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第二幕
それに比べると見劣りしてしまったのかも
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千裕さんは確かに、監督さんから一発OKを出してもらえるような働きはできなかったかもしれない。俺が一発OKを出してしまったからそれに比べると見劣りしてしまったのかもしれない。
だけど俺は、千裕さんの動きだって以前に比べると格段にしっかりしてると思った。最初に会ったばかりの頃は、相手が俺だったから動転してしまってまるで生まれたての小鹿みたいに足腰がガクガクになってたのもあったとしても、確かにすごく頼りない印象だったのは事実だ。
でも、今はそれに比べたらすっごく良くなってるんだよ。動きそのものだって、後でCGで入れることになる<ムチ>が見えるような気がするものだった。今はムチの持ち手の部分だけしかないけど、その先がすごい速さで飛んでくのが見えた気がしたんだ。
あくまで監督さんが思ってた動きじゃなかったというだけで、リンネの強さみたいなのは表現できてたと思うんだ。
それなのに、あの言い草はないんじゃないかな。すると監督さんが、
「すいません、緑川さん。どうやら僕とあなたとでは解釈違いがあるみたいだ。僕は、彼女のアクションそのものは悪くなかったと思う。ただ、僕が思ってる画とは噛み合ってなかったというだけで。なので、具体的にどこが良くなかったのか、教えていただけますか? 映像じゃイラストを完璧に再現できないのは僕も心苦しいところなんですが、どうすれば緑川さんの持つリンネのイメージに近付けるのか、ご教示いただけますか?」
緑川さんに向かってきっぱりと言ってくれた。すると緑川さんは、
「え……? 具体的に、ですか……?」
まさかPVの監督さんがそんなことを言ってくるとは予想もしてなかったのか、完全に意表を突かれた形になったみたいだ。
そのPVの監督さんは、アクション系のPVでは名の知れた人だそうで、今回、ゲーム会社の再三のオファーの果てにやっと引き受けてくれたらしい。つまり、ゲーム会社にとっては、委託先ではあるものの、他に代わりがいない、ここでもしヘソを曲げられたりしたら困る相手だったみたいだ。
だからプロデューサーの人の顔色が変わるのが分かって、
「緑川さん! イラストレーターからの意見というのもあるかもしれないけど、今回はあくまでPVだから。緑川さんの意見は意見として後で編集の際にまた聞くから、今のところは現場に任せて。ね?」
緑川さんのところに歩いていって、女性スタッフに目配せしてその女性スタッフが緑川さんの手を掴んで、戸惑う彼女を促しながら、三人でスタジオを出ていったのだった。
だけど俺は、千裕さんの動きだって以前に比べると格段にしっかりしてると思った。最初に会ったばかりの頃は、相手が俺だったから動転してしまってまるで生まれたての小鹿みたいに足腰がガクガクになってたのもあったとしても、確かにすごく頼りない印象だったのは事実だ。
でも、今はそれに比べたらすっごく良くなってるんだよ。動きそのものだって、後でCGで入れることになる<ムチ>が見えるような気がするものだった。今はムチの持ち手の部分だけしかないけど、その先がすごい速さで飛んでくのが見えた気がしたんだ。
あくまで監督さんが思ってた動きじゃなかったというだけで、リンネの強さみたいなのは表現できてたと思うんだ。
それなのに、あの言い草はないんじゃないかな。すると監督さんが、
「すいません、緑川さん。どうやら僕とあなたとでは解釈違いがあるみたいだ。僕は、彼女のアクションそのものは悪くなかったと思う。ただ、僕が思ってる画とは噛み合ってなかったというだけで。なので、具体的にどこが良くなかったのか、教えていただけますか? 映像じゃイラストを完璧に再現できないのは僕も心苦しいところなんですが、どうすれば緑川さんの持つリンネのイメージに近付けるのか、ご教示いただけますか?」
緑川さんに向かってきっぱりと言ってくれた。すると緑川さんは、
「え……? 具体的に、ですか……?」
まさかPVの監督さんがそんなことを言ってくるとは予想もしてなかったのか、完全に意表を突かれた形になったみたいだ。
そのPVの監督さんは、アクション系のPVでは名の知れた人だそうで、今回、ゲーム会社の再三のオファーの果てにやっと引き受けてくれたらしい。つまり、ゲーム会社にとっては、委託先ではあるものの、他に代わりがいない、ここでもしヘソを曲げられたりしたら困る相手だったみたいだ。
だからプロデューサーの人の顔色が変わるのが分かって、
「緑川さん! イラストレーターからの意見というのもあるかもしれないけど、今回はあくまでPVだから。緑川さんの意見は意見として後で編集の際にまた聞くから、今のところは現場に任せて。ね?」
緑川さんのところに歩いていって、女性スタッフに目配せしてその女性スタッフが緑川さんの手を掴んで、戸惑う彼女を促しながら、三人でスタジオを出ていったのだった。
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