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母親には分かる

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その酒場は、安くて質もそれなりだし主人は偏屈だけど、大人しく酒を楽しむ分にはすごく気楽だっていうんで、常連客は多かった。高いところに行けばいいお酒もあるし料理も美味いけどその分いろいろうるさいし、やたら店員の女性が金を使わせようとしつこく迫ってきたりするからそういうのが苦手なのはここに集まるらしい。

『俺は酒を飲みに来てんだ。女としゃべりに来てんじゃねえ』

とか言ってたりするのもいる。ふ~んと思った。

なんかお酒飲むだけでもいろいろあるんだね。私には全く理解できないけど。

でもまあそんな感じで変に騒ぎを起こして出入り禁止でも食らったらたまらないと、割と皆大人しく飲んでた。

何だ。やっぱり用心棒なんて必要ないんだな。だったら最初から店の手伝いを雇えばいいのにと思った。

なんて思いながらも私は仕事をこなして、裏に出る度にジルに食べ物をあげたりしてた。

また明け方前に店は終わって、店主は、

「今夜も頼めるか?」と言いながら今日の分の給金を差し出した。

「…分かった」と私は応えて裏口から外に出る。するとジルは建物の陰で眠ってた。私も昨日と同じ壊れた木箱に座ってマントをで体を完全に包んで、荷物みたいになってじっとしてた。

朝になってまたトーマ達に会いに宿に行く。すると気配を察したのかジルも目を覚ましてやっぱりついてきた。人間はこういうのを変に思うかもしれないけど、私にとっては邪魔をしてくるんじゃなければどうでもいいことだった。

宿の近くで待ってると、今日も仕事に行く為にトーマ達が出てきた。

「今夜も酒場で仕事する…」

それだけ告げると「分かった」と応えてくれた。それだけで十分だった。小さいアーストンがまた、ジルに干し肉をあげてた。

結局、それが一週間続いた。毎日毎日同じことの繰り返しだった。だけど私は気にしない。

トーマ達の仕事が終わったその日、宿の部屋にシェリーナからの手紙が届いてた。元気にやってるって書かれてた。ライアーネがその手紙を見てにっこりと笑った。

「幸せが滲み出てる手紙だね」

って言った。書かれた字を見るだけで気分が高揚してるのが分かるんだって。そういう気分で書いた字なんだって。

「そういうもんなのか?」

トーマにはそこまで分からないらしい。だけどライアーネは、

「母親には分かるもんなの」

だって。

私もトーマと同じでそこまでは分からないけど、そういうものなのかと思った。

トーマ達の仕事も終わったし、今夜はこのままその宿に泊まって、明日の朝、町を出ることになった。

「そうか…残念だな…お前さんは真面目に働いてくれるから良かったんだが……」

今夜で最後だって酒場の店主に告げると、寂しそうにそう言ったのだった。

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