとした私の目に、嘲るように笑うカッセルの姿が。
 なにがおかしいの……!?
 憤る私に、彼はまた信じられないことを告げる。
「<復讐>ってことかい? だったらなおのこと無駄だよ。そんなことする必要もない。だって、魔王に命を吸われたあの巫女達なら、どうせ今頃、神妖精しんようせい族の里で新しい体を得て生まれ変わってるはずだからね」
 え…? ええーっっ!?
「ホントなの、リリナ!?」
 思わず問い掛けた私に、リリナが言う。
「はい…それは確かに」
 ……そうなんだ……?
 と呆気に取られる私の耳に、またカッセルの声が。
「そういうことだ。そいつらは、肉体の命が失われてもすぐさま新しく生まれ変わることができる、<不死の化け物>なんだよ。だからそいつらに、人間のことなんて理解できる訳がないんだ……! ティタニア以外にはね!」

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