33 / 83
二日目
しおりを挟む
「どう? あの野良子の方は? って、相変わらずか」
朝、トーマ達が泊まってる宿に行くと、三人はちょうど仕事に行くところだった。
私のことが見える位置で物陰に隠れながらこちらを窺ってるジルに気付いてライアーネがそう言う。
すると小さいアーストンがまた、ジルの近くまで行って自分の干し肉を一つ差し出した。
「食うか?」
それをひったくって齧るジルの姿を、小さいアーストンがじっと見てた。同情してるとかそういう感じじゃない。たまたま近くに寄ってきた動物を物珍しそうに見てる感じかもしれない。
私達が思ってる以上に小さいアーストンは分かってるのかもね。ジルとの付き合い方が。
仕事に向かう三人を見送って、私は酒場でもらった給金で干し肉を買った。もちろん私が食べる為じゃない。それを持ったまま路地裏に行き、わざと地面に落とした。
でもジルがそれを拾う前に猫がさっとどこからともなくやってきてかっさらっていった。ジルもそれを追いかけようとしたけど、さすがに猫の動きにはついて行けない。いくら獣っぽくてもその辺りはやっぱり人間なんだなと思ってしまった。
諦めたジルが戻ってきたところでもう一度干し肉を落とす。すると今度はジルが拾って食べた。
それでも私に近付いてくるとかそういうのはなかった。あくまで距離をとって私がまた食べ物を落としたり置き忘れたりしないか窺ってる感じだった。
日が暮れてくる頃、私はトーマ達が夕食をとる為に訪れてる筈の、宿が経営してる食堂へと向かった。うまい具合に三人は夕食を食べてるところだった。
「今夜も酒場で仕事する……」
改めてそれを伝えておく。
「分かった。俺達も後一週、今の仕事が続くから。三人で十分足りてるし、そっちは任せるよ」
トーマがそう応える。時間があるからシェリーナに手紙を出したそうだ。この町を出るまでには返事が届くはず。少しくらい遅れてもそれを待ってから次に向かうことになった。
三人とは別口で私も仕事してるから、その分、稼ぎが増える。私はお金を持ってても使う当てがないからね。
食事の後で三人の部屋に行って、ライアーネにメイクを直してもらう。殆どくずれてなかったから細かいところを直すだけで済んだ。敢えて窓際で外に背を向けて座る。窓からジルに私の姿が見えるようにする為だ。ちらりと視線を向けると、向かいの建物の陰から私を見上げてるジルの姿が見えた。
メイクを直してもらって宿を出て、酒場へと向かう。その途中、また、干し肉をわざと落とす。ジルはまたそれを拾って私の後をついてきたのだった。
朝、トーマ達が泊まってる宿に行くと、三人はちょうど仕事に行くところだった。
私のことが見える位置で物陰に隠れながらこちらを窺ってるジルに気付いてライアーネがそう言う。
すると小さいアーストンがまた、ジルの近くまで行って自分の干し肉を一つ差し出した。
「食うか?」
それをひったくって齧るジルの姿を、小さいアーストンがじっと見てた。同情してるとかそういう感じじゃない。たまたま近くに寄ってきた動物を物珍しそうに見てる感じかもしれない。
私達が思ってる以上に小さいアーストンは分かってるのかもね。ジルとの付き合い方が。
仕事に向かう三人を見送って、私は酒場でもらった給金で干し肉を買った。もちろん私が食べる為じゃない。それを持ったまま路地裏に行き、わざと地面に落とした。
でもジルがそれを拾う前に猫がさっとどこからともなくやってきてかっさらっていった。ジルもそれを追いかけようとしたけど、さすがに猫の動きにはついて行けない。いくら獣っぽくてもその辺りはやっぱり人間なんだなと思ってしまった。
諦めたジルが戻ってきたところでもう一度干し肉を落とす。すると今度はジルが拾って食べた。
それでも私に近付いてくるとかそういうのはなかった。あくまで距離をとって私がまた食べ物を落としたり置き忘れたりしないか窺ってる感じだった。
日が暮れてくる頃、私はトーマ達が夕食をとる為に訪れてる筈の、宿が経営してる食堂へと向かった。うまい具合に三人は夕食を食べてるところだった。
「今夜も酒場で仕事する……」
改めてそれを伝えておく。
「分かった。俺達も後一週、今の仕事が続くから。三人で十分足りてるし、そっちは任せるよ」
トーマがそう応える。時間があるからシェリーナに手紙を出したそうだ。この町を出るまでには返事が届くはず。少しくらい遅れてもそれを待ってから次に向かうことになった。
三人とは別口で私も仕事してるから、その分、稼ぎが増える。私はお金を持ってても使う当てがないからね。
食事の後で三人の部屋に行って、ライアーネにメイクを直してもらう。殆どくずれてなかったから細かいところを直すだけで済んだ。敢えて窓際で外に背を向けて座る。窓からジルに私の姿が見えるようにする為だ。ちらりと視線を向けると、向かいの建物の陰から私を見上げてるジルの姿が見えた。
メイクを直してもらって宿を出て、酒場へと向かう。その途中、また、干し肉をわざと落とす。ジルはまたそれを拾って私の後をついてきたのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる