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第二幕

お~い、小牧~!

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「まさかあいつが来てるとはな~」

 相田がそうボヤきながら芙美と一緒に更衣室から出てきた。なるべく<元カレ>の方に顔を向けないようにして。

「まあまあ、別にモメて別れたわけじゃないんだし、自然消滅だし」

「いや、そりゃまあ、告白もしないままだったから、ホントは付き合ってもなかったし……ちょっと仲良くしてただけだし……今も水泳部のマネージャーしてっから今でも顔は合わすし。でも、鈴木と一緒の時は……」

 こんなバツの悪そうな相田を見るのは珍しいな。割といつでも堂々としてて押しが強い印象なのに。そんな相田に、鈴木は、

「なら、気にすんな。お~い、小牧~!」

 相田の元カレに思いっ切り声を掛けやがった。さすがにこれには俺も相田もギョッとなって、特に相田は、

「ちょっ! バカ! 何してんだ!!」

 大慌て。でも、小牧って奴の方も、呼ばれてこっちを見て手を挙げたもののそれだけで、またすぐ泳ぎ出した。たぶん相田のことも気付いたはずだけど、なんか意識してるような気配もない。

「な? あいつはあいつで水泳バカだから、ガチで泳ぎに来てるってのに周りのことなんか気にしちゃいねーよ」

 鈴木はそう言ってドヤった。

「そうなのか……?」

 相田が恐る恐る尋ねる。すると鈴木は、

「あいつとは同小でよ。でも進学予定だった中学に水泳部がないってんで家族揃って別の水泳部がある中学の校区に引っ越してってくらいだしな。と言っても、三百メートルくらい離れた、親戚が使ってた家に引っ越しただけで、元の家は借家にしたってよ。ちなみに親戚は親戚で海外移住って話」

 詳しく説明してくれた。

「よく知ってんな……てか、初耳だぞ、小牧と知り合いだなんて」

 唖然とした相田が呟くと、

「あれ? 言ってなかったっけか? まあいいじゃん。今じゃ別にダチってわけでもないし」

 あっさりしてんなあ……そうだ。鈴木はバスケ以外にはほとんど興味ないバスケバカで、人間関係も、関わることになれば愛想よくもするけど、誰とでもこの感じで話し掛けるけど、そうじゃなきゃ基本スルーだからな。

 他人との距離感ってのにこいつなりの基準みたいのがあって、常にその通りにしてるだけって感じかな。

『来るもの拒まず、去る者追わず』

 ってのは、こういうのを言うのかもしれない。だからこいつが誰かとケンカしてるとこをほとんど誰も見たことないらしい。試合とかで熱くなって声が大きくなるのはあっても、それは別に怒ってるんじゃなくて、気合が入ってるだけって言うか……

 だからこいつ、北条とも普通に話してたんだよ。

 むしろ北条からは煙たがられてたみたいだけど。マウント取ろうとしてもぜんぜん気にしてねーから。

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