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私みたいなのが
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そうして私は、結局、空が明るくなるまでスリガンに語って聞かせてた。そんな私の話を、彼は、冒険譚に胸を躍らせる子供のように目を輝かせながら聞き入ってたんだ。
だから私もついつい、丁寧に語ってしまう。カインとセリスに話したみたいに。
でもさすがに鳥の声が聞こえ始めたことで夜が明けてしまったと気付いたスリガンが、
「ああ、いけない。夜が明けてしまいましたね。すいません…! 夢中になってしまった……!」
恐縮してるから、
「私は人間みたいに疲れたりしないから大丈夫……」
と告げた。そんな私に、スリガンはますます申し訳なさそうな表情になって、
「ププリーヌ様はお優しいですね」
また子供みたいな表情で微笑む。
人間って本当に不思議だな。自分が生んだ子を捨てて野良子にしてしまうのもいるかと思えば、私みたいな人形にこうやって優しく微笑みかけるのもいる。
私は人形だから、人間みたいな感情はないから、基本的に苛々とかもしない。激昂したりもしない。どこまでも淡々と存在し続けるだけだ。
だけど、私みたいなのがいくらたくさんいたって、世界は退屈なだけだろうな。私なんてそれこそ、ただの<手紙>、<ラブレター>だから。
人間がいるからこそ、辛いことも苦しいことも悲しいことも無数にある代わりに、楽しいことも嬉しいことも無数にあるんだ。そしてそれは、親から子、子から孫へと受け継がれていく。
トーマとライアーネ、シェリーナとルビンとその子供達、アーストンとジルとカインとセリス。
これはそういうことなんだって私も思う。
「家の者が来るまで私も一眠りします」
そう言ってスリガンは藁束を集めてそこに横になった。本当に、自分が関心あること以外に対しては無頓着なんだな。
しかも、横になった途端に寝息を立て始める。こんなに眠かったはずなのに、それにも気付かずに話に夢中になっていたのか。
寝顔まで子供みたいな彼に、私までなんだか口元が緩んでしまう。
そんな彼をしばらく見詰めた後で、私は小屋から出た。しっとりとした朝の空気に包まれるのが分かる。
だけど私は人形だから、そういうのを『心地良い』みたいにも感じない。単に人間にとっては丁度いい湿度と気温なんだろうなって思うだけだ。
私を書いた王女様も、王女様の想いを受け取ったかもしれない王子様も、こうやって朝の空気を吸ったりしてたんだろうか……
セレイネス王国の王子様は私を書いた王女様の想い人じゃなかったみたいだけど、やっぱりこうやって朝を迎えたんだろうか。
そんなことを考えながら、私は、朝陽が上るのを見詰めていたのだった。
だから私もついつい、丁寧に語ってしまう。カインとセリスに話したみたいに。
でもさすがに鳥の声が聞こえ始めたことで夜が明けてしまったと気付いたスリガンが、
「ああ、いけない。夜が明けてしまいましたね。すいません…! 夢中になってしまった……!」
恐縮してるから、
「私は人間みたいに疲れたりしないから大丈夫……」
と告げた。そんな私に、スリガンはますます申し訳なさそうな表情になって、
「ププリーヌ様はお優しいですね」
また子供みたいな表情で微笑む。
人間って本当に不思議だな。自分が生んだ子を捨てて野良子にしてしまうのもいるかと思えば、私みたいな人形にこうやって優しく微笑みかけるのもいる。
私は人形だから、人間みたいな感情はないから、基本的に苛々とかもしない。激昂したりもしない。どこまでも淡々と存在し続けるだけだ。
だけど、私みたいなのがいくらたくさんいたって、世界は退屈なだけだろうな。私なんてそれこそ、ただの<手紙>、<ラブレター>だから。
人間がいるからこそ、辛いことも苦しいことも悲しいことも無数にある代わりに、楽しいことも嬉しいことも無数にあるんだ。そしてそれは、親から子、子から孫へと受け継がれていく。
トーマとライアーネ、シェリーナとルビンとその子供達、アーストンとジルとカインとセリス。
これはそういうことなんだって私も思う。
「家の者が来るまで私も一眠りします」
そう言ってスリガンは藁束を集めてそこに横になった。本当に、自分が関心あること以外に対しては無頓着なんだな。
しかも、横になった途端に寝息を立て始める。こんなに眠かったはずなのに、それにも気付かずに話に夢中になっていたのか。
寝顔まで子供みたいな彼に、私までなんだか口元が緩んでしまう。
そんな彼をしばらく見詰めた後で、私は小屋から出た。しっとりとした朝の空気に包まれるのが分かる。
だけど私は人形だから、そういうのを『心地良い』みたいにも感じない。単に人間にとっては丁度いい湿度と気温なんだろうなって思うだけだ。
私を書いた王女様も、王女様の想いを受け取ったかもしれない王子様も、こうやって朝の空気を吸ったりしてたんだろうか……
セレイネス王国の王子様は私を書いた王女様の想い人じゃなかったみたいだけど、やっぱりこうやって朝を迎えたんだろうか。
そんなことを考えながら、私は、朝陽が上るのを見詰めていたのだった。
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