蒼天の雲

 後に史上で小田原北条氏と呼ばれるようになる、伊勢新九郎長氏の孫娘が、永正元(一五〇四)年に生まれて志保と名づけられたことから物語は始まる。

「男であるから、または女であるから」かくあらねばならない、といった従来の概念からは全く外れた、「人間らしくあれ」との信念を持つ祖父、長氏に育てられた彼女は、見た目はたおやかながら男顔負けの女丈夫に育っていく。

 彼女の弟である北条三代目、後の氏康が生まれた頃には彼女にも古河公方からの縁談が持ち込まれるのだが、その話は側室として彼女を迎えたいというもので、当然ながら志保の望むところではなかった。

 むくれる彼女を、祖父は幼い頃のように小田原城周りの散策へ連れ出し、「志保殿が、これ、と思った男へ嫁すように」と告げるのだが…。



     

これは、私がまだ小学生の頃にガンで亡くなった母がしたためていた小説です。作家としてデビューすることを目指していましたが、叶うことなく亡くなりました。

その無念がどれほどのものだったのかは、私にも分かりません。でも、せっかくなのでこうしてたくさんの人の目に触れる機会をと思い、アップすることにしました。
     
母が管理していたサイトです。アカウントもパスワードもメールアドレスも紛失してしまって放置状態ですが…… 
→ http://moment2009.ojaru.jp/index.html
24h.ポイント 0pt
0
小説 194,048 位 / 194,048件 歴史・時代 2,395 位 / 2,395件

あなたにおすすめの小説

すさまじきものは宮仕え~王都妖異聞

斑鳩陽菜
歴史・時代
 ときは平安時代――、内裏内を護る、近衛府は左近衛府中将・藤原征之は、顔も血筋もいいのに和歌が苦手で、面倒なことが大嫌い。  子どもの頃から鬼や物の怪が視えるせいで、天から追放されたという鬼神・紅蓮に取り憑かれ、千匹鬼狩りをしないと還れないという。  そんな矢先、内裏で怪異が相次ぐ。なんとこの原因と解決を、帝が依頼してきた。  本来の職務も重なって、否応なく厄介事に振りまわさる征之。  更に内裏では、人々の思惑が複雑に絡み合い……。

蒼天の雲(長編版)

せんのあすむ
歴史・時代
 永正十三年七月十日の暮れ、志保は伊勢軍と三浦軍が最後の戦いに入った陣を離れた。  住まいである小田原城への道を、荒木兵庫頭と共に馬で駆けること四日、しかし彼女は、そのまま城へは戻らなかったのである。 (たれかに、許して欲しい)  祖父の側から離れてみると、ただ無性に「許し」が欲しくなる。兵庫頭のみを無理に小田原城へ行かせ、救いを求めて彼女は箱根権現へ馬を走らせた。その背から滑り降りるように地面へ力なく降り立ち、よろめくように石段を上った華奢な両足は、ようやく「身近な人間が死んだ」ということが実感として湧き上がってきて、 「しょう様」 「八重…。市右衛門は、のう」 境内の木陰に佇んでいた乳姉妹の姿に直面して限りなく震えている。普段ならば当たり前のようにしてその隣にあったもう一人の友の影は、今はもう無いのだ。  周りの木々から、蝉の大合唱が聞こえる中、額からはじっとりと汗が滲み出ているのに、手足の先はしんしんと冷えていく。 「お味方の勝利は間違いないとか…おめでとう存じまする」 乳姉妹が慇懃に地面に膝を着き、頭を下げるのを見ながら、志保はただその両手を握り締めることしか出来なかった。 彼女は『北条』二代目、新九郎氏綱の娘であり、永正元年(一五0四)小田原で生まれた。同腹の弟に『三代目』千代丸(後の氏康)がいる。後に古河公方足利晴氏の継室(後添い)となり、これより三十年の後、僧門に入って芳春院と号するに至る。       先日投稿した、母の小説「蒼天の雲」の別バージョンのファイルが見付かったのでアップします。

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

時ノ糸~絆~

汐野悠翔
歴史・時代
「俺はお前に見合う男になって必ず帰ってくる。それまで待っていてくれ」 身分という壁に阻まれながらも自らその壁を越えようと抗う。 たとえ一緒にいられる“時間”を犠牲にしたとしても―― 「いつまでも傍で、従者として貴方を見守っていく事を約束します」 ただ傍にいられる事を願う。たとえそれが“気持ち”を犠牲にする事になるとしても―― 時は今から1000年前の平安時代。 ある貴族の姫に恋をした二人の義兄弟がいた。 姫を思う気持ちは同じ。 ただ、愛し方が違うだけ。 ただ、それだけだったのに…… 「どうして……どうしてお主達が争わねばならぬのだ?」 最初はただ純粋に、守りたいものの為、己が信じ選んだ道を真っ直ぐに進んでいた3人だったが、彼等に定められた運命の糸は複雑に絡み合い、いつしか抗えない歴史の渦へと飲み込まれて行く事に。 互いの信じた道の先に待ち受けるのは――? これは後に「平将門の乱」と呼ばれる歴史的事件を題材に、その裏に隠された男女3人の恋と友情、そして絆を描く物語。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

あさきゆめみし

八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。 それを助ける正体不明の若き男。 その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。 三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。 毎週金曜日更新

忍者同心 服部文蔵

大澤伝兵衛
歴史・時代
 八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。  服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。  忍者同心の誕生である。  だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。  それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

処理中です...