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第二幕

どこに本心があるのか

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 そんなことを真面目に考えてたら『空気が読めない』とか言われる世の中とは、俺はやっぱりうまく合わせられそうにない。だから、変にタレントを目指すよりもモデルに専念しようと思う。

 モデル以外の仕事は、徹のチャンネルに出演するだけで十分かな。

 なんて考えてたら、千裕さんがまた腰を抜かしてた。俺のためにキレかけてくれてたけど、やっぱり立場的なこととかいろいろ考えたら怖くなったんだろうな。

「大丈夫? 千裕さん」

 俺が手を貸そうとしたら、

「大丈夫です大丈夫です! こっちで何とかしますから!」

 スタイリストの女性が彼女を引っ張り上げるようにして立たせた。確かに、考えてみれば俺が手を握ったりしたらまた腰を抜かすか。

 そんなこんなで、仮設の更衣室でコスチュームを脱いで私服に着替えて、帰る用意をする。

「それじゃ、お疲れ様でした」

「は、はい…っ! お疲れ様…でしゅ…!」

 まだ顔を真っ赤にしながら千裕さんは何度も頭を下げてた。正直、もう少し慣れてほしいかなと思わなくもない。

 そして事務所に戻るワゴンに乗り込むと、

「今日はお疲れ様でした! また一緒にお仕事できるのを祈ってます!」

 仕事用のスマホに千裕さんからのメッセージ。絵文字とか♡とかでデコレーションされた、目が痛くなりそうなそれだったけど、

「お疲れ様でした。お互い頑張りましょう」

 とメッセージを返しておく。絵文字も何もない、シンプルなそれだ。芙美も絵文字とかを使うのは好きじゃないから、そういう部分でも波長が合うんだよな。千裕さんのみたいなのは、流行ってるんだろうけど、今じゃ普通なのかもしれないけど、そういう普通には俺は馴染めそうもない。

 使いたい人は使っててくれていいけど、使いたいと思わない相手にまで押し付けるのはやめてほしいと思う。

 その点、相田や鈴木もそういうの興味ないから、ありがたい。鈴木に至っては、スマホも本当にただの電話としか使ってないそうだ。

「いや俺、なんかこういうチマチマした機械、苦手でよ~。メンドクセ~! って思うんだ」

 そんなことも言ってたな。俺も、何となく分かる気がする。一応、スマホとしても使ってるけど、気の合う相手ならちゃんと顔を合わして話したいよな。

 そう思うんだ。文字だけで気持ちを伝えるのってすごく難しいし。だから絵文字とか♡とか使いまくって気持ちを表そうとするのかもしれないけど、俺には逆に分からなくなるんだよな。どこに本心があるのか。

 もちろん、絵文字とか♡とか使うのがダメって言いたいんじゃないんだ。あくまで俺には合わないってだけで。

 と、タイムラインに、今日のイベントのことが流れてきた。

『イベント始まる前にスタッフがなんか揉めてた。感じ悪い』

『せっかく楽しみに行ってるのに、空気悪くしないでほしい』

 みたいなのがちらほらと。ああ、やっぱりこうなるよな。

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