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第二幕
こんな途轍もないことだったなんて
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「くはあ~っ!」
たった十分、言われた通りとにかくゆっくり動くってことをしただけで、俺は汗だくになってその場に座り込んでしまった。体中の筋肉が痙攣をおこしそうだ。
するとインストラクターの女性は、
「では、呼吸を整えながら私の動きを見ていてください」
そう言って、スタッフの人に日本刀(もちろん模造刀だろうけど)を持ってきてもらって受け取って、その場に正座した。
そこまでの動きだけで明らかに普通の人のそれと違うのは分かったけど、その女性は、
「……」
黙ったままゆっくりと大きく呼吸をしてそれからおもむろに片膝を立てて日本刀を手にし、いわゆる居合ってヤツじゃなく、どこまでもゆっくりと抜刀して刀を右に左に動かして、それから鞘にゆっくりと刀を収めた。
そうだ。最初から最後までゆっくりとした動きなのに、めちゃくちゃカッコよくて、俺は見入ってしまった。ちょっとでも目を逸らしたら一瞬で斬りかかってきそうな気もしたんだ。
「なにこれ……カッコイイ……」
芙美も圧倒されたみたいに思わず声を漏らしてた。
すると女性はニッコリと微笑んで、
「分かりますか? ゆっくりとした動きでもその一つ一つに意味があり、気迫がこもっていて、芯が通っていれば、見栄えするものなんです。素人の方はその動き一つ一つがふらふらしてしまって繋がりがなく、芯が感じられないので迫力もありません。けれど、動きに芯を通すことができれば、ちょっとした所作だけでも<魅せる動き>が作れます。これなら怪我もしませんからね」
って言ってくれた。
いやもうホントにこれ以上の説得力はなかった。アクションって、ガーンと動いてドーンと勢いよく派手にやるものだと思ってたから。
だけど、
「ただし、これができるようになるには、徹底した鍛錬が必要です。ですが梁川さんの場合は時間がありませんので、要点だけに絞って行います。結構きついですよ。覚悟しておいてください」
ここまでだけでももうかなりキツかったのに、ここからまだ先があるのか……
正直俺は、この時点で少し後悔していた。実際、その後悔は当然のことだと感じた。体育で五十メートルダッシュを果てしなく続けさせられたような、校庭を延々と走らされ続けたような、まさに<地獄>を見たんだ。
ゆっくりなのに、ううん。ゆっくりだからこそ恐ろしくキツい。重力ってのが、自分の体ってのが、こんなに重いものだったとは……
ゆっくり動く自分の体を支えるってのがこんな途轍もないことだったなんて、俺は知らなかったよ……
たった十分、言われた通りとにかくゆっくり動くってことをしただけで、俺は汗だくになってその場に座り込んでしまった。体中の筋肉が痙攣をおこしそうだ。
するとインストラクターの女性は、
「では、呼吸を整えながら私の動きを見ていてください」
そう言って、スタッフの人に日本刀(もちろん模造刀だろうけど)を持ってきてもらって受け取って、その場に正座した。
そこまでの動きだけで明らかに普通の人のそれと違うのは分かったけど、その女性は、
「……」
黙ったままゆっくりと大きく呼吸をしてそれからおもむろに片膝を立てて日本刀を手にし、いわゆる居合ってヤツじゃなく、どこまでもゆっくりと抜刀して刀を右に左に動かして、それから鞘にゆっくりと刀を収めた。
そうだ。最初から最後までゆっくりとした動きなのに、めちゃくちゃカッコよくて、俺は見入ってしまった。ちょっとでも目を逸らしたら一瞬で斬りかかってきそうな気もしたんだ。
「なにこれ……カッコイイ……」
芙美も圧倒されたみたいに思わず声を漏らしてた。
すると女性はニッコリと微笑んで、
「分かりますか? ゆっくりとした動きでもその一つ一つに意味があり、気迫がこもっていて、芯が通っていれば、見栄えするものなんです。素人の方はその動き一つ一つがふらふらしてしまって繋がりがなく、芯が感じられないので迫力もありません。けれど、動きに芯を通すことができれば、ちょっとした所作だけでも<魅せる動き>が作れます。これなら怪我もしませんからね」
って言ってくれた。
いやもうホントにこれ以上の説得力はなかった。アクションって、ガーンと動いてドーンと勢いよく派手にやるものだと思ってたから。
だけど、
「ただし、これができるようになるには、徹底した鍛錬が必要です。ですが梁川さんの場合は時間がありませんので、要点だけに絞って行います。結構きついですよ。覚悟しておいてください」
ここまでだけでももうかなりキツかったのに、ここからまだ先があるのか……
正直俺は、この時点で少し後悔していた。実際、その後悔は当然のことだと感じた。体育で五十メートルダッシュを果てしなく続けさせられたような、校庭を延々と走らされ続けたような、まさに<地獄>を見たんだ。
ゆっくりなのに、ううん。ゆっくりだからこそ恐ろしくキツい。重力ってのが、自分の体ってのが、こんなに重いものだったとは……
ゆっくり動く自分の体を支えるってのがこんな途轍もないことだったなんて、俺は知らなかったよ……
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