ＹＯＵ ＢＥＣＡＭＥ ＳＯ…

第二幕

このワンコども！！

「あ、涼くん、おかえり♡」

　マスターが掃除を始めると、芙美が店の奥から出てきた。

「ただいま。芙美もお疲れ様」

「ありがと♡　涼くんもお疲れ様♡」

　笑顔で俺を労ってくれる芙美に、今日のイベントであったことがスーッと溶けていくのを感じる。別に大したことじゃなかったんだろうけど、それでも、もやもやとしてものが残ってたんだって実感する。

　もし、将来、芙美と結婚しても、お互いにこうして労うことができる家庭を築けたらって思うんだ。

　そんなことを思ってると、

「涼ちゃん、おかえり～♡」

「涼ちゃ～ん♡」

　舞美さんと里香さんも奥から出てきて、満面の笑顔。

「お疲れ様です」

　そう返したんだけど、

「あ～！　芙美ちゃん時と違～う！」

「ズルイズルイ！　私達のことも愛してぇ～♡」

　って言いながらぐいぐい迫ってきた。だけど、俺と舞美さん達との間に芙美が割り込んで、

「え～い！　落ち着け！！　このワンコども！！」

　だって。だけどそれは決して、二人を攻撃しようとしてる感じじゃなくて、ただじゃれ合ってるだけなんだなってのがすごく伝わってくるから安心だ。

「あはは……」

　だから俺も、ただの苦笑いだけで済ませることができる。もしこれが本当に険悪な雰囲気のだったら、きっと真顔になってしまうだろうな。

　リンネのバミリの位置が間違っていた件で、プロデューサーがスタッフを怒鳴りつけてた（声は抑えてたけど）時も、俺は自分が真顔になってたのを感じる。

　もちろん、ミスはちゃんと指摘しないといけないと思うし、同じミスをしないように反省もしなきゃいけないと思う。だけど、そのための指摘に自分の感情を乗せる必要がどこにあるんだろうな。

『こうやって厳しくしなきゃ反省しないだろ！』

　そんな風に言われても俺には全然ピンと来ないよ。それどころか、ミスをミスとして指摘されて反省もしない人をなんで使ってるんだろうってしか思わないんだ。

　なり手が少ないから？　そうなのかな。こういう業界に入りたいって考える人は多そうな気がするんだけどな。確かにスタッフじゃなくて出演者になりたいって人は多いんだろうけど、それでも人材不足って言われるほど希望者が少ないものなのかな。少ないんだとしたら、それは、

『サンドバッグになんかなりたくないから』

　っていう理由が多いんじゃないかな。誰かに怒鳴られても罵られても大して堪えない人しか残れないから、自分勝手で他人を気遣えないタイプが、この業界には多くなってしまうんじゃないかな。

　そんな気がする。

　自分がモデルとしてやっていく覚悟を決めた途端、そんなことが頭に思い浮かぶようになったな。